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2017年6月5日東名高速道路あおり運転一家4人死傷事件に関する誹謗中傷事件の損害賠償請求裁判について

概要

電子掲示板等における虚偽情報の流布により対象の社会的評価が低下したと認められる場合、名誉毀損、信用毀損、偽計業務妨害による損害賠償の請求が認められる。つまり、不法行為による損害賠償、慰謝料の請求は認められる。

導入

2017年6月5日に東名高速道路上で起きたあおり運転死傷事故に関連し、インターネット上の電子掲示板(5ちゃんねる)などで発生した書き込みについて虚偽情報により名誉を毀損されたとして損害賠償を求めた裁判を見ていく。2022年(令和4年)3月18日、福岡地方裁判所第3民事部にて出された判決は以下を参照のこと。

平成31(ワ)1170 損害賠償請求事件判決文全文
※原告・被告ともに判決を不服として行われた控訴審で福岡高等裁判所は賠償額を引き上げる判決を下した

なお、上記のあおり運転死傷事故に関しては以下の記事を参照。

東名あおり運転やり直し裁判 危険運転致死傷罪を認定 懲役18年 (NHK NEWS WEB 2022年6月6日 20時06分 配信記事)

事件の当事者

原告

  • 原告A 原告B株式会社の代表取締役。

  • 原告B株式会社 設備建設業を営む株式会社。

被告

  • 被告C 被告Cによる投稿(別紙2記述目録1(34ページ))

  • 被告D 被告Dのブログ『モノローグ』(消失)→記事タイトル『東名高速妨害追突死亡事故! H容疑者の住所が判明,晒されていた! 容疑者の実家は会社を経営? B株式会社に勤務?』(別紙4記述目録3(36ページ))

(中略)
容疑者の勤務先も特定されている!?
(中略)
東名高速の福岡糞DQN
車は白のホンダストリーム
住所 福岡県中間市(中略)
本籍 (中略)氏名 H(フリガナ)25歳自分の父親が立ち上 げた会社に勤務してる様,B株式会社,福岡県北九州市a区(住所 15 省略)(中略)
―(アカウント名省略)2017年10月11日

判決文 別紙4記述目録3(36ページ)
  • 被告E 被告Eによる投稿(レス番号944:削除済)他計3件(別紙5記述目録4(37ページ))

>>943
■H容疑者(フリガナ)25歳 2017年10月10日逮捕
(電話番号省略)
[住居地]:福岡県中間市(中略)
[本籍地]:(中略)
[勤務先]:B株式会社?
[代表者]:A(※実父)
[勤務先所在地]:福岡県北九州市a区(住所省略)
[勤務先電話番号]:(中略)
[従業員数]:15名
[事業内容]:全国の発電プラントの電気設備工事全般?
[事件時使用車]ホンダストリーム 白色 (車両番号省略)

判決文 別紙5記述目録4(37ページ)

■H容疑者(フリガナ)25歳 2017年10月10日逮捕 (電話番号省略)
[住居地]:福岡県中間市(中略)
[本籍地]:(中略)
[勤務先]:B株式会社
[代表者]:A(※実父)
[勤務先所在地]:福岡県北九州市a区(住所省略)
[勤務先電話番号]:(中略)
[従業員数]:15名
[事業内容]:全国の発電プラントの電気設備工事全般
[事件時使用車]ホンダストリーム 白色 (車両番号省略)

判決文 別紙6記述目録5(38ページ)

原告の主張

■ 原告らの社会的評価が低下したか(5ページ26行)

本件男性に対しては,平成30年12月18日,横浜地方裁判所において懲役18年の実刑判決が言い渡されたところ,本件事故は,本件男性が逮捕された当時,社会の関心が高く,本件男性について悪感情を抱く市井の人々が多くいた。このような状況の中,被告らは,真実性の調査をせず漫然と,それぞれ本件虚偽情報を原告B株式会社の所在地及び電話番号等と併せて掲載する方法で,本件掲示板等に公然と摘示したもので,当時の上記状況に照らして,本件各記述は,虚偽の事実(本件虚偽情報)を摘示し,読み手にこれを真実と誤信させ,原告らの社会的評価を低下させるものである。

判決文 6ページ5行

■ 故意過失の有無について(8ページ12行)

被告らは,それぞれ,刑事事件の取調べにおいて,本件各記述を投稿するに際し原告らの名誉を毀損することについて故意ないし過失があることを自認したのであるから,被告らは,故意又は過失により原告らの名誉ないし信用を毀損し,業務を妨害したというべきである。また,疑問符が付されても,読み手が事実として受け取り拡散することは容易に予見できるから,断定的表現でないからといって,被告らの名誉毀損に係る故意又は過失は否定されない。

