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スナック忘れな草~クラスターを封じ込めよ・2023JBCスプリント~

トップ画像引用:JRA-VAN 名馬メモリアル


■ スナック忘れな草が臨時休業

2023年10月30日(月)午後7時
-東京都某区 スナック忘れな草-

真一郎とギョニ子がスナック忘れな草の前までやってくると、ドアに貼り紙がされていた。

臨時休業

流行り病にかかってしまいました。
しばらくお休みさせていただきます。

10月30日 麗子・マスター

「ええ!?流行り病ってコロナかしら?」

ギョニ子が手を口に当てて言った。真一郎も動揺を隠しきれず言った。

「ママさんとマスターのどちらかがかかったのか。それとも二人ともかかったのか。どちらかひとりだとしても同居している以上はうつっている可能性が高いから、大事を取って休みにしたんだろうね・・・」

■ 立ち飲み処 UEGOMORI

2023年11月2日(木)午後7時
-東京都某区 立ち飲み処 UEGOMORI-

月曜日から水曜日までは、どこにも寄らず家で晩酌をしていた真一郎とギョニ子だったが、今日は明日から3連休ということもあり、どこかで一杯やろうということになった。

二人がやってきたのは、水曜日にマスターと連絡を取った際に教えてもらった店だ。やり取りする中でわかったのは、コロナにかかったのは麗子ママのほうで、マスターは二度病院で検査をしたがいずれも陰性だった。麗子ママの身の回りの世話があるため、ひとりでスナック忘れな草を営業することは断念し、臨時休業することにしたという。

「いらっしゃいまほー」

立ち飲み処UEGOMORIのドアを開けると、威勢のいい声が飛んできた。

「マスターから話は聞いているわ。ここのママをしているキャロライン響子よ。みんなからはキャロちゃんって呼ばれてるわ」

身長は180cm程度、ベリーショートの髪をオレンジに染め上げていて、両耳には馬蹄型のイヤリングをしていた。喉仏がたくましく隆起しており、戸籍上の性別は男性であることを物語っていた。

「あ、よろしくお願いします。真一郎と・・・」

「えと、キャロちゃんと同じ名前の今日子です。あたしの今日子はキョンキョンの今日子。魚肉ソーセージが好きなのでギョニ子って呼ばれてます」

「うふふ。二人ってばもしかしたら・・・いや、もしかしなくてもラブラブよね?すぐにわかるわ」

そう言ってからキャロラインママはカウンター内で踊り出した。

「あ、なでしこしこしこ なでしこしこしこ なでしこしこしこ ラブ ゲッチュウ!」

どう見ても楽しんごのパクリだったが、キャロラインママの眼光には、そう突っ込ませないほどの迫力があった。

「あらやだ、あたしったら飲み物もお出ししないで!」

キャロラインママはそう言って生ビールをふたつ絵際良く準備し、二人の前に差し出した。

「どうして生ビールだってわかったんですか?」

みなまで言うなというように、口の前で右手の人差し指を左右に振ったキャロラインママは言った。

「顔に書いてあるわ。ナ・マ・が・好・き ってね!」

最後の「ね」のところでしたウインクによって、店内に一陣の風が吹いたようだった。

■ メイショウテゾロ

「ところで店名のUEGOMORIってどういう意味ですか?」

生ビールを半分ほど飲んだギョニ子が訊いた。キャロラインママはにっこりと笑って言った。

「グッドクエスチョンよ、ギョニ子!」

そう言ってキャロラインママは自分のスマホを操作し、馬券の画像を見せた。16番と17番と18番からの馬連総流し馬券。48点買いで各1万円。合計48万円の大勝負馬券だった。レースは1995年のマイルチャンピオンシップとなっている。

「トロットサンダーとメイショウテゾロで決まった大万馬券。配当はあっと驚く10万馬券。払い戻しは1,000万円を超えたわ。それで始めたのがこの店ってわけ」

うっとりとした表情を浮かべたキャロラインママは、一瞬にして1995年のマイルチャンピオンシップ、ゴール前のシーンにタイムトリップしたようだった。

「あの・・・それでUEGOMORIっていうのは?」

恐る恐る尋ねた真一郎に、キャロラインママは我に返った。

「あらやだ、それを説明してなかったわね。UEGOMORIは2着したメイショウテゾロの騎手、上籠勝仁よ。どうやってその万馬券を仕留めたか説明していいかしら?馬券自慢にはなっちゃうけど」

