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スナック忘れな草~ラッセンが好き・2024ダービー本命馬決定篇~
トップ画像引用:ニュースイッチ
■ J●A会議室
2022年X月X日 午後3時
-東京都某区 J●A会議室-
「・・・というわけで、2024年のダービー候補10頭の紹介は以上になる。ナンバー6の馬に関するシナリオについては、説明したように〇〇騎手がサインアイテムとなる。いいな?」
「例の変更についてですが、ネットがざわつきませんでしょうか?」
「なあに。2年もさきのことだ。コアな競馬ファンの一部がSNS等で発信するかもしれないが、どうせすぐに忘れさられるだろう」
「承知いたしました」
■ アグネスフライト
2024年5月20日(月)午後7時
-東京都某区 スナック忘れな草-
その日検討に最も時間を割かれたのは、ダービーのCM60秒バージョンだった。画像や動画の分析が得意な麗子ママが場を回していた。
「動画に登場する過去のダービー馬を並べてみれば一目瞭然よ。異端児はアグネスフライトだわ」
みんながなるほどと頷いた。アグネスフライトだけが、GⅠ勝ちはダービーの1勝のみなのだ。他の馬にはダービー以外にもGⅠ勝ちがある。
HERO IS COMING.『世代の頂点へ』篇 日本ダービー
<ダービーCM 過去の名馬>
(長澤まさみ)
●過去のダービー馬①
ウオッカ(阪神JF)
ミホノブルボン(朝日杯3歳S)
(佐々木蔵之介)
●過去のダービー馬②
ナリタブライアン(朝日杯3歳S)
レイデオロ(ホープフルS)
(見上愛)
●過去のダービー馬③
ミスターシービー(皐月賞)
メイショウサムソン(皐月賞)
ドゥラメンテ(皐月賞)
(長澤まさみ)
●過去のダービー馬④
アグネスフライト(京都新聞杯)
キングカメハメハ(NHKマイルC)
ディープスカイ(NHKマイルC)
(3人)
●現役馬
ジャンタルマンタル(朝日杯FS)
レガレイラ(ホープフルS)
コスモキュランダ(弥生賞)
シックスペンス(スプリングS)
ジャスティンミラノ(皐月賞)
(最後)
●過去のダービー馬⑤
ディープインパクト(ダービー・3枠5番)
馬名のあとのカッコの中は紹介されているレースである。アグネスフライトだけがGⅠではない京都新聞杯だ。マスターが言った。
「京都新聞杯勝ちのジューンテイクなんて直球はまずないでしょうね。さすがにここでは敷居が高すぎる気がします」
みんながうんうんと頷いた。真一郎が言った。
「抽象度を高くして、皐月賞に出走していない別路線組に注意ということでしょうか?」
ギョニ子が続く。
「そうなると、皐月賞不出走はゴンバデカーブース、サトノエピック、シックスペンス、シュガークン、ショウナンラプンタ、ジューンテイク、ダノンエアズロック。以上の7頭ね」
タコ社長があとを受けた。
「その中でアグネスフライトと同じ前走GⅡ勝ちとなると、シックスペンス、シュガークン、ジューンテイクの3頭だな?」
みんながうんうんと頷いた。
2000 アグネスフライト
前走:京都新聞杯 GⅡ 1着
2024 ダービー
シックスペンス
前走:スプリングS GⅡ 1着
シュガークン
前走:青葉賞 GⅡ 1着
ジューンテイク
前走:京都新聞杯 GⅡ 1着
寄せに行っているわけではないが、昨日、ディープインパクト三冠の読みから浮上したシックスペンスも該当している。果たしてこの3頭の中に当たりはあるのだろうか―
■ 2023の反転
「得意のシナリオ読みは進んでいますか?」
そのとき、そう言って入って来たのはくろたんだった。ノーコスプレのダンディくろたんだ。
マスターがいつものように「ダンディくろたん使用券」を兼ねているコースターを、カウンターに滑らせた。今日はアカイトリノムスメの秋華賞、3着馬のアンドヴァラナウトだ。
「2023年の牡馬、牝馬クラシック二冠・・・」
くろたんはそこで響のロックを一口舐めた。
