見出し画像

フェルミエのアルバリーニョのワイン造り (スペインと新潟・フェルミエの比較を交えて)

新潟ワインコーストに位置するフェルミエでは、ワイン業界で今や世界的にも注目を集めるアルバリーニョという白ワイン品種を栽培し、このぶどうからワインを醸造しております。アルバリーニョのワインについて投稿します。

【要旨】

 アルバリーニョはスペインの北西部(グリーンスペイン)、大西洋沿いに位置するガリシア州のリアスバイシャス地方で栽培され、スペインの白ぶどう品種の中で最も高貴な品種とされる。リアスバイシャスは多湿なエリアで、年間降水量は1,800mmと新潟と同等程度。夏は比較的冷涼で冬も氷点下にはならない。
 アルバリーニョのワインは香り高く、酸やミネラルが豊富。口当たりも良く、バランスの良い優れた味わいのワインとなる。「海のワイン」とも称され魚介類との相性が良い。
 リアスバイシャスでは近年、フレッシュかつ香り高いワインにとどまらず樽発酵や樽熟成による複雑で芳醇なスタイルのアルバリーニョのワインも生まれている。本来、アルバリーニョは長期熟成のポテンシャルも高い。
 世界的にガストロノミーは自然や体に優しい素材が好まれモダンでライトなスタイルにシフトする流れにある。温暖化の進行による過熟なぶどうや高アルコール化するワインと料理との組み合わせは難しくなってきている。ミネラルや酸の特徴が際立ち、華美になりすぎず上品で爽やかな香りやエレガントな酒質を持つ海のワイン・アルバリーニョは近年、世界でも注目される白ワイン品種の一つである。“和柑橘“のような特徴を持つ日本のアルバリーニョも和食をはじめとする料理との相性は抜群に良い。

リアスバイシャスってどんなところ?

画像1

リアスバイシャスとは、“下流のフィヨルド(入り江)”を意味する。「D.O (Denominatin of Origin=原産地呼称)リアスバイシャス」は1988年に制定された。12種類の品種が認可されているが、その中でもアルバリーニョの生産割合が95%を占める。D.Oリアスバイシャスはさらに5つのサブゾーンから形成され、サブゾーンのなかでも、アルバリーニョ発祥の地であるバル・ド・サルネスにおけるアルバリーニョの生産量が6割以上を占める。
 土壌は貧しい酸性土壌で保水力は低く乾燥しやすい。サブゾーン毎に若干の違いはあるが花崗岩土壌(石英+長石+雲母)。表層はシャブレ=Xabreと呼ばれる花崗岩が砕けた砂状の土壌(写真下)。
 気候は大西洋の影響を受ける典型的な海洋性気候。冷涼で湿潤だが日照には恵まれており、5つのサブゾーン毎に少しずつ異なる。バル・ド・サルネスが最も冷涼で湿度が高く、平均気温は12.8℃。標高100〜300mの海に近いエリアの畑がほとんど。作られるワインはアルコール度数が低く、酸が豊か爽やかでフルーティーなワインとなる。

画像2

画像3

アルバリーニョはどのように栽培されてるの?

リアスバイシャスでのぶどう栽培面積4,021ha(2017年)に対して栽培農家が5,343軒(同)、畑は21,626箇所に点在しており畑の平均面積は18.6アール、1軒当たりの平均栽培面積でも75アールと小規模である。これは、遺産を子供に均等に相続させるこの地の小農制度(ミニフンディオ)に起因するといわれる。1haあたりのぶどうの平均収穫量は約7,000kg。

一般に欧州のワイン用ブドウは垣根で栽培されるが、リアスバイシャスではほとんどが「ペルゴラ」と呼ばれる棚で栽培されている。このエリアのアルバリーニョが棚方式で栽培される主な理由は次の通り。

画像4

①リアスバイシャスは降水量が多く湿度が高い。地表の湿気からの影響が少ない棚式栽培が適している。【気候対策】
②アルバリーニョは樹勢が強い品種。樹勢をコントロールしやすい棚式栽培が適している。【品種特性】
③リアスバイシャスは小規模な畑が多い。単位面積当たりの収量を相応に確保して土地の利用効率を高めるために棚式栽培が適している。【収量対策】
④棚の下に他の農作物を作付けしてぶどうとの混合栽培が可能となる。【経済対策】

画像5

アルバリーニョってどんなぶどう?