判決文 8ページ14行

そして,本件各記述は,本件虚偽情報に加えて原告B株式会社の所在地や電話番号を摘示したものであるところ,これは,原告らに対して悪感情を抱いた者が苦情や嫌がらせの電話をかけることを企図したとしか考えられず,悪性が高い。

判決文 8ページ21行

■ 損害額について(9ページ12行)

被告の主張

被告C

■ 原告らの社会的評価が低下したか(7ページ4行)

 本件記述1は,本件返信元記述に対して返信する形式でされたものにすぎない上,文末に「?」を付けて疑問文の体裁をとっており,原告らの社会的評価を低下させる事実の摘示ということはできない。

判決文 7ページ5行

また,会社が,従業員による業務と無関係の犯罪行為に対する責任まで共有すべきであるとか,親が,民法上監督責任のない成人した子の犯罪行為の責任を負うべきであるという共通認識はないから,本件記述1により原告らの名誉は毀損されない。

判決文 7ページ7行

インターネット上に流布された情報は,そもそも不確かなものであるところ,原告B株式会社が受けた電話は,その内容をみると,原告B株式会社が 本件男性の勤務先であるかを確認する趣旨のものばかりであり,これは,本 件記述1により原告らの社会的評価が毀損されなかったことの証左である。

判決文 7ページ11行

■ 故意過失の有無について(8ページ25行)

否認ないし争う。被告Cは,原告らの名誉を毀損する意図があったものではない。

判決文 8ページ26行

■ 損害額について(11ページ6行)

 被告Cが本件記述1をした当時,本件記述1と同じような内容の投稿をした者は他にも多数存在した。

判決文 11ページ7行

また,被告Cは,本件返信元記述から得られた情報を基に,インターネット上で検索をして原告B株式会社を特定したところ,本件返信元記述は,質問を装って,本件返信元記述から得られた情報を基にインターネット上で原告B株式会社を探し当てるよう誘導する目的でされたものであるから,本件返信元記述こそが本件虚偽情報の拡散元というべきであって,本件記述1が,他の多くの投稿の引用元になったという根拠はない。

判決文 11ページ8行

被告D

■ 原告らの社会的評価が低下したか(7ページ17行)

 本件記述3から本件記述5までは,原告らが違法な行為をしたとか,反道徳的な行為をしたとするものではなく,本件男性の立ち回り先に関する情報,すなわち,原告B株式会社が本件男性の勤務先であり,原告B株式会社の代表者である原告Aが本件男性の実父であるとした上で,原告B株式会社の所在地や電話番号を摘示したにすぎず,これらにより原告らの社会的評価が下がったということはできない。

判決文 7ページ18行

 また,被告Dは,本件記述3を投稿するに際し,他者の投稿内容を引用し,「?」や「様」を付けて,未確認情報であることを明らかにしたものである上,本件記述3から本件記述5までが投稿された当時,これらの投稿以外にも未確認情報であることを示す投稿が多数あったと考えられることに照らすと,通常人を標準にすれば,被告Dらの投稿によって原告らの社会的評価が低下したとはいうことはできない。

判決文 7ページ24行

 さらに,本件記述3から本件記述5までの内容は,財産的な問題とは無関係であるから信用毀損には当たらないところ,原告B株式会社は,刑事事件の報告書において「経済的側面に対する信用失墜までは至っていなかった」とされたのであるから,原告B株式会社の信用が被告Dらの各投稿により低下したということはできない。

判決文 8ページ4行

※なお、被告Dは記事の内容が事実ではないと知ると「削除要請がなされる前に」「訂正記事を掲載し」「事実ではない記事を取り下げ」「謝罪をした」。(8ページ9行)

■ 故意過失の有無について(9ページ2行)

 被告Dらは,本件掲示板等において既に拡散されていた本件虚偽情報を見て,それを真実と誤信したために,本件虚偽情報を含む本件記述3から本件記述5までの各投稿をしたのであって,故意に虚偽の事実を摘示したものではない上,本件記述3から本件記述5までは,上記のとおり,原告らの名誉に関する情報ではないから,被告Dらは,原告らの名誉を毀損するとは認識しておらず,認識可能性もない。

判決文 9ページ3行

また,原告らに対する嫌がらせがあることを予見することはできなかった。

判決文 9ページ8行

※なお,被告Dらの供述調書は誘導的ないし高圧的な尋問により取調官がその意とする供述を押し付けた結果作成されたものであり信用性がない、と主張する。(9ページ10行)

■ 損害額について(12ページ2行)