「以上4つのレースを紐解くと、タスティエーラのダービーが特殊決着だったことが浮き彫りになります」
桜花賞
1着 2−3 リバティアイランド 川田
2着 5−9 コナコースト 鮫島
3着 7−14 ペリフォーニア 横山武
皐月賞
1着 1−1 ソールオリエンス 横山武
2着 7−14 タスティエーラ 松山
3着 4−7 ファントムシーフ C.ルメール
オークス
1着 3−5 リバティアイランド 川田 二冠達成
2着 6−12 ハーバー C.ルメール
3着 7−13 ドゥーラ 斎藤
日本ダービー
1着 6−12 タスティエーラ D.レーン
2着 3−5 ソールオリエンス 横山武
3着 6−11 ハーツコンチェルト 松山
「皐月賞とダービーは1.2着の入れ替え。みなさんが何度か取り上げた、ジェニュインとタヤスツヨシと同じパターンですね」
みんながうんうんと頷いた。
皐月賞
1着 1−1 ソールオリエンス 横山武
2着 7−14 タスティエーラ 松山
日本ダービー
1着 6−12 タスティエーラ D.レーン
2着 3−5 ソールオリエンス 横山武
「さらにダービーは、一週前のオークスも使い、出目の1.2着入れ替えをやっています」
オークス
1着 3−5 リバティアイランド 川田 二冠達成
2着 6−12 ハーバー C.ルメール
日本ダービー
1着 6−12 タスティエーラ D.レーン
2着 3−5 ソールオリエンス 横山武
みんながおおという声を挙げた。
なるほど、1着タスティエーラ、2着ソールオリエンスは、皐月賞の競走馬1.2着入れ替えであり、オークスの出目1.2着もそっくり入れ替えて使用した特殊決着構造だ。
「さて、これを踏まえたうえで今年の桜花賞とオークスを見てみましょう」
桜花賞
1着 6−12 ステレンボッシュ J.モレイラ
2着 5−9 アスコリピチェーノ 北村宏
3着 6−11 ライトバック 坂井
オークス
アスコリピチェーノ不出走
1着 (6−12) チェルヴィニア C.ルメール
2着 4−7 (ステレンボッシュ) 戸崎
3着 7−14 (ライトバック 坂井)
「アスコリピチェーノがNHKマイルカップに回ったために、昨年の皐月とダービーのようには綺麗にいきません。ですが、桜花賞馬ステレンボッシュが2着に・・・ここに着目すると、皐月賞馬ソールオリエンスがダービーで2着した2023牡馬二冠と同じ」
みんながなるほどと頷いた。
「さあ、皐月賞を見てみます」
皐月賞
1着 7−13 ジャスティンミラノ 戸崎
2着 6−12 コスモキュランダ J.モレイラ
3着 4−8 ジャンタルマンタル 横山武
くろたんはそこで間をあけ、アルコールで喉を潤した。
「昨年を反転させた決着・・・つまり、牡馬でやったことを牝馬で、牝馬でやったことを牡馬でやると仮定すると答えはひとつ。牡馬版のリバティアイランド誕生、つまりはジャスティンミラノの二冠濃厚となります」
みんながおおという声を挙げた。
2023 桜→樫
桜花賞馬の連勝(二冠達成)
2023 皐→ダ
1.2着馬の入れ替え
2024 桜→樫
1着馬が2着へ
2023 皐→ダ
皐月賞馬の連勝(二冠達成)
↓ ↓ ↓
2023牡馬 → 2024牝馬
2023牝馬 → 2024牡馬
■ シンエンペラー
「さて、ダービーはお祭りです。たまには3連まで1点で指名してみましょう」
くろたんが再び口を開いた。シナリオには続きがあったのだ。
「やはりポイントはオークスでしょう」
オークス
1着 C.ルメール
2着 戸崎
3着 坂井
日本ダービー
シンエンペラー 坂井・矢作・藤田晋
「3着馬ライトバックの坂井瑠星、矢作芳人は東京出身です。さらに、馬主の藤田晋には、ダービー当日に映画『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』の公開という後押しがあります」
東京競馬場にゴジラ襲来
坂井・矢作 東京出身
5/24 映画(ダービー当日)
『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』・藤田晋