 アルバリーニョのぶどうの果実は小粒で緑色。果皮が厚くばら房で比較的病害に強いと言われるが、リアスバイシャスでもベト病などを克服する必要がある。

 1980年代から1990年代初めまで、スペインでも他の欧州諸国同様に国際品種(主にフランス品種のカベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネなど)が重用された。しかし、90年代にその地方ごとのオリジナリティや個性が見直され古い土着品種が復興する。プリオラートでガルナッチャの「奇跡」が起こり、ビエルソでメンシア、ガリシアでアルバリーニョが復活した。1988年には156kℓだったリアスバイシャスの生産量は、2004年には1,481ℓとわずか15年で10倍近くまで急拡大し商業的にも大発展した。その主翼を担ったのは言うまでもなくアルバリーニョである。これによって大量に生産されるワインを消費させるべく、「アルバリーニョはヴィンテージの1年以内に飲むべき」と言うマーケティングが流布しアルバリーニョは早飲みワインだという誤解を招いている。上質のアルバリーニョのワインには酸とミネラルによるバランスの良いストラクチャーがあり2年目以降に味わいは深まる。

アルバリーニョのワインの特徴は?

 若いアルバリーニョのワインはハーブや月桂樹、ミント、アニシードの香り、りんごやアプリコット、柑橘類(グレープフルーツ、シトラス、オレンジの皮)やトロピカルフルーツ(マンゴー、ライチ)のテイスト。チョークのようなミネラル感やこの品種特異の塩味も。1年が過ぎると柑橘やりんごが桃に変わり、花梨と蜂蜜が香り、ハーブの香りやミネラルの余韻が増幅する。
 花崗岩土壌ではよりミネラリーでストラクチャーのはっきりしたワインに、砂質土壌では柔らかく丸いワインに仕上がる。
 リアスバイシャスでは、酸のレベルが高いこの品種のワインのバランスをとるために生産者それぞれが、収穫時期の選択や澱接触の程度、乳酸発酵の有無など工夫を凝らしており一括りにリアスバイシャスのアルバリーニョのワインのスタイルを語る事が出来なくなってきている。ただし、近年はリアスバイシャスにも温暖化の影響が及び酸のたちかたも穏やかになった印象がある。

(参考)ボルドー(フランス)のAOCは2019年に温暖化対策として白ワインの認可品種を新たに3品種加えたが、そのうちの一つにアルバリーニョが選ばれている。

フェルミエのアルバリーニョの栽培方法は?

画像6

 2005年にワイナリー前の畑(新潟市西蒲区越前浜)に最初のアルバリーニョを植え(注)、2012年に300mほど離れた場所に畑を増やした。いずれも海岸砂丘の砂質土壌で仕立ては垣根式(ギュイヨ ダブル)。海岸砂丘の砂地は痩せた土壌である上に、さらに養分の脱流も早いため、土作りを継続し植生や微生物の多様性を得られるよう努めている。このために堆肥や有機肥料を投入するが、化学肥料や除草剤は使用しない。従来、必要に応じて化学農薬を慣行栽培の50%以下のリュットレゾネ(減農薬栽培)レベルで使用していたが、2016年より越前浜の畑ではサステイナブルなワイン造りを志向する故に化学農薬を使用していない。
 2010年以降、新潟市南区の信濃川の支流(中之口川)沿いの2つの畑でもアルバリーニョの栽培を開始した。このエリアは古くから梨、りんご、もも、生食用ぶどうの栽培に長けた果樹栽培地帯。かつて“暴れ川”と称された信濃川がたびたび氾濫・決壊してもたらされた川砂のテロワールであり、越前浜のような海の影響は受けない。2010年に東萱場地区で垣根式での委託栽培を開始した。2012年にはリアスバイシャスに倣い、棚式でのぶどう栽培を生業とする新飯田地区の栽培農家に初めて棚式での栽培を委託した。以降、棚式栽培の技術指導を請い、この畑は2016年にフェルミエが譲り受け自社畑となった。

(注)当初は師事したカーブドッチワイナリーが植えたアルバリーニョ。2006年のフェルミエ創業後にカーブドッチから譲り受けた。

画像7

上記のほかに2020年春に越前浜に新たに30アールの畑を手当てしアルバリーニョを植苗している。

フェルミエが目指すアルバリーニョのワイン造りとは?

 アルバリーニョの品種本来の溌剌とした酸や柑橘、白桃・アプリコットのようなフルーツの香りやテイストに加え、フェルミエは次のような日本らしさや新潟の自然の個性が素直に現れるアルバリーニョのワイン造りを目指している。
* 新潟の海のテロワールの影響が具現化されるミネラル感。
* 砂質土壌らしい香りのエレガンスやスレンダーでも長く綺麗な余韻。
* 日本の風土や日本人ヴィニュロンの作品らしい繊細でしなやかな質感。

日本の風土で育まれたぶどうから醸す、その素性が素直に現れるワインは同じ風土の食材と共鳴し合い、そのマリアージュは日本人や日本を訪れる人々の感性に訴えるに違いない。そしてそのアルバリーニョのワインは、ボルドーワインやブルゴーニュワインのように“新潟ワイン”として世界にも誇れる普遍的なものにまで昇華する可能性もあると信じている。これにチャレンジすることが日本で初めてアルバリーニョのワインを上市したフェルミエのミッションの一つであり、このミッションのもと新潟でのアルバリーニョのワイン造りに取り組んで行く。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?