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なぜD’sインターナショナルは方南のスポンサーになったのか

いきなりではあるが、皆さんは「プリンス・オブ・ストライド」という作品をご存じであろうか。2012年からKADOKAWAの『DENGEKI Girl’s Style』という女性向けゲーム雑誌上で展開され、計7巻のビジュアルノベルが刊行。2016年1月から3月までTVアニメが放映、そして、その年の12月から今年の6月まで2.5次元舞台が行なわれてきた。この作品は、「ストライド」と呼ばれる5人とリレーショナーと呼ばれる伝達係1名、1チーム計6名で障害物が設置された街中をリレー方式で走る「架空」のエクストリームスポーツを舞台にした高校「青春部活ストーリー」である。
私は、この作品が大好きである。女性向けの作品であることは確かではあるが、作品自体の「熱さ」というのと登場人物の心境がとても伝わる作品で、本当に胸が熱くなった作品であった。ちなみに、この作品に初めて触れるのであれば、アニメ版の「オルタナティブ」がお勧めである。一部のストーリーはゲーム版等と異なる点はあるが、やはり視覚情報もあるのでストライドという競技がどんなものであるのかが分かりやすくなっていますし、熱さなどの作品の良さもそのままです。

さて、このストライドは高校の部活であっても、高額の費用がかかるスポーツになっています。方南高校に所属する主人公の桜井奈々さんと部員の2年門脇歩のビジュアルノベル1巻の76ページで展開された会話を見ていただきましょう。
桜「一、十、百、千、万・・・・・・・・・・えええっっ!一年でそんなにかかるんですか!」
門「いや、一年じゃなくて試合一回分。」
この会話から試合一回を行なうために最低でも数十万以上が必要なことが分かります。ちなみに、この方南は作品内で10回試合を行なっているので、単純計算1年で数百万から一千万近くは必要になってくるということになりますね。そして、ストライドという競技は市街地で開催されるために準備等で相当の費用がかかります。さらに、作品内において北は北海道から南は名古屋まで東日本の市街地を舞台にしているため移動費もバカになりません。
そのため、通常の学校から出される部活動費だけでは活動は困難であることから、各校のストライド部はスポンサーを獲得して、活動費を賄っています。そのため、各校のストライド部では様々なスポンサー活動を行なっています。例えば、先述した方南高校ではモデル活動、その方南のライバルである西星学園に至っては、その学校に芸能科があるためアイドル活動をしているほどです。

さて、先ほどから話題に上げている方南学園のスポンサーは「D’s インターナショナル(D’s)」というアパレルメーカーです。この会社は、「ハーキュレス」、「アウローラ」、「JSTT」といったブランドを保有しており、お世辞にも流行に強いとは言えない主人公でもそのブランドのポーチを持っているほどに、国内においては大きいメーカーであると言えます。なお、社長は方南ストライド部に所属している3年支倉ヒースの姉、支倉ダイアン氏が務めています。
そのため、作品内においては身内のよしみというような理由でスポンサーをしているという面も出されています。しかし、それだけの理由で大きなお金をつぎ込めるというのは考えにくいでしょう。そこに、方南を生かした「ビジネス」の一面が見えてきます。それは、ここ数年スポーツアパレル用品が成長し続けているということが大きく関わってきます。

公益社団法人日本生産性本部が毎年出している「レジャー白書」にはスポーツ用品の売上げデータが掲載されているのですが、その2017年版を見ると、スポーツ用品の売上げは5年連続で増加し、中でもスポーツアパレルとスポーツシューズの好調が挙げられています。スポーツアパレルの売上げは2011年の2480億円から2016年には2800億円と、5年間で320億円増となっています。
これは、近年のマラソン人気はもちろん、人々の健康に対する意識が高まってきているということも業界の好調につながっています。そういったところにダイアン社長は目をつけたのでしょう。方南とスポンサー契約を結んだ際に新しいブランドとして「runlury(ランルーリー)」を立ち上げたのです。
D’sはこのブランドをスポーツアパレルブランドとして育てていき、先述したように方南ストライド部の部員がこのブランドのモデルを担当させ、方南ストライド部と共に発展させていく考えのようです。

元々、スポーツアパレルというと、ナイキやアシックス、日本のアシックスというようにスポーツシューズなどといったスポーツ用品から立ち上がった企業が多く、強いイメージでしたが、一般向けのアパレル企業の中でもスポーツとの関係を深めている企業も見受けられるようになってきました。その象徴として取り上げたいのがユニクロです。旧ファーストリテイリング時代からオリンピックの日本代表公式ユニフォームを1998年の長野冬季五輪から2004年のアテネオリンピックまで提供し、本社のある山口県に女子陸上部を有するなどスポーツとの関係は深かったのですが、ここ数年では、グローバルアンバサダーとしてテニスの錦織圭選手、ロジャー・フェデラー選手、ゴルフのアダム・スコット選手などといったトッププレーヤーと契約し、ウェアの共同開発、その選手達が着用したモデルを販売するなどスポーツ業界との関係をさらに強めています。ユニクロの場合、グローバル企業、ブランドとしての「ユニクロ」のイメージを良くしていき、海外におけるブランド力を高めたいという考えもあってスポーツを有効活用していっているのでしょう。これは、D’sも同じような考えではないでしょうか。ストライドという競技はアメリカなどでも盛んであるため、海外展開をする際にもこの競技を活用することは十分可能です。作品内では、D’sが海外展開をしているといった描写はなかったが、国内でも有数のメーカーであるならば、海外展開していてもおかしくはないし、もししていなかったとしても、国内での更なる市場の拡大、海外展開を見据えている可能性は高いでしょう。

これらのことから考えても、D’sが方南のメインスポンサーになったのは「身内のため」だけでないことは明らかであり、D’sが自社の発展を考えた企業戦略の一環でスポンサーになったことが分かります。
スポーツクラブ(今回の場合は部活)とスポンサー企業というものは、一方的な関係ではなく、共に発展していく「パートナー」であるという関係が望ましいと私は考えます。物語の続編となるドラマCD「Autumn Fes.」では、方南のライバル校の一つである千葉の市場高校が、ある事件(高校自体は関係ないのだが)によってメインスポンサーが撤退し、部の存続危機に陥っているということが語られるシーンが出たり、夏の東日本大会である「エンドオブサマー」の決勝トーナメント前夜祭のシーンでは、スポンサーの関係者が「こちらが確実に黒字になればいい」という発言をしたり、西星学園のスポンサーに至ってはアイドルとしての人気にあやかりたいだけというように、高校のストライド部全体としてスポンサーに対して完全に受け身になってしまっています。
この関係では、ストライド人気が落ちてきたときに一気にスポンサーが離れ、高校ストライド全体が存続の危機に陥るのは目に見えています。いかに各ストライド部とスポンサーが「パートナー」と言えるような存在になるか。今回の方南とD’sの関係が高校ストライドの未来を明るいものにしていくのかもしれません。
それは、現実のスポーツ業界にも言えることでしょう。いかに、地域のスポーツクラブと企業が良い関係を築いていけるのかが、今後のスポーツ業界の発展に欠かせない問題の一つになってきます。

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