「ここで昨年のダービーを振り返ってみます」
2023 日本ダービー
17着 1−2 スキルヴィング (C.ルメール)
レース後に急死
競走中止 8−17 ドゥラエレーデ (坂井)
2023 最後のG1 ホープフルS
1着 レガレイラ (C.ルメール)
2着 シンエンペラー (坂井)
「ダービーで悲運に見舞われた『正逆2番』・・・昨年最後のGⅠホープフルステークスは、騎乗した騎手のワンツーというものでした」
みんながうんうんと頷いた。
「ホープフルステークスで終わりではなく、ダービーでも両騎手が3着内というシナリオがありそうです。なぜなら、今年はパリオリンピックがあるからです」
2024 日本ダービー
シンエンペラー 坂井・矢作・藤田晋
レガレイラ C.ルメール
2024 パリオリンピック
シンエンペラー(フランス馬)
レガレイラ C.ルメール(フランス人)
2024 日本ダービー
くろたん 注目馬
◎ジャスティンミラノ
〇シンエンペラー
〇レガレイラ
「牡馬版リバティアイランドであるジャスティンミラノが2.3着に従えるのは、パリオリンピックにふさわしいフランス関連馬、シンエンペラーとレガレイラ。これが現時点の3連1点予想になります」
みんなは深く頷いた。そして焦りを覚えた。月曜日の時点でここまで深く読んでいたのか。
「まあ、まだ月曜日ですからね。一週間楽しみましょう!」
くろたんは口元に微笑みをたたえながらそう言うと、軽く手を挙げて店を出て行った。
■ セールスレディー
2024年5月21日(火)午後12時45分
-東京都某区 真一郎が勤務する病院・休憩室-
真一郎は少し遅れて昼食休憩に入ると、休憩室の一角に目を奪われた。今年入職した若い理学療法士が、生命保険のセールスレディーから熱心に保険の説明を聞いているのだった。飲み物を用意しながら真一郎は、隣にいた中堅の作業療法士に彼は捕まっちゃったのかいと小声で尋ねた。
すると作業療法士はかぶりを振り、新入職員のほうから声を掛けたのだという。へえと真一郎は思った。セールスイコール強引な勧誘という先入観があったから、職員のほうから声を掛けるとはどういうことなのだろうか。
作業療法士によると、このセールスレディーは知る人ぞ知る有名なトップセールスマンであり、売らない営業が持ち味だという。いつもニコニコと飴玉やチョコレートを配り、ご飯はちゃんと食べているか、実家のご両親は元気にしているかなどと身の回りのことを尋ねてくる。保険の話は自分からはせず、みんなと世間話をして帰っていくという。
そのうち、保険に興味を持った職員のほうから、話を聞くならあの人だと指名がかかるという仕組みだ。
「北風と太陽ってあるだろ?まさに太陽の営業ってわけさ」
作業療法士はそう言うと、ちょっと書き物があるのでと休憩室を出て行った。なるほど北風と太陽か。力づくでコートを脱がせようと思っても、寒さを感じる旅人はますますコートを脱がなくなる。太陽のようにポカポカと暖かい日差しを浴びせ続けていれば、人は自然とコートを脱いでくれるものだ。
真一郎は、新人理学療法士との話が終わり、帰り支度をしていたセールスレディーに声を掛けた。パンフレットのようなものがあれば一部もらいたいと。
40代なかばと思しきセールスレディーは、物腰柔らかにパンフレットと名刺を真一郎に渡した。さらに、バッグから栄養ドリンクを一本取り出し、ここぞというときにどうぞとくれた。恐縮する真一郎に、何かわからないことがあったらいつでも尋ねてくださいねと笑顔で言い、休憩室を出て行った。
ギョニ子との同棲も順調にいっている。まだまだ若いからと生命保険はあるとき全部
解約してしまったが、ひとつぐらい加入を検討してもいいかもしれない。
■ 臨時休業
2024年5月21日(火)午後6時半
-東京都某区 スナック忘れな草-
真一郎がスナック忘れな草に着くと、店のドアには「準備中」の札がかかっていた。ギョニ子がLINEで教えてくれた通りだ。コンコンと二度ノックをする。中からギョニ子の声がした。
