ダンジョン・ワールド・ガイド(2)
カスタム・ムーヴ
カスタム・ムーヴを書くのは超楽しく、プレイヤーに素晴らしい楽しみをもたらしてくれる。ルールブックにはカスタム・ムーヴのガイドラインが記されているが、自作が苦手という人もいるだろう。なので、カスタム・ムーヴの使い方と、しっかり書く方法を見ていこう。既刊のd20のアドベンチャーには必ず、「DC15の感覚チェックにより次の情報が明らかになる…」みたいなことを記したサイドバーがあるのをご存じだろうか? そう、カスタム・ムーヴを書くときに目指すのはこれだ。GMには発生することがわかっていて、あらかじめ準備しておくのが望ましい事柄ってこと。ルールブックには「[カスタム・ムーヴ]が強力なのは、特定のタイミングの特定の場所に強固に結びついているからです」とあり、これは確かに的を射たアドバイスだ。
カスタム・ムーヴは通常、基本ムーヴを適用することもできるが、GMが前もって成り行きを把握している物事が当てはまる。どういった成り行きになる可能性があるのかGMがしっかりわかった上で、事前に《危機打開》の中身を書き換えておく、と言えばいいかな。アドベンチャーをプレイする中で、GMは幾度となく7-9の結果を考え出すことになる。それが想像力に負荷をかけていくだろうことは否めない。たまには、事前に決めておくのもうまい手だ。
ただし、事前の決め事を作りすぎないようにしよう。また、成り行きの選択肢の幅を狭くしすぎることで、一度しか使えないカスタム・ムーヴになるのも望ましくない。出来のよいカスタム・ムーヴというものは、1回限りの結果をもたらす超特化選択肢を提供するものではなく、必要に応じてGMが解釈できる余地を残したものであるべきだ。例はいくらあっても困らないので、どんどん見ていこう。
次のものは、私がキャンペーン用に書いたカスタム・ムーヴだ。満足のいく出来だ:
シンプルでほどよく、はっきりした選択肢と成り行きが備わっている。また、特定の状況にはっきり限定されているものの、同じ冒険中に繰り返し現れる可能性もある。これはかなり良い出来だと思うが、最初のバージョンは少し違い、いまひとつだった。こんな塩梅だ:
到底いいムーヴとは言えず、いくつかの理由により、かなりひどい代物だった。まず第一に、10+なら3つすべてを選べるのに、7-9ならたった1つなのは、ちょっと厳しい感じを受ける。何よりも、3つ目の選択肢「……振りほどいて自由の身になることができる」がダメ過ぎる。これでは選択の余地がない。プレイヤーは自由の身になるべく、どう考えてもこれを選ぶだろう。もっとはっきり言えば、プレイヤーはゲーム進行のためにそうせざるを得ないのだ。よって、7-9の選択肢に入れておくのは、まったくもって不適切だ。というわけで、私はこれを削って、傷を受けるか何かを失うかをプレイヤーに選ばせる、先のバージョンを作った。PCが自由の身になろうとするのは疑う余地がない。問題となるのは「どの方な対価を払う羽目になるか?」であり、改造することでずっとよくなったはずだ。
単純ながらも豊富な可能性を宿した、鮮血蔦のもたらす成り行きは気に入っている。プレイヤーは自分にとって一番重要なものを選ぶことができるものの、最終的な結果を決めるのはGMだ。どのような負傷を被り、どの装備品が損害を受けるのかは、GMに委ねられている。この手法は、何度も繰り返し使え、陳腐化しない。
Something Awfulフォーラムから、別のカスタム・ムーヴを紹介しよう。ユーザーThe Supreme Courtと私の共作だ。彼は海賊テーマのゲームをGMしており、当然、海戦の最中に索具をつたって攻撃するための、カスタム・ムーヴが必要だった。まあ、海賊ものだと、そういったことはままあるからね。それを手軽に扱うためのムーヴがあるに越したことはない。
The Supreme Courtは、そのムーヴの下書きをこう記した:
確かに、ここにはよいアイデアも見受けられる。彼は索具からの攻撃にどういったことが関わっているかを設定して見せたわけだ。敵を奇襲したいと同時に、転落して死にたくはないだろう。けれども、これらの関係する物事はそのままではしっくりこない、少しずれたものだった。