 被告Dらは,原告らに対して苦情や嫌がらせ電話をしたことはなく,そのような意図はなかった。仮に,原告らが主張する嫌がらせ電話があったとしても,それは嫌がらせ電話をした者が自分の判断に基づいてしたものであって,業務妨害の責任を負うのは電話をした者であり,被告Dらの各投稿を見たことからそのような行動に及んだことの立証はないから,被告Dらの各投稿と上記嫌がらせ電話等との間の自然的因果関係,条件関係がない。また,被告Dは,削除要請前に,本件記述3の訂正や削除を行った。

判決文 12ページ3行

 捜査報告書(甲1)によれば,被告Cの投稿がなければ,本件虚偽情報が拡散することはなかったと思われるものの,被告Dらの投稿がなければ誤った情報が拡散することはなかったということはできない。したがって,原告らの主張する損害は存在しないか,存在するとしても本件記述3から本件記述5までと因果関係がない。

判決文 12ページ10行

被告E

■ 原告らの社会的評価が低下したか(7ページ17行)

被告Dのみに係る部分を除いて被告Dに同じ。

■ 故意過失の有無について(9ページ2行)

被告Dに同じ。

■ 損害額について(12ページ2行)

被告Dのみに係る部分を除いて被告Dに同じ。

被告F

■ 原告らの社会的評価が低下したか(7ページ17行)

被告Dのみに係る部分を除いて被告Dに同じ。

■ 故意過失の有無について(9ページ2行)

被告Dに同じ。

■ 損害額について(12ページ2行)

被告Dのみに係る部分を除いて被告Dに同じ。

被告G

■ 原告らの社会的評価が低下したか(7ページ15行)

 認める。

判決文 7ページ16行

■ 故意過失の有無について(9ページ2行)

被告Dに同じ。

■ 損害額について(11ページ22行)

 争う。
 被告Gは,本件虚偽情報の拡散元ではない。また,本件記述2は,「ハッキリしたわけではないが」として不確定な情報である旨を明示したものであるから,他の明白な虚偽の情報を投稿した者と同等の損害賠償義務を負うとするのは不合理であり,請求額が高額にすぎる。

判決文 11ページ23行

福岡地方裁判所の判断

認定事実(12ページ16行)

(1)本件事故の発生及び本件男性の逮捕(12ページ19行)
 ※東名高速道路あおり運転死傷事故と原因となった男性の逮捕

(2)被告らによる本件各記述(13ページ9行)

 ア 被告Cによる本件記述1(13ページ10行)

 被告Cは,本件検索結果ページを見て,原告B株式会社は本件男性の勤務先であり,本件男性の父親が経営する会社であろうと考え,本件男性と原告B株式会社との関係性について調べることなく,同日午前7時52分,不特定多数の者が閲覧可能な本件掲示板において本件返信元記述に対する返信の形式で,本件掲示板に本件検索結果ページのハイパーリンク(URLの貼り付けにより自動設定)が設定されたURLを含む本件記述1を投稿した。

判決文 13ページ17行

本件記述1の前後の投稿は,本件男性に対し批判的な内容ばかりであった。

判決文 13ページ23行

 本件男性について,原告B株式会社の所在地や電話番号等の情報を関連付けて投稿したのは,被告Cによる本件記述1が最初であった。

判決文 13ページ25行

 ウ 被告Dによる本件記述3(14ページ13行)

被告Dは,上記投稿を見て,原告B株式会社は本件男性の勤務先であり,本件男性の父親が経営する会社であると考え,本件虚偽情報が真実であるかの確認をすることなく,不特定多数の者が閲覧可能なインターネット上のブログサイトにおいて,同日午後0時頃,「東名高速妨害追突死亡事故! H容疑者の住所が判明,晒されていた! 容疑者の実家は会社を経営? B株式会社に勤務?」「容疑者の勤務先も特定されている!?」との記述をした上で,原告B株式会社の名称,所在地,電話番号とともに,本件会社が本件男性の父親の立ち上げた会社であり,本件男性が勤務している旨の内容の別の投稿を引用して掲示した本件記述3を投稿した。

判決文 14ページ20行

 エ 被告Eによる投稿(15ページ5行)

被告Eは,上記投稿を見て,原告B株式会社は本件男性の勤務先であり,本件男性の父親が経営する会社であると考え,本件虚偽情報が真実であるかの確認をすることなく,同日午前9時6分から同日午後2時56分までの間,不特定多数の者が閲覧可能な本件掲示板及び電子掲示板「まちBBS」に,上記投稿をコピーして貼り付けたものである本件記述4(少なくとも合計3件)を投稿した。

判決文 15ページ10行

 オ 被告Fによる本件記述5(15ページ18行)

