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人や物の移動の未来を支えるモビリティスタートアップ4社登壇【第89回 Growth Pitch 】

モビリティの転換期を支える4つのテクノロジー

福岡市の官民共働型スタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」は、毎月テーマを設定し、そのテーマに関する事業を展開するスタートアップを集めたピッチイベント「Growth Pitch」を開催しています。Growth Pitchには登壇企業のほか、テーマに興味のある事業会社や投資家、メディアなどが参加します。

2024年5月のGrowth Pitchのテーマは「モビリティ」です。「モビリティ」という言葉は、一般的には乗り物を指すイメージがありますが、本特集では人の移動全般、つまり職業の移動や空間の移動など、概念としての移動も含めた物以外の移動を定義としています。

まずモビリティ分野のトレンドを象徴するキーワードとして「CASE」という言葉があります。これは「Connected(コネクテッド=繋がる車)」「Autonomous(自動運転)」「Shared&Services(シェアモビリティなどのサービス)」「Electric(電気自動車)」の頭文字をつなげたものです。さらに最近では、様々な移動手段を統合したサービスの「MaaS(Mobility as a Service)」という概念も注目を集めています。

昨今、先進国では人口減少が進行し、タクシーやバスなどの運転手不足、地域交通需要の減少という課題に直面しています。これに対し、効率化やサービス改善を実現するモビリティ関連サービスが必要不可欠です。市場規模は国内で2035年に約2.3兆円、グローバルでは2050年に新興国を中心に約900兆円の巨大市場になると予測されています。  

CASEの「Connected」は、インターネットに接続された自動車のことです。事故時の自動通報システムや、走行実績に応じた保険料変動、同じ車両の位置追跡などのサービスが可能になります。コネクテッドカーの販売台数は既に従来車を上回っているとされています。

「Autonomous」は自動運転のレベルを示し、レベル1から5まであります。福岡ではスマートシティ構想の一環として、レベル2の自動運転バスの実証実験が行われています。

「Shared」の領域では、ライドシェアがトレンドになっています。日本でも2024年4月に解禁され、複数事業者が参入して市場拡大を目指しています。また、レンタルキックボードのサービスなども広がりを見せています。  

「Electric」は電気自動車に関する領域で、主要国は2035年までに新車販売を100%電動化すると宣言。市場は一時的な成長鈍化があるものの、利便性の高まりとともに需要が拡大すると見られています。

このようにモビリティ分野では周辺産業との連携によって、様々なビジネス機会があると考えられます。本記事では、モビリティの未来を支えるサービスを展開するスタートアップ4社のピッチをご紹介します。法整備やテクノロジーの転換期にあるモビリティにアプローチするスタートアップにぜひご注目ください。

海上通信プラットフォーム「Coastal Link」を開発

フューチャークエスト株式会社   https://futurequest.jp

フューチャークエスト株式会社は、船舶同士や船舶と地上施設間のシームレスな通信を実現する海上通信プラットフォーム「Coastal Link(コースタルリンク)」の開発を手掛けるスタートアップです。このプラットフォームにより、海上通信の課題解決と海難事故防止を目指しています。

船舶通信の一元的なデジタル化を実現

従来の船舶通信は、航空無線や海上無線といった独立した通信ネットワークで行われ、インターネットと切り離されていました。しかし近年、IoTの進展に伴い、船舶通信のデジタル化とクラウド接続のニーズは年々高まり、2040年までには約3.5兆円の市場になると言われています。

フューチャークエストは、港や海岸にタワー型のアンテナを建設することで、インフラ化と一元的な商用環境の構築を目指しています。海上通信プラットフォーム「Coastal Link」は、船舶と陸上設備間の通信インフラを提供。

さらにこのインフラ上で「Coastal Link AIR」というAPIサービスを展開することで、これまで課題となっていた船舶の位置情報や海洋IoTデータ、リアルタイム船舶情報などのデータ活用を実現します。

