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ロボットで医療や製造業の未来を切り開く4社が登壇【第87回Growth Pitch】

アジア圏のロボット産業が急成長

業界横断的な人手不足が叫ばれる中、ロボット技術は、製造業や医療、介護、食品産業、建設業などの幅広い領域で、省人化や作業の効率化を実現する手段となり得ます。

世界のロボット市場は年々拡大しており、2013年から2017年の5年間で市場規模が2倍に増加しました。2023年にはグローバルのマーケット規模が2兆円を超える見込みです。

地域別の産業用ロボットの推定出荷台数は、アジア・オーストラリア地域がトップの成長率と予想されており、日本は中国に次いで、アジア2位の生産拠点とされています。

ロボット産業におけるスタートアップと大企業の協業事例も増加しています。スタートアップには、スピード感を持った開発やソリューションの提供が求められる一方、導入にはコストや技術面でのハードルも高い状況です。

ベンダーとなるスタートアップとエンドユーザーとなる大企業、そして導入を支援するSIer(システムインテグレーター)の3者が目線をそろえ、人手不足や技術継承などの根本的な課題解決に取り組むことが重要です。

福岡市の官民共働型スタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」は、毎月テーマを設定し、そのテーマに関する事業を展開するスタートアップを集めたピッチイベント「Growth Pitch」を開催しています。

Growth Pitchには登壇企業のほか、テーマに興味のある事業会社や投資家、メディアなどが参加します。2024年3月のGrowth Pitchのテーマは「ロボット特集」です。ロボット業界を拡張する4社のピッチに、ぜひご注目ください。

近接覚センサーで諦められていた製造工程の省人化を実現

株式会社Thinker
https://www.thinker-robotics.co.jp/

ThinkerはエッジAI搭載の近接覚センサーを開発、提供しています。同センサーはロボットの指先に搭載することで、不定形物の柔軟かつ確実なグリップを可能にします。

対象物との距離と傾きを算出する高性能センサー

Thinkerは2022年8月に設立された会社です。大阪大学大学院・基礎工学研究助教授の小山佳祐氏が約10年の歳月を費やして研究してきた技術を、ビジネスに落とし込むため、創業したスタートアップです。

ロボットは製造業における生産ラインを省人化、効率化することが期待される一方、一つひとつの形状が微妙に異なる部品や生産品のピッキングができないことから、導入を断念するケースも多いといいます。

Thinkerの近接覚センサーは、ロボットアームの指先に搭載し、エッジAIと組み合わせることにより、アームがつかもうとしている対象物との距離と傾きを即座に把握し、より柔軟かつ確実なグリップを実現します。

「センサーだけでは意味を成さない」多様な企業と連携を模索

Thinkerの近接覚センサーは製造業に加え、農業や食品産業、医療・介護など、多様なグリップを必要とする業界での活用が期待されています。現在700社以上から問い合わせを受け付けており、50社以上に有償サンプルを提供したそうです。

CEOの藤本氏は「センサーだけでは省人化や効率化に至らない。また対象物の認識においては、近接覚センサーより、カメラを使った方が良いケースもある。そのため、ロボットの開発事業者やロボットで業務を効率化したい企業など、幅広い方々と協業したい」と語りました。

職人技をロボット化した「ビールサーブマイスターロボ」

Quiny株式会社
https://www.quiny.co.jp/

Quinyは製造業や医療、農業、水産業など人手不足の業界に、ロボットを活用した自動化ソリューションを提供しています。

迅速かつ低コストなロボット化提案

Quinyの特長はロボットの導入コストの試算や見積もりに、時間と費用がかかる課題を、作業現場を撮影した動画の解析を通じた無料かつスピーディーな見積もりで、解消している点です。

従来の見積もりでは、ロボットの導入を検討している客先に、営業パーソンや技術者を派遣し、課題のヒアリングや最適な機器の提案などを、2から3か月かけて実施していました。Quinyの見積もりの場合、わずか1か月で見積もりが完了するといいます。

また機械設計やレーザー加工、画像処理、制御など、幅広い知見や技術を保有するスペシャリストが在籍しているため、各企業の課題に応じた自動化の提案や、ロボットの導入支援などが可能です。

職人技をロボット化したビールサーブマイスター

Quinyは自社でのロボット開発も手掛けています。その一つが「ビールサーブマイスターロボ」です。ビールの注ぎ方は味に大きな影響を与えるため、注ぎ方を極めた職人が存在する世界です。同社は、その職人技術をロボット化し、世界中でおいしいビールを提供することを目指しています。

