あしぬけ
カタギになって移住した同期を訪ねた。
街が遠く、海が近い。人がまとう服も空気もゆるやかでフィナンシェヤクザの自分は異質だ。
テラスでの新鮮な魚介料理、八つ時には地場の野菜を使った焼菓子。
生姜マドレーヌ、人参カヌレ、牛蒡フロランタン。
「腕は落ちてないな」
「南雪、シノギを考えてるときの顔してるぅ」
「してない」
「足を洗う気はまーだないようね。反社とは商売しないわよ」
アロハから覗くたくましい腕で珈琲を淹れながら、同期は穏やかに笑った。
「……でもさー背中の阿修羅が消えないようにやっぱやめで逃げられないこともあるみたい」
「その件で来た。サーフィンは今度だ」
赤みの目立つトマトフィナンシェが口の中で粒を主張した。
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