ナウシカとエアリス、アスベルとクラウド

ところで『風の谷のナウシカ』について、映画版しか知らなかったが漫画版のストーリを知った時には大分驚いたものだった。Wikipediaによれば、漫画版の連載はアニメージュの1982年2月号 - 1994年3月号らしい。

物語の大枠として初期は映画とさして変わらずその後に旅が続いていくといった形だが、個人的に驚いたのはアスベルの行く末と、映画に出て来ないセルムというキャラクターの存在。アスベルはケチャという女の子といい雰囲気になり最終回では抱き合って終わり、最終的にナウシカのパートナー的な扱いになる人物は超常の力を持った『森の人』セルムだという……!嫌なトラウマを思い返して心が抉られたよ!何てこった!こういうカップルクラッシャーは心臓に悪いよ!

勿論漫画版ナウシカの大筋の話は素晴らしいのだが、人間関係の一部がFF7と被り過ぎて心が痛くなった。

ナウシカとアスベルがエアリスとクラウド、ケチャとセルムがティファとザックスに被り過ぎて心が痛い。優しいだけじゃなく強い聖女系ヒロインと未熟で感情移入しやすい等身大男子、後から登場した一般人寄りの女の子、精神的に安定したハイスペ男子という人物構成が全く同じ。時期的にはFF7の方が後なので、仮に真似た可能性があるとしたらFF7の方なのか。単なる偶然である可能性も高いけれど。

アスベル……凄い好きなんだけどアスベル……。映画での、トルメキア軍の船を強襲する初登場シーンからの「あなたは殺し過ぎる!」というナウシカの台詞の展開が、単なるお綺麗なだけのヒーローでなくてとても好き。腐界の底を歩き回るナウシカとか、話しながら寝ちゃうナウシカとか、ニュートラルな男女関係でとても良いと思うのである。復讐や暴力を肯定していたアスベルが、ナウシカとの出会いで変わったのがとても良かった。そして映画のラストのあの場面。青き衣を纏い、特別な存在となったナウシカを一人の人間に戻せるのはアスベルなのだと思った。

未熟な所のあるクラウドやアスベルよりも、より完成された人格の持ち主であるセルムやザックスの方が、女性受けしやすいキャラクターなのだろうなあ…とは思う。でも先にクラウドやアスベルで刷り込まれてしまった私にはどうしても受け入れる気にはなれないというだけで。

セルムは後の『千と千尋の神隠し』のハクや『ハウルの動く城』のハウルに連なる神秘的な美少年で、宮崎氏の好みはアスベルのような等身大の少年よりもこっちに寄って行ったのかなーと思う。(あ、ハクセンやハウソフィは好きですよ。あっちは最初からそういう既定路線なので不満は何もない。)

『もののけ姫』のアシタカとサンとカヤは、アスベルとナウシカとケチャの再来とも言えるかもしれない(アシタカの声優はアスベルと同じ松田洋治さんだ)。アシタカがサンと共に生きる『もののけ姫』の結末は、ナウシカとアスベルのリベンジとも言うべきなのかもしれない。しかしこっちも分かりやすく結ばれた訳ではないので何とも……。

映画版の、復活したナウシカを抱き上げてくるくるするアスベルの場面が本当に大好きで、ハッピーエンドだと思っていたからその後を知ってショックである。FF7も、もしもミッドガルを出る所までが映画化されてそこまでが大衆に知られ、その後のゲームの展開は知らない人が多かったりしたら同様の事態になっていたのかもしれない。

聖女系ヒロインの相手役が彼女よりも弱い男性では、いけないんだろうか。女性キャラの方が男性キャラをぐいぐい引っ張っていくカップルではいけないんだろうか。大して強くない、一般人レベルでしかないアスベルではナウシカの相手役に相応しくないという考えは結局そういう事に思える。エアリスの相手役として、今更ながらに終わった初恋の筈のザックスを持ち出すのも。ザックスは器が大きく、飄々としているも完成されたキャラクターだが、それでもエエアリスにはクラウドの方がお似合いだと思う。特殊な力を持ったスーパーヒロインと、特別な力は持たないけれど彼女を普通の人間に戻してくれる少年の恋だって、心ときめくものになると思うのですが。いくら女が強くても、男の方は更に格上じゃなきゃ駄目!っていうのなら、一見して革新的なようでいて実はそうでもないっていう残念感が……。

ただ、大きな違いは、ナウシカは主人公でありエアリスは主人公ではないという事。女主人公であるナウシカの場合彼女と結ばれたキャラクターが『主人公の相手役』としてフューチャーされるのに対し、FF7の主人公はあくまでクラウドなのでエアリスがクラウド以外と結ばれる事はエアリスの立場のヒロイン落ちかのように語られる。それだけに、ナウシカよりもFF7の方がより納得のいかない感が増すのである。

もし男女逆だったらどうだっただろうか、とも思う。ナウシカの器が大きすぎてアスベルとは不釣り合いだと言われる事があるが、ナウシカが男性でアスベルが女性だった場合そんな事は言われなかったのでは?と思う。より大きな目的を目指すスーパーヒーローと、そこまで大きな役割は負わない添え物ヒロインという構図はよくある事であるし。「世界を救いながら片手間に恋愛」は、男主人公の作品なら実によくある事だけれど、女主人公の作品では殆ど見た記憶がない。だから結局ナウシカもエアリスも、せっかく強く逞しく魅力的なヒロインであるにも関わらず、やはり「女は男の前に出るな」という不文律に囚われてしまったように思えてならないのだ。

(とは言え、ナウシカはクシャナと対を為す表裏一体の存在とも捉える事ができる。クシャナの年齢が25歳と高めな事もあり、結婚や出産と言った現世の女性としての役割はクシャナが担いナウシカは誰とも結ばれずにあくまで孤高の聖女としての生を全うするという作劇もありだったかもしれない。クシャナとクロトワの関係は好感が持てた。恋愛関係にならないにしても彼等は生涯共に生きるのだろうから。クシャナサイドの描写には不満はない。ユパがクシャナを守り、ヴ王がナウシカを守って死んでいくという対称性も綺麗だと思う。それにしてもやはりケチャとセルムの登場とその後の展開は残念だ。)


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