「ビールサーブマイスターロボ」は、グラスの洗浄や冷却、最適な注ぎ方など、職人と同じ動作を正確かつ高速に再現します。現在、駅ナカやクルーズ線、フードトラックなど、さまざまな場所で活躍が期待されているそうです。

代表の中村氏は「自動化や効率化に課題を抱える製造業や農業、漁業、飲食業などの事業者と積極的に連携していきたい」と協業ニーズを述べました。

ラティス構造柔軟指で、生産工程の効率化に貢献

KiQ Robotics株式会社
https://kiq-robotics.co.jp

KiQ Roboticsは、ロボットハンドツール「ラティス構造柔軟指」を開発する北九州発スタートアップです。

ロボットの安定したハンドリングを実現

KiQ Robotics代表取締役CEOの滝本氏は、工学博士として北九州高専の准教授を務めていました。在任中、ロボット導入による自動化の相談を多く受けたことをきっかけに起業し、産業用ロボットの導入支援や独自のロボットハンドの開発、製造などを手掛けています。

ロボットを導入して自動化を進める際にはさまざまな障壁がありますが、KiQ Roboticsが主に解決するのは、対象物をつかんで搬送する「ハンドリング」の不安定さです。

KiQ Roboticsが開発したラティス構造柔軟指は、硬く耐久性の高い樹脂素材に、人の指のような柔らかさを持たせることで、不定形物の安定したハンドリングを実現。ロボットによる省人化や効率化を推進します。

3Dプリンターで作る柔軟指が複数枚のハンドリングを実現

具体的な導入事例の一つに、通い箱やプラスチックコンテナの搬送工程における活用が挙げられます。コンテナの側面形状は規格化されていないため、さまざまな形状に対応できるラティス構造柔軟指が採用されました。

また工業部品のハンドリングにも活用されているそうです。ねじのような大まかな形状は似ているものの側面の構造が微妙に異なる部品を、ラティス構造柔軟指を装着したロボットハンドであれば、1台でピッキング可能です。

代表の滝本氏は「研究機関におけるラボオートメーションをはじめ、これまで自動化が進んでいなかった分野に、スタートアップならではの柔軟な発想を持って進出していきたい」と語りました。

高精度なマイクロサージェリー支援ロボットシステム

F.MED株式会社
https://f-med.co.jp

F.MEDは、2021年に創業された九州大学発のスタートアップです。マイクロサージャリー(微小外科)を支援するロボットシステムの開発、提供を手掛けています。

「生活の質」に影響する重要な手術

マイクロサージャリーとは顕微鏡を用いて、直径1mm程度の血管に処置を施すような繊細さや慎重さが求められる手術です。乳がんの除去手術後の乳房再建やリンパ浮腫の治療など、患者の生活の質に大きく影響する重要度の高い手術とされています。

しかし、マイクロサージャリーを実施できる医師は限られています。人間は細かな作業をすると手先が震えてしまうため、手の震えを抑えつつ、正確に器具を操作するには高度な技術力が求められるためです。

F.MEDはマイクロサージャリーをサポートする高速かつ精密なマニピュレーターを搭載したロボットシステムを開発しました。医師が操縦かんを操作すると、ロボットアームが手の動きを忠実に再現し、手ブレのない状態で手術をおこなえます。

F.MEDの技術が拓く医療の未来

F.MEDの微細作業マニピュレーターは、リニアモーターと液圧を組み合わせることで、高速かつ高精度な動きと、柔らかで力強い動作を可能にしています。

同社は、2025年に日本での医療機器承認取得と販売開始を目指しており、2027年には海外での販売開始を計画しています。将来的には、日本の大学病院や総合病院、さらに世界の病院への展開も目指しているそうです。

代表の下村氏は「事業会社のみなさまには量産機向けの部材の供給や最終製品の組み立て、VCやCVCの方々には出資や事業推進のご支援などいただければと考えております」とピッチを締めくくりました。

文・写真/園田遼弥


今回ご登壇いただいた4社への質問・マッチング等のご希望は随時受け付けておりますので、下記お問い合わせまでお気軽にお問い合わせください。

https://growth-next.com/contact

また、次回は4月11日に第88回Growth Pitch「製造業DX特集」を開催します。みなさまのご参加をお待ちしております。

https://growth-next.com/event/growthpitch88