「イクイ?」
「ノックス」
ガチャリと錠が外される音がし、ドアが外側に開いた。途端にモワっとしたなんともいえない熱気が襲ってきた。スナック忘れな草は今日、クーラーが突然故障したため臨時休業となり、タコ社長、ギョニ子、真一郎の常連メンバーだけの貸し切り営業となっていたのだ。
「ごめんなさいね、しんちゃん」
頭にタオルを巻いたマスターが、生ビールを準備しながら言った。ギョニ子はすでに三杯目の生ビールに突入していた。カウンターの左端では、よほど暑いからだろう、いつもの眞露ではなく生ビールをやっていたタコ社長は、まるでゆでだこのような赤い顔だ。
「心頭を滅却すれば火もまた涼し・・・ありゃ嘘だな」
タコ社長はそう言って笑った。
麗子ママの姿が見えないので尋ねると、家にうちわを取りに行っているとギョニ子が教えてくれた。
「生ビールが進むと思えばいいスパイスですが、こりゃあさすがに暑いですね」
真一郎はそう言って、リュックからあるものを取り出した。麗子ママが来るまで、うちわの代わりにしようという算段だ。
「ああああ、しんちゃん涼しいわー!ありがとー!」
自分にではなく、ギョニ子のほうをあおいであげると、彼女は上着の首のあたりをパタパタとさせながら涼風を楽しんだ。
「おや?しんちゃん生命保険にでも入るのかい?」
カウンターの端から、タコ社長が目ざとく声を掛けてきた。真一郎がうちわ代わりに使っているのは、今日もらった明治安田生命のパンフレットだったのだ。
「生命保険に入った途端、ギョニ子の手料理が増えたら注意しなよ。何が入ってるかわからねえ」
「ちょっとー!!あたしはそんなことしないわよ!!」
ギョニ子がふくれっ面でタコ社長を非難した。
「やるとなったら出刃包丁でズブリよ!」
そう言ってギョニ子は真一郎に流し目を送った。
「だから間違っても浮気なんかしないでね?」
「ひいいい!!」
真一郎がおおげさにお腹を押さえて顔を歪めたので、みんながどっと笑った。
■ ひまわり
麗子ママが紙袋いっぱいに、家にあったうちわを入れて帰ってきた。急いできたために汗をかいたのだろう。首にタオルを巻いている。
いかにも夏っぽいデザインのうちわがたくさん入っている袋から、各自が好きなうちわを取り出し自分をあおぎ始めた。汗がすうっと引いていくようだ。クーラーが効いた店内もいいが、うちわで涼をとりながらの一杯も悪くない。
マスターがみんなの選んだうちわを一通り見てから愉快そうに言った。うちわの選択にもそれなりに個性が出るものだという。タコ社長はかき氷の図柄、真一郎は東北出身らしく青森ねぶた祭。ギョニ子が選んだのは、ひまわりの写真が使われた鮮やかな黄色いうちわだった。
「今日子ちゃんにはひまわりがぴったりね!」
麗子ママが言った。太陽に向かってすくすくと伸びるさまが、明るいギョニ子にはお似合いだという。
「ひまわりか・・」
マスターが急に真顔になって言った。視線を移した先には、さっきまで真一郎がうちわ代わりに使っていた、明治安田生命のパンプレットがある。みんながマスターに注目した。何かを掴んだ表情だ。
■ 安田火災海上
「・・・いや、うーん・・・・考えすぎかも・・」
珍しくマスターが発言を躊躇した。タコ社長がせっつく。
「なんだい、らしくねえなあ! 話すのはタダだぜ、マスター!」
マスターはそれで決心がついたのか、大きく頷いてから話し始めた。
「『ゴジラvsやす子』のコンテンツがありますよね?」
みんながうんうんと頷いた。
「ヴィクトリアマイルで、やす子の誕生日9月2日がまず使われました。そしてゴジラの誕生日・・・というかゴジラの日のほうが正しいでしょうか。70年前、映画公開日の1954年11月3日とされています」
みんながうんうんと頷き先を促す。
「昨年のNHKマイルカップ、11番3番という決着で話題にしたように、11月3日は文化の日でもあり、明治天皇の誕生日でもあります。つまり、ゴジラ起用は『明治』示唆というわけです」
みんながなるほどと頷いた。
