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スナック忘れな草~2023NHKマイルC・アーモンドアイの同窓会~

■ 真一郎のたくらみ

2023年5月2日(火)午後1時
-岩手県某市 真一郎のアパート-

一昨日の長距離運転がさすがにこたえていた真一郎は、昨日は一日中部屋でゴロゴロしていた。今日も目が覚めるまでとことん寝たので、起きると午後になっていた。熱いシャワーで目を覚まし、ブラックコーヒーを飲んでから家庭裁判所に向かった。離婚後も名乗っていた婚姻氏である曽根崎を、旧姓の大泉に戻す申し立てをするためだ。

女性男性に関わらず、離婚後も婚姻氏(結婚相手の姓)を名乗っていたものが、なんらかの理由のため旧姓に戻す場合、家庭裁判所への申し立てが必要になる。姓は社会生活を送る上で個人を特定する重要なものであるため、役所での手続きのみで変更することはできないのだ。

確定証明書の交付までには1~2週間を要するとの説明を女性職員から受けて、真一郎は書類を郵送ではなく家裁での受け取りにすることを伝えた。数日後にはアパートを引き払う予定だったからだ。

家裁からアパートに戻ると、部屋の片づけを始めた。一般ごみとして捨てる物。ごみ処理場に粗大ごみとして持ち込む物。リサイクルショップに売る物。とりあえずの生活必需品として車に積み込む物。妻の実家を出て別居生活を始めるときに、最低限の生活用品で暮らし始めたため、2時間もすると部屋はすっかり片付いた。

広くなった部屋をみて、この部屋に住み始めたころのブルーな気持ちが一瞬よみがえってきたが、今から住み始めるのではなく、部屋を出ていくのだと思うと、気持ちが落ち着いてきた。

さあ次は今のアパートを解約する手続きと、新しいアパート探し、それに職場探しだ。真一郎は、東京に戻り新しい生活をスタートさせることを決めていた。ギョニ子たちのはからいで、春天1点予想という生活に没頭できた数日間は、真一郎を自殺寸前のうつ状態から引っ張り出してくれていた。

職場にばれるのが面倒だという理由で妻の姓を名乗り続けていたのも、今思えば離婚したという現実から逃げていたのだろう。人生からは逃げちゃダメだよ。ギョニ子のことばにも救われた。

東京での生活の準備と、NHKマイルCの予想とを同時進行させ、週末には東京に行こうと考えていた。

家裁に確定証明書を取りに行ったり、役所でのもろもろの手続きをしたりするために、また岩手に戻ってこなくてはならないが、そのついでに久しく会っていない、青森にいる母や弟にも会う予定でいた。

今週末東京へ行くのは、みんなからもらった餞別馬券の払い戻しと、みんなへのお礼、それに加えて、この前まんまと騙された仕返しをしてやろうという、真一郎のいたずら心もあった。

■ ドルチェモアが浮上

2023年5月6日(土)午後6時
-東京都某区 スナック忘れな草-

スナック忘れな草には、いつものメンバーが集まっていた。タコ社長は指定席である左角の席で、麗子ママ特製のポテトサラダをつまんでいた。じゃがいもの柔らかい食感と、カリカリに焼いたベーコンのコントラストがいい。

「ママ、これおいしい!ベーコンがいいアクセントになってるじゃないの」

タコ社長は口の中の油を眞露の水割りで流し、うまいうまいと連発している。

「ほんとにおいしい!ママ、あとでレシピ教えてね」

やはりいつもの指定席で飲んでいたギョニ子も、ポテサラ、生ビール、ポテサラ、生ビールの無限ループが止まらないようだ。幼いころに母を亡くしたギョニ子にとって、麗子ママはお母さんのような存在だった。

「ありがとう社長さん、今日子ちゃん。お好みでブラックペッパーをかけてもおいしいわよ」

麗子ママからブラックペッパーを受け取ったタコ社長は、WBC日本代表として活躍した、ヌートバー選手のペッパーミルパフォーマンスを披露した。WBCでの活躍効果だろう、MLBのレギュラーシーズンが始まったあとも、ヌートバー選手の活躍はニュースで報じられていたのだ。

「ああ!!」

タコ社長が大声を出したので、ギョニ子が何事かとタコ社長のほうをみた。どうやら、ペッパーミルパフォーマンスをやりすぎて、ブラックペッパーの瓶のほうについている蓋が取れ、ポテトサラダがブラックペッパーまみれになってしまったらしい。

「ちょっともーー!なにやってんのよ、タコ社長!」

そう叫ぶギョニ子を無視して、なんとかブラックペッパーを箸で灰皿に移そうと悪戦苦闘していたタコ社長だったが、麗子ママがすぐに新しいポテトサラダに取り換えてくれたあとは、しばらくおとなしく飲んでいた。

ギョニ子もタコ社長もいい感じにできあがった頃合いをみて、マスターがNHKマイルC予想の口火を切った。

「さあ社長さん、今日子ちゃん、明日はNHKマイルCですね。なにから考察していきましょうか」

「春天の雪辱を晴らさないとなあ。しかし毎年難解なNHKマイルだけど、今年のメンバーも多士済々、軸馬候補が五指に余るねえ」

タコ社長がうなるように言うと、ギョニ子も同意した。

「そうそう難しいわ。乗り替わりも多いしね」

今年のNHKマイルCは、クルゼイロドスルが取消となり17頭立て。そのうち8頭の騎手が前走から乗り替わりとなっている。8頭には、人気馬のエエヤン、ドルチェモア、カルロベローチェも含まれていた。

