見出し画像

拝啓 坂爪圭吾様

坂爪さん
私子どもによかれと思ってやらせてた習い事やめさせる
代わりにあの子の好きな事をさせようと思う

子供が初めて私のお腹に宿って、
出産までの日々子供は母親の養分を吸い尽くす
血を流して産み落としそれで終わりではない 
傷付いた体で24時間の新生児の育児が始まるのだ 私は母乳で子を育てた
母乳の元は何か?血である 
一人歩きし始める1歳辺りまで母と子は濃密な時間を過ごす 
言わば子供は自分の肉体の一部なのだ 
だから母は子供を支配したがる 
子供が一人で出来るようになってもそれを認めたくないのだろう
その女の執念はカメハメ波や情念の呪いの元になるのかもしれない

あなたは私に言った
「あなたが与えているのは愛ではない 情だ 俺が欲しいのはそれではない」
愛とは信頼し手放すこと 情とは支配しそばに置くこと

私が今まで付き合った男はほぼ身体が弱かった 
何故かわかった 
私は愛を慈悲を与えると思いその人を支配し鼻持ちならぬ憐れみを、求められてもいないのに振りまいていたのだ
だから私は周りにはその憐れみを乞う特殊な男しか寄ってこなかったのだ 
夫もその一人だ 
それが男を傷つけた自覚も持っている

私の夫はよく自分の事を可哀想という。
彼は私の情にすがって生きている。
私をお相手してくれるセラピストさんも
優しい言葉ばかりかけてくれる
だからこのままの生活が続くと
私は裸の王様のようになるだろう
きっと性格が歪む
 
だから良いのだ そんな時純白のシャツを着て
高下駄を履き精霊の天狗のように降り立った男に
ぶった切られても 
むしろそれを求めて会ったのだから 

たった1時間会っただけで交わした言葉も少ない
私はただ水晶玉のような自分をうつす鏡のような
ピカピカ光るあなたの目をひたすらに眺めていた

今、私の心は生まれたての赤ん坊のように
ぶるぶると震えおののいている
暗い海の落とされたようだ
でもそのかわり
私が心から求めているものが分かった

私はあなたに問うた
何故全国を色んな人に会いに旅しているのか?
あなたは答えた
「意味なんかない ただしたいから 地球が回っているから」

私は文を書く
男に抱かれると楽器のように体と心が鳴り
その音楽は私の頭で一杯になり
どうしようもなくなって物語を作る
理由なんかない 
それを書くことが私が生きている印だから
地球が回っているから 
物語が縄文か弥生かそんなこと関係ない
いやなら目を閉じて読まなければいい
それは自由だから

しかしそれが自分の子供であればどうするのか?
嫌だから閉じるわけにはいかない
子供は本ではない 
自分の血を分けた人だ

子育てなんて100あるうちの98は嫌なことだらけだ
残りの2が寝顔を見たりキスしてくれたり
良いことなのだ
だけどその2が、その2が…
あまりにも素晴らしすぎて
美しくて愛おしすぎて

そのために私は子を育てている
今も
これは実際の母親である私の本心だ

人はそう簡単には変われない
変われるとすればそれは
果てしなく気が遠くなるような
繰り返しや反復の繰り返しの中に
変化が変貌があらわれる

私はあなたに簡単に
「ありがとう」
という言葉は使わないことにする

私はあなたにとって
忌むべき支配という縄を振り回している
蛇のような女だ
でもそんな私にあなたは幸せを願ってくれた

だからわたしもあなたに
そう全国を旅をする

圭吾さんに幸あれ
死ぬなよ 生きろ

と願うことにする


女風小説家fghk98より



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?