「そして、YouTubeにアップされているふたりのダービージョッキーの動画。中野栄治と安田隆行。単純に今年の3月5日に引退した調教師のコンビだと思っていたのですが、JRAの狙いは安田隆行氏かもしれません。つまり『安田』です」
みんながますます興味を示した。タコ社長が我慢できないという感じで口を挟む。
「ゴジラの明治と安田隆行。それで明治安田生命というわけだな?」
マスターが頷く。
「そうなんです・・・そして躊躇したのはここなのですが、明治安田生命からの強引な妄想・・・同じ安田を含む保険会社に安田火災海上がありますよね? 現在は確か損保ジャパン日本興亜という名称だと思いましたが・・」
なかなか先が見えない話ぶりだが、みんなは辛抱強く続きを待った。マスターは素早くパソコンを操作する。
「やっぱりそうですね。安田火災海上や日産火災海上保険などが合併してできた損害保険会社。現在は損保ジャパン日本興亜。企業名に日本ダービーの日本が入っています」
みんながうんうんと頷いた。
「長くなりましたが、私が今日子ちゃんのひまわりのうちわに反応したのは、安田火災海上が昔、ゴッホのひまわりを落札しているからです!」
![](https://assets.st-note.com/img/1716409696226-VpAZ38PVnC.png)
ほうという小さい声をタコ社長が発した。シナリオがすべてわかったというよりは、それがどうしたという反応だ。マスターが小さく頷いて続ける。
「昨日おとといと取り上げたシックスペンス。サマセット・モームの小説に、『月と六ペンス』というものがあります。馬名意味は『旧イギリス硬貨の名。幸運をもたらすお守り』・・・ですが本当は、『月と六ペンス』を言いたいのではないでしょうか。なぜなら・・」
マスターはそこでぐるりとみんなを見渡した。
「小説『月と六ペンス』は、画家のゴーギャンがモデルとされています・・・・・ゴーギャンには、ひまわりを描いたゴッホと共同生活をしていた時期があるのです!」
今度こそみんながおおという声を挙げた。
明治を示唆するゴジラの起用。安田隆行元調教師の登場。これらを合体させることで間接的に示唆される安田火災海上。同社はかつて、ゴッホのひまわりを高額で落札している。
そして、ゴッホからゴーギャンへとたどり着けることができたなら、馬名意味が「隠れゴーギャン」であるシックスペンスが浮上してくるというからくりだ。
■ 真一郎の決意
10分ほど休憩を取ったあと、さすがに今日は暑いので続きは明日にしようという流れになった。エアコン修理業者は、明日の午後早くにはやってくるという。
すると突然、真一郎がマスターにカクテル「ドクター関西人」をふたつ注文した。栄養ドリンク凄十をピーチネクターで割ったものだ。
しんちゃん、あたし今女の子の日だよと、勘違いしたギョニ子が真一郎の耳元でささやいた。真一郎は言った。
「いや、そうじゃないよ。帰ったら延長戦だ!ダービーの検討会のね」
■ 栄養ドリンク
家につくと真一郎とギョニ子は、順番にシャワーを浴びた。先にギョニ子がシャワー浴びているあいだ、真一郎は腕を組んで目を閉じていた。明治安田生命から、ゴジラの誕生日にも安田隆行元調教師にも考えが至らなかった自分が悔しかった。
確かに今は、実習生の指導をしているという忙しさはある。だがそれを抜きにしても、安田火災海上がゴッホのひまわりを落札したことや、小説『月と六ペンス』がゴーギャンをモデルにしていること、彼がゴッホと共同生活をしている事実を知らなかったのだ。
なんとか挽回してみんなの力にならないと。ギョニ子のあとに5分ほどの熱いシャワーを浴びると、真一郎は昼間セールスレディーからもらった栄養ドリンクをぐびりと飲んだ。ここぞというときにどうぞ。それは今だ。
■ ゴッホ
真一郎がゴッホやゴーギャンについて調べている間、ギョニ子はJRAが発信している各コンテンツや、今年のGⅠの流れを確認することにした。
最初に声を発したのはギョニ子だった。