被告Fは,上記投稿を見て,原告B株式会社は本件男性の勤務先であり,本件男性の父親が経営する会社であると考え,本件虚偽情報が真実であるかの確認をすることなく,同日午前11時56分及び同月14日午後2時35分,不特定多数の者が閲覧可能な本件掲示板に,上記投稿をコピーして貼り付けたものである本件記述5(合計2件)を投稿した。

判決文 15ページ22行

 イ 被告Gによる本件記述2(14ページ2行)

 被告Gは,同日,本件事故について本件男性が逮捕された旨の報道を見て,本件男性に対して怒りを感じるなどしたところ,被告Cによる本件記述1を見て,原告B株式会社は本件男性の勤務先であると考え,本件虚偽情報が真実であるかの確認をすることなく,同日午前7時58分,不特定多数の者が閲覧可能な本件掲示板において先行して投稿されたレス番号313の,本件男性の「親兄弟の勤務先を特定するまでが祭りだ 北海道の危険運転致死事件では実家特定までできたからな」に対する返信の形式で,本件検索結果ページのハイパーリンク(URLの貼り付けにより自動設定)が設定されたURLを含む本件記述2を本件掲示板に投稿した。

判決文 14ページ3行

(3)原告B株式会社及び原告Aへの誹謗中傷等(16ページ3行)

 原告B株式会社が本件男性の勤務先であり,その代表者である原告Aが本件男性の実父であるという虚偽の情報(本件虚偽情報)は,同月11日の本件記述1の投稿以降,原告Aの実名及び原告B株式会社の情報とともに拡散され,それとともにインターネット上では,原告B株式会社及び原告Aに対し,不特定多数の者が誹謗中傷をする状況となり,その中には,原告Aに対し本件男性とともに死んでくれという内容のものがあった。

判決文 16ページ4行

 原告B株式会社に対しては,同日以降,原告B株式会社が本件男性と関係があることを前提とする非難の電話や無言電話等が,多い日で1日当たり100を超える件数かかってくる状況となった。その中には,原告B株式会社に対する襲撃予告のようなものまであったことから,原告B株式会社は,2日間の休業をした。そのほか,原告Aは,取引先等に出向き,原告B株式会社及び原告Aが本件男性とは無関係である旨の説明をした。

判決文 16ページ10行

 また,原告Aは,家族に危害が及ぶことを危惧し,子に対して学校を2日間休ませるなどした。

判決文 16ページ16行

(4)被告Dによる訂正文の投稿(16ページ20行)

 被告Dは,同月13日,原告B株式会社が本件男性と関係がない旨のメールを受信し,インターネット上で確認すると,本件男性と原告B株式会社は無関係という投稿が多く見られたため,被告Dは,同日,本件記述3をしたブログサイト上に「訂正 H容疑者の勤務先はB株式会社ではない!」と題する訂正記事を掲載したところ,上記ブログサイト宛てに被告Dに対する誹謗中傷のメールが殺到した。

判決文 16ページ21行

 被告Dは,同月16日,本件記述3を削除し,同月18日,上記ブログサイト上に「H容疑者の勤務先がBと誤って掲載した件についての謝罪」と題する謝罪記事を掲載した。

判決文 17ページ1行

(5)原告Aの本件虚偽情報に対する対応等(17ページ6行)

 原告Aは,同月16日,福岡県a警察署を訪れ,対応した警察官に対し,本件虚偽情報がインターネット上で拡散され,苦情の電話等が殺到して原告B株式会社の信用を失墜させられたなどと被害を申告した。

判決文 17ページ7行

 また,原告Aは,同月19日以降,報道機関に対し,本件虚偽情報が拡散されたことについて,本件虚偽情報により誹謗中傷等されていることを報道するよう求め,報道機関からの取材を受けるなどし,本件虚偽情報が事実と異なる旨が繰り返し報道された。

判決文 17ページ10行

 さらに,原告Aは,同月26日,福岡県a警察署において,本件虚偽情報が拡散され原告B株式会社の名誉が毀損されたとする被害届を提出した。捜査によりインターネット上において本件虚偽情報を投稿したと特定されたのは,被告らを含む11名であり,被告らは,捜査機関による取調べを受けるなどした。

判決文 17ページ14行

 原告B株式会社は,本件虚偽情報が拡散されたことにより,従業員及び原告Aが本件虚偽情報へ対応することを余儀なくされた上,2日間休業したものの,受注中であった請負工事等を失うことはなかった。

判決文 17ページ22行

(6)刑事告訴(18ページ1行)

 原告らは,同年3月30日,被告らを含む11名について,原告B株式会社の名誉を毀損したとして刑事告訴をした。
 上記11名は,同年6月,福岡地方検察庁b支部へ書類送検されたところ,福岡地方検察庁b支部検察官は,上記11名について不起訴処分とし た。