「今日の京都10Rに組まれていた平城京ステークスですが、昨年までの13回はすべて10月の施行。5月に施行されるのは今年が初めてです」

「それは怪しいわね。なにがあるかしら?」

ギョニ子の問いかけに、マスターが仮説を披露した。

「平城京といえば、昔都があった場所です。都の移動、すなわち遷都という解釈が成り立ちます」

「なるほど遷都か!セントといやあアメリカの通貨。アメリカの通貨つながりで“ドル”チェモアってわけかい?」

タコ社長のとんちにマスターがうなずいた。

「その通りです、社長さん。とっかかりはドルチェモアで行こうと思っていました」

「マスターのことだから、ドルチェモアにつながるネタ、まだ隠してそうね」

ギョニ子の鋭い指摘に、マスターは頭をかきながらパソコンの準備を始めた。

「かしわ記念の予想で見てもらった、『競馬法100周年記念オリジナル フレーム切手』です。フレームといえば、宝塚記念を勝ったダンツフレームがいますね」

「かーー!懐かしいねえ。2着ツルマルボーイとの1点勝負。袴田大作の名勝負で5本の指に入るレースだよ!ま、なぜツルマルボーイを相手にしたかは内緒だけどな」

タコ社長の珍しい自虐ネタに店内が湧いた。麗子ママがカウンター越しにジェスチャーで、新しいボトルを入れましょうかと尋ねると、タコ社長はうなずいた。

マスターがダンツフレームの説明を続けた。

「ダンツフレームは宝塚記念のほかに、重賞を2勝しています。第10回アーリントンカップと、第25回新潟大賞典です」

「ええ!今週にぴったりの馬じゃない?新潟大賞典は明日行われるし、アーリントンカップもNHKマイルのトライアルよ!」

ギョニ子が目を丸くして言うと、マスターはうなずいた。

「そうなんです。開催回数の『10』と『25』。10セントと25セント。どちらもアメリカの硬貨にあります。そして、フレーム切手についてもうひとつ言うと、3つ目のシートの一番最後、つまり大トリに当たる位置にいるのが、“セント”ライトなんです」

「ピリリとパンチが利いてるじゃねえか」

タコ社長のことばにギョニ子がかぶせるように言った。

「ああ!しかもセントライトといえば、セントライト記念って朝日杯の冠がついてなかったっけ?」

「その通りです、今日子ちゃん。ドルチェモアが勝ったのも、同じ朝日杯であるフューチュリティステークスですね」

マスターがそうしめたところで、ドルチェモアがとりあえずの本命候補となった。

■ 戴冠式

15分ほど雑談が続いたあと、話題は日本時間の今日午後7時から行われる、英国王チャールズの戴冠式のことになった。

「戴冠式からサインなんか出るのかしら?」

ギョニ子の素朴な質問に、マスターが自論を展開した。

「エリザベス女王が逝去されたのは昨年ですが、かなりのご高齢ではありました。いずれ戴冠式が行われることを踏まえて、JRAがネタを仕込んでいた可能性は否定できません」

「ネタを仕込むたってよう、どういう方法があるかね?」

タコ社長の質問に、パソコンを操作しながらマスターが答えた。

「私も今初めて調べるのですが、例えばエリザベス女王杯のヘッドラインに、『戴冠式』があるかもしれません。

JRAのサイトには、過去5年分のヘッドラインが格納されている。マスターは今年のヘッドラインから始め、2022年、2021年、2020年とさかのぼって調べていった。

「ありましたね。直近の『戴冠式』使用ヘッドラインは2020年。やはりエリザベス女王杯でした」

2020 エリザベス女王杯 阪神代替
ラッキーライラック
(ルメール・松永幹夫・サンデー)
「華麗なる戴冠式、高貴なる女王史。」

このエリザベス女王杯の結果を自分のスマホでも見ていたギョニ子が、大きな声を出した。

「あれ?このエリザベス女王杯って阪神開催になってるけど、前の京都競馬場が改修工事に入ったあとの、最初のGⅠじゃなかったっけ?」

「その通りです、今日子ちゃん。ラッキーライラックは前年の京都とあわせ、異なる競馬場でエリザベス女王杯を連覇したのです」

異なる競馬場での連覇でギョニ子は思い出した。春天でタイトルホルダーの連覇を予想した際に、異なる競馬場で同一GⅠ連覇の過去3例はいずれも騎手が異なっており、前年同様横山和生騎手が乗るタイトルホルダーを、真一郎が疑問視したのだった。

「こうやってみるとさあ、改修工事後の一発目のGⅠと、新装京都競馬場の一発目のGⅠが、同じルメちゃんだったってわけかい」

タコ社長は腕を組んで天井をみつめ、悔しそうな顔をした。

「そうなんです。傷に塩を塗るようですが、ラッキーライラックは大外18番、ジャスティンパレスは最内1番という仕掛けもありました」

マスターも珍しく悔しそうな顔をした。

みんなの話を聞きながら、スマホをさわっていた麗子ママが言った。

「ラッキーライラックだけど、三浦皇成騎手を介するかたちで、ドルチェモアにつながるかもしれないわ」

「ママ、なんか見つけたのね。楽しみだわ」

ギョニ子が身を乗り出して麗子ママの手元を見つめた。麗子ママが言った。

「なんとなく気になって、ドルチェモアに乗る三浦皇成騎手の重賞初勝利を調べてみたの。2008年の函館2歳ステークス、フィフスペトル。馬名の意味は『5枚目の花びら』よ」

タコ社長はきょとんとしていたが、ギョニ子はすぐに声をあげた。

「それってラッキーライラックと同じじゃん。ラッキーライラックは5弁のライラックのことじゃなかったっけ?」

すぐに言わんとすることを理解してもらい、麗子ママはにっこりとほほ笑んだ。

「だけどよう、ヘヘススペペトルゥだっけ?三浦皇成のほうはライラックの花とは限らないだろう?」

タコ社長が噛みついた。フィフスペトルをヘヘススペペトルゥと呼び間違えたことには触れずに、麗子ママが優しく答えた。

「それがね、社長さん。フィフスペトルの母はライラックレーン。『5枚目の花びら』がライラックのことを指してるのは間違いないと思うわよ」

「なるへそなるへそ。戴冠式のエリザベス女王杯を勝ったラッキーライラックとヘヘススペペトルゥが同じだから、戴冠式のある週のNHKマイルで、ヘヘスペペトルゥの三浦皇成ってわけかい?」

