『ラブファイター』 序……1/16(月)0:30
ラブファイター
絵里にあやされ、胎児姿勢でまどろむ悠人。
悠人は実に14歳らしい体つきをしており身長こそ163cmと平均。だが、華奢な胴体には肋骨の形がまざまざと透けていた。そのせいもある。腕や腿は生白く、貧相なばかりで頼りない。そのせいもある。包皮の余った小さな性器のせいもある。莉愛葉には絵里の程よく肉付いた、それでいて見事にくびれた裸体のほうがひと回りほど大きく見えた。
カウチソファの上、悠人を壁際に追いやり———まるで恋人の寝顔を独り占めするかのように背を向けて横たわる絵里。手枕をし、腰まである濡れ羽色の直毛を床に向けて垂らし、真っ白な項を覗かせている。
莉愛葉はそれを珍しいと思った。
そのまま絵里の背を眺める。
小菱形筋の辺りから腰骨にかけてロダンの『地獄門』を模した入れ墨が広がる。地獄門の横、左右の脇腹には楽園を追放されたばかりのアダムとイブの苦悶の姿もそれぞれ……と、ただでさえ打ちひしがれている男、あるいは手を翳し、何か(凡そ怒れる神)から顔を背けている女が絵里の体勢にあわせて伸びたり拉げたりしていた。
腕や肢では、かつてミケランジェロがシスティーナ礼拝堂の天井に描いた預言者や巫女の姿、その他『イニューディ』と呼ばれる青年たちの裸体像が一面に、所狭しと折り重なる。左の臀部にはボッティチェリの描いた大天使ガブリエル。それが跪き、右の臀部にいる聖母マリアへ受胎を告知していた。
そんなどれもがブラックとグレーで精巧緻密に彫られており、このため部屋の灯を受けて、絵里が身じろぎするたびに鱗紛いに艶めいた。
この様子を(仔細に記せば、尻の間から白い指が隠見するのを)眺めて、
「どうすんだよ」
と莉愛葉。絵里の奔放に心底辟易していた。
これを聞き、己を弄っていた絵里がやおら身を起こす。
すると、それまで絵里の胸に顔を埋めていた悠人が眉を顰めた。
ニキビ面の悠人。顔中で皮脂の溜まった毛穴の多くが赤く腫れ、膿を孕んで黄色く膨れたものもある。そんな14歳が寝苦しそうに……いや、何やら口惜しそうに歯噛みするのを眺め、絵里は己の上唇に舌を這わせた。
そうして引き続き、しかし今度は音を立てて弄りながら悠人が寝息を立てるのを待ち、それから莉愛葉に顔を向けた。
「決まってんじゃん」
その蔑んだ目、上気した横顔に莉愛葉はつくづく己を呪った。