国土交通省との大型プロジェクトの採択も決定

「Coastal Link」のプラットフォームは、フューチャークエストが設置したVDES基地局を使って海上通信の領域を活用し、エンドユーザー局やアプリケーション、ドローンなどの機器に接続が可能です。今後はこの仕組みを活かし、海上通信のシンプル化を目指します。

今年も去年に引き続き、2年連続で国土交通省の大型プロジェクトにも連続して採択され、大規模な実証実験へと進んでいます。また行政とタイアップしたルールメイキングも実施。国内外との連携を目指した取り組みにも注力しています。

今後は「Coastal Link AIR」を活用した事業化に向けて、船舶ニュース配信や船舶自動運転認証システムなど、さまざまなサービス事業者との協業を目指しています。

瀧本朋樹代表取締役は「これから2026年まで、海上通信の過渡期と言われている。そこに向けてさらなる大型プロジェクトを作っていきたいので、海に対してのマーケットに挑戦してみたい方や企業がいたらぜひお声かけいただきたい」と述べました。

片道レンタカーマッチングサービス「カタレン」を展開

Pathfinder株式会社(パスファインダー)  https://lp.kataren.jp/

パスファインダー株式会社は、片道でレンタカーを利用したい個人ユーザーと、移動が必要な回送車両を持つレンタカー会社をマッチングするサービス、片道専用レンタカー「カタレン」を運営しています。

高額なレンタカーの”乗り捨て”料金に着目

レンタカーを利用する際、借りた店舗や駐車場に返却するのが一般的ですが、旅行のスケジュールや場所によっては、片道だけレンタカーを利用する通称”乗り捨て”ができると便利なシーンもあります。しかし乗り捨てレンタカーは便利なサービスであるにも関わらず、利用実績は10%程度と低迷しています。その理由は、乗り捨て料金が通常の3〜4倍と非常に高額であるためです。

通常レンタカーの場合、1泊2日の往復で1万円程ですが、レンタカーを片道で乗り捨てる場合、別途3万円程が追加されます。この車両移動コストの高さの背景には、車庫法という法律があり、レンタカー会社は、片道利用後の車両を1カ月以内に回送しなければならず、移動コストがかさみ料金値上げを余儀なくされていました。

そこでパスファインダーは、レンタカー会社の回送車両と片道移動ニーズのあるユーザーをマッチングさせるサービス「カタレン」を展開することでこの課題を解決。ユーザーは安価に片道が移動でき、レンタカー会社は回送コストを大幅に削減できるというWIN-WINのサービスを生み出しました。

Maasプラットフォームへの展開も視野に

現在「カタレン」のユーザー数は3万8000人と順調にサービスを拡大中です。レンタカー会社の車両を使う際は各レンタカー店へ足を運び、自社車両の場合は、スマホを使い24時間いつでも利用できる仕組みになっています。

レンタカー会社との連携が必要不可欠なビジネスモデルになっているため、先行者利益が大きい市場です。すでに大手のレンタカー会社とパスファインダー間で業務の連携が成立しているため、現状競合となるサービスはほぼ存在していません。

今後はレンタカーの領域からさらに事業を拡大し、最終的にはシームレスな移動手段提携のMaaS化を目的としたプラットフォームの構築を目指していく考えです。具体的には、鉄道やバスなど他の交通手段とも連携し、一括で予約・決済できるサービスの実現を目指しています。

プレゼンターを務めた原広大さんは「レンタカー会社の路線拡大に向けた車両リースのサポートはもちろん、地方自治体との観光手段としての連携など、地方創生に関わる領域も視野に入れ、協業先を拡大したい」と述べました。

地域を元気にするEVモビリティプラットフォーム

Future株式会社(フューチャー) https://www.futuremobility.fun/home

フューチャー株式会社は、移動の概念を広げ、人、モノ、情報、金融、エネルギーなどあらゆるものの移動をスムーズにすることをミッションに、交通のプラットフォーム企業として事業を展開しています。

