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株主総会ハイシーズンを終えてホッとしてるあなたへ捧げる(後編)―IR担当者が社長を支える4つのキーポイント

株主総会ハイシーズンを終えてホッとしているIR担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。前編に引き続き、わかっちゃいるけど株価におもい悩む社長の本音にIR担当者はどのように対応すればいいか?を3人で話してみました。忙しいIR担当者の方々のお役に立てれば幸いです。

株主総会ハイシーズンを終えてホッとしてるあなたへ捧げる(後編)
IR担当者が社長を支える4つのキーポイント

出席者:
S:上場企業・IR責任者・執行役員 S氏

(Figuroutのメルマガ・コラム執筆者)
都市銀行、M&Aコンサルティングを経て、IR支援会社にてラージキャップからスモールキャップにいたる上場企業のIR/SR支援に従事。IR支援会社在籍時は、平時のIR/SR支援はさることながら、アクティビスト対応やプロキシーファイト対応などにも関与。その後、事業会社に転じ、IR責任者を経て、IR部門を管掌する執行役員に就任。経営学修士・ファイナンス修士
N:株式会社 Figurout CEO 中村研太
J:モデレーター・株式会社 Figurout 池松潤
※敬称略・以下(S・N・J)


前編「まとめ」▼5つのポイント▼
①:そもそも、社長や経営陣と「前提の共有」が大事
②:そもそも、「社長と信頼関係が構築できているか」が大事
③:「IR責任者と社長との対話力」と「市場との対話力」は違う
④:「最後に責任を負う社長」を支えるためのIR担当者がやるべきこと
⑤:相手の意を汲む「コミュニケーション力」をひも解く
▶ https://note.com/figurout/n/n939992164f5d



※後編は、前編をふまえて、実際にどうすればいいかを深掘りしていきたいと思います。

J:さて、前編ではそもそも論的なお話を伺いましたが、後編では実際のヒントになるような「深掘り」をしたいと思います。

S:そうですね。IRは、正解のない仕事だと思います。株価が上がったり地合いがどうなるか等、自分では制御などできません。それに理不尽に感じるような、市場に「遊ばれる」ことだってあります。だから「IR担当者には、正解を求める人は向かない」と思います。これが、自分のIR観を養うきっかけになれば嬉しいです。

※「市場に遊ばれる」とは:
予想外の株価変動・誤解されたメッセージ・短期的な視点の影響ばかりだけでなく、信用取引やそれに伴う空売りや思惑売買など、様々な取引により「市場に遊ばれる」と感じる理不尽な状況のこと。

J:まったく同意です。ハックすると本質を見誤りますね。とは言いつつ、読者の方の期待にも応えたいので、後編もざっくばらんにお願いします。


1:「アナリストの置かれた立場と習性」をひも解く

J:さっそくですが、アナリストは独自の視点や卓越性を問われる厳しい仕事だと感じるのですが、IR責任者であるSさんから見た「アナリストの習性・特性」とは一言でいうと何なのでしょう?時短読者へのサービスで端的にお願いします。

S:そうですね。多種多様でひと言では難しいのですが、あえて言えば、主な特徴として以下の3点があると思います。

①:企業価値を横比較する必要がある
②:文脈から独自の視点によって他と差別化したい
③:スピード重視。タイムリーであること。

J:まさに、これが相手の立場にたって考える一歩目で、その特徴ということでしょうか?

S:そうですね。アナリストの先に株を買っていただく投資家がいます。ですのでその先を見据えて考えるのですが、まずはアナリストの置かれた立場と習性・特性を理解しておく必要があると思います。

J:アナリストとの対話力を高めるための第一歩ということですね。社長が株価におもい悩むのをサポートするために、アナリストとの信頼関係を結ぶ。なるほど。だんだん言うは易し行うは難しになってきました。さらにお伺いしたいと思います。


