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物語の力のよみがえり

たった一晩を越しただけなのに、1月1日になると、その年の未来を考えるようになる。2022年は不安定ながらも、それまでと同じように平穏な時間を過ごせるのではないかと考えていた生活が一気に下り坂に向かっているように思える年だった。実際に下り坂に向かっているのかもしれないが、そう言い切ってしまうと、本当になりそうで、断言することが恐ろしい。

そんな先行きに暗雲を感じた2022年だったが、一方で日差しの温かさにも似た変化も感じた。「物語の力」のよみがえりだ。

2011年に東日本大震災が起きたとき、「物語の力」について触れた文章が多かった。人と人を結びつけ、共鳴を呼び起こす「物語」がそれまで以上に必要になること、震災をどのように自分たちの物語として綴っていくのか、ということなどが語られていた。

震災から5年ほどの間は、ノンフィクションが持つ「物語の力」が強かった。人々の声を聞き、それらの言葉を文章として結び合わせ、時間の流れに定着させていく。生々しさが色濃い間は、フィクションとして描くよりも、ノンフィクションのほうが、自然に心を響かせやすかったのだと思う。

それがさらに時間が経ち、昨年はフィクションの「物語の力」が増してきていると感じることが多かった。ノンフィクションもフィクションも、誰もが共通して抱いている強さと弱さ、迷い、喜びなど、心の動きを描くという本質は、同じだと思っている。表現や伝え方が違っているだけだ。

私たちは、東日本大震災によって、自分たちが信じてきた物語を足元から大きく揺さぶられ、それまで信じてきた物語では未来を描けないと気づいてしまった。新たな物語が必要だった。しかし、本物の物語が生まれるまでには、時間がかかる。形のない心の揺れや感情の塊にふさわしい言葉を探し、文字として目に見える形に浮かび上がらせるには、熟成するための時間が必要なのだ。

その熟成が進んできたのだろう。新しい物語の萌芽が少しずつ育ってきているのではないか、と感じる作品が昨年は多かった。

おそらく今年は、新しい物語がさらに育つか否かの年になるような気がする。今の流れが広がり、豊潤になっていけば、私たちはきっと「なんとかなる」という希望が持てる。だが、この動きが叩きつぶされるようなことがあれば、未来は遠くなってしまう。

希望を感じる物語が増えて欲しい。そんな物語にもっと触れたい。そう願う2023年の幕開だった。

仕事に関するもの、仕事に関係ないものあれこれ思いついたことを書いています。フリーランスとして働く厳しさが増すなかでの悩みも。毎日の積み重ねと言うけれど、積み重ねより継続することの大切さとすぐに忘れる自分のポンコツっぷりを痛感する日々です。