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女風と天国

三途の川とは あの世に行く前、 
鬼の乗る船に乗って渡る川

 私が女風で利用するホテルは 
とある繁華街の裏手にある

ホテルの向かいには狭い道を隔てて
 大きくて古い寺が建っている 
おそらくその寺は何百年も前から 
亡くなった人達の墓や供養の塔が あるはずだ

私は淫靡な気持ちで男と手を繋ぎ 
ホテルに向かい 
その道を歩いている時思う 

この道は三途の川だ 

一つの道をはさんで片方は
 沢山のカップルが様々な方法で 
愛欲を満たしているホテル 

 もう一方は 
かつてはこの世に我が物顔で
 生きていた人達の 
骨がうず高く積み重ねてある寺

一つの道を隔て なんと違うことだろう
煩悩にまみれた生か
静寂の死か
どちらが天国で地獄なのだろう
この道は二つの異なる世界をつなぐ川なのだ

もし寺にいる骨達に
ホテルの中の様子が見えるならば
彼らは喜んでくれるだろうか?

あら、いい男〜とか 
こんな奴より 生きていた頃の俺の方が 
よっぽど上手い 
 という会話が聞こえてきそうなのだ 

 ここの寺にいらっしゃる骨達は 
いつでも24時間、
ホテルで生者が繰り広げる 
愛欲の世界を 
見放題で楽しめる 

 それは生きている私達が 
骨達にできる 最高のエンタメ=供養かもしれない

私は個人的に 
死後の世界はないと思っている
 TVの画面を消して 
真っ暗になったような 無の世界なのではないか 

 地獄も天国もあの世の話ではない 
きっと私達が今、生きている
 素晴らしき愛欲渦巻くこの世界のことなのだ

私は時折、男と性愛に溺れる時間が
快楽を与えられる天国なのか
それとも自分ではなくなるような行為…
情欲にとらわれ執着してしまうことが
地獄の中にいるからなのか
分からなくなる

天国と地獄はきっと近いところにあり
混ざり合い
常に入り乱れている

現代では栄えているこの地だが、 
江戸時代は
 引き取り先が無かった者達の亡骸が 
打ち捨てられる 
荒れ果てた一面の湿地帯だったという

 遠くには遠浅の海が見えた 
それに注ぐ川も何本もあり 
芦が至るところに茂っていた 
 まさに地獄の入口 
三途の川があるにふさわしい 場所ではないか

ならば私が今から男と向かう一室は 
何なのだろう 
快楽に溺れる空間 

 例えればそれは 
地獄のぬかるみの中に 
一瞬に咲いた蓮の花だ 
 それが本当の天国なのかは分からない 

 けど、長続きはしない 
その歓びは 
私を狂わせる力を持っている

だからこそ 
その一時を永遠に感じる 

 私が生きていると強く感じる時間 

そんな事を考えながら 
繁華街の名もなき道を歩く 

男の手は 
温かく心地よい 

 そう、あなたと私は 
今、鬼が漕ぐ船に乗っている 
 沢山の骨達に見守られながら 
三途の川を渡っている途中なの

この船に乗るにはお金がかかるって?
 知っています 

 私の小さな鞄に用意してきた
 2万5千円、封筒に入れてきてます 
こっそり貴方に渡すので 
後で鬼に御駄賃であげてください 

そして 
なんとも楽しいこの世の極楽 
天国を 
二人で目指しましょう 
きっと行けるはず

いい男と手を恋人繋ぎで 
船に乗るなんて 
嬉しいばかり 

 そうしているうちに
船はゆっくりと着実に 
川の中を どこかに向かい 
進み始めている

添付の絵は…
室町時代の遊女、地獄太夫の図。自らを地獄と名乗り、地獄変相が描かれた打掛を着、念仏を唱えながら客を迎えたという彼女。絶世の美貌とそのミステリアスさから多くの注目を集め、一休宗純とも交流がありました
(古書@Doris様の投稿より引用させて頂きました)











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