ドラゴンラージャアドベントカレンダー企画・3日目

企画概要はこちら

 https://adventar.org/calendars/9085

 

2日目はこちら

 https://note.com/nchas3821/n/n63a9ee66fb22


 ドラゴンラージャという物語を人生の根に抱えた人が、自分だけでないこと。目の前ではないどこかに確かにいることを、改めて幸せに噛みしめさせてくれる素敵な言葉綴りです。

 私は単数ではない、ですね。


 私からはかつて書いた二次創作SS(ウンチャイとネリアを見かけた通りすがりの老人の話です)を再掲しますが、その前に少しだけ、Twitter上でドラゴンラージャの読者達と盛り上がったある夜の、思い出深い話をしましょう。

 6年ほど前だったでしょうか。正確な時期は覚えていませんが、夜更けに長い帰路を一人歩くのが退屈で、何気なくこんな感じの投稿をしました。

「アニメドラゴンラージャ、来週のTwitter配布アイコン誰だと思う? そろそろイルリルの番かな?」

 存在しないけどあったら良いな、という願望をまことしやかに呟いたのです。もちろんちょっとした冗談でしたが、この呟きに驚くほど多くの人が乗ってくれました。

 オープニング主題歌に感動する者、BGMのアレンジに耳敏く反応する者、作画の美しさにはしゃぐ者。各々が理想を語りました。

 楽しい夜でした。

 

 私自身は、ハリー・ポッターに始まるファンタジーブームの中で育ち、多くの児童文学、海外ファンタジーに触れて育った子どもです。エンデのモモ、ダレン・シャン、セブンスタワー、バーティミアス、リンの谷のローワン……魔法とドラゴンの世界、遠い異郷が大好きでした。

 本当は少し、独占欲のようなものがあったのです。現実にいる人々と共有してしまえば、夢の世界が薄まるような漠然とした恐れがありました。

 でも、あの夜は本当に楽しいと思えました。幼い日の執着とは違う視点で愛することができた、私にとって特別な思い出の夜です。

 カレンダーを埋めていく日々は始まったばかりですが、いつかこの日々も、善き思い出となりますように。

 それでは、耳元に日差しを浴びながら、夕陽までしあわせな旅を。

 




   二次創作SS・冬の日のこと

  

 雪が浅く土を隠した早朝のことだ。荷馬車の幌に積もった雪をかき落としていると、いかにも溌剌とした様子の赤毛の女が通りすがった。機嫌良く鼻歌を歌いながら、時折くるりと身を回し、まだ誰の踏みあともない新雪を不規則に荒らしていく。彼女の髪は首を覆いきるには足りない長さで、首もとがどうにも寒々しかったが、当の本人は気にならないらしい。浮かべた笑みはどこか幼げな意地の悪さを含んでいて、あれはそう、孫がいたずらを仕掛けた時の笑顔にそっくりだ。そんな、どこか少女じみた気配があったからだろうか。風邪を引かないと良いが、と頭を掠めた老婆心が、鮮やかな赤毛を記憶に留めた。


 昼を過ぎて太陽が照り出し、雪溶けの道はひどくぬかるんだ。泥に足をとられまいとして、往来の動きは奇妙にゆったりと流れていく。

 その中を一人、猛烈な勢いで向かってくる者がいた。ついつい目をやれば、覚えのある赤毛。おや今度は暖かそうな首巻きをしている、と安心する暇もなく、何があったのやら、その顔はひどい荒れ模様だ。髪に負けじとばかりに赤らんだ頬、つり上がった目。首元の布に埋めてしまって見えないが、唇は強く引き結んでいるに違いない。泥で足元の悪い中、大きく乱暴な歩調にも関わらず、彼女は少しも危なげない足取りであっという間に過ぎ去っていった。つむじ風のようだった。

 ……いったいどうしたというのだろう。それから夕方までかけて、荷馬車の積荷を入れ替える間、あの赤毛の娘がまた通らないかと気にかかって通りをちらちらと眺めていた。だが、ついに日が沈むまで彼女の姿は見なかった。


 ポツポツと街に灯りが光る宵の口、仕事を終えた。どうもすっきりしない気分で腰を叩いていると、不意に無愛想な男に呼び止められた。

「女を見なかったか。赤毛の」

「見たよ」

それだけ答えて黙る。男はややあって、続けた。

「どっちに向かった?」

「さてね。ずいぶん悲しんでいたようだが」

 可愛い可愛いうちの孫も、よくああいう風に嘆いたものだ。大事な誰かに腹を立て、怒る自分にも腹を立て、しまいにはただ、悲しくなって。ああ、本当に似て見える。

孫に最後に会ったのはいつだろう。寂しさに押され、すっかり見知らぬ赤毛娘の肩を持ちたくなってしまっていた。

「あんた、あの子の何なんだい。言えないようなら、こっちにも教える義理はないね」

 男はぐっと言葉に詰まり、視線を落とした。再び降り積もり始めた雪が、男の暗い色の髪を縁取り、白く浮き立たせる。それで気がついた。男の身は雪を溶かせないほど長いこと、冷たい外気に晒されていたのだ。

「俺は」

 男の口から深いため息が溢れだす。真っ白に煙った吐息は彼の顔をぼかした。それでも。

「あいつの……だ」

 曇りない、信頼に足る目だと思った。




 次の早朝も、また雪が積もった。昨日より少しだけ厚みを増して、これからさらに深まる冬を予感する。通りに出たところで、足跡の先客を見つけた。こんな早い時間に二組も。まっすぐ伸びる大きな足跡がひとつ。その脇に寄り添うように近く、と思えばふらりと遠く、曲線を描いて気ままに遊ぶ軽やかな足跡がひとつ。

 微笑ましさに細めた目を道の先に向け、足跡の主を追ってみた。果たしてそこには思った通り。


 白銀の朝によく映える、赤が。



 

 

 

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