盛田昭夫の言葉から、社会人としてのあり方を学ぶ〜「学歴無用論」 盛田昭夫 著 (文藝春秋 1966)
ソニー創業20周年、銀座ソニービルが開館 (2017年に閉館) した 1966 (昭和41) 年 に文藝春秋より発刊された『学歴無用論』は、ソニー創業者の一人 盛田昭夫 が45歳、ソニー副社長の時に書かれた最初の経営書でした。
“この本が出版された頃から日本では学生運動が盛んになり始めていた。その背景の一つとして「学歴主義」の弊害が取りざたされた。学生たちは、学歴によって「日本帝国主義」の尖兵として、あちこちの企業に振り分けられることを拒否するという趣旨の発言を繰り返した。にもかかわらず高学歴を求める世間の風潮は改まらず、"受験戦争"は教育のあり方を歪めていた。盛田の本はそういう風潮に大きな一石を投じたのだ。”
「小説 盛田昭夫学校 上」第8章 学歴無用論 より
日本企業においての人材のあり方を、当時のアメリカ実力主義の風土と比較することで、「年功序列」と「学歴主義」が横行する「日本独特の社会風土」へ警鐘を鳴らし、「学歴」というフィルターに依存し、社員個々の才能を活かしきれない経営者への意識改革を促し、発売当時大きな反響を得たのです。
“その人が、どの大学で、何を勉強してきたかは、あくまでもその人が身につけた一つの資産であって、その資産をどのように使いこなして、社会に貢献するかは、それ以後の本人の努力によるものであり、その度合と実績とによって、その人の評価が決められるべきである。”
『学歴無用論』学歴偏重への疑問 より
新たに社会人への道を歩む若い世代に向けては、
「自身の能力に対する正しい認識」
を持ち、
「才能と情熱が生かせるスペシャリスト」
になる重要性を説いており、その力強いメッセージの数々は、半世紀を経た現代においても色あせることはありません。
“いまや、歴史の流れそのものが、個性尊重、ひとりひとりの能力を伸ばしていくことこそ第一義であるという考えを、常識化しはじめている。従来の、上から命じられた仕事をただ命じられたようにやる、ソツなく勤勉に仕事を流すという、忠実で協調性に富んだ社員は、遠からず求められなくなろうと思う。それにとってかわるものは、個性的な能力と正しい判断力と機動性に富んだ社員である。”
『学歴無用論』スペシャリストになりたまえ より
さらに、東京通信工業として創業してからの「世界のソニー」への歩みを自ら分析し、社名の付け方、ブランド力の大切さ、アイデアを事業化する技など、会社をいかにステップアップさせるかについての普遍的な考え方を、机上の空論ではなく、自身の実務の中から得た経験から紹介されています。
“ 発展の大きな要因は、あいつぐ新製品の開発であったし、過去の歴史が示すとおり、技術中心で進んできた会社であることは、否定し得ないところである。しかし、一方に、独特な販売努力があったことを見逃すわけにはいかない。見方によれば、その技術開発と同様、その販売努力も高く評価されるべきであると信じている。“
『学歴無用論』ソニーの歩み より
戦後の荒廃した焦土の中から生まれた東京通信工業を、わずか17年で「世界のソニー」へと成長させた創業者本人の視点から真摯に語られた本書は、盛田昭夫の考える「合理主義」と「能率主義」の精神を、丁寧かつ厳しい視線を持って書かれているのです。
“ 個性的な人材をきらって、協調性、協調性と一つ覚えのように繰り返していることは、大変なあやまりだと思うのである。組織として、集団としての秩序を重んじるあまり、協調性を要求するのであろうが、それでは、従業員全員に「もの言えば唇寒し秋の風」といった気持ちを植えつけてしまう。可もなく、不可もなく組織に組み込まれていれば安全、という気持ちになっては、企業も人も発展は望めない。大いなるマイナスである。“
『学歴無用論』個性もハーモニーを尊べ より
盛田昭夫が『学歴無用論』に残した「合理主義」と「能率主義」の精神は、起業家・経営者の方のみならず、既に社会で活躍されている社会人の皆さん、これから社会へ出る就活生の皆さんが、
「自分は社会の中でどのような立ち位置で、
何を成すべきなのか」
を考える機会を与えてくれる、私たちへの「応援の書」でもあるのです。
文:黒川 (FieldArchive)
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