道を間違えた女の話

仕事を辞めたあたしは、今後のことを決めるために実家に一時帰ることにした。


父は部屋の違約金のこと、健康保険のこと、車を買うことを話していた。
申し訳なさでいっぱいだった。
なんとか質問だけを返して、あたしはただ外を眺めていた。

土砂降りの雨は映画の囚人の心を洗ったけれど、あたしの心は洗ってくれない。

昼食にとマクドナルドに立ち寄った。
マクドナルドと言えど、昼食代を出してくれることでさえ申し訳なかった。

雨の中、店の窓からみたガードレールの白さが眩しかった。

これからのこと、どうすればいいのだろう

不安だけを抱えたまま、実家に着いた。
就活中、散々喧嘩した母親は存外穏やかに迎えてくれた。

荷物を置いてそこそこに、あたしは祖母宅に足を運んだ。実家から歩いて1分もしない所に祖母宅はある。
昨日、友人と訪れた上野で買ったシュガーバターの木をお騒がせした詫びの品として持っていった。
祖母はあたしが帰ることを知らされていなかったのか、顔を見るとそれはそれは驚いていた。


祖母はこれからどうするのかを無遠慮に聞いてきた。
あたしは「まあ、しばらくはバイトかな…」ともごもごと答えた。
そこに、叔母が帰ってきた。母の妹で、教師をしている。
叔母もこれからどうするのかを無遠慮に聞いてきた。

それからは、実に有難い

「まあ、社会は厳しいってことよ。好きな事じゃ生きていけないの。」

「あんたはまあ、大学で好き勝手楽しく過ごしてきちゃったからねぇ。」

「学校で服の勉強してきたんだしさ、服作りの道に進めばいいのよ。」

「結局、焦って選んじゃったのよ。次はちゃんと考えて選べばいいんだからさ。」



あたしは、好きなことをしたかった。
好きなことをしたくて、1年間必死に就活をした。
誰よりも早く就活を始めるために家を蹴り出されて、誰よりも早く就活を始めた。

それでも、誰もあたしを必要としてくれなかった。

周りは「まだ決まらないの?」と、結果を急いだ。
だから、なんでもいいから、誰でもいいから、と、あたしを必要としてくれた所を選んだ。
好きなこととは程遠かったけど、何も知識のないことだったけど、皆が結果を求めるから、選んだ。
そして、あたしの心の安寧のためにも選んだ。

だって、世界中の誰からも必要とされないなんて、辛すぎるから

その結果が、あたし。

心を病んで、たったの25日で仕事を辞めた女。

あたしはまた涙が止まらなかった。
じゃあどうすれば良かったの。
あたしはどうすれば良かったの。
そう叫んで泣いた。

祖母は困ったように泣いて「誰も責めてないから」と言った。
叔母は「教員ならどこも人探してるから…」と謎のフォローを入れた。

誰もがみんな、心の奥底であたしのことを無能なやつだと思っているし、無駄金を使わせたことを責めている
就職に失敗して、やりたいこともできない馬鹿だと思っている

それは思われて当然のことで、責められて、詰られて、無能のレッテルを貼られるのは、全てあたしのせい

道を間違えたあたしが、全部悪い。
こんなあたしを必要とする人なんて、いる訳が無いのに。


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