判決文 18ページ2行

 原告らは,不起訴処分となった被告らを含む上記11名のうち,示談合意した1名及び死亡した1名を除く9名に係る上記不起訴処分について,b検察審査会に対し,審査を申し立てた。

判決文 18ページ10行

(7)本件訴訟の提起及び和解等(18ページ14行)

 原告らは,令和元年6月25日,分離前相被告1名との間で,同人が原告らに対し,各50万円を分割して支払う旨の内容の裁判上の和解をした。

判決文 18ページ18行

 また,当裁判所は,同年7月10日,別の分離前相被告1名について,同人が原告らに対し,各50万円を分割して支払う旨の民事調停法17条に基づく調停に代わる決定をし,同決定は,同月29日の経過により確定した。 

判決文 18ページ20行

(8)刑事事件の経過等(18ページ24行)

 b検察審査会は,令和元年10月8日,被告らを含む9名について,起訴を相当とする旨の議決をした。

判決文 18ページ25行

 これを受け,福岡地方検察庁b支部検察官は,令和2年3月31日,被告Cについて「起訴(公判請求)」とし,被告D,被告F,被告G,被告E及び外1名について「起訴(略式命令請求)」とし,原告らと裁判上の和解をした者及び17条決定が確定した者を含むその余の3名について不起訴処分とした。

判決文 19ページ1行

 被告D,被告F,被告G,被告E及び外1名は,それぞれ,罰金30万円の略式命令を受け,被告Cは,名誉毀損の公訴事実について争ったものの,令和2年12月10日,福岡地方裁判所b支部において罰金30万円の判決宣告を受け,上訴したものの,上記判決が確定した。

判決文 19ページ6行

(9)被告ら以外の者との裁判上の和解(19ページ11行)

 原告らは,令和3年6月18日,本件訴訟において,前記⑺とは別の分離前相被告1名との間で,同人が原告らに対して各50万円の支払義務があり,分割して支払を受ける旨及び同年7月30日までに原告らに対し各40万円を支払ったときは,その余の支払義務を免除する旨などを内容とする裁判上の和解をした。

判決文 19ページ12行

(10)賠償金の支払(19ページ18行)

 原告らは,本件虚偽情報に係る名誉毀損等に関して,被告ら以外の者から,前記(6)の100万円を含めて,これまでに合計約230万円の支払を受 けた。

判決文 19ページ19行

(11)本件男性の刑事裁判(19ページ23行)

 本件男性は,本件事故に係る行為等について,危険運転致死傷罪等の罪で起訴され,平成30年12月14日,横浜地方裁判所において,危険運転致死傷罪等が成立するとして懲役18年の判決宣告を受けたところ,本件男性が上記判決について控訴をした。

判決文 19ページ24行

※参照記事は以下。

東名あおり運転やり直し裁判 危険運転致死傷罪を認定 懲役18年 (NHK NEWS WEB 2022年6月6日 20時06分 配信記事)

「原告らの社会的評価が低下したか」について(20ページ2行)

(2)被告Cによる本件記述1について(20ページ9行)

本件記述1は,単に原告B株式会社の存在を摘示するだけでなく,本件返信元記述の内容を前提に原告B株式会社の情報を摘示したものということができる。そして,本件返信元記述は,本件男性の親がa区で建設会社の社長をしているか,当該会社を守るために本件男性を社員からアルバイトに降格させたかを問いかける内容であるところ,これに対する返信の形式で本件記述1をすることは,一般読者の普通の注意と読み方を基準とすると,本件返信元記述において摘示された会社が原告B株式会社として実在し,本件男性が原告B株式会社に勤務し,原告B株式会社の代表者が本件男性の親であるとの事実を摘示するものというのが相当であ る。

判決文 20ページ19行

本件記述1は「これ? 違うかな」として断定した表現を避けてはいるものの,本件返信元記述の問いかけに答えるもので,本件返信元記述の記載内容の真実性に対して何ら疑問を呈することなく,かつ,本件記述1を投稿した経緯の説明を付すことなく,本件返信元記述の内容を前提に,これに沿った原告B株式会社の情報を摘示したものであるから,本件返信元記述の信用性を高め,かつ,会社の名称や所在地を明らかにするハイパーリンクが設定されたURLを掲記し,情報の精度を上げるもので,本件記述1の読者に対し,本件男性が本件会社に勤務し,原告B株式会社の代表者が本件男性の親であるとの印象を与えるというべきである。

