【書籍】手袋をさがす

20歳くらいの頃、向田邦子さんの「手袋をさがす」というエッセイを読んだ。図書館で借りて読んだが、これはいつまでも自分の手元に置きたいと思い、その後、自分で買った。今も時々読み返している。

冬になり、手が冷えてかじかむが、気に入った手袋が見つからないので、買わずに過ごしたという話。

気に入らないものをはめるくらいなら、はめないほうが気持ちがいい、と考えていたようです。

当時20歳くらいだった向田さんに、上司が忠告をしてくる。

「君のやっていることは、ひょっとしたら手袋だけの問題ではないかも知れないねえ」
「男ならいい。だが女はいけない。そんなことでは女の幸せを取り逃がすよ」
「今のうちに直さないと、一生後悔するんじゃないのかな」

でも結局、向田さんは自分を貫くことに決める。

「ないものねだりの高のぞみが私のイヤな性格なら、とことん、そのイヤなところとつきあってみよう。そう決めたのです。」

本当の自分から目を逸らさず、自分に正直に生きるほうを選ぶ。
自分の「好き」に正直になる。「好き」の純度が高いものを選ぶ。

「若い時に、純粋なあまり、あまりムキになって己れを反省するあまり、個性のある枝を矯めてしまうのではないか」

こんなに前から、向田さんはひしひしとメッセージをくださっていた。「自分の感受性くらい」という詩も脳裏をかすめる。年々、感受性を守るのが難しくなっていった。組織の中で居場所を得るために、自分の良いところを切り捨て続けてきてしまった。傷はそのうちなんとかなっていくかと思っていたけど、痛みは年々増すばかり。何をしても一向に改善せず、本当に何をしても改善せず、原因も分からないまま、呼吸をしないほうがしっくりくるくらいのところまでいった(苦しくてむりだけど)。でも、いろんな人たちの力を借りながら、幼い頃からの呪いみたいな思い込みを、ひとつずつ書き換えてきた。やっと息ができるようになってきた。

ゴールは分からないけど、コンパスなら分かる。少しでも心の向くほうへ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?