『HP16のドラゴン』訳

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以下は、「A 16 HP Dragon」の訳になります。
『ダンジョン・ワールド』では、データのやりとりよりも、参加者間で共有されている状況、行動、物語に重きが置かれます。そのためモンスターと戦うにせよ、目前のシチュエーションやモンスターが仕掛けてくることに、PCがどう応じるかが大切になってくるのです。

もともとはフォーラムに投稿されたテキストなのですが、その時点ではまだ『ダンジョン・ワールド』の正式版はリリースされてません。『Dungeon World Basic Roleplaying Game』という、実質ベータ版でのプレイレポです。そのため、一部、現行のルールタームとは異なる表現が混在しておりますので、ご了承ください。
加えて、当時はまだ、D&D第4版の時期であったことも、心に留めて読んでいただければ幸いです。
https://www.latorra.org/2012/05/15/a-16-hp-dragon/

追記:この内容をフォーラムに投稿したのはこちらの方です。現在も、ゲームデザインやグラフィックアーティストとして、TRPGにたずさわっておられるようです。
https://twitter.com/strasa

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長年にわたって、私のグループはみな、ビデオゲームと(伝統的なファンタジー調の)「古典的」なTRPGを遊んできました。モンスターと戦うことそれすなわち、できる限り長く生き延び、その間にちまちま傷を与え続けることで、モンスターを陥落させるだけのことでした。私たちは遊んできたゲームから、そう教えられたのです(ワールド・オブ・ウォークラフトやファイナル・ファンタジーのモデルですね)。

けれどもトールキンの作品において、スマウグは村を滅ぼし、何千人も殺したにもかかわらず、鱗の欠けたところを正確に射貫いた一本の矢によって殺されています。

昔ながらの「敵のHPはXだから、倒すにはQダメージでY回殴る必要がある」ではなく、上記のようなもっと文芸作品的な観点とペースの戦いを思い浮かべてみてください。HPを削るゲームの問題点は、物語の文脈を気にもとめないことです。これは剣が着実にダメージを与えることのルール的な解決(シミュレーション)であり、モンスターのHPを増減することにより同じツール(殴る)をあらゆる問題(モンスター)に適用できてしまいます。

これこそが私の抱えていた問題でした。『ダンジョン・ワールド』のドラゴンのヒットポイントが16(1レベルのレンジャーがダメージ・ロールで出しうる最大値と同じ)なのを見て、セッションでは4倍として扱う心づもりでした。まずは、その戦闘がどんなだったかを説明させてください。こう言えば、何が起きたのかを「仄めかして」しまうかもしれませんけど。

で、まあ、冒険者一行はあるマジックアイテムが入り用だったわけですよ。彼らは調査を進め、件のアイテムを使っていた英雄が、ドラゴンに殺されていたことを突き止めます。一行は、別のドラゴンに仕える、人間の姿を取ったドレイクから情報を入手して、件のアイテムを盗みに行きます。この世界における魔法は、+sみたいな数値で表される「魔法」ではないことを、心に留めておいてください。今回求められた槍には魂を刺し貫く力があり、それゆえ魔術王の討伐に必要だったのです。さて、そんなわけで怒り狂ったドラゴンが、まさに攻撃をしかけんとしているわけです。繰り返しますがHPは16です。よろしいですね?

一行は馬に乗って、素晴らしい熱湯風呂と補給(保存食は残り少なかったのです)の待つ街に向かい、魔術王の探求に再度取り組もうとしています。一瞬、月が姿を消し、一行は風向きが変わるのを感じ、それから、何かが凄まじい轟音をたてて街の公会堂に降り立ったのが目に飛び込んできます。瞬きするほどわずかな猶予の後、ヘビのごとき頭部が弧を描くように振り下ろされ、ただの一撃でメイルアーマに身を包んだ守備兵をズタズタにしました(「不吉な兆しを告げる」:これは[無残]タグによるものです)。一行は速度を上げると、街へと向かいます。私は重々しく紙を敷くと、蛇行した道をさっと描き、四角の家々を大まかにスケッチしてから、先のドラゴンを表す大きなダイスをドンと置きます。一行が街の中に入ろうとするところで、私は数個の赤いトークンを手に取っておきます。そして、ドラゴンが息を吸い込み、竜語で言葉を発するのを、これほど遠く離れていても感じ取ることができると描写し、赤いトークンを街の上に積み上げます。これは、火事が起きていること、その炎がドラゴンにより生み出され、その意のままに動いていることを示すものです。

馬が動揺したので、一行は降りて(何名かはパニック状態になり逃げる馬によりダメージを被り、ひとりは木の枝にぶつかりました)、地獄のような光景の中を前進し始めます。そこでは、形の定かならぬ影が空から襲いかかり人を二つに引き裂き、人々は慈悲と助けを求めながら焼け死んでいきます。同時に、ぎゅっと抱きしめられた子供たちも、人々の腕の中で炭化していくのです。

冒険者一行は街の住人の救出を開始するものの(ここには魔法の結節点がないためウィザードは雨降らしの儀式ができません)、そのとき4〜5トンの怪物が舞い降りて建物が崩れ去ります。身体の孔から煙を立ち上らせ、黄金の瞳は燃えているかのごとく。金属に覆われたその怪物は、(恐怖を引き起こす)咆哮を響き渡らせます。

攻撃をしかけるには自らの恐慌を抑えなければならず、一行の攻勢は散発的なものとなります。動けるものもほんのわずかなダメージを与えるのが精一杯(4アーマー万歳)です。そこで一行は、この怪物を倒せるのは、アーマーを貫通するウィザードの呪文のみだと気づきます。残念ながら、ドラゴンも同じ認識に至っているのですが。

そこから先はおぞましいものでした。ファイターは防御に回りますが、ドラゴンの攻撃は単に1d10+5ダメージを与えるだけではなく、腕をもぎ取りメイルアーマーをティッシュペーパーのように引き裂きます(前述の通り[無残]ですからね)。ブレスによる攻撃で、全員《危機打開》に成功しなければ焼かれる羽目になります。

一行は戦意を喪失して、逃亡しました。ドラゴンは哄笑をあげ、村を灰燼に帰し、生き残りを喰らいます。

ドラゴンのヒットポイントは16でした。一行が逃走前に与えたダメージは9点。逃走と言いましたが、つまりは、わずかな食料をもってウサギのように夜闇に逃げ込み、回復は容易でなく、生き残ること以外何も考えられなくなった、ということです。

この物語の教訓は、ヒットポイントは必要ないということです。私の『D&D第4版』のゲームで、一行は十を超えるドラゴンどもを屠っていました。ドラゴンはデータ的な脅威であり、巧妙かつ戦術的ではあるものの、爪や牙ではたいしたダメージにならないので、物量戦でした。このセッションが終わってから、プレイヤーたちは、モンスターがこれほど怖かったことはない、と述べました。

戦いを壮大なものにしましょう。卓で共有される物語を用いるのです。業火により皮膚が黒くめくれ上がる様を描写してください。アースエレメンタルの不動の岩石の手に掴まれたら、骨は砕かれてしまうのです。たいていの戦いでは、「5ダメージ受ける」といったデータ上のやりとりを口にすることで、物語の文脈が洗い流されがちです。戦いを、心からなかなか離れず、安易な治療がもたらされないものとしましょう。冒険者たちに傷を負わせ、戦闘を厳しいものとすることで多種多様なしるしを刻み込み、全ての傷跡に物語を宿すのです。

戦闘をおっかないもの、あるいは困難なものとするのに、2500ものHPは不要なのです。

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