そう言ってウインクしたキャロラインママに、真一郎とギョニ子は頷いて同意を示した。

「しんちゃん・・と呼んでもいいかしら? しんちゃんとギョニ子ちゃんはラブリイちゃんをご存じ?藤沢和雄先生にGⅠ初勝利をプレゼントした馬なんだけど?」

「えーと、シンコウラブリイでしょうか?確かニシノフラワーと同期だったような?」

真一郎が記憶を手繰り寄せるように言った。

「話が早いじゃない!そうよ、その年代よ!ほかにはサンエイサンキューちゃんもいたわね・・・ラブリイちゃんが勝ったGⅠ・・・それがラストランになっちゃったんだけど、それが1993年のマイルチャンピオンシップだったの。それから2年後。あるレースにラブリイちゃんがいたのよ!」

1995/10/14 東京3R
8-11(ラブリイ)パートナー 3着
8-12(シンコウ)バレリーナ 4着

「ね?いたでしょ、ラブリイちゃんが!マイルチャンピオンシップの約1ヶ月前というタイミングから、あたしはマイルチャンピオンシップでは8枠から買うって決めてたの!」

「へえー!そんなサイン読みがあったんですね」

ギョニ子が感心したように言った。

「ところがギッチョン。出馬表が確定してさすがのあたしもびびったわよ。揃いも揃って人気薄が入ったの。えーと、確定オッズで見るとこうだったわ」

8-16 ポッドリチャード 18人気
8-17 プラチナシチー  15人気
8-18 メイショウテゾロ 16人気

「これはちょっと買うのを躊躇しますね」

真一郎が言った。

「でも、結局勝負されたんですね?でも1点1万円なんかよく買えましたね」

真一郎が全部言い終わる前に、キャロラインママは涙を流していた。悲しい思い出があるらしい。

「マイルチャンピオンシップの一週間前に、あたし振られたのよ。1年付きあった彼氏が、ある日突然姿を消したの。あたしがせっせと10年掛けて貯めた800万円とともにね」

キャロラインママは結婚詐欺にあったのだった。キャロラインママの顔はみるみる涙で覆われて、溶けた化粧が目の周囲を黒くした。

「あたしねえ、このマイルチャンピオンシップで絶対に取り戻してやるんだって誓って、初めて家族や親せきに頭を下げてお金を借りたの。それこそそうね・・・スカイツリーのてっぺんからバンジージャンプをするくらいの勇気で馬券を買ったわ!」

そのころはまだスカイツリーはできていないだろうという突っ込みを我慢し、真一郎とギョニ子は頷いた。

「リアルタイムでレースを見ていたら、心臓が止まりそうになるでしょうね。こんな第万馬券をとったら」

ギョニ子がそう言うと、キャロラインママは頷いて言った。

「そうなのよ!あのレースはWINS後楽園で見ていたんだけど、ゴール前にあたしが出した『うえごもりーーーー!!!!!』という絶叫は、WINS新宿でも聞こえたらしいわ」

そう言ってキャロラインママはまたうっとりとした顔をした。エクスタシーの最中のような顔で、もしかしたら射精しているのかもしれない。

■ タップダンスシチー

「あらやだ、あたしったら自慢話ばかりして。あんたたちもサイン馬券を買うんでしょう?明日のJBCはやるの?」

「ええまあ、買おうかなと思ってました」

真一郎が答える。ギョニ子が続いた。

「天皇賞はイクイノックスが連覇しましたよね?秋天連覇と言えば、シンボリクリスエス、アーモンドアイに続いて3頭目。そしたら、重賞インフォメーションにコスモサンビームが出てきたから、何かあるのかなって。

「なにそれ?どういうこと?」

ギョニ子の説明はこうだった。重賞インフォメーション、京王杯2歳ステークスの過去の勝ち馬が、2003年のコスモサンビーム。この年は、シンボリクリスエスが秋天連覇を達成した年であり、今年とつながるという。

「それは面白いわね・・・」

そう言いながらしばらくスマホを操作していたキャロラインママは、はたと膝を叩いて言った。

「秋天連覇だけじゃないわね、2003年との共通点は」

「どういうことですか?」

真一郎が尋ね、キャロラインママが答える。

「同じ2003年、ジャパンカップを勝ったのがタップリダスシチー。あ、ごめんなさいね、あたしはそう呼んでたの・・タップダンスシチーね。この馬、東京競馬場リニューアル記念を勝ってるのよ」

2003 4/26(土)
東京11R 東京競馬場リニューアル記念
1着:7-10 タップダンスシチー

「へええ。競馬場は違いますが、今年は京都競馬場がグランドオープンしていますね。センテニアルパーク京都競馬場という名称で」

真一郎が言った。

「ええと、京都競馬場グランドオープン記念でしたでしょうか、開幕日のメインレースが」

4/23(土)
京都11R 京都競馬場グランドオープン記念
1着:5-10 ドンフランキー

キャロラインママは、右手を顎に当ててしばらく考えてから言った。

「グランドオープン記念・・・リニューアル記念とも言い換えられるわね?つまりタップダンスシチーと、京都競馬場グランドオープン記念勝ちのドンフランキーには同じ役割があるってこと」

