幻の芋
「そふとくりぃむをひとつ」
およそ登山客にもバイカーにも見えない小柄な髭の老人だった。
「……治助さんかい!」
「落合さん、久しぶりじゃ」
禿頭赤ら顔の店主も高齢で、ふたりが陽だまりの椅子で渦巻を舐める姿はどこか微笑ましい。
「学生さんの地域おこしに一肌脱いだと聞いてな」
「猿のおしゃべりめ、山はつながっておるから」
「わしもカレーに入ってハイカラになったもんじゃが、あいすとは」
煮っころがしや味噌をつけて食卓に上ったこともある。
蘭学者が先読みしたとおり、食糧難の時代、斜面から掘り起こされた芋は山の民を救った。
「消えそうでなかなか消えないものじゃ」
「粘り強いからの、お互い」
やさしい甘さが秋の空に溶けていった。
幻のおいもをおいもとめて
じゃがいも擬人化SS
いただいた反応
引用RTでいただいたもののみ、見つけしだい増えます。
サポートいただいた分は、美味しいものへと変身し、私のおなかに消えた後、文字になって出力されます。