ただ、日々と恋愛がある。マンガ『付き合ってあげてもいいかな』
現在、マンガ『付き合ってあげてもいいかな』の第1話から第50話までが、期間限定で無料公開されている。もし読めそうであれば、是非読んでみてほしい。この文章は、その補助線として書かれる。
『付き合ってあげてもいいかな』は女子大学生どうしの恋愛を描いたガールズラブマンガだ。現在9巻まで発売されている。50話まで読めるのは8月25日までで、ブラウザではなくスマホアプリ「マンガワン」で閲覧する。
なお、50話まで読み切ったあと、アプリ内の無料チケット的なもので4話分くらいたぶん読める。単行本6巻には54話まで収録されているので、あとは7〜9巻を買えば、実質無料ですべて追いつける。さらに9巻以降の連載もマンガワンの無料チケット的なものが回復することによってすぐ追いつける。読もう。
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物語の主人公は、首都圏の大学の軽音サークルに所属する学生たちだ。彼ら彼女らは、それぞれが普通にいろいろあったうえで大学に入学し、なんやかんやありながら恋愛をしたりしなかったりして日々を送っている。キャラクターの着る服装、プリンになっている髪の毛、マニキュアと合わせたペディキュア、そうした描写のひとつひとつが丁寧で、リアルだ。
わたしはあまりマンガやコンテンツのジャンルに詳しくない。ただ、このマンガの紹介をする際に「百合」ではなく「ガールズラブ」という言葉を作者が選んだという、そのニュアンスはなんとなくわかる。記号的なコンテンツ消費ではなく、ひとつの物語を描いたときにその中心にあるのが女性どうしの恋愛だっただけ、といった印象を受ける。
作中ではしばしばキスシーンやセックスシーンが描かれるが、読者の性的興奮をむやみに刺激するものではなく(刺激しないわけではないです)、恋愛のなかに当然ある状況として登場する。こういうマンガ表現は、BLジャンルが長年築いてきたもののように思う。性的な描写を伴うコンテンツには、男性向けか女性向けかといった文脈の違いがどうやらまだ大いにあって、「百合」ではなく「GL」であることはそのあたりの意味を含んでいるのだろう。
登場人物のなかには、女性どうしが付き合っていることを気持ち悪いと感じる人も出てくるし、うまく受け止められないながら受け入れようとする人もいるし、それほど関心を持たずに普通に受け入れている人もいる。そこには当たり前にグラデーションがある。また一方で、主人公たちは「なぜ自分はヘテロではないのか」をもはや悩まない。それよりも、恋人とどう向き合うのかであったり、あるいは「元カノ」となってからの関係をどう構築すればいいのかといったことに悩む。
ある意味でテンプレ的な「衝突」や「葛藤」の先にも、たくさんのドラマがある。既存作品がこうした芳醇な世界を描いていたのかどうかはわからないけれど、ともかく『付き合ってあげてもいいかな』の描く世界はとても豊かだ。
恋愛を描いた作品は面白い。恋愛をしているとき、その人はどうしようもないから。どうしようもない人たちを、わたしたちは遠くから眺めて応援したり共感したり羨んだり驚いたり笑ったりする。有限性の外にある物語を聞く。日々があり、恋愛がある。わたしたちはそれを聞く。