判決文 21ページ6行

したがって,被告Cの上記主張を採用することはできない。

判決文 21ページ15行

本件記述1がされた当時の状況及び本件記述1の前後の投稿における文脈に照らせば,本件記述1は,社会的非難を受ける本件男性が原告Aの子であり,原告B株式会社が本件男性の勤務先であることを示すものであって,原告Aが子に対し適切な教育を施すことができない人物である旨及び原告B株式会社が社会的非難の対象となる人物を代表者の子であるからといって採用し,当該人物が稼働する会社であるという印象を抱かせ,読者がそれまで原告らを知っていたか否かにかかわらず,原告らの当時の社会的評価や信用に疑問や誤解を生じさせるものということができる。

判決文 22ページ1行

実際に,前記認定のとおり,本件各記述がされ,本件虚偽情報が拡散された後,インターネット上では,原告B株式会社及び原告Aに対し,不特定多数の者が誹謗中傷をする状況となるなどした。

判決文 22ページ9行

したがって,本件記述1は,原告らの社会的評価を低下させるというのが相当である。

判決文 22ページ12行

(4)被告Dによる本件記述3について(22ページ17行)

本件記述3は,本件男性が原告Aの子であり,原告B株式会社に勤務する事実を摘示するものであって,前判示のとおり,本件記述3がされた当時の状況に照らして,上記事実の摘示は,原告Aが子に対し適切な教育を施すことができない人物である旨及び原告B株式会社が社会的非難の対象である人物を代表者の子であるからといって採用し,当該人物が稼働する会社であるという印象を抱かせ,原告らの当時の社会的評価や信用に疑問や誤解を生じさせるものということができる。

判決文 22ページ20行

 したがって,本件記述3は,原告らの社会的評価を低下させるものというのが相当である。

判決文 23ページ1行

 これに対し,被告Dらは,本件記述3が本件男性の立ち回り先に関する情報にすぎず,これにより原告らの社会的評価は低下しないと主張するが,上記のとおり,被告Dらの上記主張を採用することはできない。

判決文 23ページ3行

本件記述3は「東名高速妨害追突死亡事故! H容疑者の住所が判明,晒されていた!」などとして,本件男性の住所が判明したことを断定的に記載した上で,「?」や「様」を用いてはいるものの,本件記述3をした経緯の説明を付すことなく,本件男性の父親が設立した会社が原告B株式会社であり,本件男性が原告B株式会社に勤務している旨を摘示するものであって,一般読者の普通の注意と読み方を基準とすると,原告Aが子に対し適切な教育を施すことができない人物である旨及び原告B株式会社が社会的非難の対象となる人物を代表者の子であるからといって採用し,当該人物が稼働する会社であるという印象を与えるというべきである。

判決文 23ページ10行

したがって,被告Dらの上記主張を採用することはできない。

判決文 23ページ20行

さらに,被告Dらは,本件記述3の内容は財産的な問題とは無関係であるから原告B株式会社の信用毀損には当たらないと主張する。
 しかし,自然人のみならず,法人においても,顕在する取引先及び潜在的な取引先に対する社会的評価が観念されるのであって,前判示のとおり,本件記述3は,原告B株式会社が社会的非難の対象である人物を代表者の子であるからといって採用し,当該人物が稼働する会社であるという印象を抱かせ,原告B株式会社の当時の社会的評価や信用に疑問や誤解を生じさせるというのが相当であることに照らせば,本件記述3は,原告B株式会社の社会的評価を低下させるものというべきである。

判決文 23ページ21行

 したがって,被告Dらの上記主張を採用することはできない。

判決文 24ページ4行

(5)被告Eによる本件記述4について(24ページ5行)

本件記述4がされた当時の状況に照らして,本件男性が原告Aの子であり,原告B株式会社で勤務するという事実の摘示は,原告Aが子に対し適切な教育を施すことができない人物である旨及び原告B株式会社が社会的非難の対象である人物を代表者の子であるからといって採用し,当該人物が稼働する会社であるという印象を抱かせ,原告らの当時の社会的評価や信用に疑問や誤解を生じさせるものということができる。

判決文 24ページ11行

 したがって,本件記述4は,原告らの社会的評価を低下させるものということができる。

判決文 24ページ17行

 また,本件記述4についてのその余の本件記述3と同じ被告Dらの主張についても,当裁判所の判断は前判示のとおりであり,これを採用することはできない。

判決文 24ページ19行

(6)被告Fによる本件記述5について(24ページ22行)

前判示のとおり,本件記述5がされた当時の状況に照らして,本件男性が原告Aの子であり,原告B株式会社で勤務するという事実の摘示は,原告Aが子に対し適切な教育を施すことができない人物である旨及び原告B株式会社が社会的非難の対象である人物を代表者の子であるからといって採用し,当該人物が稼働する会社であるという印象を抱かせ,原告らの当時の社会的評価や信用に疑問や誤解を生じさせ,詳細な記述によってそれを信じさせるものということができる。