ここでも、選択の余地のないことが見て取れる。7-9で、「甲板の染みにならずにすむ」を選ばない者がいるだろうか? つまり、10+なら、敵を奇襲した上で+d4ダメージを与えるのに、7-9なら死なずにすむだけとなるのだ。これでは、部分成功と言うのもおこがましい。加えて、戦闘向けのムーヴであることが明示されていない。
なので、私たちは話し合って、きちんと整理した。明らかなのは、PCが転落するのは、ミス時のみにすべきということ。あたり前だよね。また、これは海賊ものテーマで多用するつもりのムーヴなのだから、ほぼ選択の余地がないものだったり、メカニズム的に単体で基本ムーヴに取って代わるものしてはならない。私は、追加ダメージは不要で、敵に不意打ちを食らわせるだけで十分だと思った。数分ほど選択肢について考えを巡らせ、この適度に緩くしたバージョンを思いついた:
みんなが気に入ってくれた。いくつかの理由により、カスタム・ムーヴとしてかなり上手くいった。まず第一に、良質なカスタム・ムーヴの例にもれず、ゲーム中に何度も発生しうる特定の状況に結びついている。第二に、結果には語りの余地が残されている。例えば、対象は転倒するのかもしれないし、マストの見張り台から叩き落とされるのかもしれないし、発射しようとしていた拳銃を落としてしまうのかもしれない。最後に、7-9の結果はいかにもな感じになっている。プレイヤーは望むものをある程度手にするものの、完全とはいかない。おまけに、PCと対象が重なり合うようにもつれている状態からなら、雪だるまが転がるように他のアクションへとつながることだろう。
結果の選択肢を書く
選択肢の一覧を書くに際しては、簡潔になるよう心がけよう。中には5~6個のも選択肢を書いちゃう人もいるけど、まあ間違いなく多すぎる。自作のムーヴを、すぐさま飲み込め解釈しやすいものにしたいなら、大量の箇条書き選択肢によってプレイヤーをゲーム内のフィクションから引き剥がしてしまわないようにしよう。まずは「公式」のムーヴに目を通そう。そのたいていの選択肢は3つ、多くても4つだ。うまく行かない可能性をとことん検討してしまう人は、あるアクションの結果すべてをカバーしようとしがちだ。やめておこう。そうする代わりに、広い範囲に影響を及ぼす、数を絞った選択肢一覧を渡すようにすれば、プレイヤーは興味のある選択肢を容易く選べるようになる。ことの詳細は、その時点でのゲーム内のフィクションに大きく左右されるため、要点を書き留める以上のことはせず、細部はプレイ中に埋めていこう。
7-9のとき、プレイヤーの前に並べる選択肢と、選ばなかった選択により何が起こり得るのか(切り捨てたことによる成り行き)を、考えておくことも大切だ。特定の選択肢を選ばなければ、その反対のことが起こるかもしれないと、暗に伝えよう。こんな風に:
いずれかひとつを選ばなければならない。叩きのめされないなら、カネを奪われる。カネを奪われないなら、叩きのめされる。プレイヤーは、もちろん発生してほしくない選択肢を選ぶだろうが、何もかも思い通りにはいかないのだ。選ばなかった方はどうなるかって? それが確実に起きちゃうってことさ。だからこそ、選択の余地のない項目を避けたいなら、「必須」の選択肢は当然の前提として、ムーヴに組み込んでおくべきだ。「爆発を生き延びる」みたいな成り行きは設けずに、「自爆ボタンを押したなら、爆発を生き延びるものの、次から1つ選ぶ…」と記述しよう。
では次に、出来の悪いムーヴ:
いや、バカなの? 選択肢は多すぎるし、被っているものもある。監視カメラに映ったなら、たぶんアラームが作動するでしょ。それに、警備につかまったのに、どうやって安全には出ていけると?
こういったムーヴを使えるものにする方法はいろいろあるのが、次の2つの例と、そのトーンの差異に注目して欲しい:
最初のムーヴは明快で申し分ない。荷物を手に入れるものの警備と戦うか、警備を避けて荷物を諦めるか、だ。2番目のムーヴはとてもわかりにくい。しっぺ返しを受けることなく逃げ切る選択肢はないからだ。プレイヤーが実際にここで選択できるのは、トラブルへの対処を、今すぐ行う方がよいのか後になって行う方がよいのか、というものになる。これらのムーヴは両方とも使い道があり、同じアクションを取り上げているものの、提示されるゲームのトーンは大違いだ。面白いでしょ?
