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笑顔が似合う人になりたい
「笑顔が似合うね」と言われたことがある。
どうしてか聞き返すと、
「いつも笑っているイメージがあるから」と、
その人は言った。
私は笑顔で「ありがとう」と返した。
私は頻繁に笑顔を作る。
私が笑っていれば、大抵の事は何事もなく上手くいくからだ。
私にとって、「笑顔が似合うね」という言葉は、
取り繕った表情に対する
単なる社交辞令にしか感じないのだ。
高校時代、ある男性に出会った。
四角の画面の向こうで、ギターを弾きながら自作の曲を歌う彼は、私の知らないたくさんの笑顔を持っていた。
太陽のような弾ける笑顔。
子供のような無邪気な笑顔。
包み込むようなあたたかい笑顔。
そして、少し意地悪な笑顔。
彼の持つ笑顔全てに眩しさを感じた。
彼の笑顔を見ていると、心が暖かくなるのだ。
自分とはまるで違う彼の笑顔、
そして彼自身にどんどん惹かれていった。
「笑顔が似合う」という言葉は、彼のためにあるのだとさえ思えた。
いつのまにか私は、彼のような人になりたいと思うようになった。
ある日、彼のライブ映像を見た。
とあるイベントにゲストとして参加した彼は、イベントの最後にライブパートとしておよそ30分の歌唱時間を設けられていた。
生放送で行われたそのイベントを、私はリアルタイムで視聴していた。
その日も、持ち前の明るい笑顔と自作の曲で観客を笑顔にさせてくれるはずだった。
しかし、この日は違った。
私が見たのは普段の彼ではなく、少し傷ついたような表情をうかべる彼だった。
イベントが行われる数日前、彼はワンマンライブを行った。
その公演中声帯を痛め、医師には歌うことはもちろん話すことも難しいと診断された。
そんな状況の中イベントに出演し、歌を歌ったのだ。
歌唱中、私は初めて彼の
「取り繕った笑顔」を見た。
心が痛んで、自然と涙が零れた。
この瞬間、私は「人を悲しませる笑顔」がある事を目の当たりにした。
それと同時に、私の笑顔も同じなのではないかという考えかふと頭をよぎった。
日本人には、悲しい時に作る微笑みの文化があるという。
これは、他人を心配させないためにつくる表情であり、現代でも多く見られる。
笑顔というものは、ただ笑っている顔を作ればいいというものではない。
自分自身が幸せだと感じていない限り、
本当の笑顔は生まれないのである。
笑うことの楽しさ、
取り繕った笑顔の悲しさを知った今、
私はもう一度本当の意味で
「笑顔が似合うね」
と言われる人になりたいと、強く思う。
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