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Filecoinネットワークのレジリエンス

この記事では、Filecoinネットワークのレジリエンスについて議論します。

原文はこちら:https://medium.com/cryptoeconlab/resilience-of-the-filecoin-network-d7861ee9986a

TLDR

  • Filecoin は、プロトコルの設計に組み込まれた反脆弱メカニズムにより、大幅なパワーの低下に対するレジリエンスがあります。

  • このメカニズムは、パワー低下後も、新規のストレージプロバイダー(SP)がネットワークに参加し、既存のSPがネットワークにとどまるための強力な経済的インセンティブを提供します。

  • 具体的には、大幅なパワー低下が発生した後、報酬が急激に集中するため、ネットワークにオンボードされたパワーは、より大きな報酬を得ることになります。

はじめに

Filecoinは、人類の最も重要な情報を保存する分散型データストレージネットワークです。SPは定義された契約期間中、ネットワークにストレージ容量を提供し、見返りにブロック報酬を受け取ります。契約が守られることを保証するために、FILトークンによる担保が必要となります。担保の金額と受け取るブロック報酬は、オンボードされるパワーの種類(空の容量か実際のデータか)に基づいて異なります。
レジリエンスとはどういう意味でしょうか?Merriam-Webster は、レジリエンス(resilience)を「不運や変化から回復したり、容易に適応したりする能力」と定義しています。レジリエンスは Filecoin のようなクリプト経済の多くの側面に関連しています。例を挙げると、51% 攻撃、シビル攻撃フィニー攻撃などがあります。この記事では、レジリエンスの特定の側面、すなわちパワー・ショックに対する Filecoin ネットワークのレジリエンスに焦点を当てます。Filecoin におけるパワーとは、ネットワークが提供するストレージとデータの量を意味します。パワー・ショックは、さまざまな理由でSPがネットワークから脱落することによって生じます。

まず、定量的な答えを得るため、回復力に関連する質問を精確に設定することから始めましょう: Filecoin Network は、SP の内相当の割合が、次のように行動することで実現するパワー低下シナリオに、どのように対処するのでしょうか:

  1. ストレージ契約を完了した後、ネットワークから期限を迎えたパワーを取り除き、円滑に退出する。

  2. ストレージ契約を終了日以前に突然終了させ、ネットワークにショックと突然のパワー喪失を引き起こす。

モデリング

どのようにすれば、法則性のある形でネットワークのレジリエンスをモデル化し、私たちの予測が確実にFilecoinのクリプト経済学のメカニズムに従うようにできるのでしょうか?私たちは、Filecoin経済のエージェントベースモデル(ABM)を使用したアプローチを採用しました。ABMは、環境および環境と相互作用するエージェントで構成されています。今回の ABM では、環境は Filecoin のクリプト経済メカニズム(ロック、権利確定、鋳造、そして、これらのトークン供給の側面間の相互作用など)を実装し、エージェントは SP を模擬します。私たちのFilecoin ABM の詳細については、この記事を参照してください。

レジリエンスを理解するため、私たちはFilecoin ネットワークにおける 3 種類の SP を模したエージェントを構築しました:

  1. コミット済みキャパシティ(CC)セクターのみをオンボードする SP

  2. 取引セクター(Fil+)のみをオンボードする SP

  3. CC セクターと取引セクターの両方をオンボードする混合型SP

各SPは、以下のいずれかにしたがって行動することができます:

  1. ドルコスト平均化行動 - エージェントは、終了日まで、あらかじめ設定された一定量のパワーをオンボードし、更新します。終了日を過ぎると、当該エージェントはネットワークを去ります(パワーの満了または終了を通して)。

  2. 適応型ROI行動 - このモードでは、エージェントはFIL-on-FILリターン(FoFR)の予測を使用し、予測されたFoFRが設定された閾値よりも大きい場合、どれだけのパワーをオンボードするかを決定します。

これらのエージェントと環境仕様を用いて、パワー・ショックのシナリオが起こりうる異なるネットワーク状態を表す、いくつかの反事実シナリオを構成します。ネットワーク状態を、ネットワーク内で動作するSPのタイプの分布として定義します。各ネットワーク状には、それぞれ独自の生バイトおよび品質調整済みパワーのプロファイルがあり、それらによって異なる鋳造、担保、および FoFRの ダイナミクスが導かれるため、異なる結果となる可能性があります。テストするネットワークの初期状態は以下のとおりです:

  1. CC、FIL+、および混合型SPの均等な分布

  2. CCとFIL+マイナーのみの均等な分布

  3. FIL+とCCのマイナーがそれぞれ70/30の割合で分かれた状態(FIL+ 偏向)

  4. FIL+とCCマイナーがそれぞれ30/70の割合で分かれた状態(CC偏向)

これらの開始点より、ネットワークのパワーが現在の値から30%または70%低下する場合の反事実ケースをシミュレートします。ネットワークパワー低下には、2つのバリエーションが考えられます。a)ネットワークから徐々にパワーが取り除かれるか、b)ネットワークからパワーが遮断されるかです。
シミュレーション・マトリックスを要約すると、30%または70%のネットワークパワー低下を、段階的なセクター満了プロセスまたは即時終了イベントを通じて生じさせ、これらをさまざまなネットワーク開始点についてシミュレートします。各構成をシミュレートし、ネットワークの主要性能指標(KPI)を記録します。

結果

図1は、パワーが徐々に期限を迎えた場合の様々なネットワークKPIを示し、図2は、パワーが突然遮断された場合のネットワークKPIを示しています。

徐々に離脱するケースと突然終了するケースには若干のニュアンスの違いがありますが、どちらのパワー損失シナリオにおいても、終了イベント後にネットワークパワーが回復し始めることが観察されました。回復が起こるのは、報酬の集中が強化されることによりFoFRが増加するためです。
その仕組みは、次のようになっています: 終了後、ネットワークパワーは急速に低下しますが、QAセクターあたりの正規化報酬は逆に増加する効果があります。担保量の減少と相まって、報酬の集中が起こり、FoFRが急増します。このネットワーク条件の組み合わせによって、ネットワークにとどまる参加者は高いFIL-on-FILリターンを得られます。私たちのシミュレーションはこの現象を反映しています。ここでは、エージェント(合理的アクター)は高いFIL-on-FILリターンを目の当たりにし、より多くのパワーをオンボードして利益を得ます。これにより、ネットワークのパワーは回復します。

更なる詳細、追加シナリオ、そして考察が、この詳細な報告書に記載されています。


SPがネットワークを去るいくつかの条件下におけるFilecoin ネットワークの KPI。破線の縦線はシミュレーションの開始を示し、点線の縦線はパワーがネットワークから離脱し始める日付を示す。一定のオンボーディングをシミュレートするためにDCAAgentを使用したベースラインのケースも、比較の基準となるようにシミュレートされている(黒い点線)。


SPがネットワークへの参加を終了するいくつかの条件下におけるFilecoin ネットワークの KPI。破線の縦線はシミュレーションの開始を示し、点線の縦線はパワーがネットワークから離脱し始める日付を示す。一定のオンボーディングをシミュレートするためにDCAAgentを使用したベースラインのケースも、比較の基準となるようにシミュレートされている(黒い点線)。

結論

この研究では、Filecoin ネットワークのネットワークパワーショックに対するレジリエンスを調査しました。私たちは、報酬の集中が残りのマイナーの収入を増加させるため、ネットワークは回復力があり、ベースライン回復メカニズムがあるため、反脆弱であると結論づけました。

この記事はcryptoeconlab.ioに掲載されました。