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エンジェル税制は天使のような節税策?


はじめに

エンジェル税制という言葉を聞いたことありますか?
税理士でも内容までわかる人が少ないマイナーな税制ですので、知っている方はかなり投資リテラシー・節税リテラシーが高いです!
エンジェル税制は、「大いなる希望を持った起業家」と「その会社に出資するエンジェル投資家」のために用意されたかなりインパクトのある節税方法です。そういった意味では天使のようにありがたい制度と言えるかもしれません。
日本経済の活力を高めるためにも個人の資産形成のためにも「投資」という言葉が大きく取り上げられる現代においては、知っておいて損はない制度です。
この記事では会社に投資する個人の立場から制度をご紹介します。
知らなかったでは通用しないのが税の世界です。自身の財産を守るために節税リテラシーを高めていきましょう!

概要

エンジェル税制は「投資した年に受けられる優遇」と「売却した年に受けられる優遇」に分かれます。さらに投資した年に受けられる優遇はAとBに分かれています。
エンジェル税制をご自身の節税の引き出しとして活用するには、これらを整理しておく必要があります。

投資した年に受けられる優遇

(優遇措置A)
次の金額が投資した年の総所得金額から控除されます。つまり、課税される所得が少なくなるため、「次の金額×税率」の分だけ納税額が減少します。

「エンジェル税制対象の投資額-2,000円」
 ※対象となる投資額の上限は下記のうちいずれか少ない金額
  ・総所得金額×40%
  ・800万円

たとえば、
所得税率33%(復興特別所得税は考慮外)の人が100万円の投資をすると、
約33万円納税額が減少します。

(優遇措置B)
エンジェル税制対象の投資額全額が、その年の他の株式譲渡益から控除されます。対象となる投資額の上限はありません。
課税される譲渡益が減少するため納税額も減少します。
この場合の譲渡益とは、上場株式、投資信託、未上場株式などの売却で発生した利益です。

たとえば、
上場株式の売却で500万円の利益が出た年にエンジェル税制対象の投資を100万円すると、約15万円納税額が減少します。

売却した年に受けられる優遇

エンジェル税制の対象とした株式を売却したことより生じた損失を、その年の他の株式譲渡益と通算(相殺)できます。
また、その年に通算(相殺)しきれなかった損失については、翌年以降3年にわたって、順次株式譲渡益と通算(相殺)ができます(繰越控除)。
つまり、損益通算と繰越控除の適用ルール緩和が、エンジェル税制における売却時での優遇措置です。
投資をした年に優遇措置Aを使った方でもBを使った方でも適用があります。

利用にあたっての注意事項

エンジェル税制を使った投資額は、その株式を売却する際には原価から控除されます。
たとえば、100万円を投資、そのうち30万円を優遇措置の対象とし、将来株式を200万円で売却したケースでは、
売却時に200万円-(100万円-30万円)=130万円に対して課税されます。
このように、エンジェル税制を使うと投資した年の納税額が減りますが、売却する年の納税額は増えるのでご注意ください。

活用できる場面

優遇措置A

優遇措置Aが活躍するケースは課される所得税率が高い場合です。
事業や給与などにかかる所得税の税率は5%~45%です。これに対し株式の売却益に対する税率は15%です。
優遇措置Aはこの税率差を活用する節税策です。
45%の税率で課税される人がエンジェル税制対象の投資を100万円した場合は、投資した年に45万円の節税、売却した年に15万円の納税、差引30万円の節税が可能です。

優遇措置B

優遇措置Bは課税のタイミングを後ろにずらす効果があります。
本来なら投資額は株式を売却した年の原価となります。これが優遇措置Bを使うことによって投資した年に即原価となります。
1,000万円原価が増えれば、税率は15%ですので納税額が150万円減少します。
株式を売却した年には原価がゼロになるので150万円納税額が増加し、トータル納税額プラマイゼロですが、150万円を納税するタイミングを売却時までずらすことができるので、その間150万円を運用できます。
150万円をどう働かせるかはあなた次第!

令和5年度改正

エンジェル税制は、原則として投資時に納税額が減少し、株式売却時に納税額が増える制度(課税の繰延べ)なのですが、令和5年度の税制改正によって一定の要件を満たせば20億円まで売却益に課税しない(非課税)こととなりました。
節税効果のグレードアップです。

おわりに

このように、エンジェル税制は日本経済を活性化させようとする政府の思惑により誕生し、かなりの優遇措置が講じられています。
しかし、起業間もない会社への投資は、上場などによる大きな利益と事業失敗による大きな損失の両方の可能性を持つハイリスク・ハイリターンなものです。
節税のためにエンジェル投資を始めることはおすすめできません。社会貢献や次代の起業家支援、純粋なる投資としてエンジェル投資をするなら、せっかく政府が用意してくれた優遇措置を活用して節税しましょう。
節税は決して目的ではなく、お金を増やすための手段です。

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