「しんちゃん、やっぱりゴッホやゴーギャンがキーワードという考え、あっているのかも!」
ギョニ子が見つけたのは、あるコンテンツの中のキーワードだった。確かに興味深いものだった。いいぞその調子と彼女を励まし、真一郎は調べものに戻った。
ヴィンセント・ファン・ゴッホ。ゴッホの本名だ・・・
突然、頭の隅のほうで引っ掛かるものを感じた。昨年、いやおととしだろうか。気になって調べたあるものが、記憶の断片として残っていて、真一郎に呼び掛けている。なんだっただろうか。
真一郎は、さまざまな複合キーワードでググってみた。やがて、引っ掛かりの答えが分かった。
「これだ!」
真一郎の発した大きな声に、ギョニ子がビクンと体を震わせた。真一郎の操作するパソコンに目をやったギョニ子も、思わずあっと声を漏らした。
「すごいわ、しんちゃん!つながったじゃない!」
■ 平安ステークス
2024年5月22日(水)午後6時45分
-東京都某区 スナック忘れな草-
エアコンがしっかりと効いた涼しい店内なのに、タコ社長はうちわで自分をあおいでいた。貧乏ゆすりならぬ貧乏うちわだ。
午後5時半過ぎにスナック忘れな草に入るなり、マスターが笑顔でこう言った。しんちゃんと今日子ちゃんが、ゴッホとゴーギャンにつながるネタを見つけたらしいですよと。
彼らが到着するのを今か今かと待っているタコ社長は、手持無沙汰でうちわをせわしなく使っていたのだ。
ほどなくして真一郎とギョニ子がやってきて、おしぼりやら生ビールやらが配られ、彼らが落ち着くのを待った。
「ああ最高! やっぱりクーラーが効いていたほうがいいわ!」
喉を鳴らして生ビールを半分飲んだあと、ギョニ子がそう言った。真一郎がギョニ子を見て頷く。
「さあさあ、しんちゃんにギョニ子! 見つけたネタとやらをはやく披露してくれよ!」
待ちきれずにタコ社長が催促した。真一郎が大きく頷き、みんなに言った。
「先週、オークスの前日に平安ステークスがありましたね?その結果をみてください」
みんなはスマホやパソコンを操作した。
「4着のカフジオクタゴン。この4着という数字にも意味があると思っていますが、それはあとで説明します・・・カフジオクタゴンの唯一の重賞勝利、騎手は誰でしたでしょうか?」
「ええと、あいつだよあいつ。Cホー。Cはなんだったっけな? チャウシェスクか?」
タコ社長が真顔で言った。ボケているつもりはないらしい。麗子ママが笑いながら突っ込む。
「社長さん、Cホーはチャクイウ・ホーよ。香港の名ジョッキー」
「ありがとう、ママさん」
真一郎が笑顔で言った。
「チャクイウ・ホー・・・またの名をヴィンセント・ホー」
その瞬間、マスターはパンと強く手を叩き、両手で頭を抱える仕草をしてみせた。なぜ気がつかなかったのだという表情だ。
「そうなんです。ヴィンセント・ファン・ゴッホ。これがゴッホの本名です。一昨年、短期免許で初来日したホー騎手は、それまでニュースなどで使用されていたヴィンセント・ホーから、Cホー・・・チャクイウ・ホーという登録名になぜか変更されました。ヴィンセントとチャクイウ。どちらが発音しやすいかは明らかですね?」
ギョニ子が続く。
「VAN ホーでググってみて。VANはヴィー、エー、エヌのアルファベット3文字よ」
![](https://assets.st-note.com/img/1716409524375-CeAVAkbDug.png?width=800)
みんながおおという声を挙げた。
「JRAの関連企業のひとつであるJRA-VAN。海外競馬を紹介するサイトに、『世界の騎手紹介』というコンテンツがあり、そこでも彼はヴィンセント・ホーとして登場するの。広く知られていたヴィンセント・ホーではなく、なぜか耳なじみのないチャクイウ・ホーとして来日した」
真一郎が続く。
「これはあくまで推測ですが、2022年の時点で、JRAは今年2024のダービーで、シックスペンスが有力候補であることをつかんでいた。シックスペンスからゴーギャン、そしてゴッホという推測は昨日挙がった通りです」