呼び間違えたヘヘススペペトルゥを連呼したタコ社長の発言を受けて、マスターが言った。

「うまくつながるとそういうことになりますね」

スナック忘れな草の店内は、ドルチェモア本命の色合いが濃くなっていた。

■ 100と111

2023年5月5日(金)午後8時
-岩手県某市 真一郎のアパート-

昨日と一昨日は、引っ越しの準備に追われていた真一郎は、久しぶりに競馬の予想に没頭していた。岩手を離れることになるので、あらためて前の職場に行き、お世話になったお礼をしてきた。

元妻の実家にも足を運び、義母に岩手を離れることを伝えた。元妻はまだ精神面が不安定だとかで入院していたが、回復傾向にあり、主治医の話では5月中には退院できるだろうとの見立てだそうだ。

一度は愛し合った仲だし、別に嫌いになって別れたわけではない元妻に対し、少し後ろめたい気持ちがなくはなかった。ただ、話し合いの場を持つことなく、離婚届を送ってきたのは元妻のほうだ。お互いすでに別々の人生を歩んでいる。

東京からでは、元妻と娘が、幸せになって暮らすことを祈ることくらいしかできないが、自分がまず幸せに生きることは、元妻への恩返しになるだろうと自分を納得させた。

「さて、マンダリンヒーローが繰り上がり出走か・・」

真一郎はパソコンを開いていた。引っ越しの準備のかたわらで、リサイクルショップで中古のパソコンを買ったのだ。本格的に競馬の予想を再開するにあたり、パソコンがあったほうがいいだろうという判断だ。

先週の春天予想で、マスターがパソコンを使っていることに刺激を受け、さほど多いとは言えない貯金から捻出したのだ。ターゲットという競馬ソフトもインストールし、グーグル先生やヘルプサイトをみて、なんとか使えるようにはなっていた。

「マンダリンヒーローといえば、サノノヒーローを思い出すよな・・」

春天予想の冒頭、ギョニ子が皐月賞当日の福島12Rで、サノノヒーローの単勝を仕留めた自慢話はまだ記憶に新しい。

真一郎はパソコンの右に置いておいた、ノートに以下のように書き込んだ。手を動かして書くことで、パソコンやスマホを操作するときとは別の脳を働かせようという作戦だ。

4/16 土田真翔
100戦目:ミニクイアヒルノコ
(スワン→京都競馬場)
111戦目:サノノヒーロー
(初勝利・ヒーロー)

同日皐月賞ソールオリエンス
(1枠1番で1着→111 朝日)

4/22 センテニアル・パーク京都競馬場
2020/11/1以来の開催→111

4/30 天皇賞(春)
ジャスティンパレス(1枠1番で1着→111)

ルメール騎手 
土曜日青葉賞 11番スキルヴィング
日曜日春天 1番ジャスティンパレス
土日で111

サノノヒーローが勝った皐月賞の週から、「111」が続いている。先週でひと区切りだったのか、NHKマイルCにもつながるのか・・・

ふと思い立ち、NHKマイルCに騎乗がある騎手の、GⅠ騎乗回数を調べてみた。もしかしたら、土田真翔騎手の初勝利同様、今回が「111回目」の騎手がいるかもしれない。

NHKマイルCの枠順はすでに確定していたので、1番の横山和生から調べ始めた。

1-01 横山和生(2.0.1.0.24/28)
1-02 横山典弘(27.48.38.33.41.266/453)
2-03 横山武史(6.3.5.4.5.24/47)

※2023/5/6現在(1着.2着.3着.4着.5着/合計)

「なんだこれ、1番2番3番が横山ファミリーか・・・」

先週の春天で1番人気タイトルホルダーが競走中止。その鞍上だった横山和生を、父と弟が守っているかのような配置だった。これにも意味はあるのかもしれないと感じながら、真一郎は調査を続けた。

13番の三浦皇成のところで、真一郎の目がパソコンに釘付けとなった。

7-13 三浦皇成(0.2.7.4.4.93/110)

直近のGⅠ騎乗だった皐月賞のウインオーディンが、三浦皇成にとってGⅠ騎乗の110戦目。NHKマイルCのドルチェモアは「111戦目」となる。

念のため真一郎は、調査結果をCSV形式で出力し、エクセルに貼り付けてみた。GⅠ初騎乗を1とし、ナンバリングした。

「あれ、おかしいぞ?」

直近GⅠ騎乗レースであるウインオーディンが、ナンバリングすると「111」となった。慌てて111頭全馬の着順をみていくと、1頭「消」の文字があった。

「そうか、取消が1レースあったんだ!」

2015/10/4 第49回スプリンターズS
5-10 マジンプロスパー(三浦皇成)取消

CSVでの出力にはこの取消レースも含まれていたため、先ほどの「110戦」よりも1戦多かったわけだ。真一郎は安堵した。これでNHKマイルCのドルチェモアは、三浦皇成にとって「111戦目」となる。

「111戦目」で初勝利をあげた土田真翔。そこから始まった「111」という数字のつながり。果たしてNHKマイルCでも続くのだろうか。

真一郎は念のため18番の川田将雅まで、GⅠレース騎乗数を調べてみたが、やはりNHKマイルCが「111戦目」に当たるのは三浦皇成だけだった。

1-01 横山和生(2.0.1.0.24/28)
1-02 横山典弘(27.48.38.33.41.266/453)
2-03 横山武史(6.3.5.4.5.24/47)
2-04 鮫島克駿(0.2.1.5.0.16/24)
3-05 吉田隼人(5.5.8.5.8.56/87)
3-06 戸崎圭太(9.14.8.13.9.114/167)
4-07 大野拓弥(2.2.2.2.2.41/51)
4-08 団野大成(1.1.0.1.0.8/11)
5-09 田辺裕信(3.3.8.4.4.110/132)
5-10 武 豊 (80.65.57.54.53.287/596)
6-11 内田博幸(12.12.7.9.11.137/188)
6-12 Mデムーロ(34.16.21.16.13.131/231)
7-13 三浦皇成(0.2.7.4.4.93/110)★
7-14 松山弘平(5.8.8.7.7.86/121)
7-15 Dレーン(4.5.3.1.2.11/26)
8-16 幸 英明(8.8.11.6.12.175/220)
8-17 柴田大知(3.0.4.4.2.39/52)
8-18 川田将雅(22.23.17.25.25.157/269)

