見出し画像

おつとめ

画像1

組のいざこざを収めるため服役中だ。

戻れば幹部だが、喧騒と隔たれた檻の中も悪くはない。

光沢スーツを脱いでからは、揃いの囚人服で牛や鶏の世話をし、麦畑を耕している。

模範囚ともなれば、製菓訓練を許された。

乳と卵、小麦粉から次々と狐色の菓子を生み出すマーさんのことが好きになった。

バナナマフィンが絶品だったから、マフィンのマーと呼ばれていた。

互いの肌をまさぐった夜、仄かな灯りでマーさんの背に貝の彫物が浮かんだ。

「そうだ、マドレーヌマフィアだよ。気づかなかったのか」

フィナンシェヤクザ、お前の兄貴を殺したのは俺だよ。

マーさんの声はひどく優しい。

オーブンから漂ってくる濃いバターの香り。

焼き上がるのはどちらか。

(300字)
「Twitter300字ss」企画参加作品 第七十回/お題「服」


いただいた引用RT感想


投稿後1日後くらいまでで見つけられたもののみ、リプライでいただいたものは除きます。


サポートいただいた分は、美味しいものへと変身し、私のおなかに消えた後、文字になって出力されます。