見出し画像

第43回船橋市写真展 優秀賞受賞作品「フリカエル」はいかにして撮影出来たのか。

久々の投稿です。
昨年行われました第43回船橋市写真展にて、応募作品「フリカエル」が優秀賞を受賞しました。
大変光栄です。

この写真は、まだ比較的感染対策も緩く気楽に外出出来た2020年3月18日に撮影したものでした。

今回はその時の記憶や思い出と共に、作品を撮影した時のことを振り返ります。

2020/3/18

さて、2020年は結果的に予想だにしない年になりました。
感染症によって外出は制限され、それまでの日常は登場過去の物となってしまいました。

2020/3/18は、当時大学生だった僕としては本来なら翌日に卒業式を控えた日でした。
しかし、感染症予防の為結果的に卒業式は中止、特段区切りもないまま4年間通った大学を卒業する事になり、大学卒業の実感もないまま、半月後には就職の為愛知へ飛ぶ事が決まっているという、なんともぼんやりした状況でした。

流石に事情が事情なだけに卒業式が無いのは仕方ない…
しかし、結果的に空いた土日、もう愛知県を拠点にする生活になれば、気ままに千葉と東京を往復するような事は出来ない訳で、貴重な休みですからずっとやろうと思っていたオールナイト撮影を実行に移す事にしたのでした。(当時自動車学校にも通っていたので、撮影日程の余裕もなかった訳です。)

かくしてオールナイト撮影を決行するに至ったのですが、適当なルートを考え付けず、特にルートも決めず始点を池袋、終点を渋谷としました。

コレは過去の撮影、および東京散歩でこの区間は断続的に歩いていて、土地勘があったが故の判断でした。

この日の撮影は現状web版のみ発行している同人誌「フィルムシティ6 オールナイトトウキョウツアー2020」に詳細を記載しています。

池袋を行く

夜もそこそこな21時ごろに池袋駅に降り立った訳ですが、この時点で東池袋側を抜けて高田馬場方面へ進む事にしました。
東池袋の公園はまだこの当時大学生に溢れ、芝生で宴席を催す学生や、ベンチでスタバのコーヒーを飲むカップルなど、21時を過ぎても賑やかな物でした。

しばらくはその風景を端のベンチに座って眺め、時より思い立った構図で撮影をしつつ、この後のルートについて思考を巡らせていた訳ですが、この時、いつも通る雑司ヶ谷に抜けて都電の脇を鬼子母神方向へ歩くのでは無く、一旦西武線沿いに歩くルートを思い立った訳です。

コレがある意味今回の作品を撮れるかどうかの運命の分かれ目でした。

西武池袋駅の南側には、線路上にデッキを備えた施設があります。
そこで時折写真を撮りながら、ボーッと反対側の東京芸術劇場を眺めていました。
3〜4週間前はそこで卒制展をやっており、友人達ともワイワイやっていた訳です。
そんな大学生活が静かに終わろうとしている…
趣味に全振りしたと言っても良い大学生活の最後の日な訳ですから、もう気合いを入れて夜の撮影に臨むほかはありません。
池袋の貨物駅の名残と思しきコンクリート壁に囲まれた交差点に背を向け、薄暗い住宅街へと入っていきます。

西武線の高架下をくぐり抜けた時、ふと振り返ると、なかなかいい感じに線路が横切っていたので、ここで通り過ぎる列車を流して撮影してみようという気になったのでした。

決定的瞬間

そこまでの平均的な露出から列車を入れた場合の露出をざっくり算出し、列車が来るまでどのような構図にするか考えていました。

そして列車が来ようかというタイミングで一つ誤算が生じます。女性が構図向こう側から歩いてきたのです。

列車到達のタイミングでは顔が大写しになる可能性もあります。しかしそういう写真は避けたい…
走行しているウチに通行人の女性は近づいてきます。
この時は迷いました。
もうひと列車待つか…と思ったものです。

そうして迷っていた時でした。
女性が構図中央近くまで来た時、列車が高架上に現れました。
そして女性はふと列車の方を振り返ったのです。

その瞬間僕はシャッターを切りました。
今しかない、コレだ!とおもったのです。

フリカエル

シャッターを切る瞬間はスローモーションにこそならなかったものの、一瞬無音になったかのような集中力でした。

そして撮影が終わったと共に、じわじわと列車の音が戻ってくると共に、とても幸せな気分になったのです。

あの日あの時、あそこに居なければ撮影出来なかったこの一枚をモノに出来たというのは、普段からのフィルムカメラで鍛えた感覚と運の良さでしょうが、またこんな決定的瞬間と出会えればとカメラを持って出かけるわけです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?