そんなわけで、カスタム・ムーヴを自作しようというとき、どうすればいいのかもうわかってもらえたと思う。危険度を適切なものにしよう:高すぎず、低すぎず、即座に勝利できないものの即死もしない、という具合だ。結果をふさわしいものにしよう:完全成功、部分成功、失敗に切り分けるのだ。選択肢を具体的だけど解釈の幅の広いものにしよう:読み違えの起きないぐらい具体的に、でも何回も使える程度の幅を持たせるのだ。あと、テキストを簡潔なものにして、選択肢をプレイヤーの理解しやすいようにしよう。
世界作成:質問しつつ、余白を残す
「地図を描き、余白を残そう」と「質問をし、その回答を活用しよう」が『ダンジョン・ワールド』の主要なGMの方針のうち2つであることは、みんな知っているだろう。また、アドベンチャーやキャンペーンの結果を前もって全部決めないようにすることも、承知しているはずだ。(「何が起こるのかを発見すべくプレイする」をお忘れなく)。PCたちの開始地点である小農場の設定を固め、興味をそそりそうな近隣の場所を1つ2つ描くかもしれないが、残りは未確定のまま残しておいて、プレイ中に自然な形で現れるのを待とう。ちなみに、キャンペーンのマップをプレイ前に準備するなってことじゃないよ。
多くのGMは事前にすべてお膳立てしておく方が心穏やかでいられるものだ。そんなわけで、プレイヤーたちがどんなキャラクターをプレイしようかと考えるより前に、世界全体と都市、ダンジョン、古代の遺跡、その他の多種多様なファンタジー世界ならではの古物を配置して、特徴を決めて住民を配置してしいがちだ。そのようなGMスタイルは『ダンジョン・ワールド』でも有効だが、少し手を加える必要がある。「興味をそそる場所」を設置する場合、決めるのは基本的なことだけにしておこう。緻密なマップを描いたり、モンスターを棲まわせたりしてはならない。代わりに、その場所に関わる1~3つほどの興味を喚起する質問(答えは空けておく)を行おう。
「興味を喚起する質問」とはどのような性質のものだろう? そうだね、まず第一に、方向性のある質問であるべきだ。全体的な真実、隠されたもの、密やかな計画をほのめかすものにしよう。理想を言えば、答えることでさらなる質問を派生させ、やりとりすることで世界を膨らませてくれるものが望ましい。
仮に、廃墟と化した神殿を森の中央に置くとしよう。それに関わるシンプルな質問は「この神殿ではどのような神が祀られていたの?」となるだろうが、どうにも方向性を欠く。とても退屈で、その回答が自然な形で更なる質問へとつながることはないだろう。答えは「嵐の神グリックス」のようなものになるだろうけど、そこから新たな質問がかきたてられるとは言い難い。望むべくは、更なる質問の呼び水となる質問だ。というわけで、補強していこう。
例示した質問を増補する簡単な方法は、神殿と/または神についての、興味深い事柄を含めることだ。「この神殿ではどのような忘れ去られた神が祀られていたの?」なら上出来。これで、神の輪郭がしっかりと示されたのみならず、「どうしてこの神は忘れ去られたの?」といった別の質問が自然な形で引き起こされるのだから。
方向性のある質問に加え、必要に応じて新たなアドベンチャーの材料にしやすい、自由形式の質問もいくつか用意しておきたい。新たな脅威、大規模な戦い、人々の苦境を利用して自らの目的を果たそうとする悪党、などに使えるアイデアを得るのだ。先の神殿の例を続けるなら、神殿に古代の封印が複数存在しており、それらが破られるか弱まって消えれば、何かが起こるというアイデアなんてどうだろう。冒険のフックとしては悪くないんじゃなかろうか。ただし、肝心なのは「そこで止める」ことだ。封印が破られた場合/破られた時に何が起こるかを、作り込んではならない。「何が起こるのかを発見すべくプレイする」のだから。
なので、そのアイデアはそのまま、質問として表現してみよう。「神殿の封印が破られたとき、何が起きる?」で止めるんだ。こういった質問はかなりの可能性を宿す。封印が押さえ込んでいるのは、邪悪な存在だろうか? それとも善良な存在だろうか? 「いつ」起こるかが重要だとするなら、どのような出来事が封印を破るのだろう? こうすることで、GMはプロット上のフックを保持しながら、それを状況に応じて変更できる。そして、このようないくらでも変更できる形式の方が、決め打ちしておくよりも、簡単にゲームに組み込むことができるというわけだ。こうすることでプレイヤーは、GMが事前に作ったプロットを追いかけるのではなく、自分たちで物語の筋を作ることになる。
