finalvent読書会 D 小池真理子『沈黙のひと』開始

少し迷ったのだけど、もう一つ読書会を作ります。当初は、読書会Cの村上春樹『街とその不確かな壁』を終わりにして、そこで、現代日本文学を扱おうとも思ったのだけど、まあ、あれはあれで読者層が広そうなので、とりあえずそのままにして、読書会Dを作りました。

finalvent読書会 D 会場

会場は以下です。

https://note.com/finalvent/m/mef9f89237ef8

扱うのは、小池真理子『沈黙のひと』です。この小説は、40代以降の現代日本人が読むといいと思うのですよ。特に、50代以降。というわけで、なんとなく読書会的に扱いたいと思いました。もちろん、10代でも20代のかたでも、どうぞ。

進め方

この作品は全10章なので、それにあわせて、基本、1章ごとの話題をまず書くと思います。読まれるかたは、しかし、それに合わせなくてもかまいません。実際のところ、私の場合は、再読で書いていきます。

どういう物語か

主人公は60代くらいの独身女性。離婚歴有り、子供なし。文芸誌の編集者。

基本的に作者・小池真理子を重ねています。小池真理子は1952年(昭和27年)生まれ。この作品が、2011年なので、59歳といったところでしょう。作品の時間は、2009年。

物語は、家族を捨てて、80歳の老いた父との娘としての主人公の交流を描いたもの。文庫版の解説で評論家・持田叙子は〈父恋いの文学〉としていて、概ね妥当ではあるが、そう限定することもないだろう。意外と複雑なテーマをもった作品でもある。

主人公の父は、彼女が幼いころ、母と彼女を捨てて(離婚して)、若い女と再婚し、そこで二人の娘をもうけた。彼女はこうしたことから、父とは手紙の音信はあるものの、心理的に疎遠で30歳後半まで過ごしたが、37歳の離婚をきっかけに改めて父と合うという感じだった。

離婚・再婚後、彼女の父は、単身赴任でS石油(昭和石油である)の仙台市店長として活躍し、退職したのちも名曲CDの販売の仕事などをしていたが、70代でパーキンソン病を発症し、歩行困難、車椅子、会話困難、となった。再婚の妻は、単身赴任のころから不仲になり、夫を嫌悪するようになっていた。このため、80歳以降、彼一人、介護施設に送られることなり、そこで主人公との交流が再会する。80歳の父と、50代後半の娘である。

物語は、父の遺品整理から始まる。主人公と異母姉妹の三人が施設のその部屋に集まり、遺品を整理するのだが、そこで、封印された箱のなかから、ポルノビデオをいくつか発見し、驚愕する。80歳になり、身体も思うにまかせぬ老人がこんなものを見ていたのだろうか?さらに、電動ディルドと潤滑剤を発見する。

それとともに、時代遅れのワープロが発見される。が、この装置は主人公の娘が父に与えたものだった。パソコンのワープロソフトが不便だったということだ。当然、このワープロの中に残されている文書は、父のどのような秘密を明かすのだろうか、と、また読者の関心を引く。

第1章の終わりは、主人公の女性が、形見にそのポルノビデオの1つを受け取り、自宅で「供養」として再生するシーンになる。

〈父恋いの文学〉といった甘ったるい関心ではなく、読者の関心を掴む。


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