※2023/5/6現在(1着.2着.3着.4着.5着/合計)
★=NHKマイルCが「111戦目」

真一郎は、次に誕生日を調べてみた。「1月11日生まれ」と「11月1日生まれ」が、「111」に該当する。

<1/11生まれ、11/1生まれの騎手・調教師>

Mデムーロ(1979/1/11)★
難波剛健(1982/11/1)

北出成人(1964/1/11)
竹内正洋(1979/1/11)
谷 潔 (1957/1/11)
西村真幸(1976/1/11)

★=皐月賞騎乗騎手

12番クルゼイロドスルのMデムーロ騎手だけが、NHKマイルCに騎乗、または出走予定の騎手、調教師であった。

「クルゼイロドスルも要注意かな・・」

そうつぶやきながら、真一郎はこれらの情報をノートにまとめた。やれやれちょっと休憩しよう。立ち上がって軽く体をほぐした真一郎は、ドリップコーヒーをいれる用意をした。

■ 中山競馬場が仲間外れ

2023年5月6日(土)午後7時25分
-東京都某区 スナック忘れな草-

スナック忘れな草における作戦会議は、「100」の話に話題が移っていた。ケンタッキーダービーに繰り上がりで出走が決まった、地方馬マンダリンヒーローが示唆するサノノヒーロー。100戦目の騎乗が京都競馬場を暗示するミニクイアヒルノコだった、土田真翔騎手の初勝利の馬だ。

「100という数字が気になってちょっと調べてみたんだけど・・・」

ギョニ子がスマホを操作しながら言った。

「ねえマスターこれどう思う?中山競馬場だけ仲間外れなの」

ギョニ子が見せたのは、競馬法100周年を記念して実施されることとなった、記念競走の画面だった。

「競馬法100周年記念」
【第2回阪神競馬第6日(4月9日(日曜))第10競走】
注記: 尼崎ステークスから競走名を変更しました。

「競馬法100周年記念 第73回農林水産省賞典 安田記念(GⅠ)」
【第3回東京競馬第2日(6月4日(日曜))第11競走】

「勝馬投票100周年記念」
【第2回札幌競馬第6日(8月27日(日曜))第9競走】

「中山競馬場だけ仲間外れって言ったけどさあ、ギョニ子。京都にも記念競走は組まれてないぜ?」

タコ社長の突っ込みはもっともだった。うんうんとうなずきながらギョニ子が説明した。

「それはそうなんだけど、京都競馬場ではグランドオープンの週に、センテニアル・パークステークスが行われたわ。センテニアルは100周年の意味だから、京都競馬場でも『100周年』に関連するレースが行われたってわけ」

その説明に賛同したのはマスターだった。

「それは面白い視点ですね。京都競馬場で『100』にまつわるレースが重複しないよう、競馬法や勝馬投票の100周年記念競走を組まなかったのかもしれません」

「そうなのよ!札幌に100周年記念競走を組むんだったら、それを中山競馬場に回せばいいんじゃないって思ったわけ。だって、札幌はGⅠレースもないローカル競馬場でしょ?」

「なるほどなあ、そう言われれてみると、なにか意図があって中山を仲間外れにしてる可能性はあるなぁ」

ギョニ子の説明に、今度はタコ社長も賛同してくれた。

「中山競馬場が仲間外れである理由に、何か大きなヒントがあるかもしれませんね」

マスターが大きくうなずき、スナック忘れな草の店内にピリッとした空気が漂った。

■ キーホースはアーモンドアイ

10分ほど休憩しましょうということになり、各自トイレに行ったりおしぼりで顔を拭いたりして過ごしていた。ガラケーのメールを調べていたタコ社長が、靴磨きの政やんからのメールに気がついた。

「マスター、政やんからメールが来たんだけどよう、NHKマイルCの情報をまとめたやつを、マスターのメールに送ったそうだぜ」

「おや、それは気がつきませんでした。ちょっとお待ちくださいね・・・」

マスターはパソコンから政やんのメールを開き、目を通した。

靴磨きの政やんがスナック忘れな草に来ることはまずない。ある客Aから得た情報を、それを必要とする別の客Bに売るのが、政やんの裏稼業だからだ。万が一政やんがスナック忘れな草にいるときに、そのAとBが鉢合わせしないという保証はない。

マスターは深くうなずくと、みんなにパソコンの画面をみせてくれた。

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●NHKマイルC情報

結論→複数の客の情報からアーモンドアイ浮上

1.『競馬法100周年記念オリジナル フレーム切手』

ふたつ目の切手シートの「翠」
「3分で分かった気になる名馬」タニノギムレットの娘ウオッカ
ウオッカのあとの2頭に注目

ジェンティルドンナとシンザン
ジェンティルドンナはシンザン記念勝利歴あり

ジェンティルドンナ 三冠牝馬
シンザン記念 1着(ルメール)
ラストラン  1着(戸崎圭太・有馬記念)

このルメールと戸崎圭太を入れ替えたのがアーモンドアイ

アーモンドアイ 三冠牝馬
シンザン記念 1着(戸崎圭太)
ラストラン  1着(ルメール・JC)