不吉な兆しはPCによって引き起こされるのが望ましい。少なくともPCが阻止できる見込みのあるものにすること。封印がキャンペーン開始から5週間経過、あるいは諸月が一直線に並ぶときに破れるとGMが事前に決めていたなら、PCたちが別のことに取り組んでいる最中に発生してしまうかもしれない。そもそもPCたちが神殿を発見したり封印を破ろうとしない可能性もある。そうなると、GMはプレイヤーに全く興味を持ってもらえない一連の事件の設計につぎ込んだ労力と多大な時間を、ドブに捨てることになる。これについては、少し後で詳しく触れるが、脱線する事態となった場合は、「流れに身を任せ、フロントと不吉な兆しを適切な形に調整」すると覚えておこう。フロントと不吉な兆しは道しるべであって、拘束衣ではないので、必要に応じて調整することをためらうな。
質問を未解決のままにしておくことで、その答えをプレイヤーたちに合わせて調整することができるのみならず、キャンペーンのトーンも参加者にあつらえたものにできる。『ダンジョン・ワールド』において、質問を投げかけつつ設定に余白を残す理由は、セッションの進行と共に、ゲームの世界がどのようなものであるかが見えてくるからだ。実際にことが起こるまで、どうなるのか大まかな見当すらつかないってわけじゃない。詳細を棚上げしておくだけのことだ。というわけで、事前にストーリー展開を決めてはいけない。代わりに、興味をそそるプレイヤーへの質問を世界に詰め込み、ゲームをプレイすることで答えてもらおう。
フロント、危難、不吉な兆し
では、どうすれば事前にすべてを決めなくても、心躍る波乱に富んだキャンペーンが催せるのだろう? ルールブックはそのためのツールとして「フロント」を提供している。フロントは変更可能な冒険を準備する最高の方法だ。一度コツを掴めば、GMするあらゆるゲームにフロントを活用するようになるだろう。実例が私。危難をひねり出すのはたいていの場合とても簡単だが、申し分のない不吉な兆しを考え出すのは骨が折れるかもしれない。ネット上では、キャンペーンを図示するために不吉な兆しを使う人が数多く見受けられる。とはいえ、キャンペーンは事前に書き出さない方向だったよね? ということで、長々としたイベント・リストは作らないようにしよう。
その代わり、不吉な兆しは重要な2つの目的にかなうものにする必要がある。第一に、不吉な前兆はプレイヤーたちに「差し迫った破滅」を警告するためのイベントであること。第二に、不吉な兆しはプレイヤー・キャタクターに阻止可能なよくない出来事であること。これは重要だ。不吉な兆しは舞台の裏でひそかに「戦王グラックがポータルの鍵を発見した」みたいに起きるものではない。それだと前兆じゃなくて、GMが発生すると決め打ちしていた事柄になってしまう。そうはせずに、プレイヤーがどうすればそのことに気づくのかを検討してみてよう。戦王グラックがポータルの鍵の探索に着手している、というのはどうだろう? 鍵を発見したなら、彼は何をするのだろう? それこそが不吉な兆しというものだ。
危難はもれなく不吉な兆しのリストを備えているものだが、長くなりすぎないようにしよう。同じタイムライン上の重要なイベント数個で事足りる。繰り返しになるが、これらのイベントを、GMの頭の中であらかじめ決めておいてはいけない。不吉な兆しはすべて、リスト上の次の項目を、自然と指し示す必要がある。ランダムにイベントを起こすのではなく、ゲーム内のフィクションの筋道に従おう。上記の例だと、不吉な兆しは「戦王グラックの手下が鍵の探索を開始する」と「ポータルが開き、デーモンどもが飛び出してくる」あたりかな。PCたちが気づいて、自分たちで阻止しようとするようなことを当てはめよう。つまり、ゲーム内のフィクション上において、戦王グラックが何かを企んでいるという確かな兆候だ。じゃあそれを、不吉な兆しに仕上げようか。
不吉な兆しがキャンペーンの岐路になりうるというということは、大切なので覚えておこう。じゃあ、PCたちがなんとかして、戦王グラックがポータルの鍵を見つける前に彼をやっつけた場合、GMはどうすべきなのだろう? もちろん、不吉な兆しを調整すればいい。戦王グラックの副官が流浪の軍団を引き継ぎ、道半ばで倒れたグラックの探求を続けることもできる。だが、「自分たちの行動がゲームに何の影響も及ぼさなかったとプレイヤーが感じてしまう」という致命的な事態を引き起こしかねないので、最適の解決策とは言えない。だいたい、「何が起こるのかを発見すべくプレイする」という心得にも背くからね。悪役Aを悪役Bに置き換えて、何も起こらなかったようにプロットを順調に進行させるのは、一本道のシナリオを強要するも同じだ。それだと、プレイヤーの望むゲームを遊ぶのではなく、GMの望むゲームをプレイさせることになってしまう。