みんながなるほどと頷いた。
「シックスペンスを示唆するサインアイテムとして、JRAは香港の騎手、ヴィンセント・ホーに狙いをつけた。ただし、すぐにはそうと知られないように、登録名をチャクイウ・ホーと変更させた」
「うーん・・」
タコ社長が低いうなり声を挙げた。
「おもしれえ。たしかにおもしれえが・・」
「ちょっと強引ですよね?」
かぶせるように真一郎が言った。タコ社長が顎を引く。
「ですが、さっき見てもらったサイト名をもう一度見てください。JRA-VANのVANは日本ではヴァンと読むのでしょうが、ヴィンセント・ファン・ゴッホのファンも表記はVANなのです。JRA-VANに登場するヴィンセント・ホー。つまりはヴィンセントVANホーというわけです」
ヴィンセント VAN ホー
ヴィンセント・ファン・ゴッホ
![](https://assets.st-note.com/img/1716409596848-oyNVhcigKY.png?width=800)
「それにね」
ギョニ子が続ける。
「ホー騎手は2022年と2023年。二度短期免許で来日しているのだけれど、身元引受人はいずれも安田隆行調教師だったの」
![](https://assets.st-note.com/img/1716409742090-kDoxuf1Fwz.png?width=800)
みんながなるほどと頷いた。
ダービー動画の安田隆行元調教師。明治安田生命から安田火災海上を示唆していただけでなく、ヴィンセント・ホー、つまりはヴィンセント・ファン・ゴッホを介し、シックスペンスへのつながりも示唆していたのだ。
これにはさすがにタコ社長も納得したようだ。ポンと手を叩いて言った。
「やるじゃねえか、しんちゃん、ギョニ子! それからどうなるんでい!」
■ 謎解き競馬
真一郎が言った。
「これらの推測を裏付けるものに、梶裕貴と上坂すみれの『謎解き競馬』があります。今日子ちゃん」
真一郎から振られたギョニ子が続ける。
「謎解きコンテンツがひとつだけ解放されているのだけれど、最初の問題の答えが『フウケイガ(風景画)』なのよ!」
みんながおおという声を挙げた。
「隠れキーワードはゴッホとゴーギャン。間違いないわ!」
■ 4番アグネスフライト
「さて、ゴッホと言えばマツリダゴッホですが、先週のオークスに、疑似マツリダゴッホがいました。2枠3番です」
オークス
2-03 エセルフリーダ(高橋文男)
「マツリダゴッホの高橋文枝。血縁関係などはありませんが、エセルフリーダのオーナーは一文字違いの高橋文男。これがダービーの予告だと思っています。マツリダゴッホの有馬記念は2枠3番でした!」
2007 第52回 有馬記念
(2-03)マツリダゴッホ(国枝栄)
ダービー
シックスペンス(国枝栄)
「過去のダービー。マツリダゴッホ産駒は2頭出走。いずれも2016年でした」
2016 第83回 ダービー
1-01 ディーマジェスティ 3着
1-02 マイネルハニー ★
2-03 マカヒキ(川田将雅)1着
マカヒキ=ハワイの収穫【祭】
4-07 ロードクエスト ★
4-08 サトノダイヤモンド 2着
★=父マツリダゴッホ
~~~
2007 第52回 有馬記念
(2-03)マツリダゴッホ(国枝栄)
2016 第83回 ダービー
(2-03)マカヒキ(川田将雅)
※マツリダゴッホ産駒出走の唯一のダービー
ダービー
シックスペンス(川田将雅・国枝栄)
みんながおおという声を挙げた。真一郎が続ける。
「『謎解き競馬』の梶裕貴。昨年、『朗読有馬記念』でナリタブライアンを紹介しています。キーワード『朗読』・・・マツリダゴッホ産駒の一頭が、『ロードク(朗読)エスト』というのもいいでしょうね・・・さらにです。先週、マツリダゴッホ産駒は3頭出走していましたが、そのうちの2頭。土曜出走馬はいずれも2枠4番でした」
5/18(土)
東京7R
2-04(父マツリダゴッホ)
東京10R メイS
2-04(父マツリダゴッホ)
5/16(日)
京都11R 高瀬川S
