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「あん」(2015年 日本)監督:河瀬直美 主演:樹木希林 原作:ドリアン助川

〈あらすじ〉

小さなどら焼き屋「どら春」に指の不自由な老女、吉井徳江がやってきてアルバイトを懇願する。最初は相手にしなかった 店長の千太郎だったが、徳江が作ったあんを食べ、その美味しさに感動してお店を手伝ってもらうことにする。徳江のあんのおかげでどら春は行列ができるほどの繁盛店になるが、徳江の曲がった指の噂が広まりピタリと客足が途絶えてしまい徳江は自ら店を去る。

〈感想〉
この作品は10回以上観ましたが、それでもまだまだ全然飽きません。

樹木希林さんの演じる徳江さんは、ただずっと見ていたくなるほどにとにかく全てがチャーミング。永瀬正敏さん演じる千太郎さんの無口ながらも優しいまなざしや、ワカナ役の内田伽羅さんの今どきっぽくない存在感などなど、語ればきりがないほど全てが大好きなのですが、中でも圧巻なのが樹木希林さんと市原悦子さんの共演シーンです。

70歳を超えた2人が、お互いを少女のように「徳ちゃん」「佳子ちゃん」と呼び合っている姿は微笑ましくもありますが、また一方でそれは、そんな風に呼び合うような頃からずっと2人が療養所の中にいるということでもあるのだと想像すると、気が遠くなるような哀しみに襲われます。そして過酷な運命を乗り越えて、穏やかに笑っている2人の老女の強く優しい唯一無二の佇まいに圧倒されるのです。

風に揺れる木の葉に手を振り、小豆の旅の話を聞きながらあんを作る徳江さんの姿。
「私たちはこの世を観るために、聞くために生まれて来た。だとすればたとえ“何か”になれなくても私たちにはこの世に生まれて来た意味がある」という徳江さんの言葉は、「何か」にならなければと焦りながら、結局何者にもなれないというジレンマにずっと苦しんできた私の心を優しくほどいてくれるようでした。

そしてふと、宮沢賢治の「虔十公園林」という作品の主人公の虔十と徳江さんの姿が重なり「世の中の役に立つ」ということについて考えたりしました。

この作品が今の時代の日本で生み出され、そして多くの人に共感されているというのは、きっと偶然ではなくて必然の流れなのだと思います。

原作のドリアン助川さんの小説も合わせて読まれることをおすすめします。

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