2.データ分析コピー 新潟大賞典

「様々(な立場)の馬が集う混戦重賞」

なたちば→たちばな→橘

日曜京都10R 橘S 登録馬 
50音順最初の2頭
(アイ)ルシャイン  →土曜京都7Rへ
(イ)ティネラートル →出走

日曜新潟メイン 新潟大賞典 登録馬 
50音順最初の2頭
(アイ)コンテーラー →非当選馬
(イ)クスプロージョン→出走

2頭の先頭馬「アイ」が出走せず
→「アイ」の強調→1のアーモンドアイとつながる

2020以降のデータ分析コピーで
「様々な」使用レースはひとつのみ

2020 NHKマイルC
「様々な路線から有力3歳馬が集うGⅠ」

優勝馬ラウダシオン(シルク)

→アーモンドアイもシルク

以上からアーモンドアイがNHKマイルCを解くキーホースかと

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「なんでアーモンドアイかはわからないけど、興味深い情報よね?」

ギョニ子がみんなの顔を伺った。マスターがうなずいた。

「ジェンティルドンナとシンザンが、アーモンドアイを示唆というのは盲点でした。新潟大賞典のデータ分析コピーも手が込んでいます。橘ステークスは重賞ではありませんから、橘ステークスに注目させるにはコピーに「たちばな」をねじ込む必要があった。その上で、NHKマイルCのサインであることを暗示するために、過去のNHKマイルCで使用された文言、『様々な』を使ったのでしょう」

「なんだかわかんねえけどよう、さっき出てきた中山競馬場だけが仲間外れってことと、アーモンドアイがNHKマイルを解くヒントってことだな?」

タコ社長がみんなの顔を見ながら言った。

「ちょっとしんちゃんにメールしてみるわ。しんちゃんもNHKマイルを予想してたらいいけど・・・」

ギョニ子はスマホを操作した。

■ 中山競馬場が持つ数字

2023年5月6日(土)午後8時00分
-茨城県 常磐自動車道 守谷サービスエリア-

東京を目指していた真一郎は、常磐自動車道の守谷サービスエリアで、みんなへ渡すお土産を買っていた。茨城スイートポテト、はちみつフロランタン。大人のキャラメルクッキー。甘いものに目がないギョニ子にこれだけ渡せば、連絡なしで来たことも許してくれるだろう。

昨日、とりあえず「111」という数字から、三浦皇成とMデムーロに注目した真一郎であったが、コーヒー休憩後の考察で大きな成果は得られなかった。

ぐっすり眠って今日は午前7時ごろ目を覚まし、朝からやっているスーパー銭湯で汗を流すなどリラックスして過ごした。そして、午後2時ごろに東京へ向かうべく車を走らせたのだった。

フードコートでホットコーヒーを飲み一息ついていると、ギョニ子からのメールに気がついた。中山競馬場だけが仲間外れであること、アーモンドアイがキーホースらしいことが書いてあった。

中山競馬場・・・アーモンドアイ・・・昨日自分が考えた三浦皇成とMデムーロ。どうつながるのか?

点と点がつながりそうでつながらない。運転の疲れもあるのだろう。隣の席では、専門学校生か大学生と思われる、4人組の男子が騒いでいた。

「777!スリーセブン!どうよこれ?」

「俺のは888!スリーエイト!」

聞くともなしに聞いていると、どうやら財布に入っているレシートの数字を自慢しあっているようだった。

よくこんなくだらないことで盛り上がれるよ。ま、自分も昔はそうだったから、大人になったというべきか。大人になってしまったというべきか・・・その時、ひときわ大きな声で、4人組のひとりが叫んだ。

「おおお!1111111 1が七つだぜ!最強じゃね、これ!?」

ひとりが掲げたレシートにみんな食いつき、すげーすげーと騒いでいる。1が七つってなんんだ?1,111,111円だと100万を超える金額じゃないか。学生がそんな高い買い物をするわけがない。

「ちょ、ちょっとそれ見せてくれる?」

突然知らない客から声を掛けられた4人組は、一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐにレシートを見せてくれた。なるほど、七つの『1』だった。合計金額は1,111円だったが、コンビニの住所が『1-1-1』。これで『1』が七つというわけだ。

「ありがとう」

真一郎はレシートを4人組に返した。

待てよ?住所が「1-1-1」・・・真一郎は急いでスマホを操作した。

ビンゴだ!中山競馬場だけが仲間外れの理由がわかったぞ。中山競馬場は「100」ではなく「111」という数字を持っていたのだ。

そしてアーモンドアイ・・・真一郎はさらにスマホを操作し、ある動画にたどりついた。つながった!中山競馬場とアーモンドアイがつながったのだ。真一郎は立ち上がると、財布から千円札と硬貨3枚を出し、先ほどの4人組のテーブルに置いた。

「ありがとう!君たちのおかげで解決したよ!」

びっくりした4人組だったが、テーブルの上のお金をみて声をあげた。

「お兄さんかっけーー!1,111円、ゾロ目じゃーーん!!」

4人組の声を背中に受けながら、真一郎は荷物を両手に持ちフードコートを出た。

■ 重賞インフォメーションの秘密

さあ、スナック忘れな草へ急がないと。車に乗り込むと、ガソリンが残りわずかなことに気がついた。危ない危ない。真一郎はサービスエリア内のガソリンスタンドで給油し、ふと、洗車もしていこうと考えた。昨日散髪してさっぱりしたこともあり、車もきれいにしてから東京へ向かおうと考えたのだ。

スプレー式のセルフ洗車機には数台の車が並んでいた。真一郎は順番待ちの間、今週まだ確認していなかった、重賞インフォメーションの動画をみていた。

重賞インフォメーションは、GⅠレースがある場合、そのGⅠレースの過去の優勝馬が1頭紹介される。今回は、2005年のラインクラフトが紹介されていた。桜花賞とNHKマイルCという、変則二冠を達成した馬だ。

その次に今週行われる重賞の紹介に移っていた。GⅠではない重賞では、過去の傾向、過去の優勝馬1頭の紹介、注目馬4頭の紹介。こういう構成になっていた。

今日実施された京都新聞杯の紹介になったとき、セルフ洗車機が真一郎の番になった。スマホを画面を下にした状態で助手席に置き、真一郎は車を洗車場所へセットした。

目を開けていると、車が前に進んでいるような錯覚でめまいがするので、真一郎は目を閉じた。目を閉じた分、音に集中できたからだろうか。洗車する音でやや聞き取りにくかったが、スマホから流れる実況になぜか違和感を覚えた。なんだろう。

