普通の人は

“普通の人は、何もないけどなんか死にてえなって思わないんだってな”

2chを徘徊してたら、そんなことを言っている人がいた。
死にたい、っていう思考が日常になる前の記憶さえ曖昧なくらい、ずっとこの、なんか死にたいと付き合ってきた。
それが当たり前だったから、どんな光景なんだろうなってとてもとても気になる。

寝る前とかさ、仕事帰りとか、何もしないでただソファに座ってる時とか、
ふとした瞬間にいつもいつも、アスファルトのひび割れから漏れ出てくる草みたいににじり寄ってくるそいつを、
見たくなくて。鬱陶しいから、何も考えないようにいつもする。

ああしたい、こうしたいって希望や願望はそりゃもちろんあるんだけど、
それが全部叶ったらこのクソうるさい何かは果たして消えてくれるのか。
そもそも、それがなくなった景色自体を知らないから想像することもできない。色を知らない盲人や、ピアノの音を知らない聾唖のように。
こういうとき、途轍もなく世界で1人みたいな感覚になる。外を走ってる車の音さえ嘘みたいに聞こえるし、部屋の中の除湿機とエアコンが動く音だけが実像なんじゃないかとすら思う。

どうしようもないから寝るしかないんだけど、明日起きたらとても健康になってくれって願ったところで、大抵はひどい悪夢と鉄格子みたいな朝。それを、俺たちは経験で知っている。知りたくもないものばかり、知ってる。

死ぬわけじゃないんだよ。ただ、死にたいなってだけ。自分の体調の良し悪しすら、コントロールはおろか把握することさえできないで。
ずっと、何かに脳みそをいじくられいるみたいな。

普通の人は、なんか死にてえなとか思わないらしい。
その風景を知らないから、今日も癌細胞みたいに思考のひとかどで死にたいがマスをかいている。

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