1-02(父マツリダゴッホ)
マスターが言った。
「有馬記念の2枠3番マツリダゴッホ。先週のマツリダゴッホ産駒の2枠4番・・・しんちゃん、シックスペンスが入るのは、そのどちらかというわけですね?」
真一郎とギョニ子が大きく頷いた。真一郎が言った。
「願わくば4番のほうと思っています。アグネスフライトの4番だからです」
![](https://assets.st-note.com/img/1716410104274-oAm724npnr.png?width=800)
みんながなるほどと同意した。マスターが言った。
「上坂すみれはアグネスタキオン。母アグネスフローラ。アグネスフライトも母アグネスフローラ。そしてダービーのCMの異端児・・・つながりますね」
■ オペックホース
「おいおい、アグネスフライトの前に4番でダービーを勝ったオペックホース。最近どっかで出てこなかったかい?」
![](https://assets.st-note.com/img/1716410149881-T76X969tv3.png?width=800)
タコ社長の疑問には、麗子ママが即答した。
「あれよあれ。『ゴジラvsやす子』からのゴジラ松井背番号『55』!やす子は9月2日生まれで宝くじだから、昭和55年のドリームジャンボに注目したじゃない!」
『ゴジラvsやす子』
ゴジラ→ゴジラ松井→背番号「55」
やす子→9月2日生まれ→宝くじ(くじの日)
昭和55年
ドリームジャンボ発売開始
同年ダービー
2-04 オペックホース(郷原洋行)
みんながうんうんと大きく頷いた。ダービー馬は「2枠4番」に入るのだろうか。
■ カフジオクタゴン
5分の休憩後、真一郎が2枠4番説をさらに強調した。
「平安ステークスのカフジオクタゴン。『4着』という着順。そして、唯一の重賞勝利8枠15番。フルゲートなら正逆4番で一致します」
平安S
5-09 カフジオクタゴン(4着)
唯一の重賞勝利 2022 レパードS
2022 レパードS 15頭
8-15 カフジオクタゴン
(Cホー=ゴッホ=ゴーギャン=シックスペンス)
ダービー 18頭立て
2-04 (正4・逆15)
■ 時がふたたび動く
ギョニ子が言った。
「十二時辰(じゅうにじしん)サインを覚えているかしら?」
みんながうんうんと頷いた。
大阪杯の11番から、12番、13番、14番と続いた1着馬ゲートのカウントアップだ。NHKマイルカップでは、逆3番で午後3時、すなわち15時という変化球だった。
「ところがヴィクトリアマイル9番、オークス12番という結果で、完全に時計が止まったように見えたわよね?」
みんなが同意した。
「でも、ヴィクトリアマイルは9番2番で92、ヴィクトリアマイルとオークスの1着ゲートでも、9番と12番で92・・・『宝くじ』というワンクッションを置いたのよ!」
真一郎が続ける。
「終わったと見せかけて、ダービーで再度時計が動き出す。NHKマイルカップのジャンタルマンタルは逆3番、つまり午後3時。2枠4番ゲートなら、次の午後4時というわけです」
みんながおおという声を挙げた。マスターが補足する。
「ジャンタルマンタルは川田将雅。そして、シックスペンスも川田将雅。彼が止まっていた時計を動かすと?」
真一郎が大きく頷いて言った。
「相手はくろたんさんも推奨するジャスティンミラノ。川田将雅と戸崎圭太なら、『ウガ』と『ケイ』・・・『謎解き競馬』の第1問の答え『フウケイガ』。これからの1点サインがあると思っています」
謎解き競馬
第1問答え:フウケイガ(風景画)
川田将雅(ウガ)→シックスペンス
戸崎圭太(ケイ)→ジャスティンミラノ
フウケイガ → フ・(ウガ)・(ケイ)
みんなが起立して真一郎とギョニ子に拍手を送り、スナック忘れな草の本命馬と注目ゲートが満場一致で決まった。
スナック忘れな草
本命馬 シックスペンス
注目ゲート 2枠4番
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