フロントの真価は柔軟性にある。フロントは、キャンペーンに構築と再構築の可能な構造をもたらし、アクションの呼び水となるばかりでなく、PCの行動に応じて即興的に状況を展開する余地も与えてくれる。戦王グラックが死んだ? それなら彼の息子ブレンが流浪の軍団を引き継ぎ、バカげた「鍵」の伝説の探索を取りやめて、大陸の征服に乗り出すことにしよう! こうすれば、GMは先のフロントを分離して、独自のキャストと不吉な兆しを持つ個別のフロントにすることができる。
けれども、ゲートはどうなるのだろう? 戦王グラックが死亡したところで、存在が消えてなくなるわけではない。しかし、フロントはあらかじめ決まった道筋ではなく概要なので、少し手を入れるだけで、そのまま活用することができる。フロントのキャストの中に、力をつけてフロントを牽引するような人物はいるだろうか? もしかすると、PCたちが相談を持ちかけた学者が、ゲートの魔力に魅入られてしまうのかもしれない。このようにしてフロントは、使いやすいように2つのフロントに分割された。
フロントは固定のものではない。『ダンジョン・ワールド』が求めている、オープンなキャンペーン・スタイルの運用の助けとなる構成ツールに過ぎないのだ。プレイヤーたちが変化を引き起したなら、必ずフロントに注意を向けて、それがどのように影響されるのか確認しよう。会話を行き来させるテクニックと似てるだろ? GMからプレイヤーに投じられたムーヴが、プレイヤーから投げ返されるのにも通じるところがある。つまり、ゲーム全体が、こうやって動作しているってこと。すごくない?
キャンペーン用フロントのサンプル
準備万端ですぐさま運用可能な、キャンペーン設定を見ていこう。記述と設定をざっと見して、それらをどうやって、「フロント」「危難」「まつわる問い」に変換しているかを確認して欲しい。
大いなる竜アクスタルラス
ショーン・M・ダンスタン作
三日月島は、現在そうとうに危険な状況にあるとして耳目を集める小島だ。この島には約5年前、ヒューマンが入植したが、そのことが先住のリザードマンを苛立たせた。幸いにも、リザードマンは沼の外で起きていることにはほとんど興味がなかったため、「お互い邪魔せずにやっていく」類の緩い盟約が結ばれた。
小さなタラモス港が島の東海岸に築かれた。そして間もなく、南の森林近くに鉄の鉱床が発見されたのである。すぐさま坑道が作られ、採掘を支えるために、また近隣の森林を切り出すために、ロックブレイクの街が築かれた。さらに、ウィンドウォードの街が島の北部、耕作地に恵まれた場所に作られた。大陸からの補給はおおよそひと月に1回で、それによって入植者が生産できない不足分を補ってはいるものの、三日月島はほぼ自給自足できている。
3週間前、ドラゴンが姿を見せた。
ドラゴンは前触れもなくやって来ると、タラモス港の船を一隻残らず破壊して、主要道路を寸断し、島の中央のごく狭い地域を吹っ飛ばしてクレーターに変えた。ことを終えると、近くの海洋火山島に身を落ち着けている。このドラゴンはがねぐらを離れるのは、大陸に救援を求めようと出航する船を破壊するとき、そして島の居住地間の連絡を妨害するときのみ。なお、火山にあるドラゴンのねぐらを船で攻撃しようとする果敢な試みは、兵士がその小さな島に上陸する前に粉砕されてしまった。
ドラゴンの攻撃から数週間のうちに、この巨獣を崇拝の対象とすることで、その怒りを鎮めようとする人々も出てきている。このドラゴン・カルトは、タラモスの行政により違法とされたものの、それは連中を地下に潜らせ、野放しの状態で勢力を増大させたに過ぎなかった。
大陸側が問題に気づくには数週間かかるだろうし、救援の派遣にはさらに長い時間を要することから、島はほぼ独力で対処している。布告が出され、遠出して分断された街同士の連絡を取ることをいとわぬ者、島のごく狭い地域が壊滅させられた理由と、その破壊された地に埋もれた地下遺跡には何があるのかを解明しようとする者が求められている。そして、もしかしたら、ドラゴンを倒し島を救うことが呼び掛けられているかもしれない。
…さあ、どうする?