判決文 25ページ1行

 したがって,本件記述5は,原告らの社会的評価を低下させるものということができる。

判決文 25ページ9行

 また,本件記述5についてのその余の本件記述3と同じ原告Dらの主張についても,当裁判所の判断は前判示のとおりであり,これを採用することはできない。

判決文 25ページ11行

(3)被告Gによる本件記述2について(22ページ14行)

 本件記述2により原告らの社会的評価が低下したことは,原告らと被告Gとの間で争いはない。

判決文 22ページ15行

「故意過失の有無」について(25ページ14行)

(1)被告らの故意について(25ページ15行)

 原告らは,被告らには本件各記述により原告らの社会的評価を低下させることについての故意があった旨主張し,これに沿う証拠として,刑事事件における各供述調書が存在する。しかし,その信用性を補完する証拠(公判供述等)は見当たらず,被告C及び被告Dは,本件訴訟においてこれに反する供述をする(被告C本人〔4・5頁〕,被告D本人〔5頁〕)。したがって,本件において被告らに故意があったとまで認めることはできない。

判決文 25ページ16行

(2)被告Cについて(25ページ23行)

被告Cは,上記一連の投稿がなされているスレッドに本件記述1を加えることにより,このスレッドを通して読む読者における原告らの社会的評価を低下させることを認識し得たというのが相当である。

判決文 26ページ19行

本件記述1により原告らの社会的評価を低下させることについて,被告Cには過失があったというべきである。

判決文 26ページ22行

(4)被告Dについて(27ページ3行)

被告Dは,本件記述3により,原告らの社会的評価を低下させる可能性を認識し得たというのが相当である。

判決文 27ページ9行

本件記述3により原告らの社会的評価を低下させることについて,被告Dには過失があったというべきである。

判決文 27ページ12行

(5)被告Eについて(27ページ14行)

被告Eは,本件記述4により,原告らの社会的評価を低下させることを認識し得たというのが相当である。

判決文 27ページ22行

本件記述4により原告らの社会的評価を低下させることについて,被告Eには過失があったというべきである。

判決文 27ページ24行

(6)被告Fについて(27ページ26行)

被告Eは,本件記述5により,原告らの社会的評価を低下させることを認識し得たというのが相当である。

判決文 28ページ8行

本件記述5により原告らの社会的評価を低下させることについて,被告Fには過失があったというべきである。

判決文 28ページ10行

(3)被告Gについて(26ページ24行)

 被告Gが本件記述2により原告らの社会的評価を低下させることについて少なくとも過失があることについて,明らかに争わないから,これを自白したものとみなす。なお,故意については損害論についての主張に照らし争わないものということはできない。

判決文 26ページ25行

「損害額」について(28ページ12行)

 前判示のとおり,本件各記述がされた当時,本件男性に対する社会的非難がされており,本件男性の親族に対しても否定的,批判的な評価がされる状況であったもので,本件各記述により,原告らの社会的評価が低下したということができる。

判決文 28ページ13行

 他方で,前記認定のとおり,原告Aが報道機関に働きかけ,本件各記述の掲示からそれほど間をおかず本件虚偽情報が事実と異なる旨が繰り返し報道されるなどしたことにより,本件虚偽情報が事実と異なるものである旨が広く周知されるに至ったこと,

判決文 28ページ17行

原告Aは,原告B株式会社とともに,本件虚偽情報に係る名誉毀損に関して,被告ら以外の者から合計約230万円の支払を受け,本件虚偽情報について一定の慰謝を受けたこと,

判決文 28ページ20行

また被告らは,原告Aの告訴等を受けて本件各記述について,原告B株式会社に対する名誉毀損罪が成立するとして,それぞれ罰金30万円の判決を受けたことがそれぞれ認められる。

判決文 28ページ22行

(1)被告Cについて(29ページ1行)

本件記述1は, 本件虚偽情報が拡散する契機となったというべきである。

判決文 29ページ10行

 このような本件記述1の投稿の態様,内容等その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると,被告Cによる本件記述1により原告Aに生じた精神的損害に対する慰謝料は,20万円というのが相当であり,本件記述1の掲載と相当因果関係を有する弁護士費用は2万円が相当である。

判決文 29ページ12行

これに対し,被告Cは,本件記述1は,本件虚偽情報の拡散元ではないと主張するが,前記認定事実に照らし,被告Cの上記主張を採用することはできない。

判決文 29ページ16行

 本件記述1の態様,内容等その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると,被告Cによる本件記述1により原告B株式会社に生じた損害は,20万円というのが相当であり,本件記述1の掲載と相当因果関係を有する弁護士費用は2万円が相当である。

