言い返せなかった女の話

小学校時代、あたしは本の虫だった。
何も、はじめから本の虫だった訳では無い。
きっかけは、クラスの中で起きたいじめだった。

あたしは自分で言うのも何だけれど、ドがつくほどの素直な人間で、思った事をそのまま口に出したり行動したりしてしまうタイプだ。
幼少期はそれがかなり顕著だった。

あまり良くない行動をしてるクラスメイトがいたら怒って注意するし、これは良くないなと思ったことはすぐに先生に報告した。

つまるところ、KYである。死語かもしれないが。

さて、私が通っていた小学校は田園風景が果てしなく広がる中にあった。
子供の数はめちゃくちゃ少なく、一学年30人いたらかなり多い方くらいには生徒数がめちゃくちゃ少なかった。
あたしのクラスは16人しかいなかったし。
たしか、当時は全校生徒で120人くらいだったか。
そんなクソ田舎の小規模小学校にある事が流行った。

それがいじめだった。

当時、小学生がいじめをきっかけに死ぬ事件が大々的に報道されることが増えていき、それに合わせていじめというものが認知されて、日本の小学校は空前のいじめブームになった。

まあ、これは私が当時そう感じてただけなので本当はどうなのか知らないけれど。

私の学年には、1番背が高くて1番流行に聡い女の子がいた。彼女は何を思ったのか、バカに素直で目立つあたしをいじめの標的にした。
理由は知らないけども。

その女の子のタチの悪いところは、クラス全てを掌握するような謎のカリスマ性があったところだ。
クラスには男子と女子のツートップがいて、女子はその女の子。女の子は男子のトップも巻き込んで、なんとまあ、クラス全員であたしをいじめの的にした。
その才能活かしてもっといいこと出来ると思う。

違和感を感じたのは、休み時間にみんなで遊んでいる時、やたらと鬼ごっこで鬼にされること、挨拶を無視されること、こっちを見てヒソヒソ話しているのを目撃することが増えたからだ。
能天気で周りのことに疎いお花畑なあたしは「変だな」くらいにしか思ってなかった。
そしてそれがいじめだと知ったのは、朝、あたしが登校した時にクラスの男子がうっかり口走った「あの人が来た」という台詞。

あたしが「「あの人」ってだれ?」と聞くと、彼は「君のことだよ」とあっさり白状した。

バカね。本当。
あたしも、その男の子も、クラスの子達も。

それからの展開は早かった。
いじめをしていたことが本人に露見したことでバカ女達はみんなで謝罪に来た。

今でも覚えてる。
「ごめんね、でもこのことは先生に言わないで。」
今でも覚えてる。
「いいよ。でももうやらないでね。」

バカね、あたし。
あの時言い返せばよかった。
「絶対に許してやるもんか、先生に言ってやる」
って。

それからのあたしは本の虫になった。
太宰治だったか、誰かの名言で「本を読まないということは孤独ではないということ」みたいな言葉があったと思う。
いや、本当にその通り。
孤独で、行き場所がないあたしには、図書館の本しか遊び相手がなかったのだ。

年間200冊は本を借りて読んだ。
先生たちはその事を大いに褒めたし親も褒めた。

バカね

あたしが本を読んでた理由も知らないで。

バカね

本に逃げて、戦うことも出来なかったあたし。

これが言い返せなかった女の話。

今でもなお、なんて言い返したらかっこいいかななんて思い返したりしてる。

本当にバカね。

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