洗車が終わってしまったため、真一郎はガソリンスタンドの店員にオイル交換をお願いした。

オイル交換の間、もう一度京都新聞杯のところを動画で確認した。4頭の注目馬紹介のところだ。違和感はこれだった。もう一度念のため動画を見直し、真一郎は確信した。違和感の正体がわかったのだ。

真一郎は急いであるサイトにいき、京都新聞杯の注目馬4頭と照合した。

「おおお!やったぞ!間違いない!」

真一郎は車内で大声をあげ、ガッツポーズをした。はやる気持ちを抑え、ある人物についてググってみた。

「ま、まじかーーー!?」

これはとんでもないネタを見つけてしまったかもしれない。真一郎はガソリンスタンドを出て、常磐自動車道に合流した。

■ 急げ真一郎!

2023年5月6日(土)午後9時40分
-東京都某区 スナック忘れな草-

真一郎からメールの返信がないか確認していたギョニ子だったが、まだ来ていないようだった。あれからみんなで中山競馬場とアーモンドアイについて考察してみたが、進展はなかった。

「頭を冷やす意味も兼ねて、今まで出てきた情報を整理してみましょう」

マスターがみんなに提案した。

「そうだな、煮詰まってきたところだし、そうしよう」

タコ社長がそう言い、ギョニ子もうなずいた。

~~~~~

●ダンツフレームと平城京S
セント(遷都)とドルはアメリカの通貨
→ドルチェモア

●チャールズ国王戴冠式
ラッキーライラック≒フィフスペトル
フィフスペトルで三浦皇成重賞初勝利
→ドルチェモア

●中山競馬場だけが仲間外れ
「100周年」にまつわる記念競走がない

●アーモンドアイ浮上
フレーム切手やデータ分析コピーから

~~~~~

マスターがまとめてくれたものを見て、麗子ママが言った。

「これはフィフスペトルを補完するネタなんだけど、ももクロちゃんて、今4人組よね?」

「そうそう、6人組からスタートして、5人組時代がわりと長かったんだけど、現在は4人組よ」

ももクロ好きのギョニ子の答えを受けて、麗子ママが言った。

「ももクロ、ももクロって呼ぶからうっかりしがちだけど、ももいろクローバーZでしょ?4人組ってことは四葉のクローバー。フィフスペトルと同じように、幸運のシンボルだわ」

「ほーー!なるほど!ママいいところに気づいたね!」

タコ社長が叫ぶと、ギョニ子も同意した。

「ほんとだわ!四葉のクローバー!ももクロとのコラボは、フィフスペトルを介して、三浦皇成を暗示してたんだわ!」

ギョニ子はそう言うと、カラオケでももクロのヒット曲、『Z伝説 〜ファンファーレは止まらない〜』を歌いだした。みんなが手拍子し、店内は大いに盛り上がった。

「急げ真一郎!2番が始まるぞーーー!!」

ギョニ子が2番に入る前のナレーションを替え歌風にして叫んだとき、店の扉が開いた。真一郎だった。

■ アーモンドアイと中山競馬場

「しんちゃん!なによ、連絡なしで!」

真っ先に声をあげたのはギョニ子だった。タコ社長が続く。

「あれ?髪切った?」

似ても似つかないが、どうやらタモリのモノマネのようだった。

ギョニ子は真一郎に駆け寄り、受け取ったお土産をテーブルに置いてあげた。そして、上目遣いで真一郎に言った。

「まさかお土産はこれだけじゃないんでしょうね?」

「もちろんだよ。極上のネタを仕入れてきたさ」

真一郎はそう言うとカウンターの指定席、右角に座った。

「頼むぜしんちゃん、ちょうど煮詰まってたとこなんだ」

タコ社長はそう言うと、指定席の左角からギョニ子の左に席を移動した。真一郎からはふたつ左になる。

「ギョニ子からもらったメールが役に立ちました。まずはこの動画を見てください」

真一郎はリュックから出したパソコンで、アーモンドアイの引退式の動画をみんなに見せた。

「仲間外れの中山競馬場とアーモンドアイ。このふたつは強力に結びついていました。アーモンドアイの引退式は、彼女が主要4場で、唯一勝つことができなかった中山競馬場で行われたからなんです」

真一郎の説明に、マスターが両手で頬を押さえながら言った。

「そうでしたね!それは盲点でした。アーモンドアイといえば東京競馬場のイメージが強かったものですから、引退式も東京競馬場だとばかり思ってましたよ」

マスターの言う通り、アーモンドアイの国内GⅠ8勝は、阪神1勝(桜花賞)、京都1勝(秋華賞)で、それ以外の6勝はすべて東京競馬場で挙げたものだった(オークス、秋天2回、JC2回、ヴィクトリアマイル)

「アーモンドアイは旧京都競馬場最終日、裏の東京競馬場で秋天を勝ちました。11月1日でしたね。アーモンドアイは『111』を持っています。仮にピンゾロホースとしましょう」