ハードとソフトの二本柱で移動の自由を実現

コロナ禍で閑散とする商店街に人の流入を増やし元気にしたいという想いからスタートしたフューチャー株式会社。元F1プロレーサーという異色の経歴を持つ井原慶子代表取締役は、日産自動車の独立社外取締役を務めるなど、モビリティ畑を颯爽と駆け抜けてきました。

創業後は、EVバイクなどのハードウェア製造・販売と、地域ハブアプリの運営という、ハードとソフトを掛け合わせたサービスを展開しています。2035年の非ガソリン化規制に向け、環境配慮型の二輪や三輪のモビリティを自社で開発。またEVバイクシェアリングアプリと連動した地域アプリの運営も行い、飲食店やレジャー施設の予約・決済が可能なアプリケーションを提供しています。

ユーザーニーズに合わせた車体の開発と地域密着型のサービスを武器に、あらゆるモビリティニーズに対応できるソリューションを展開し、移動の自由化を目指しています。

大手企業や自治体と連携してグローバル展開を目指す

2030年までに2兆円に達する見込みの国内モビリティ市場と、4兆円に成長するモビリティプラットフォーム市場をこれからの主力ターゲットに定め、全国の自治体、大手企業とも協業し、車体とシステムのカスタマイズ提供を目指します。

プレゼンターを務めた高橋さんは「街おこしやまちづくりの分野でも、モビリティは重要な施策になってくる。地域密着からグローバル展開へと、モビリティの未来を切り開く企業として成長を続けたい」と述べていました。

都市に新たな葉脈を生み出すシェアサイクル事業

チャリチャリ株式会社 https://charichari.bike/

チャリチャリ株式会社は、スマホアプリを使ったシェアサイクルサービス「チャリチャリ」を展開する企業です。

地域に根差した次世代型モビリティサービス

「チャリチャリ」は、「まちの移動の、つぎの習慣をつくる」を企業理念に、2018年6月に福岡市でサービスを開始。以降、日本国内最速で成長を遂げており、現在は7都市でサービスを展開中です。

登録者数は96万人を数え、1日の利用回数は2万5000回を超えました。現在、福岡市内には約4200台、726ポートが設置されており、福岡市内の主要スポットで利用されています。

非アシスト型の自転車と電動アシスト型の自転車の2種類を1分単位の料金で利用できるのがサービスの魅力のひとつです。英語にも対応しているため、言語を問わず幅広いユーザーが利用可能。スマホ1台で身近に気軽に利用できるサービスとして定着しています。

既存交通機関と連携した持続可能なモビリティインフラ

今後「チャリチャリ」が目指すのは、箱型交通手段の補完を担う"街の新しい葉脈"づくりです。鉄道やバスなどの主要交通機関と連携しながら、シェアサイクルで移動の無駄を無くす持続可能なインフラの実現を目指します。地域に深く根付くことをコンセプトに、地元資本の出資を受けながら展開。自治体や企業、まちづくり団体などステークホルダーとの協業を積極的に図っていく考えです。
具体的には、まちづくり団体や自治体と連携し、エリア内での移動手段を提供。人の流れを作ることで地域の利便性向上を図ります。不動産デベロッパーとの協業も重視しており、マンション内へのポート設置などを通じて、物件の付加価値向上にも貢献しています。
また今後は単なる移動手段の提供にとどまらず、交通ルール周知啓発やキックボードなど他のモビリティとの連携、ソフト面でのソリューション提供などにも取り組み、交通課題の抜本的解決を目指しています。小柴大河公共政策室長は「シェアサイクルを軸に、各地域の移動課題に寄り添ったきめ細かいサービス展開を行い、豊かなまちづくりを実現するための重要なインフラとしての役割を担いたい」と述べました。

文・写真/園田遼弥


今回ご登壇いただいた4社への質問・マッチング等のご希望は随時受け付けておりますので、下記お問い合わせまでお気軽にお問い合わせください。
https://growth-next.com/contact

また、次回は6月13日に第90回Growth Pitch「Web3特集」を開催します。みなさまのご参加をお待ちしております。
https://growth-next.com/event/growthpitch90