見出し画像

[前編]厳しい意見が相次いだ神宮外苑まちづくり「環境影響評価審議会第1回総会」レポ

4月27日(木)に開催された「神宮外苑まちづくり」に関する環境影響評価審議会第1回総会の模様をリアルタイムで視聴したレポートです。

今回の総会は、再三にわたる「一般社団法人日本ICOMOS国内委員会」(以下、イコモス)からの要請に応えたもので、審議会の委員18名と都の事務局(2名出席)に対し、事業者(三井不動産)が説明をするために開催されました。イコモスは、文化遺産保護に関わる国際的な非政府組織の学術団体です。事業者側は、三井不動産2名、日建設計、作成に関わったコンサルタントが出席しました。

新聞・TV等のメディア報道、三井不動産の「神宮外苑まちづくり」公式ホームページだけを読むと、環境影響評価書(以下、評価書)に「ほぼ問題はなかった」というように受け取れます。実際の審議会では、委員の方たちから厳しい意見が出ていました。詳細なやりとりやニュアンスが違うでは? と感じたので、私なりにレポートをまとめることにしました。

東京都環境局のサイトには、今回の審議会で配布された資料(事業者による回答書)と質疑応答の記録等が、すでに公開されています。

また、事業者からの回答の元になっているイコモスの指摘は、こちらにあります。回答書にもイコモスの指摘は記載されていますが、1月23日付けで、その元になった、83ページの資料PDFがあります。

「(仮称)神宮外苑地区市街地再開発事業」評価書に関して日本イコモス国内委員会が指摘した「虚偽の報告」に係わる事業者の誠意ある対応と内容に関する回答の要請


◆4月27日に第1回が開催された経緯

神宮外苑の樹木を含めた環境保全に対して事業者(三井不動産)が作成した評価書は、今年1月に公示を行い、その結果、工事の実施が解除されています。

イコモスによる経緯の説明では、イコモスは評価書の問題点に気づき、東京都環境局の立ち会いのもと、事業者側に説明を行い、協議したいと働きかけていました。しかし、実現に至らず、2月15日に、三井不動産から、イコモスとは面談を行わず、単独で反証の報告書を提出するとの連絡があったそうです。

イコモスは、審議会への出席を求めましたが、都の事務局から却下されています。その理由としては、以下が根拠になっています。

  • 審議会は事業者と物件の団体や個人の意見を戦わせる場ではないこと

  • 両者の説明に白黒をつける場ではないこと

  • 条例により、事業者とその関係者は、評価書等を審議会で説明する際に、作成に携わるコンサルを想定していることから、参加できないとのこと


3つめの理由は私もよくわかりません。事業者側のコンサルの同席があることが、イコモスの同席を拒否する理由にならないのでは?と思いました。

また、イコモス側の資料を作成した中央大学研究開発機構教授の石川幹子先生は、記者会見等でも、「学術団体として評価書を精査した結果、根拠となる科学的調査に疑問がある。この分野を専門に研究してきた学者として、事業者に何が問題なのかを説明したい、というのが、同席を求めた理由」と話しています。あくまでも、神宮外苑のよりよい樹木保全のために、学術的見地からのアドバイスを行い、適切な開発につなげて欲しいというスタンスを強調していました。

◆審議会のキモは後半の質疑応答にあり

今回の審議会のキモは、後半1時間の質疑応答でした。かなり厳しい意見があり、審議会の委員の方々が責任を感じていること、都民の声を反映させようと努力されていることが伝わってきました。(質疑応答の詳細は、後編に続きます

また、部会長のお一人は、審議会の視聴者に向けて、

「自分としては再調査の必要はないと感じているが、それに対し、異論、意見がある都民の方は発信して欲しい。私たちは無視しているつもりはありません」

と話していました。

ですから、公表されている今回の審議会の資料に目を通し、疑問や意見を持った方は、遠慮せずに東京都に送っていいと思います。窓口は「東京都環境局」です。問い合わせフォームの一覧を見ると、「環境アセスメントに関するお問い合せフォーム」がよさそうです。

また、報道等では、「事業者が作成した評価書に虚偽、誤りはなかったと表明している」とされていることから、一件落着と勘違いしそうですが、

審議会総会は、5月18日に第2回が開かれる

ことになっています。イコモスの指摘を網羅できなかったので、事業者は、次回も引き続き、説明することになっています。ただし、審議会が開かれても、工事を止めるか否かとは別扱いにされています。

◆事業者の説明は回答書にすべて記載


前半の2時間は、事業者による回答の時間でした。配布した回答書をほぼその通りに読んでいましたが、一言で言えば、「評価書に虚偽、誤りはない」です。回答書を見ても、「虚偽、誤りはなかった」の文言が並んでいます。

なぜ「虚偽、誤りはなかった」かというと、たとえば、通し番号(事業者側2・イコモス側の通し番号1−2)を例に挙げてみます。イチョウ並木の東側に対する植物群落調査地点について、イコモスは調査地点1か所は不十分と指摘しています。