「嵐を呼ぶチンチロリンのピンゾロだな」

タコ社長がニヤリと笑った。

「なぜピンゾロホースアーモンドアイの引退式が、中山競馬場で行われたのか?それは、中山競馬場がピンゾロ競馬場だからです」

真一郎はそういうと、パソコンを操作しJRAのホームページから、中山競馬場のページを開いて見せた。

中山競馬場
〒273-0037 千葉県船橋市古作1-1-1

「へええ!中山競馬場の住所、ピンゾロじゃん!」

ギョニ子が大声をあげた。

「そうなんだ。ピンゾロ競馬場だからこそ、ピンゾロホースのアーモンドアイは、GⅠを勝っていない中山競馬場で引退式をやったんだ」

みんながうんうんと頷いた。

「そして、引退式に出席した騎手をみてください。主戦のルメールに加え、シンザン記念の戸崎圭太、そしてレースでは騎乗していないのに、調教で騎乗した三浦皇成」

「え?調教で乗ってたの?三浦皇成」

ギョニ子の問いにマスターが答えた。

「思い出しました。コロナ対策のため、ルメールが美浦トレセンに行けないことがありました。それでレースでは騎乗しない三浦皇成が騎乗したと記憶しています」

「そうなんです。ルメールと言えば、先週の春天を1枠1番で勝ちました。1枠1番で1着。ピンゾロジョッキー。土日の重賞連勝も、11番と1番。ピンゾロを強調しています」

真一郎の説明を聞いて、タコ社長が言った。

「そういやシルクの勝負服。6個の水玉がさいころの六に見えるぜ」

そのとき、スマホを操作していたギョニ子が叫んだ。

「あ!皐月賞の戸崎圭太。ソールオリエンスの対角にいるわ!」

4/16 皐月賞
1-01 ソールオリエンス(横山武史・正1)1着
8-18 マイネルラウレア(戸崎圭太・逆1)14着

「実行犯ではないけど、1枠1番で1着した、ピンゾロホースのソールオリエンスをしっかりサポート。戸崎圭太もアーモンドアイ引退式の出席騎手らしく、隠れピンゾロジョッキーの仕事をしていたわけです」

真一郎はそう言いながらパソコンを操作し、NHKマイルCの出馬表をみんなに見せた。

3-06 エエヤン(戸崎圭太・正6)

6-12 クルゼイロドスル(Mデムーロ)※取消
7-13 ドルチェモア(三浦皇成・逆6)

「なんだよなんだよ、今回も戸崎圭太は勝ち馬の対角配置ってわけかい?」

タコ社長が興奮して言った。

「そうであることを願っています。そして隣のクルゼイロドスルの取り消し。騎乗予定だったMデムーロの誕生日が1月11日。Mデムーロもまた、ピンゾロジョッキーだったんです」

「NHKマイルもピンゾロレースだと、教えてくれてるのかしら?」

ギョニ子はそう言い、こう続けた。

「でもさ、しんちゃん。ソールオリエンスもジャスティンパレスも1枠1番だったけど、ドルチェモアは7枠13番。ピンゾロの要素はないわ」

「いい質問だよギョニ子。でもね、三浦皇成はだてにピンゾロホースの引退式に出てないよ。なんと三浦皇成は、このNHKマイルがGⅠ騎乗111戦目なんだ!」

おおーーという歓声が響き渡り、店内は拍手に包まれた。真一郎がまとめた。

中山競馬場→ピンゾロ競馬場(住所が1-1-1)
アーモンドアイ→ピンゾロホース(11月1日にGⅠ勝利)
戸崎圭太→ピンゾロジョッキー(1枠1番1着を対角でサポート)
ルメール→ピンゾロジョッキー(1枠1番で春天1着)
三浦皇成→ピンゾロジョッキー(NHKマイルCがGⅠ騎乗111戦目)

「京都競馬場グランドオープンの週をはさんだ、皐月賞からの3つのGⅠ。これらは、アーモンドアイの引退式に出席した、3人のジョッキーが勝つ、またはサポートする。そういうシナリオなんだと思います。言ってみれば、アーモンドアイの同窓会シリーズでしょうか」

「アーモンドアイの同窓会シリーズか。こいつはいいや!しんちゃん、すげえなあ。よく見つけたなあ」

タコ社長のこのセリフをはじめ、みんなが賛辞を贈ると、真一郎はつづけた。

■ 重賞インフォメーションの秘密(種明かし)

「驚くのはまだ早いです。もうひとつ大ネタがあるんです」

ニヤリと笑ってそう話す真一郎に、ギョニ子が声を掛けた。

「ええ!?しんちゃんまだネタがあるの?」

「この動画を見てください」

真一郎はそう言うと、パソコンで重賞インフォメーションの動画をみんなに見せた。京都新聞杯のところだ。京都新聞杯の紹介が終わり、新潟大賞典の紹介に移っていたが、みんなはきょとんとしていた。ただ一人、マスターだけは何か気づいたのか、うんうんと頷いている。

真一郎は動画を京都新聞杯の頭に戻し、みんなに言った。

「今度は音に集中するため、眼を閉じて聞いてください」

動画が再生された。4頭の注目馬が紹介されるところで、2頭目が紹介されたときに、まず麗子ママがあ!と声をあげた。3頭目のところでギョニ子もああ!と声をあげ、4頭目のところでタコ社長がわかったぞ!と大声を出した。

「これってしんちゃん、全部同じアナウンサーじゃねえか?」

「その通りです」

真一郎は笑った。

「そのアナウンサーの名前ってもしかして・・・」

ギョニ子の問いに真一郎が深くうなずいた。

「“三浦”拓実アナウンサーです」

「おいおい、まじかよ!そんなことってあるのかい?」

タコ社長の問いに、マスターが答えた。

「私も重賞インフォメーションはチェックしていますが、かなりレアであることは間違いないでしょう」

真一郎はノートにまとめてあったものをみんなに見せた。

●京都新聞杯 注目馬

サトノグランツ
3/11 阪神9R ゆきやなぎ賞
実況:三浦拓実

マイネルラウレア
1/21 中京10R 若駒ステークス
実況:三浦拓実

ドットクルー
3/5 阪神8R アルメリア賞
実況:三浦拓実

リビアングラス
4/16 阪神6R 3歳1勝クラス
実況:三浦拓実

「しんちゃん、すごいじゃない!」

ギョニ子にそう言われた真一郎は言った。

「そしてこれがとどめです。三浦拓実アナウンサーは、元NHKのアナウンサーなんです」

おおお!という歓声をあげたあと、みんな立ち上がり真一郎に拍手を送った。それは数十秒続き、満場一致でドルチェモアの単勝が勝負馬券になった。

■ タコ部屋から哀を込めて

スナック忘れな草での興奮が冷めやまぬなか、タコ社長こと袴田大作は、家の書斎でノートを広げていた。スナック忘れな草での作戦会議のあと、みんなで出した結論とは別に、書斎で自分の勝負馬券を決めるのが、タコ社長の週末ルーティンだった。

