事業がやりたいんじゃなくて、片親家庭の子供の力になりたい−僕がH.I.Sグループの銀行代理業会社を立ち上げた理由

5月14日に無事マスコミ向けの記者会見を終え、H.I.S.Impact Financeを多くの人に知ってもらうための一つの大きなきっかけがリリースされた。

HISグループ、銀行代理業参入へ、アプリで振込や外貨両替など

この「銀行代理業」という新しい仕組みが分かりにくいだろうということで急遽記者会見を企画し、ギリギリまで準備に追われていたので今は少しホッとしている。

ここで改めて、僕がH.I.S.Impact Financeを立ち上げた理由を書いていこうと思う。

僕は28歳の時、契約社員としてH.I.Sに入った。その1年後に正社員になるための面談があって、その時にこんなことを言った。

「なぜH.I.Sグループにはこんなに大きな組織なのに金融業がないのでしょうか? 財閥の歴史を見ると、拡大していく中で必ず銀行を作っています。組織的に大きくなるには銀行という金融のインフラが必要です。H.I.Sも銀行を作った方がよいのではないでしょうか?」

面談の少し前に安田財閥と三井財閥に関する本を読んでいたので、そう提案した。しかし、即正社員になったわけではなく「じゃあお前、銀行にいった方がいいのではないか?旅行会社じゃない方がいいだろう」と落とされ、次の日に僕の上司が慌てて「あいつはそういう意味で言ったんじゃない」とフォローしてくれたおかげで正社員になれた。そこからずっと、どうやったら銀行を作れるのかを探っていた。

なぜ銀行に興味を持ったのかというと、理由はいくつかある。

1つ目は、H.I.Sに入る前に働いていた消費者金融で金融業の魅力を知ったこと。その魅力は「お金は人を救える」ということだ。消費者金融にはいろんな事情でお金に困っている人が来る。その人に利息をつけてお金を出してあげると「助かりました」とすごく感謝される。そして僕たちは利息を貰える。「なんなんだ、この商売は」と思った。

そして、お金を借りに来る人は、僕たちがお金を貸すことによって人生を救われている。例えば手術代がない、病院代がない、引っ越し代や子供と出かけるお金がない、そういった理由で5万円を借りていく。こちらとしてはたかだか5万円だけど、その人は5万円で人生が変わる。お金にはそういう力があるんだなと思った。

2つ目は、澤田経営道場でマイクロファイナンスに出会ったこと。澤田経営道場とは、H.I.S創業者の澤田秀雄会長が「子会社を100個作る! だから起業家を100人作る」という思いから設立した起業家育成プログラムだ。僕は二期生として澤田経営道場に入り、勉強をしていく中で、貧しい人々向けに小口融資や貯蓄などのサービスを提供するマイクロファイナンスを知った。グラミン銀行について調べて、開発途上国の人生を変えたこの仕組みを、単純にすごいなと思った。そして、僕は世界銀行の民間版を作って、世界銀行のように末端の人たちに金融インフラを提供したいと考えるようになった。

もしかしたら「世界銀行の民間版とH.I.Sはどうリンクしていくのか?」と思われるかもしれない。なので説明しておくと、まずHISの理念は「自然の摂理にのっとり、人類の創造的発展と世界平和に寄与する。」というもの。そして、HIS企業行動憲章には「7.世界平和への希求多くの人々に広く世界を知っていただき、諸外国や地域の慣習や文化の理解を深め、また、それらを尊重することを通して、世界の平和に貢献してゆきます。」とある。つまり、人種や宗教を超えて平和な世界を作ろう、だからみんなもっと旅に出て異文化交流をしよう、という理念なのだ。

そして、戦争の原因は色々あるけど、貧困がその一つであることは間違いない。でも、インフラが整っていてちゃんとした金融の仕組みを提供できれば、争いは起こらないかもしれない。だから、僕のやりたいこととH.I.Sはしっかり繋がっていると思う。

3つ目は、僕の家が母子家庭でそんなに裕福な家ではなかったこと。僕は母子家庭が原因で大学に行くのを諦めたんだけど、生まれた家庭によってハードルがあるのはおかしいんじゃないかと思う。なので、このハードルをどけていこうという考えがH.I.S.Impact Financeの根幹にある。だから会社のビジョンにも「母子・父子家庭、世界の貧困層の子供の力になる」とあるし、ゆくゆくは返済義務のない奨学金ファンドをやりたい。でもいきなり奨学金ファンドはできないので、出来る範囲でということで、まずは片親の家庭に対してベーシックインカムを提供できればと考えている。

とはいえ、この思いはずっと昔からあったというわけではない。今までは生きるために必死で、理想を考える余裕なんてなかった 。H.I.Sに入社して企業理念を知ったことや、澤田経営道場に入って「大きな夢を持たなければいけない」と教えられて、そこでようやく自分が実現したいことや理想について考えた時に浮かび上がってきたものなのだ。

片親家庭や貧困層の子供のハードルをなくすことをどのように事業化するのかと思われるかもしれないが、僕はこの領域の事業化は考えていない。ただこの問題を解決するには利益をださなければいけない。そして利益を出すためには人の役に立たなければいけない。じゃあそのためには何をすべきか……と逆算して銀行代理業や決済代行業の事業をしているだけだ。別に利益を出すこと自体は目的ではないし、事業をすることが目的になっているわけでもない。母子家庭という境遇に生まれて高いハードルを感じたことで、そのハードルをこの世からなくしたいという気持ちが一番強い。

ここでちょっと片親家庭の話をしておくと、この環境の家庭に生まれた子供が諦めざるを得ないことは想像以上に多い。先ほど僕は大学進学を諦めたと書いたが、それ以外にも塾に行けない、なりたい職業にもつけないなど様々なデメリットがある。お金がないせいで性格がひん曲がる、なんてこともある。なので僕が実現したいのは、誰もがみな同じような条件で選択肢をもらえる世界だ。選択肢を与えられたあとは本人の頑張り次第。麻雀でいうと最初の配牌で「この局、無理やん!」っていう状況があると思うが、僕は家庭環境というのはそれに近いと考えているし、それはおかしいと思う。

だから奨学金ファンドや金融業がやりたくて起業したのではなく、母子家庭に課せられたハードルをこの世からなくしたいと考えて、それを今できる手段でどのように解決できるかとブレイクダウンした結果、H.I.S.Impact Financeとして具現化したというのが現状の説明として一番近いのではないだろうか。

いまは事業をなんとか軌道に乗ってきて少しは利益が出るようになったので、まずは僕たちが今できることして、僕の母校での片親家庭へのベーシックインカムを実現すべく動いている。これを実現して、次は社員の母校へと広げていきたい。そして、最終的には人の役に立つことよって対価をもらい、その対価で自分の本当にやりたいことにお金をだせるというのが一番よい状態かなと思う。そして今、まさに今それができてるのかなという実感が沸きつつある。これからも「母子・父子家庭、世界の貧困層の子供の力になる」というビジョンを忘れず、またこれを実現するために利益を出し続けられるよう努力していく次第だ。

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