メイクアップの魔法にかかった女の子の話

化粧品が好きだ。
小さい頃からキラキラしたものやカラフルなものが好きで、小学生時代に集めてたものは専ら色鉛筆やきらきらシールや香り付き消しゴム。

「キラキラ」「可愛い」に憧れるルーツとしては、美少女戦士セーラームーン。
コンパクトを開いて「ムーンプリズムパワーメイクアップ」と唱え、戦闘服であるセーラー服になるだけではなく爪の先までメイクアップして美少女戦士になるのがたまらなくかっこよくて美しくて。
5人の中で一等好きだったのはセーラーマーズ。あの真っ赤な炎の戦士になりたくて爪を赤くマジックペンで塗って幼稚園に登園したら先生に怒られたりもした。それから、ジュピターの薔薇のピアスも可愛くて大人になったらあんなピアスをしようと妄想した。セーラー戦士の中で一人影のあるサターンも大好きで、紫には今も惹かれる。5人組の女の子の中ではいつも紫の子を好きになる。

閑話休題。

母はオシャレやコスメに全く興味のない人だった。年齢的なものもあってスキンケアは高いのを使ってたようだが、口紅や頬紅はいつ見ても同じメーカーのものを綺麗に使い切っていて、鏡台はホコリ被っていた。

小学校高学年にもなると周りのませた女の子たちは色つきリップを持ったり小学生向けのファッション雑誌を読んでたりしたけど、それを横目にいつも読書してるような子だった。
そんな中出会ったのは「りぼん」で連載してた「アゲハ100%(武内こずえ)」というメイク漫画だった。
「まるでサナギから蝶に変わるように」を決めゼリフに、次々と女の子たちを可愛く変えていくメイクアップアーティスト「アゲハ」に憧れた。あたしもいつか蝶になれるかしら、素敵なメイクボックスを買えるかしら、そう思いながら何度もコミックを読み返し、休日はオシャレなお友達の家に遊びに行ってメイクボックスを見せてもらったりしてた。

高校は校則の厳しい学校に進学してメイクへの「いいな」という思いは胸のどこかに仕舞われたままだった。高校にもなると休日はメイクをしたり「お母さん(姉)に貰った」と少し高い化粧品を試したりしてる子もいたけど、それも「興味無い」と切り捨てたりしてた。「だってどうせ私にはそんなのくれる母も姉もいない」という悔しさもあったのだろう。

転機となったのは上京。
高校からも解放されて、メイクを覚えなければ、という時期だった。
でも誰に聞こう?雑誌のメイクはなんだか難しそう。母には「化粧品は高いしまだ早い」と一蹴された。
迷った挙句、恐る恐る、最寄りのドラッグストアに行ってコスメカウンターのお姉さんに話しかけてみた。

「メイクをしてみたいんですけど、やり方を教えて貰えませんか」

そこからは本当に魔法みたいだった。鏡の中でどんどん違う自分に変身して行った。頬が色づき、瞼にはラメが輝き、睫毛がぐんと伸びた。
小さなドラッグストアだったからティーン向けのメーカーはKATEくらいしかなく、最初は全てKATEで揃えた。下地とファンデ、チークとリップとシャドウ。
少し慣れてから、アイブロウとアイライナーとハイライトとマスカラなどを買い足した。社会人になってからはデパコスにも手を出した。

ムーンプリズムパワーメイクアップに憧れた女の子は、コンパクトの前で「マジョリカマジョルカ」と唱え、KATEで強い都会の女に、CANMAKEで乙女チックに、ヴィセで時に色っぽく、LADUREEでお菓子の国のお姫様に、ANNA SUIで馨しい小悪魔に、ADDICTIONでシャープなオフィスレディに、Yves saint Laurent で洗練され、Diorで最上級の女になった。まるでサナギから蝶に変わるように。

化粧品なんてそんなにいらないでしょう、と言う人もいる。最低限で良いと言う。
それでもあたしは、メイクという魔法に魅せられた1人の女の子として、キラキラ可愛いをやめないためにメイクするのを続けていきたい。

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