「でもね、キャロちゃん。ドンフランキーはJBCスプリントに出ていないのよ」

ギョニ子が申し訳なさそうに言った。キャロラインママは、予想していた発言だったようでニヤリと笑って言った。

「バトンタッチしてるのよ。リニューアルからリメイクへ」

■ リニューアルとリメイク

キャロラインママの説明はこうだった。本来はグランドオープン記念を勝ったドンフランキーが、JBCスプリントを制するシナリオだった。ところがなんらかの理由で、JBCスプリントは別の馬に託されることとなった。

8/15(火)盛岡10R
クラスターカップ JpnⅢ
1着:5-08 リメイク
2着:4-06(リニューアル)ドンフランキー
3着:4-05 リュウノユキナ

「このクラスターカップを見て。グランドオープン記念を勝っているドンフランキーの馬名を、タップダンスシチーが勝ったリニューアルとしてみるわ。そうすると、このレースはリメイクとリニューアルで決まったってわけ」

「どちらも同じような意味ですね」

ギョニ子が頷いて言った。

「そうなのよ。しかもリメイクは福永祐一のラストライドに選ばれた馬でしょ?2020年、東京オリンピックが開催される予定だった年に誕生した無敗の三冠馬2頭。旧京都競馬場の最期を彩った名馬よね?そして、リメイクという馬名は京都競馬場の改修工事を象徴しているわ」

■ クラスターを封じ込めよ

「つまり・・・」

ギョニ子が訊いた。

「リメイクは京都競馬場の改修工事を象徴しているから、グランドオープン年の今年、GⅠを勝つ資格を持っていると?」

キャロラインママはにっこりと笑って頷いた。

「秋天の1.2着枠とも綺麗にリンクしているわ」

天皇賞(秋)
6-06(ジャスティン)パレス 2着
6-07(イク)イノックス    1着

JBCスプリント
6-10(ジャスティン)
6-11 リメ(イク)

「わあ!本当ですね!」

真一郎が大きな声を出した。

「でも・・・JBCスプリントの6枠が、秋天のゾロ目を教えてたって可能性はないでしょうか?」

キャロラインママは頷いた。

「確かにそれはあるわね。秋天の発走前にJBCの枠順は発表されてたから。でも、ゾロ目の示唆は出ていると思うの」

8/15(火)盛岡10R
(クラス)ターカップ JpnⅢ
1着:5-08 リメイク
2着:4-06(リニューアル)ドンフランキー
3着:4-05 リュウノユキナ

2003/11/3 第3回 JBCスプリント
1着:3-03 サウスヴィ(グラス)
2着:3-04 マイネルセレクト
3着:7-13 スターリングローズ

「リメイクとリニューアルで決まったクラスターカップ。そして、コスモサンビームが示唆する2003年のJBCスプリント。2.3着と1.2着の違いはあるけれど、いずれもゾロ目を使ってるわね」

「そうすると・・」

真一郎が言った。

「今年のJBCスプリントもゾロ目を使うとして、もう一頭はどの馬になるでしょうか?」

「そうねえ・・・」

キャロラインママは少し考えてから言った。

「クラスターを封じ込める3枠なんてどうかしら?」

3枠 JBCスプリント
4枠 クラスターC
5枠 クラスターC
6枠 JBCスプリント

「なるほど!クラスターCが接触枠かつゾロ目の4.5.5。JBCスプリントもゾロ目を使いつつつ、両サイドを挟む3枠と6枠ってわけね?」

ギョニ子が訊いた。キャロラインママが頷く。

「ドンちゃん・・・ドンフランキーちゃんが京都競馬場グランドオープンを勝った日の京都1R。たしか、旧京都競馬場と同じ3連複6-7-8だったのよね?」

2020/11/1(日)
京都12R
1着:4-08 コパノマーキュリー
2着:3-06 ゴッドバンブルビー
3着:4-07 ヴァリアント

※3連複 6-7-8
※旧京都競馬場 最後のレース

2023/4/22(土)
京都1R
1着:3-06 ウィズユアドリーム
2着:4-08 アーテルナイト
3着:4-07 スイープアワーズ

※3連複 6-7-8
※新京都競馬場 最初のレース

「ズバリコロナ馬券の5-6-7じゃないのがミソね?ひとつずらした6-7-8。コロナが5類に移行したことと、コロナ収束を願う決まり目かしら?」

そう言ってキャロラインママはにっこりと笑った。クラスターを封じ込める枠の3-6-6馬券。真一郎とギョニ子の勝負馬券が決まった。

真一郎&ギョニ子
JBCスプリント 勝負馬券
3連単:11→10→5(一点勝負)

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