爪楊枝

「PCR検査の結果は陰性でした。断言はできませんが、感染の確率は極めて低いと思われます」
医者はまだ若く、元気だった。暇を持て余しているわけでもなく、疲弊しているわけでもなさそうだった。理想的な職員だ。
「ほかに気になることはありませんか?」と彼は尋ねた。
「そういえば」と僕は言った。
「足の裏にですね、爪楊枝が刺さっておりまして」
彼は目を見開き、聞き返した。
「そのですね、昨晩、奇跡的な角度で爪楊枝を踏みつけてしまいまして」
「今、刺さっているということでいいですか?」
僕は頷いた。それから靴を脱ぎ、靴下を剥ぎ取り、爪楊枝を包み込んだ足の裏の肉を示した。爪楊枝は昨晩よりも赤黒くなり、より僕の肉体に馴染んでいた。
「思ったより深そうですね。今すぐ救急に引き継ぎます」

それで、僕はトボトボ歩いて救急の窓口に行き、その場で切開手術をしてもらうことになった。局所麻酔の針を刺された時が一番痛かった。深いところまで刺されたから。
そのあとは痛みを感じなかった。いつのまにか切開が終わり、金属製のプレートの上には僕の身体の一部分になり損ねた木片が赤ん坊のように載せられていた。じっと見つめ続けていると、
「持って帰りますか?」と医者が尋ねた。僕は首を横に振った。

手術自体はすぐに終わったのだが、止血に苦戦した。何しろ、僕の血液はサラッサラなのだ。化膿止めのために抗生物質の点滴を受けることになった。始まって3分で吐き気がしたので、その事を告げると点滴は中止になった。

病院を出て、自家用車に向かって歩きながら、どうしてみんな、僕に優しくしてくれないのだろう、と考えた。僕はもっと、こう、甘やかされるべきなのだ。

自家用車に乗り込むと、フロントガラスに白いねばねばしたものが吹きかけられた。見上げるとカラスがガーガーガと鳴いた。今夜は焼き鳥を食べてやろうと思った。

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