興味をそそる地点
タラモス港はこの地方の中心地で、唯一外界との交流がある。岩礁に取り囲まれているが、そのおかげで海洋交通を手っ取り早く「一箇所に集める」ことができて、かつ海の略奪者が近づきがたいと考えられている。タラモス卿の大邸宅には大型の灯台が据え付けられており、そこから港全体が見渡せる。
島の南端にある街がロックブレイク。この鉱山と林業の街は、島の交易品の主要な生産地だ。ドラゴンが現れて以来、ロックブレイクとタラモス港との連絡は断ち切られている。
海神の槍は火山島で、ドラゴンがねぐらとしている。島の南の海岸から少し離れた所には、軍船3隻の黒焦げの残骸が残されている。
シュートクルストは一番大きいリザードマン集落で、初期設定ではこのクリーチャーの「首都」という扱いになる。シュートクルスト以外だと、リザードマンは緑鱗湿地の大部分を占領しており、入植者はそこを避けている。
島の居住者にとって、コンブの森は昆布と海藻が分厚い層をなしている場所だ。実のところ、ここは海エルフの居留地の一部あり、島の陸地を浸食しつつある。海エルフが島の住人に知られるようになったのは、つい最近のことだ。
ウィンドウォードは北部の農業の街。ロックブレイクならびにタラモス港との間には、小さな宿泊所と補給場所があり、地元民は経由地と呼んでいる。
モノリスと呼ばれる、島の奇妙極まる謎のひとつ。直径6フィート、高さ15フィートで、翻訳不能のルーン文字に覆い尽くされた円柱。半月の夜には、ルーン文字が輝き、円柱から空に向けてまっすぐな一筋の光が放たれる。この現象はまったく解明されていない。モノリスに隣接する巨大な渦は、海神の瞳と呼ばれており、絶えず渦を巻いて未知なる深みへと引きずり込もうとする。この興味深い2つの場所は何か関連ありそうだが、現在のところ学者たちは途方に暮れるばかりだ。
新種族
危難:ドラゴン(秘術存在 敵対)
ドラゴンのアクスタルラスは、いくつかの理由から三日月島を自らのねぐらに選んだ。理由としては、そこが文明地域から隔てられたところにある孤島であること、この竜が砂漠のモノリスに興味を引かれていること、火山が自らの卵を孵すのにうってつけであること、卵が孵化した暁には島が逃げ場のない無力な餌取り放題の場所になること、があげられる。
本能:子供を守り愛しむ
差し迫った破滅:破壊
危難:ドラゴン・カルティスト(野心的 組織的)
このカルティストたちは、崇拝することでドラゴンをなだめることができると信じている。
本能:ドラゴンを神として崇める
差し迫った破滅:強奪
危難:マグミン(大群)
本能:強くなって、敵を目前から追い払う
差し迫った破滅:暴政
まつわる問い
モノリスは島の運命にどのような役割を果たすのだろう?
沼地のリザードマンは、ヒューマンとの取るに足りない停戦協定を破り、ドラゴンの側に付くのだろうか?
コンブの森の海エルフが、今回初めて、島の住民に自らの存在を明かした理由は?
島の中央部へのドラゴンの攻撃により姿を現した洞窟。その中はどうなっているのだろう? その中にある、ドラゴンが求めてやまないものは何?
現在孤立状態におかれているロックブレイクは、どうなってしまうのだろう?
