ジーナ・ロロブリジーダとキャロル・リードの『空中ぶらんこ』
1月16日にジーナ・ロロブリジーダというイタリアの女優が亡くなりました。今の若い世代の映画ファンにはちょっと縁遠い存在かもしれません。50代映画ファンという絶妙な立場で感想を述べさせていただくと、日本で言えばわたしの好きな京マチ子さんクラスの大美人女優、今の時代で言うとちょっと思い当たる方がいらっしゃらないポジションですね。
ロロブリジーダのリクエストはそれほど多くありませんでしたが、DVD化されていない作品に集中して要望頂きました。DVD化が実現できなかった『わらの女』『ノートルダムのせむし男』(これは後日他社発売)『パンと恋と夢』などなど。その中でDVD化に漕ぎ着けられたのは、日本の頒布権をソニー・ピクチャーズが保有していた『バンボーレ!』とMGMの『空中ぶらんこ』だけでした。
『バンボーレ!』は楽しい映画で、ヨーロッパの人気女優ジーナ・ロロブリジーダ、モニカ・ヴィッティ、ヴィルナ・リージ、エルケ・ソマーというそうそうたる美人女優たちが競演するオムニバス映画で、イタリア映画界が得意とする艶笑譚です。どれも面白くて好きなエピソードなのですが、やはり名匠マウロ・ボロニーニが監督したロロブリジーダ主演の第四話『キューピッド神父』がセクシーかつヒネリが効いていて面白いです。ボロニーニ監督もロロの使いどころをよくわかっていて、観客を楽しませてくれるし、ちょっと現代感覚なところもあるなと感心しました。もう一つ第三話の、夫のスープをすする音に悩まされるモニカ・ヴィッティがとにかく美しく、これも面白くて良かったです。
そして巨匠サー・キャロル・リード監督の中期の作品『空中ぶらんこ』。
MGMから購入しましたが画質も良く、ジャケットの邦題に使用したのはわたしの父が持っていた当時のプログラム(大型)から抜き出しました。
この映画はなかなか面白い構造で、ジーナ・ロロブリジーダを巡って先輩のバート・ランカスターと、若手のトニー・カーティスが三角関係に陥るというロマンスのストーリーラインと、かつて空中ぶらんこの名手として名を馳せたランカスターが、その技術をカーティスに教える指導者役という、昔からある「師匠と若者」の構成になっています。
またフランスが舞台なので、実在する地下鉄の出口から始まり、映画に登場する石畳の道や、しっとりした感覚が素晴らしいです。もちろん、合成やCGのない、スリリングな空中ぶらんこのシーンも楽しめます。特にランカスターは昔サーカス団にいた経験もあって、アクロバットを自分自身で演じています。キャロル・リード監督の、流麗なストーリーテリングも素晴らしい。まさに、流れるような人物描写と話の展開です。
もうひとつ言っておかなくてはいけないのは、この『空中ぶらんこ』の話と、キャロル・リードの代表作である『第三の男』が対比関係になっている点です。『第三の男』と『空中ぶらんこ』は、三角関係とラストシーンにおいて響きあいます。
公開当時29歳のジーナ・ロロブリジーダも本当にスタイルが良く、また控えめな演技で逆に美しさが際立つ印象です。この時期の代表作と言ってよいのではないでしょうか。
キャロル・リード監督はもう1本『ハバナの男』もDVD化できました。
これも『第三の男』と同じグレアム・グリーンが原作。これも話がめちゃくちゃ面白く、いまもリメイクしたらかなりいい線行くのではないかと思います。
以下、無用のことながら。
『ハバナの男』のジャケットアートは、またも父の保有するプログラムをそのままスキャニングしました。この当時のデザイン、タイトルのレタリング、色合い、すべてたまらないですね。今の作品は日本の配給会社よりも、本国のスタジオ側の統制が強すぎて、日本側でいろいろ日本テイストに加工できないのがさびしいですね。邦題にしたって、オリジナルのカタカナ表記ばかりじゃないですか。
『空中ぶらんこ』の原題は「TRAPEZE」でそのまま「空中ぶらんこ」ですが、『第三の男』も『ハバナの男』も、やっぱり「~の男」とついてしっくりくる気がしますよね。これがもしスタジオの意向が強くて「ザ・サード・マン」や「アワ・マン・イン・ハバナ」で通せ、と言われてたら、現代っぽい気はしますけど、日本独特の映画文化が欠けてしまうという思いにかられます。
わたしは、最近の洋画離れの一因にこのオリジナルカタカナ表記タイトルの問題が少なからずあると思っています。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』と言われても、アット・ワンスには中身が分かりませんよね。やっぱり『並行宇宙へようこそ』とか『凸凹家族危機一髪!』とか『SF/多次元アドベンチャー』とかダサい邦題がついていると安心します。こんな昔の映画ファンの感覚のままだから映画館に足が遠のいてしまうんでしょう。
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