見出し画像

最適な視聴覚教育機材として進化! 更なるコストダウンで大きく普及!日米統一規格に対応した普及型 〜 『P型』テープレコーダー

『ソニー技術の秘密』にまつわる話 (15)

1951(昭和26)年5月、
視聴覚教育の需要に大きく応え、学校を中心に教育現場で広く活躍し始めた『H型』テープレコーダーの後継機として、東通工 (現ソニー)の技術者・木原信敏は既に次の製品開発に取り掛かっていました。

「H型の後継機としてさらに安い普及品を作ること」

を目的として、木原は『P型』テープレコーダーの開発に着手、急ピッチで試作が進められていたのです。

どうすれば、より安くできるか?

販売台数の増加による大量生産で『H型』は、学校を始めとする教育機関が予算を付けやすい価格帯まで、その価格を下げることには成功しましたが、大衆商品として家庭に普及を促進させるには、更なるコストダウンが必須だったのです。

一番のネックになっているのはモーターの値段でした。

『H型』に採用されていた部品の中で、モーター部分は群を抜いて高価で、性能も放送業務用としては最適でしたが、普及型テープレコーダーにはもったないほど良質のものでした。

そこで木原が思い出したのが、子供のころ遊んでいた鉄道模型に使われていた「ブラシモーター」でした。

「ブラシモーター」は性能が落ちるとはいえ、テープレコーダーで使用するテープを巻き取る程度であれば十分で、何よりも 軽量で安い。
木原はこのモーターのコイルの巻数に手を加え変更し、100Vの家庭用電源で動くように改良したのです。

さて、この頃になると『G型』テープレコーダーの販売も円滑に進み、『H型』テープレコーダーの評判もよく、また国内においてはテープレコーダー自体の存在が一般に普及し始め、同時にアメリカ製の輸入品も一部入ってくるようになっていました。

しかし、これに伴い新たな問題が浮上します。
アメリカ製のテープレコーダーの記録の規格が、『H型』の規格と互換性が取れないということでした。

東通工が独自で製造し販売していた『G型』『H型』では6㍉幅の規格のテープが採用されていましたが、アメリカ製のテープレコーダーで採用されていたテープの幅は1/4㌅ (約6.35㍉)と幅がごくわずかに広く、東通工の機械では走行させることができなかったのです。

画像1

『P型』テープレコーダーでは、それまで統一されていなかったテープ幅を、日米統一規格として1/4㌅テープ幅に統一し、海外製のテープレコーダー製品との互換性を実現させます。

アメリカ製のテープ幅は四分の一インチ規格ということで、東通工のテープ幅より若干幅広でしたから、これを東通工の機械にかけても走行できないのです。無理に動かすと、テープのエッジ部分がめくれて、テープを傷めてしまうことになります。
 これに気づいた我々は、対応策として、切り込み幅を四分の一インチ幅にしたテープガイドと交換することと、今後作るテープの幅を四分の一インチ幅規格にすることで、幅の問題に決着をつけることができました。
 まもなく、第二の問題が発生しました。それは、アメリカの規格がまたまた変更されて、テープに記録するトラックを二本にすることに決まったのです。それまではテープ幅いっぱいに記録していましたから、トラック数は一本です。テープは、最初のところから記録して最後まで使うとそこで記録は終了し、次にリワインドをして、例えば三〇分の再生ができました。
 新しい規格では、トラック幅を半分にして、行きは下半分のトラックを使い、帰りは両方のテープリールを裏返し、もう片方のトラックを使って、トータルで二倍の、例えば三〇分の二倍の一時間の記録ができるようにしたのです。

ソニー技術の秘密』第2章より

1952 (昭和27)年3月、
テープ幅1/4㌅『P-1型』価格75,000円で発売。

1952 (昭和27)年7月、
さらに、テープをハーフトラックずつ使用 (テープを裏返して上下を逆に) することでさらに録音が可能な、アメリカの新しい規格に合わせた改良型『P-2型』を発売。

画像2

また、『P-2型』では、オプションの1/2速度のキャプスタインピンチローラーを取り付けることで、さらに長時間の録音が可能でした。

この『P型』は、『H型』の価格 84,000円から75,000円と価格が下がり、音質や音量も向上しており、同時期に開発が進められていた『オートスライド』(テープと連動し画像を切り替え表示するスライドプロジェクター)のコントロール機能を搭載し、「視聴覚教育機材」として最適なものとなり、学校をはじめとする教育分野を中心に広く普及することになり、東通工によるテープレコーダーの販売数は右肩上がりにさらに伸びていくことに。

ちなみに、『H型』テープレコーダーと、この『P型』テープレコーダーはラジオチェックにも対応しており、これらの機器の研究開発時に木原は、創業者の一人 盛田昭夫 からNHKのクラシック放送の録音をよく頼まれていたそうです。

文:黒川 (FieldArchive)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?