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推しの話


私の好きなものは、
全て四角い枠の向こう側にある。

実在しない
顔を出さない

そんな人たちが昔から大好きだ。

“歌い手”が好きだ。

ボーカロイド曲の『歌ってみた動画』を投稿して人気を博す人たち。
多くの歌い手は、顔の全体像を非公開にして活動をするため、素顔を見ることができるのはライブのみである。


他界隈のアイドルは皆、
極端にいえば顔が収入減である。

写りが悪い生写真は売れず、ビジュが良くないMVは再生回数が伸びない。ファンの好きな髪型や服装をしなければファンはどんどん減る。

「なんか最近の〇〇ビジュ悪くない?」
「今回のMV私の推し微妙。」
「今回のCDジャケ写の写り悪いから買うのやめようかなあ。」

そのような外見至上主義な考え方が
とてつもなく息苦しく感じるのだ。

歌で勝負すべきのはずの職業ではないのか。
努力を重ねた実力のある人間よりも
頑張らなくても見た目が少々良いだけの人間
そのような人間の方が結局人気が出る。

そんなの演者もファンも疲れてしまわないのか。

アーティスト自身の好きな生き方を制限されているようであまり好きになれないのだ。

他界隈に手を出したことは何度かある。
しかし、なんだか疲れてしまう。
外見にキャーキャー言う自分も周りのファンも
とても惨めだなあと思ってしまう。

結局、
私の居場所はここなんだ、と戻ってくる場所
それが歌い手界隈なのだ。


出会いは高校一年生の6月。
YouTubeで偶然見つけた動画が始まりだった。

天月-あまつき- さんのカバー動画
「小さな恋のうた」
さわやかで疾走感のある、
無邪気な少年のような声に一瞬で引き込まれた。

声だけでこんなにも魅了されたのは、
人生で初めてだった。

この曲がきっかけで
たくさんの歌い手達と出会った。
それぞれ違った個性を持ち、
様々な過去を乗り越えて活動をしている。

歌い手の多くが、いじめや不登校に苦しんだ過去を持つ。
暗い生活を送る上で入り浸ったネット。
そこで趣味として始めた動画投稿がきっかけとなり現在の活動を行う人は少なくない。

顔を出さないのは暗い過去を抱えているから故。

自分の声を、自分の歌だけを聞いてもらえる。
外見だけで理不尽に批判されることもない。
極端にネガティブな彼らだからこそ
自分の本名も素顔も出さず、
自らの声だけで活動をする。

そんな彼らの声に魅了された人は多い。
彼らの曲にのせる思い。真意。熱意。
それらを表情ではなく
声だけで感じることができる。

歌い手を好きになって、
改めて音楽そのものの魅力に気付かされた。

私には世界で一番好きな人たちがいる。
彼らに出会ったのは高校一年生の冬。

なんだか不思議なグループ名をしていて、
なんとなくであったが聞いたことはあった。

クリスマスが近くなってきた頃。
彼らのオリジナル曲の動画が流れてきた。
グループの名前は知っていたが
曲は聞いたことがなかった私は、
1度聞いてみようという軽い好奇心で、
ツイートに表示されているURLをタッチした。

初見の印象は「全員なんかタイプじゃない」。

私の好きな、無難で純粋無垢な高めの声を持つ人はそこにはいなかった。

好みに近いけれど少し子供っぽすぎる声。

なんだか声が太くて到底好きになれない声。

私が絶対に好きにならないTHE男!という声。

声質は好きだが、地声と裏声の切り替えに違和感があってビブラートの癖が強い声。

初見は最悪だった。

でもなんだか、バラバラな声質の割にとても合う
4人のユニゾンがとても心地よくて、
何度も聞いてしまった。
個々の声は微妙ではあるけれど、
グループとしてはとても素敵な人達だと思った。

グループがあったら私の性格上、
推しを決めたくなってしまう。
全員好きな声ではないけれど、
4人の中で1番マシな人を決めようと
曲を何度も聞いた。

結果、ビブラートの癖が強い声人の声が
1番良いかな、という結論に至った。


数日後。
気づいたら彼らの動画を片っ端から漁っている自分がいた。

そして、マシだと思って決めた推しのことが
いつの間にか大好きになっていた。

透き通った伸びのいい高めの声。
強めだけど綺麗なビブラート。
少しチャラいけど大人びた色気のある裏声。

全てに虜になっている自分が悔しかった。


3ヶ月後。
友達に彼らのライブに誘われ、
私の誕生日に人生初ライブに行った。
初めてのライブ、初めての遠征は
ワクワク、ドキドキでいっぱいだった。

初めて見た推しの素顔は、
想像とは大きく違っていた。

正直なところ、
自分が想像していたより格好良くはなかった。
しかし、歌を歌う彼は
4人の中の誰よりも輝いて見えた。
歌うことが本当に好きだということが伝わってきた。

2時間半、私は完全に彼しか見えていなかった。

生で聞く歌声は動画の何倍も綺麗だった。
あんなに"マシなだけ"と思っていた声なのに。

ライブは一瞬で終わった。
「こんなにかっこいい人を見たのは初めてだ」
と思った。

この日でまんまと浦島坂田船、センラさんに心を奪われてしまい今に至る。

ライブでしか顔を出さない。
そこまで特徴的な顔をしている訳では無い。
私の記憶力の問題か
今でもライブから数日で顔を忘れてしまう。

それでもなんだか、センラさんの歌を聞くと
センラさんの声を聞いた瞬間がなにより1番
ああ、好きだなあ、と思うのだ。

彼らを好きになって5年目になる今年も、
センラさんはとてもかっこいい大好きな大好きな私の『推し』である。

決してファンに媚を売らない。
甘い言葉も一切言わない。
ファンへ向けて感謝を向ける機会も殆ど無い。
ほかのメンバーに比べたら、
リスナーへの供給は圧倒的に少ない。
それでもいいと思える。

社会について自論をひたすら語る配信も
MCをほぼ無くして歌い続けるソロライブも
話を回しつつしっかりオチを担当する有能さも
酔って放送事故を起こす危うさも
内股も桃花眼も大きい口も流し目もホクロも
全部ぜんぶ大好きなのだ。
センラさんがセンラさんでいる限り
センラさんが大好きなのだ。

この好きは、全てあの冬に聞いた
なんだか癖が強くて好きじゃない声が始まり。

一生この人を好きでいる。
そう思ったのは初めてである。

きっと、
顔で好きになった推しではないからだろう。

惚れっぽく面食いな私は、
たくさんの俳優、アイドル、モデル
好きになったことは数しれずある。

でも、その人の内面だけを見て好きになったのは初めてで、自分自身、外見を抜きにして好きだと言える日が来るなんて思ってもいなかった。


歌い手界隈は楽しい。

YouTubeのコメント欄には、
「何分何秒の歌い方が好きだ」
「この部分の声が素敵だ」といった
声に関するコメントで溢れている。

中身だけを見て曲を評価する。

それってとても素敵な事だ。

音楽とはこういうものだ、と
歌い手達に教わった。

センラさんを、
"センラさんの声"を応援できている今が楽しい。

私は今、幸せである。



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