見出し画像

マトリックスの原理5° 外貨の売買はほぼ必ず対外資産・負債が発生する



外貨の売買は外貨の決済場所が海外に、円の決済場所が東京にあるため海外部門を動かします。しかし、外貨売買も金融元本取引であり、「原理3° 金融元本取引では資金過不足は発生しない」の通り、海外部門、国内部門いずれにおいても資金過不足は発生しません。このことは、「外貨の売買を行うと対外資産と対外負債が発生する」「新たな対外資産を金融元本取引で取得すると対外負債が発生するか既存の対外資産が減少する」「新たな対外負債を作ると必ず対外資産が発生するか既存の対外負債が減少する」ことを意味します。

外貨売買の経路を概観すると、
① 外貨の売買取引は自行内・自社内で相殺される売買を除きインターバンク市場につながれる。
② 銀行は売買の仲介を行うだけであり(一時的な為替ポジションを持つことはあるが)最終的には顧客の売買に転化される。
③ インターバンク市場の資金決済は、各通貨の中央銀行への預け金で行う。
④ 各通貨の中央銀行預け金へのアクセスは、それぞれの国の主要都市に開設された銀行拠点に限られ、当該都市に海外支店がある場合はその海外支店、ない場合はコルレス契約(決済の委託契約)を締結した現地銀行(コルレス先)を通じて中央銀行預け金で決済する。
⑤ 従って、銀行間外国為替売買は外貨の決済は海外で、円貨の決済は国内で行われ、必ず海外部門が動く。決済資金のファンディングもそれぞれの所在地の短期資金市場で同時に行われると考えられるため、居住者銀行の外貨の買いサイドは対外資産(海外部門の負債サイド)に、売りサイドは対外負債(海外部門の資産サイド)に計上される。非居住者銀行の円の買いサイドは対外負債(海外部門の資産サイド)売りサイドは対外資産(海外部門の負債サイド)に計上される。
⑥ 外貨の売買は金融元本取引であり個別の主体単位でも、金融資産の項目が替わる(例えば普通預金が外貨預金に替わる)か、金融負債の項目が替わる(例えば銀行にとっての普通預金が外貨預金に替わる)か、金融資産・負債が同時に同額増加(例えば、銀行が外貨買いの決済を資産の外貨預金、円売りの決済を負債の普通預金で行った場合)あるいは減少(例えば、銀行が外貨売りの決済を資産の外貨預金からの送金、円買いの決済を負債の円預金で行った場合)するためフローの資金過不足は発生しない。
となります。

①のインターバンク市場に繋がられる様子は、日銀レヴュー『最近の外国為替市場の構造変化』(2014年7月)によれば欧米の巨大銀行などの大規模ディーラーは電子取引プラットフォームにより自行内・自社内での売買の相殺(マリー取引)を増加させようとし、相殺しきれない売買をインターバンク市場に繋いでいる。
同じく日銀レヴュー『本邦外国為替証拠金(FX)取引の最近の動向』(2016年6月)の中で、金融先物取引業協会のデータによると注文の約6割が相殺され約4割がインターバンク市場でカバー取引され。当該カバー取引等の金額は、東京外国為替市場におけるスポット取引額の約3割に相当すると紹介しています。

原理6°『経常黒字を超える円投は必ず円転者がいる』へ続きます。

原理5°の詳細につきましては、
金融マトリックス―国債と銀行の運命 | 磯野 薫 |本 | 通販 | Amazon
を参照してください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?