2:「IRの仕事はアート」されどアートはサイエンスしないと意味がない

S:私はIRの仕事は好きなのですが、それはアルゴリズムにはできない要素があるからだと思うのです。だって機械でできるなら私はいらないじゃないですか。対話力や、そのための準備には、自分しかできないスキルが活きている。これってアートだと思うんです。でもIR担当者はアーティストではありません。再現性が必要です。それに前編でもお話しましたが、そもそもIRとは「株価を上げるものではなく、適切な株価にすること」なのです。だからアートをサイエンスしなければ意味がないのだと考えます。

N:まさにその通りですね。まだまだですが、我々も時間をかけてきたのは、IRをサイエンスすることです。「目に見えなければ改善することはできない」とは、ドラッカーの名言ですが、IRのPDCAを回していくためには必要なことだと思います。IRとは、属人性の高い暗黙知になりがちな活動なので、それを組織知にしていくのは重要なのだと、クライアントを通じて感じているところです。

J:なるほど。これって「IRを科学する」って本になりますね。この辺はもっと深掘りしたいですがスペースに限りがあるので、続きはセミナーでお願いします。ええ登壇の根回しです。笑


3:社長はファイナンスのプロではない「だからIR担当のコミュニケーション力が重要」

J:「自分のIR観を養わねばならない」ということは分かってきたのですが、「分かっちゃいるけど株価にイライラする社長」をサポートするためには、何が必要なのでしょうか?

S:社長はファイナンスのプロではないわけで(そうならベストだけど)ファイナンス理論を噛み砕いて理解してもらえばいいわけです。細かいファイナンステクニック論ではなく、ツボを把握してもらえることが大事です。ファイナンスのプロへのコミュニケーション力は、IR担当者がサポートすればいいのだと思います。そのためにも、いろんなことを想定して準備が肝要になってくるのではないでしょうか。


4:社長の器を広げることはできない「されどIRができることは多い」

J:色々と現場力が試される話が増えてきました。が、とはいえ「分かっちゃいるけど株価におもい悩む社長」が思わずイライラを口に出しちゃったり、SNSで炎上したりするのって、社長の人間の器の問題だと思うんですよね。それって部下は言えないですよね。どうすればいいのでしょう?

S:まぁ。確かに「社長の器以上に会社は成長しない」ってのは事実です。がしかし、前編からお話ししているように「されどIRができることは多い」と思います。それは目に見える成果がすぐに出るものではないかもしれません。重ね重ねになりますが、自分のIR観をもって、引き出しを増やして、適切な対応をスピーディーに行うには、ある意味で「打席に立つ」数が必要です。また、それを評価してもらうために努力するのもIR責任者の仕事だと思っています。まさに頑張っている途中です。

J:いやぁ。本当にいろいろありがとうございました。読者の方には「そこ!どうやってるの?」とか「そこの深掘りが聞きたい!」とか生まれると思います。この続きはイベント・セミナーができればと思います。今日はありがとうございました。

N:Sさんの毒舌部分は、程よくデフォルメさせていただきますが、お忙しいところ今日はありがとうございました。メルマガ執筆など今後も引き続きよろしくお願いします。


編集後記 ―現場で使える「IRの科学」について

J:今回は時短コンテンツを意識したので、ある意味でデフォルメしましたが、IR担当者の「そこが知りたい」に近づければ幸いです。振り返っていかがでしたでしょうか?

N:「ニーバーの祈り」(アメリカの神学者)というフレーズがありますが、株価と向き合っているとこのフレーズを思い浮かべます。

変えることのできないものを静穏に受け入れる力を与えてください。
変えるべきものを変える勇気を、
そして、変えられないものと変えるべきものを区別する賢さを与えてください。

企業価値に対する上場企業経営者のスタンスとして、

  • 気にして振り回される

  • 変えられないものとして無視する

という2つのスタンスがありますが、どちらも不適当。

  • 変えられる部分と変えられない部分を見極めて、変えられるところに対して適切な努力を行う

ということが必要です。
見極めるサイエンスと、受け入れ、変えるアートとの両立が求められるということなのかなーと。


ここまで読んで頂いた方へ。貴重なお時間を割いて頂きありがとうございました。またnoteでお会いしましょう。

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