一方、事業者が1か所で十分とする理由は、基本的に改変を行わない場所であること、植生が均質であること、既存技術資料に基づいたことを挙げていました。調査の参考にしたという資料は、以下になります。

職業柄ですいません。どんな資料を使ったのかなと、つい調べてしまいました。環境アセスは取材をしたこともなく、まったくの門外漢ですし、『自然環境アセスメント技術マニュアル』は環境省の推薦図書にもあるので、こういう資料を使うのか、とは思います。が、調べてみたら、ずいぶん古い発行なのと、国が出している資料とはいえ、PDFファイル?と思って、驚いています。参考まで、発行年を付記しておきました。

また、新国立競技場を建設する際の環境影響評価書が、今回の評価書を作成する上での前提ともなっているようで、それにのっとって調査、表記をしていることも、事業者が「虚偽、誤りではない」とする根拠の一つになっています。


ここからは私の個人的な感想にしかすぎませんが、事業者が作成してきた回答書を見て、「これで回答になるのかな?」と疑問を持ちました。

イコモス側は学術的な専門用語、数字等を用いて、問題を指摘しています。なぜその指摘しているのかの理由も説明しているので、詳細な調査法はわからなくても、何を問題視しているのか、概略は理解できます。

一方、事業者側の回答は、その指摘は評価書のこの部分に記載している、この指摘は、このように表現している、という説明の仕方です。

イコモスは学問的な視点から神宮外苑の環境を把握し、事業者側は設計・建築、法律や条令に則っての視点から把握した結果、用語や言葉の使い方、調査範囲の食い違いが出ているとしても、これでは、どちらが正しいのか、わかりません。

現時点では、事業者側が一方的に回答している形なので、それに対して、イコモス側が「わかりました」「では、こういうことですね」と確認しなければ、適切に回答したとは言えないのではないでしょうか。

審議会の前提として、「議論に白黒をつける場ではない」ということがあり、出席した委員の方たちは、事業者から説明を受けても、どちらが正しいと判断できない状況に置かれているとも言えます。その証拠に、質疑応答の際、委員から、「審議会は調査手法など、このような詳細な内容を一つひとつを審議する場ではない。審議会に持ち込む前に、事業者の段階でイコモスと場を持ち、話し合って欲しい」という指摘もありました。

さらに言えば、現時点では、確かに評価書に虚偽、誤りはないと思います。なぜなら、もともとの調査が事業者(デベロッパー業界全体かも)がよしとする方法に則って行われているからです。スポーツでいえば、自分たちが決めたルールに則ってプレイしているのですから、反則がなくて当然ですよね。

ここからはさらに私の想像になるので、与太話として読んでください。三井不動産が行った調査は、オフィス街など街中の都市開発ならOKなのではないかと思います。新国立競技場も神宮外苑に比べれば、緑が少ない場所でした。

ですが、神宮外苑は違います。樹齢100年を超える樹木もあるような「森」と神宮球場やラグビー場などの人工物が混在している場所です。これまでの都内の開発地域を見ても、神宮外苑のような場所はなかったと思います。大規模開発の対象になっているのは、もともと市街地だったり、築地市場のように人工物がすでにあった場所です。

現在の神宮外苑の配置を変えずに再開発をするのであれば、事業者が行った環境影響評価でもまだ間に合ったかもしれませんが、一気に配置を換えるわけですから、事業者が行った調査では不足があるのではないかと、先々に不安を感じてしまいました。

その懸念については、質疑応答でも指摘されていました。長くなってきたので、質疑応答の詳細は、後編に続きます。

最後に神宮外苑のまちづくりに疑問を投げかける署名活動のリンクを貼っておきます。


審議会のレポート、音声の文字起こしは、この問題を長年、追っているジャーナリストの犬飼淳さんがすでに公開しています。そちらも参考になさってください。また、審議会を取り上げた新聞、TV局等の記事リンクも貼っておきました。



各報道のURL。一部なのと、Yahoo!ニュース経由なので、時間が経過すると閲覧できなくなります。

◆TOKYO MX

◆毎日新聞

◆朝日新聞

◆日刊スポーツ


◆署名活動

同時期に署名活動が始まったので、樹木保全、神宮球場、秩父宮ラグビー場と焦点が3つにわかれていますが、立ち上げた方たちは連携しているので、現在、もっとも署名数が多い一番上に署名するのがいいかもしれません。

*署名後の寄付は、ダイレクトに署名活動には使われません。Cnange全体の広告費になります。寄付をしなくても署名できます。

仕事に関するもの、仕事に関係ないものあれこれ思いついたことを書いています。フリーランスとして働く厳しさが増すなかでの悩みも。毎日の積み重ねと言うけれど、積み重ねより継続することの大切さとすぐに忘れる自分のポンコツっぷりを痛感する日々です。