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道具のストーリー③:バリカンのこと

前回の記事で触れましたが、私が今日までトリマーというお仕事を続けて来られたのは

自分の苦手は道具に頼る!

という思考のお陰です。それはシザーに限らず、どのツールにも言えることです。

今回はバリカンとの馴れ初めについて書いてみようと思います。

ちなみに”バリカン”という呼び名は海外では通じない場合があります。この呼び名で通じるのは日本を含めたアジア圏の一部だそうです。フランス語ではトンズーズと呼ばれているとのこと。

英語表記だと”hair cripper”です。4年前にアメリカに行ったときのドッグショー会場では「クリッパー」で問題なく通じ、20台程のクリッパーを日本に持ち帰りました。(転売?と税関で止められたのは言うまでもない)

なぜ日本で”バリカン”と呼ばれるようになったかは諸説あるそうですが、銀座の床屋さんが海外からやってきた手動クリッパーを手にし

「こんなに便利な道具があるのか!これは何という道具なのだ!」と持っていたクリッパーに刻印されていた文字を確認。

”バリカン・エマール社”というメーカーのものだったそう。

そこから日本では”バリカン”と呼んで親しまれたのでしょうか。きっとドラマがあるんでしょうね。

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これは知人から譲り受けた手動バリカン。今は電動バリカンが主流ですので、骨董品のコレクションとして大切に保管し、心が折れそうな時に鑑賞して癒されています。

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さて、前置きが長くなってしまいましたが、私にとって欠かせないバリカンのストーリー。

皆さんの学生時代のバリカンは何でした?

私と年齢が近いトリマーさんの多くは、スピーディックの”タピオ”というバリカンに馴染みがあると思います。先輩方は”スピカ”でしょうか。

スピーディックは日本製で小回りが利いて、私たち日本人には軽快に使用できるとてもいいバリカンです。

殆どのトリマーさんお馴染みのタピオですが、私が出会ったのは社会に出てから。

学生時代の教材はこちらでした。

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FIA(ファーストインターナショナルアソシエイト)のロビーミニマイクロです。この目が覚めるようなピンク色の後継機には、紫色だったり、はたまたスケルトンだったり…控えめな日本人にはなかなかパンチのきいた主張激しめの見た目であります。

私が生まれて初めて手にしたバリカンが、これだったのです。

初めて手にする道具って、それが当たり前の基準になっていきますよね。

シザーもバリカンも、なんでも。

深い理由がなくとも、それが使い慣れているから、他の物は”使いにくい”という印象を持ちやすくなります。

就職先のペットサロンの備品ではじめてタピオに出会い「これ使ってね」と差し出されたら、何の疑問も持たずに新卒の私は今までのミニマイクロと同じ使い方でわんちゃんをクリッピングするわけです。

すると…


そうです。



ワンちゃんを怪我させまくったわけですよ。



いま思い出しても冷や汗ものです。謝っても謝りきれない。

たいせつな愛犬を綺麗にかわいくしたい!と連れてきてくれる飼い主さんに喜んでもらいたくてお仕事をしているつもりなのに、最終的には怪我によって表情を曇らせてしまう。笑顔でご来店くださったのに、帰りにはその笑顔が自分のせいで消えてしまう。


犬が好きでこの仕事に就いたのに、なぜ自分は犬に辛い思いを強いているのだろう。


もう本当に、ただただ、申し訳なくて、いたたまれなくて。

すっかり「バリカンが怖い」という感情に自分自身が支配されていました。


先輩からは「気を付けて」というアドバイスをもらい、自分自身も「もう二度とやるまい」と気を取り直して鼻息粗くクリッピングをするのですが、肩肘張ってやるものですから当然

①気を付けようと凝視し、視野が狭まる

②ワンコの動きを見られない

③力が入る

④刃を立てる

⑤怪我をさせる

の無限ループなのです。


そうです。自分としては慎重に”気を付けて”取り組んでいる”つもり”だったのです。

本来ならば

◎気を付けるというのは具体的にどのようにするのか

◎なぜ力が入り、視野が狭くなってしまうのか

という点を深く考察するべきだったのですが、とにかく根拠のない「気をつける」ことだけに集中していました。色々な疑問を疑問と認識し、問題を問題として受け入れ、最終的に解決するまでしばらく遠回りをすることになります。


あるとき、3㎜のバリカンは殺人バリカンだから!と息を止めながら力みまくり、またしても血祭騒ぎを起こし、ふと気付きました。(やっと)


「なぜこのバリカンだと怪我をさせてしまうのか」


学生時代にはド派手な怪我をさせてしまったことは記憶になく、就職してからのことでした。

そして学生時代のバリカンと備品のバリカンのバリカンの比較を始めたことから、徐々に今に至ったわけです。

現在までに60台近くのバリカンを購入し、様々な毛質・その子の性格・バリカンを使用する目的・優先順位などにより適材適所の使い分けをし、できるだけ安全に作業を終えられるようになりました。

ありがたいことに、現在トリマーさん向けに「道具のセミナー」の講師としてお仕事をいただくことがあります。

この活動はこの新卒のときに怪我をさせてしまったワンちゃん、嫌な気持ちにさせてしまった飼い主さん、何度も同じようなミスを繰り返して迷惑をかけた先輩や会社の方への懺悔でもあります。

初めてのセミナーはペットの道具屋さんの社長さん主催のもと、著名な仲田謙一さんとのコラボで、とても嬉しく心強かったことを鮮明に覚えています。パソコンを人生で一度も購入したことがなかったので、板書とおしゃべりスタイルでセミナーに挑戦させてもらいました。


大好きなワンちゃんに怪我をさせてしまったことで、もしかしたら

同じようにバリカンが怖くなったり

トリマーという仕事を辞めたいと思ったことがある方もいるかもしれません。

そんな方に

ただ”気を付ける”だけのアドバイスではなく、

できるだけロジックにバリカンの基礎構造と切断の原理についてお伝えできるよう活動しています。(このあたりはまた別の機会に記事にします)

私の学生時代のバリカンのような「A5」という規格のものについての記事を3年前のFacebookにアップしています。

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もしご興味ある方は読んでみてくださいね。















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