アナウンサーが語る”言葉”の力と大切さ
この春、日本テレビを退社されフリーになった藤井貴彦アナウンサー。
2020年からの新型コロナウイルス流行時には、視聴者への呼びかけに対し共感の声が多く聞かれたことでも話題になった。かくいう、私もそのひとりである。
そんな藤井アナウンサーが記した本が、この「伝える準備」である。
日々、言葉と向き合うアナウンサーが培った言葉の力と、思いが伝わる言葉のつくり方。
伝える準備とは、どういうことなのか。
「自分の思いが伝わりにくい」
「どうしたら相手に届く言い方ができるだろう」
そんな経験をしたことがある人に、ぜひ手に取ってほしい1冊である。
言葉選びに時間をかける
物事の良し悪しや、今発言するタイミングなのかぐらいは考えることはあると思うが、「伝える」ということに準備が必要なのだろうか。
特にアナウンサーは原稿通り話すだけでなく、速報や緊急事態などにも臨機応変に対応する必要がある。準備の時間がないままに、カメラの前で話さなければならない。そんなこともたくさんあるだろう。
ただ、この考えは本を読み進めていくうちに覆される。
藤井アナウンサーが、後輩へアドバイスをするとき、ノートにアドバイスをリストアップする作業を行うそうだ。この作業を「言葉を寝かせる」という。それによって、自分の視点やスタンスが変わり、別の言葉が生まれてくるというのだ。
日々、言葉を考え選び、どうしたら相手により伝わるのか。
「伝える」ことを仕事としている藤井アナウンサーから発せられる言葉だからこそ、この言葉の重みが強く伝わる。
手元にある言葉を並べるだけでなく、言葉のストックからチョイスして伝えることが自分を作り、自分を高めるのだ。
言葉のプロが語る"5行日記"のすすめ
藤井アナウンサーは、日本テレビに入社してからずっと日記を書き続けているそうだ。この日々の積み重ねが言葉選びの土台になっているという。
書き記すことで、その日の自分がどう感じていたのか、本当はどんな一日にしたかったのかなど、振り返ることができるそうだ。
日記のルールも2つだけ。
5行だけ書くこと。そしてボールペンで書くこと。
作業がシンプルかつ間違えたら消せないため、言葉が煮詰まり、言葉のチョイス能力と瞬発力が養われる。
また、書くスペースが限られていることで、できるだけ濃縮された言葉で多くの内容を表現する技術が身につくという。
本の中で出てくる"言葉がカラフルになる"という表現も、5行日記で培われた言葉のストックから、藤井アナウンサーがチョイスしたもの。
目に見えて色がついていない「言葉」を「カラフル」という、色がついているかのような比喩表現。この例えだけで、「言葉」のイメージが広がり、なんだか温かみを感じるのは私だけだろうか。
「伝える準備」のひとつとして、私も5行日記を書いてみよう。そう思った。
コロナ禍での発言の真意とは
新型コロナウイルスは私たちの生活を大きく一変させた。
ウイルスが猛威を振るい、緊急事態宣言が出されたことは、皆の記憶に残っているだろう。藤井アナウンサーが、ニュースの中で「人のいない渋谷のスクランブル交差点」を言葉で表現することがあったそうだ。
いろいろな立場の人のことを考えて、藤井アナウンサーは渋谷のスクランブル交差点を「今テレビを見ている皆さんのご協力で、人との接触が防げています」と表現した。
なぜ、藤井アナウンサーはこの言葉をチョイスしたのか。
もっと強い言葉で、ステイ・ホームを伝えることもできたかもしれない。
すべての人に対して、都合のいい言葉で伝えることもできたかもしれない。
スクランブル交差点にいる人にフォーカスを当てることなく、テレビを見ているステイ・ホームを確実に守っている人への感謝の気持ち。
すべての人を納得させることは難しいこと。それでも藤井アナウンサーがたくさんの人の立場から選んだ言葉が、たくさんの人の心の支えとなったのは紛れもない事実である。
伝える準備でみえる未来とは
SNSが普及した昨今、誰でも気軽に思いを発言することができるようになった。その反面、何気ない一言で誤解が生まれ、人を傷つけてしまうことも多くなってしまった。
しかし何気ない一言で人を勇気づけ、励まし、ポジティブにすることもできる。言葉を選別し、磨きをかけることは、自己研鑽にもつながるのだ。
「伝える準備」は自分を作り、未来を作る。
藤井アナウンサーのおかげで、私も新たな一歩を踏み出すことができそうだ。
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