キャンペーンのキャスト
コンペンディウム・クラス
コンペンディウム・クラスは「さらなる探求」の章で取り扱われている。これはゲーム開始時に選択できる通常クラスとは異なる。たいていはレベルアップ時に必要条件を満たすことで取得可能だ。必要条件は通常、PCがゲーム内で達成するか、体験する事柄が当てはまる。SomethingAwfulフォーラムのユーザーEmongは、コンペンディウム・クラスを多数執筆している。彼が投稿した中で、私が気に入っているものをいくつかあげていこう。中には、使ってみようという気になるようなものや、自作のヒントになるものがあるかもしれない。
コンペンディウム・クラス:アビスウォーカー
深淵を旅したことで、元には戻れぬ影響を被ったなら、レベルアップ時に次のムーヴを取得できる:
《深淵のしるし》:深淵は君にしるしを刻み、それによって何らかの形の肉体的な弱体化を被ることになる。具体的にはGMが述べる。その引き換えに、1戦闘に1回、深淵の力を用いて隙を突くことで、選んだ敵1体に自クラスのダメージを与えることができる。
《深淵のしるし》を取得したなら、以下のムーヴを、自分のクラス・ムーヴとして扱うこと。つまりレベルアップ時に、このリストから選択することも可能だ。
《深淵を歩む》:みなの先頭に立って深淵を通り抜けるなら、ダイス・ロール+【WIS】。
10+なら、安全に抜けて、目的地に出る。
7-9なら、深淵からは脱出するものの、GMが次から1つ選ぶ:
……一度も来たことのない場所に出てしまう
……深淵を抜け出した何かが君をつけてくる
《形なき支えによりて》:ムーヴで保存食を消費するように指示されたなら、無視すること。深淵が君の命を維持してくれるからだ。
《深淵もまた覗き返す》:他者が君のことを《事実の識別》してくるか、さもなくば君のことを熱心に調べたり観察するなら、《事実の識別》のリストから1つ質問を選んで、その相手(のプレイヤーに)にたずねることができる。
新種族:オートマトン
多くのプレイヤーが、D&Dの人気種族であるウォーフォージド用のハウスルールを考案している。次のものはキャラクター作成時に選択できる全クラス用の新種族で、諸作品に搭乗する命を宿す機械の特徴を真似てデザインされている。
縁故の代案: は保守修理を手伝ってくれた。 はわたしの創造主を知っている。
わたしは長きに渡って、 の家族の友人だ。 の人間的な脆さと欲望は、わたしを困惑させる。
コンペンディウム・クラス:オートマトンの機械工
君がオートマトンで、かつ時間を使って自分自身をアップグレードしようとしたなら、レベルアップ時に次のムーヴを取得できる。
《モジュール式の機体》:《キャンプ》のときに数時間を自己改造にあてるなら、能力値を2つ選ぶこと。うちひとつにはあらゆるダイス・ロールに〔継続+1〕されるが、もう片方にはあらゆるダイス・ロールに〔継続-1〕となる。再度時間を使って、自己改造するまでその状態は続く。
《モジュール式の機体》を取得したなら、以下のムーヴを、自分のクラス・ムーヴとして扱うこと。つまりレベルアップ時に、このリストから選択することも可能だ。
《武器との融合》:武器1つを自らの体に融合させるなら、次のリストから1つ選択。このムーヴは複数回取得できる。取得するたびに、リストの選択を1つ、もしくは新たに融合させる武器を1つを追加すること。
……この武器は意のままに伸び縮みさせることが可能。射程タグを1つ追加する。
……この武器は身体の一部に収納される。視覚的には完全に隠せる。
……この武器で痛烈な攻撃を加えるシステムを発明する。タグ[強烈]を追加。
《時計仕掛けの修理人》:複雑な機械部品を修理しようとするなら、ダイス・ロール+【INT】。10+なら、完全な状態に仕上げる。7-9なら、機能はするものの、いくつか問題をはらむ(GMが明らかにする)。ミスなら、修理を始めたときよりもひどい状態にしてしまう(詳しくはGMが述べる)。
《機械の完璧さ》:セッション開始時、修正値なしでダイス・ロール。10+なら、〔ホールド〕3点。7-9なら、〔ホールド〕1点。冷たい機械の論理や精密さを用いることが成功の助けとなる状況で、ダイスを振る前にこの〔ホールド〕を1点消費(複数は不可)するなら、〔次回+1〕される。
