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南極経由、宇宙行き。|10年前の南極越冬記

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2009-10、南極の昭和基地で越冬生活を送っていた当時、書き綴っていた紀行文。それらを10年が経ったのを機にまとめたものです。noteの予約投稿機能を使って、当時の日付から10… もっと読む
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2019年10月の記事一覧

南極のバトン

#10年前の南極越冬記 2009/5/10 ちょうど10年前になる。当時、僕は越冬隊員として南極にいて、こんなことを書いていた。 ◇◇◇ 日本を離れる半年程前、ある雑誌のインタビューの中で「南極に行ったら何が一番楽しみですか?」と聞かれたことがあった。すごく当たり前の質問だったけれど、不思議と僕はそう聞かれるまで、そんなことを考えたことがなかったな、という事に気付いた。少しだけ考えて「1年以上もの間、28人だけの閉ざされた世界。そこでの生活が、いったいどういうものになるか

内陸の恐ろしさ

#10年前の南極越冬記 2009/5/28 ちょうど10年前になる。当時、僕は越冬隊員として南極にいて、こんなことを書いていた。 ◇◇◇ 僕らが足を踏み入れる可能性のある昭和基地周辺の主な地形に、「沿岸露岩帯」「海氷」そして「内陸」がある。そのうちの「内陸」に6日間、基地を離れ、僕を含め7人のメンバーで行って来た。当初は5日間の予定だったけれど、現地でブリザードによる停滞を余儀なくされてしまい、基地への帰還が1日遅れてしまった。 今回の内陸オペレーションの目的は、前次隊

南極経由、宇宙行き。 |経由地から10年が過ぎて

ちょうど10年前になる。当時、僕は越冬隊員として南極にいて、こんなことを書いていた。 ◇◇◇ 少年の頃、どこからだったか黒曜石を手に入れて来て、本に載っていた写真を真似て旧石器時代の人たちが生活に使っていたという刃物を作った。まさか切れるはずが無いと、おもしろ半分に自分の親指に刃先を押し当て、今でも残る小さな傷跡を作ってしまった。僅かだが自分の掌を伝い、流れ落ちる血の滴を目にした時、恐怖心とは少し違う感覚、石から道具を生み出した人々に対する畏敬の念を覚え身体が震えた。思え