判決文 29ページ20行

 これに対し,被告Cは,原告B株式会社の損害は,第三者による迷惑電話がかかってきたことであり,被告Cがその者らの責任を負ういわれはない旨を主張する。しかし,前判示のとおり,原告B株式会社は,本件記述1により社会的評価ないし信用が低下したものであって,上記迷惑電話はそれが顕在化したものであるにすぎない。被告Cの上記主張を採用することはできない。

判決文29ページ24行

(3)被告Dらについて(30ページ20行)

このような本件記述3ないし5の各投稿の態様,内容等その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると,被告Dらによる本件記述3ないし5により原告Aに生じた精神的損害に対する慰謝料は,各15万円というのが相当であり,本件記述3ないし5の掲載と相当因果関係を有する弁護士費用は各1万5000円というのが相当である。

判決文 30ページ25行

被告Dらによる本件記述3ないし5により原告B株式会社に生じた損害は,各15万円というのが相当であり,本件記述3ないし5の掲載と相当因果関係を有する弁護士費用は各1万5000円が相当である。

判決文 31ページ6行

 被告Dらは,被告Dによる本件記述3ないし5がなければ本件虚偽情報が拡散することがなかったということはできないと主張する。
 しかし,前判示のとおり,本件各記述がされた当時の本件男性に対する社会的非難の度合いは強いものがあり,これに比例するように,本件男性の親族等の関係者に対する否定的,批判的な意見も強かったこと及びより詳細な情報を掲示ないし拡散させることにより,その虚偽情報の精度が上がり,信用性が増すことに照らすと,このような状況において本件記述3ないし5を投稿することは,本件記述3ないし5それぞれによって原告らの社会的評価を一層低下させるというのが相当である。

判決文 31ページ10行

 したがって,被告Dらの上記主張を採用することはできない。

判決文 31ページ19行

(2)被告Gについて(30ページ4行)

被告Gは,本件記述1を見た後,本件掲示板に本件記述2をしたものであるところ,本件記述2がされた際,既に本件記述1により本件虚偽情報がインターネット上に存在したということができ,この点で本件記述1とは異なるということができる。
 そうすると,このような本件記述2の投稿の態様,内容等その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると,被告Gによる本件記述2により原告Aに生じた精神的損害に対する慰謝料は,15万円というのが相当であり,本件記述2の掲載と相当因果関係を有する弁護士費用は1万5000円が相当である。

判決文 30ページ6行

被告Gによる本件記述2により原告B株式会社に生じた損害は,15万円というのが相当であり,本件記述2の掲載と相当因果関係を有する弁護士費用は1万5000円が相当である。

判決文 30ページ17行

考察

考察の前に本件訴訟とその結果についてまとめる。

原告A:名誉毀損に対する一定限度の損害賠償および慰謝料の請求が認められた。
原告B株式会社:名誉毀損・信用毀損に対する一定限度の損害賠償および慰謝料の請求が認められた。

被告C
【刑事】名誉毀損罪(公判)成立、罰金30万円
【民事】損害賠償として原告Aに22万円、原告B株式会社に22万円
被告D
【刑事】名誉毀損罪(略式命令)成立、罰金30万円
【民事】損害賠償として原告Aに16万5千円、原告B株式会社に16万5千円
被告E
【刑事】名誉毀損罪(略式命令)成立、罰金30万円
【民事】損害賠償として原告Aに16万5千円、原告B株式会社に16万5千円
被告F
【刑事】名誉毀損罪(略式命令)成立、罰金30万円
【民事】損害賠償として原告Aに16万5千円、原告B株式会社に16万5千円
被告G
【刑事】名誉毀損罪(略式命令)成立、罰金30万円
【民事】損害賠償として原告Aに16万5千円、原告B株式会社に16万5千円

(※遅延損害金は別途、訴訟費用は別途(主文4を参照))

その他、訴訟にいたる前の和解や調停などで原告Aおよび原告Bに対し約230万円の慰謝料が被告以外の者から支払われている

「?」を使い疑義を呈した
同じ内容を書いた者は他にもいる
記事を削除したのでなかったことに
特定の名前は出していない
証拠を審理し裁判官が判断します
立証って案外難しいですよ

結論

5ちゃんねる、爆サイ等の電子掲示板に類するサイトに書き込まれた信用に乏しい情報を根拠として他者を批判することは避けるべきである。

参考文献

謝辞

記事中で『いらすとや』様のイラストを使用させていただきました。
記事中で『WaterBridge』様の立ち絵素材を使用させていただきました。