《備えあれば》:敵のパーツを回収したなら、ダイス・ロール+【CON】。10+なら、〔ホールド〕3点。7-9なら、〔ホールド〕1点。この〔ホールド〕を1点消費するたびに、回収した敵のムーヴのリストから1つ選んで用いることができる。どれが使用可能なのかはGMが述べる。敵のムーヴは一度に1種類しか用いることができず、〔ホールド〕が尽きたならそのムーヴを失われる。再度利用するには、別の敵を回収する必要がある。
新種族:ドラゴン
そう、ドラゴンだ。金銀をため込む古典的な、狡猾で強欲な獣のことだ。プレイできたっていいじゃないか。元はSAフォーラムでの要望に応じ、Emongがちょっとした助言を添えて書いた代物だ。
縁故の代案: がわたしの宝庫から小物を盗んだと確信している。 は失われた知識と引き換えに、わたしと契約を結んだ。 はあまりたいしたことないのに、自己評価が高すぎる。
コンペンディウム・クラス:大いなる竜
君がドラゴンで、抑えがたい貪欲さがために、大切な何か/誰かに重大な害がおよぶことをわかりつつも許容したなら、レベルアップ時に次のムーヴを獲得できる。
《金貨の山で眠る》:宝物庫に金貨100枚を加えるたびに、〔ホールド〕+1。この〔ホールド〕を消費する(拡大解釈するなら宝物を浪費する)ことで、自らの言い分を通すための《交渉》に使った〔ホールド〕分のボーナスを得る。
《金貨の山で眠る》を取得したなら、以下のムーヴを、自分のクラス・ムーヴとして扱うこと。つまりレベルアップ時に、このリストから選択することも可能だ。
《竜の魔法》:クラス・ウィザードのように《呪文書》《呪文の準備》《呪文詠唱》を獲得。ただし、使用時に、+【INT】か+【CHA】かを選択することができる。すでにこれらのムーヴを修得していた場合、代わりにウィザードのムーヴ《神童》を得て、呪文書がなくとも呪文を準備することができる。
《地域を焼き尽くす》:ブレス・ウェポンのダメージは、クラス・ダメージより1段階大きなものとなる(1d4->1d6->1d8->1d10->2d6)。
《狡猾な舌先》:人に《事実の識別》を使うとき、「この人物が一番望んでいることは?」とたずねることもできる。
《高位種族》:ドラゴンの重要性とその知識との関わりを、ことさら強調して《物言う知見》を行うなら、10+を振ったものとして自動成功となる。
コンペンディウム・クラス:酔いどれ達人
三日間に渡って酒浸りになり、その結果もたらされるよくない事態に対処したなら、レベルアップ時に次のムーヴを取得できる:
《人外の酒豪》:アルコール入りの飲み物をがぶ飲みするなら、ダイス・ロール+【CON】。10+なら、〔酩酊〕3。7-9なら、〔酩酊〕2を得る。いつでも〔酩酊〕を1減らすことがで、自分が負っているダメージを1d4点回復できる。
《人外の酒豪》を取得したなら、以下のムーヴを、自分のクラス・ムーヴとして扱うこと。つまりレベルアップ時に、このリストから選択することも可能だ。
《力の源エタノール》:《ハックアンドスラッシュ》か《呪文詠唱》(持っている場合のみ)のどちらかを選ぶこと。これ以降、選んだムーヴを使うときは、ムーヴに指示された能力ではなく、ダイス・ロール+〔酩酊〕を用いる。
《飲み足りぬ》:《人外の酒豪》を使うなら、〔酩酊〕に+1される。
《ぼやける視界》:滅茶苦茶によろめきつまずくことで《危機打開》するなら、ダイス・ロール+〔酩酊〕で行う。
《鉄の肝臓》:毒の影響を無効化することができる。日々の酒量で痛めつけられるのに比べれば、毒など取るに足りないのだ。
コンペンディウム・クラス:スキンウォーカー
戦闘中の威嚇手段として、動物の皮を身にまとったなら、レベルアップ時に次のムーヴを取得できる:
《獣のごとき歩み》:戦闘時に物騒な動物の皮を身にまとうなら、凶暴な性質の一部が使用者に授けられる。君の攻撃は[+1貫通]になる。
《獣のごとき歩み》を取得したなら、以下のムーヴを、自分のクラス・ムーヴとして扱うこと。つまりレベルアップ時に、このリストから選択することも可能だ。
《獣のごとき言葉》:動物の皮を身にまとうなら、人に話しかけるのと同じぐらい苦もなく、動物と会話する能力を得る。動物は使用者を、まとっている皮と同種の生物として認識する。
《獰猛さの借用》:物騒な動物の皮を身にまとって攻撃するなら、その動物の野生の本能が血管を通じて全身に広がるので、与えるダメージに+1d4。
《獣化》:クラス・ドルイドのように《シェイプシフター》を修得できる。ただし、身にまとっている動物の皮と同じ種類の獣に、完全に姿を変えるという用途でしか使えない。
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