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『ラブファイター』 序……1/16(月)0:30

あらすじ
 高級ブランドのアウトレット店で働く絵里と莉愛葉。ふたりは恋仲関係にある。だが、人を喰ったような態度の絵里に莉愛葉は翻弄されてばかり。
 ある日ふたりは中学2年生の悠人に出会う。たまたまカフェで隣同士になっただけだが、絵里におちょくられ莉愛葉にはストーカー扱いされ……と散々な目に遭う悠人。それでも日々は平穏だった。
 しかし、その晩。悠人の彼女である凛から掛かってきた「あのね。私ずっと前から悠人のお父さんに脅かされてて」という電話により事態は急変。凜の妊娠が発覚する。
 運命を捏造し、父親の殺害を自らに課す悠人。妊娠した凛の思い。若いふたりのアイデンティティは絵里と莉愛葉をも巻き込んだ凄惨な事件へ発展していく。

ラブファイター

 絵里えりにあやされ、胎児姿勢たいじしせいでまどろむ悠人ゆうと
 悠人は実に14歳らしい体つきをしており身長こそ163cmと平均。だが、華奢きゃしゃ胴体どうたいには肋骨ろっこつの形がまざまざと透けていた。そのせいもある。腕やもも生白なまじろく、貧相ひんそうなばかりで頼りない。そのせいもある。包皮の余った小さな性器のせいもある。莉愛葉りあはには絵里のほどよく肉付いた、それでいて見事にくびれた裸体のほうがひと回りほど大きく見えた。

 カウチソファの上、悠人を壁際に追いやり———まるで恋人の寝顔を独り占めするかのように背を向けて横たわる絵里。手枕てまくらをし、腰まである濡れ羽色の直毛を床に向けて垂らし、真っ白なうなじのぞかせている。

 莉愛葉はそれを珍しいと思った。
 そのまま絵里の背を眺める。

 小菱形筋しょうりょうけいきんあたりから腰骨こしぼねにかけてロダンの『地獄門』を模した入れ墨が広がる。地獄門の横、左右の脇腹には楽園を追放されたばかりのアダムとイブの苦悶くもんの姿もそれぞれ……と、ただでさえ打ちひしがれている男、あるいは手をかざし、何か(およそ怒れる神)から顔をそむけている女が絵里の体勢にあわせて伸びたりひしゃげたりしていた。

 腕やあしでは、かつてミケランジェロがシスティーナ礼拝堂の天井に描いた預言者や巫女の姿、その他『イニューディ』と呼ばれる青年たちの裸体像が一面に、所狭ところせましと折り重なる。左の臀部でんぶにはボッティチェリの描いた大天使ガブリエル。それがひざまずき、右の臀部にいる聖母マリアへ受胎じゅたいを告知していた。

 そんなどれもがブラックとグレーで精巧緻密せいこうちみつに彫られており、このため部屋の灯を受けて、絵里が身じろぎするたびにうろこまがいにつやめいた。
 この様子を(仔細しさいに記せば、尻の間から白い指が隠見いんけんするのを)眺めて、
「どうすんだよ」
 と莉愛葉。絵里の奔放ほんぽうに心底辟易へきえきしていた。

 これを聞き、己をまさぐっていた絵里がやおら身を起こす。
 すると、それまで絵里の胸に顔をうずめていた悠人が眉をひそめた。
 ニキビづらの悠人。顔中で皮脂ひしまった毛穴の多くが赤くれ、うみはらんで黄色くふくれたものもある。そんな14歳が寝苦しそうに……いや、何やら口惜くちおしそうに歯噛はがみするのを眺め、絵里は己の上唇に舌を這わせた。

 そうして引き続き、しかし今度は音を立ててまさぐりながら悠人が寝息を立てるのを待ち、それから莉愛葉に顔を向けた。
「決まってんじゃん」
 そのさげすんだ目、上気じょうきした横顔に莉愛葉はつくづく己を呪った。