ハンガーにかけていた作業着の胸ポケットからメモ帳を取り出した。裏紙をホチキスでとめて作ったA6サイズのメモ帳だ。そのメモ帳に書いた競馬のネタをノートに写し終えると、ゆっくりと読み始めた。

~~~~~

草野太郎(1月20日生まれ)
所属変更:大竹正博→フリー

ルーキー石田拓郎も1月20日生まれ
(騎手で1月20日生まれはこの2名のみ)

草野太郎、ルーキー石田拓郎、いずれも今年未勝利
石田拓郎はJRA未勝利

草野太郎、石田拓郎
二人の名前を合体させると石田太郎
→コロンボの声優。コロンボはイタリア系の設定

石田太郎 
NHK大河ドラマ多数出演歴あり

朝ドラ『芋たこなんきん』
2006/10/2~2007/3/31
原作:田辺聖子

『芋たこなんきん』はCMタコライスとも合致

NHKマイルC
ナヴォーナ(田辺裕信・矢作芳人)

「強引っちゃあ強引だが、草野太郎から導けば『芋たこなんきん』の田辺聖子が浮上し、田辺裕信のナヴォーナが浮上するってわけだ。ナヴォーナは確かイタリア関連。コロンボともつながるぜ」

袴田大作は続けた。

「それに矢作芳人厩舎と言えば、ケンタッキーダービーのコンティノアール取消。その無念をNHKマイルで晴らすなんて粋じゃねえか。隣のオオバンブルマイとは、アーリントンに続いての同枠配置だが、今度はこっちってことがあるぞ」

そう言うとワンカップ大関をぐびりと飲んだ。

「矢作芳人厩舎でNHKマイルといやあ、グランプリボス・・・なんだよドルチェモアと同じ13番か・・・そして話題に出てきたアーモンドアイ。国枝栄厩舎のNHKマイルは・・・・・と、ピンクカメオじゃねえか!」

ピンクカメオ事件の主犯、ピンクカメオは国枝栄厩舎だったのだ。

2007/5/6 第12回NHKマイルC
1着:7-14 ピンクカメオ
2着:5-10 ローレルゲレイロ
3着:8-18 ムラマサノヨートー

2023 第28回NHKマイルC
5-09 ナヴォーナ
7-13 ドルチェモア
8-17 ミシシッピテソーロ

「ピンクカメオの年の馬番を、全部右にひとつずらしゃあこの3頭だな。ミシシッピテソーロは狙いすぎかもしれんが、ナヴォーナとの9-13は面白れえぞ」

<袴田大作の勝負馬券>
枠連5-7
馬連・ワイド:13-9.17
3連単BOX:9-13-17

■ 政やんの独り言

2023年5月7日(日)午前10時
-東京都某区 シューリペア風間-

靴磨きの政やんこと風間政重は、シューリペア風間の事務室にいた。競馬がある週末の朝は、店を開ける前にここで競馬予想をするのが常だった。

「さてと、GⅠ名馬かるたはシーキングザパールか・・・」

風間が得た情報では、GⅠ名馬かるたの馬名1文字目から始まる百人一首の短歌の番号を、ヒーロー列伝の名馬に重ね合わせるというサインが継続していた。

該当する名馬のポスターゼッケンを正逆馬番として、GⅠの出馬表から対象となる馬を選ぶ。フェブラリーSから天皇賞(春)まで、1頭は3着以内に来ているという。

最大で4頭が対象と、あまりコスパがいいとは言えないサインであったが、継続中は黙って追いかけるのがセオリーだ。

シーキングザパール同様、「し」から始まる短歌は、小倉百人一首に2首収められている。対象となる短歌が2首以上の場合は、最も若い数字の短歌を選ぶ。

今回の場合No.37とNo.40が対象だから、若い数字の37を選び、第37代ヒーローをみる。ヤマニンゼファーだった。

残念ながら、ポスターからは帽子の色もゼッケンも判別不可能だが、顔はどうやら柴田善臣よりも、田中勝春に近い。であれば、1992年の安田記念一択となる。

1992 安田記念 18頭
8-18 ヤマニンゼファー
(正18・逆1)

2023 NHKマイルC
1-01(外)フロムダスク (正1・逆18)
8-18 ダノンタッチダウン(正18・逆1)

あくまでもポスターが田中勝春の年で、かつこのサインが継続してくれればだが、対象馬は正逆1の2頭となる。人気は18番ダノンタッチダウンだが、狙ってみたいのは1番のフロムダスクのほうだ。

小倉百人一首 No.37 
白露に 風の吹きしく 秋の野は
つらぬき留めぬ 玉ぞ散りける

(外)シーキングザパール(秀行)

1-01(外)フロムダスク(藤田晋)
1-02(モリ)アーナ(馬名意味:の女神)

短歌にある「白」と「風」。ゼファーもそよ風だ。そして、〇外と「モリ」の一致から1枠が浮上。

また、ケンタッキーダービーに繰り上がり出走した地方馬マンダリンヒーローは、大井競馬の藤田輝信厩舎で、フロムダスクの藤田晋オーナーと一致する。

三浦皇成のJRA初勝利は、2008年の3月1日・・・
3+1→13

13番の三浦皇成ドルチェモアが来るのなら、1勝目が3月1日だから、1番を連れてくるというのも悪くない。

ヤマニンゼファーのポスターは、カッチーだと信じてフロムダスクを大穴から。

<政やんの馬券>
枠1-7
馬連:ワイド:1-13

スナック忘れな草
~2023NHKマイルC・アーモンドアイの同窓会~ ―完―

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