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第48回かまちゃんねる『過剰の欠乏~肥料と水やりを科学する』PartⅡ

さぁはじまりました、かまちゃんねる第48回ということで、前回は球根栽培にフォーカスをあてて紹介してまいりまして、全体的な総括をさせていただきました。

今回からは新シリーズとして肥料・水やりについて解説を進めていきたいと思います。植物への水やりというのは、これまでにも度々話してきているわけですけど生育段階のどのステージにおいても、もっとも日常的かつ重要な作業になります。簡単そうに見えても奥が深く、例えば植物ごとに水を与える時間は違っていたり、栽培ステージでも与える水量は変わってきますので奥が深い世界なのでございます。

肥料については適期に適量という基本をしっかりと学ぶ必要があります。これも度々申し上げていることですけど、過剰の欠乏といいまして肥料というのは多く与えすぎるとかえって植物の根を傷める原因になったりして枯れてしまうこともあります。

というわけで、シリーズ第3弾「過剰の欠乏」と題してお届けしていきたいと思います。

まず前提として植物は動物と違って、食べ物を求めて動き回ることができませんよね。だから生命を保ち、生長するための養分は自分でつくらなければなりません。養分をつくる働きが光合成です。

炭酸同化ともいい、炭酸ガス、つまり二酸化炭素と水から光エネルギーを利用し、酸素と炭水化物をつくります。この植物がつくり出す炭水化物を動物は食料としているのです。

しかし、植物も炭酸ガス、水および酸素だけで生きていくことはできません。人もサプリメントだけでは生きていけないですよね。植物体をつくるため、他の養分も必要とします。タンパク質や酵素の構成要素である窒素、リン、カリなど数多くの要素をほかから供給されなければなりません。それらの要素は土から根により吸収されます。

ただ、どんな土にもこれらの必要とされる養分が常にあるわけではありません。土の種類により特定の養分が足りないのが通常です。そのため、それらの養分を補給しなければなりません。特に三大要素といわれる窒素、リン酸、カリを含む多量必須要素は不足しがちです。植物が生育している間は常に肥料として施用しなければなりません。

具体的にどの要素が足りないとかは土壌分析をする時にPhを調べるだけではなくってこういった必須要素や微量要素もやった方がいいですね。人に置き換えると人間ドックのようなもので、しっかりと分析したうえで施肥設計をしてやることが重要だという事はこれまで「農業経営は土壌経営」というシリーズでお伝えしてきた通りでございます。

それではそれぞれの栄養素って漠然と必要なのかというと、そうとも限らないんですよね。ホームセンターとかで見かける化成肥料のパッケージを見ているとPNKとかって書かれていると思うんですけど、Pはリン酸です。これは花つきを良くするので、果菜類とかにめっちゃ重要ですよね。収穫量に直結します。PNKのNは、窒素ですね。

この栄養素は葉っぱとか茎を大きくします。だから葉菜類に必要だという事はお判りいただけると思いますが、もちろん他の農産物にも必要ですよね。それではPNKのKはというとカリウムなわけですけど、こちらは植物根の発達を促進したり、葉っぱや茎を丈夫にしてくれます。

このように植物は炭酸ガスと水から植物体を構成する炭水化物を合成するものの、タンパク質や酵素などの構成要素は根から肥料として供給される必要があります。

植物には、三大要素である、窒素、リン酸、カリを 含む多量必須要素と、多量には必要ではないが、なくてはならない成分としての微量必須要素が生きていくために必要です。多量必須要素には、三大要素以外に、炭素、水素、 酸素、カリウム、カルシウム、マグネシウム、イオウがあります。

微量必須要素には、鉄、マンガン、銅、 亜鉛、ホウ素、モリブデン、塩素があります。微量要 素はヒトにとってのビタミン類のようなもので、微量しか必要ではありませんが、植物には不可欠です。

なかでも、鉄やマンガンは植物の酸化還元に関わる重要な生理作用に必要な要素です。有機物を多く含んでいる土では、微量要素の欠乏が起こることはあまりありませんが、慣行栽培といって、農薬とか化成肥料を常用している畑では土壌酸度が偏っていたり、連作などが原因で微量要素の欠乏症が起こります。欠乏症は通常、新芽や新葉に表れやすく、葉が黄化したり、変形、萎縮していると要注意です。

このように微量しか必要としないものの、なければ生育に支障をきたす成分があるので是非知っておいて欲しい情報になります。
そこで代表的な微量必須要素とその働きについて、ここで説明しておきたいと思います。

まず、マンガンなんですけど、葉緑素の生成とか光合成の促進に重要な働きをします。呼吸作用に必要になってくる酸化酵素の作用を促進してくれて窒素の代謝とか炭水化物の同化であるとかビタミンCの形成に関わってきます。欠乏すると葉脈の間が黄色くなってきます。

次にホウ素なんですけど、これは細胞分裂とか花粉の受精あるいは窒素、カリ、カルシウムの吸収を助けてくれます。他にも植物体の導管と言って人間で言えば血管に当たるところを保護したり水分代謝をよくします。欠乏すると葉っぱや茎がこわばって先端部は黄化して生長が阻害されます。

あとは鉄が重要ですね。これは葉緑素の形成に関係する微量元素になってまして植物体の中では移動し難い元素となっています。鉄が欠乏すると葉っぱが黄色く変色して、これが進行すると新芽、新しい葉っぱが小さくなったり萎縮したりします。

このように微量要素は人に置き換えるとビタミンのような働きをするんだなと捉えていただけたらと思います。あなたはビタミン、ミネラル足りていますか?情報に踊らされて極端な栄養補給に走っている人も多いと思いますが、このセミナーのテーマ「過剰の欠乏」というタイトルにもあるように必要以上の補給することで逆にマイナスの作用になってしまうなんてこともあるわけですよ。

有名な話にビタミンがあげられますよね。1日分のビタミンを一回の食事で摂取することはできないんです。過剰に接種したビタミンは互いに排出されるだけと理解している人も多いですけど、他の栄養素の吸収を阻害してしまったりしているので、この作用から過剰の欠乏なんていうわけなんですね。

こう説明すると3大栄養素や微量要素といっても、栽培する作物や生育ステージによって重要度が変わってくることがわかっていただけると思います。昨今では有機栽培が注目されており、その先には自然栽培とか色々あるんですけど、個人的には慣行栽培からのスタートをお勧めします。

と、言いますのも有機栽培するにしても取り組むには植物生理はもちろんの事、土壌の事も知らないといけません。もちろんこういった動画から多くのことを学ぶことをできると思いますが、栽培する作物、土、環境、季節といった無数に広がる組み合わせの中で自分の畑にマッチした栽培をするとなると正解はこれですよとは言えないんですよ。

だから、少しずつ自分の畑の特性を知るために基本要素を抑えておいて最初のうちは慣行栽培からスタートすることで要らぬ苦労をしなくて良いということなんです。そこそこの品質とそこそこの収量があれば持続可能性のある農業経営にはなり得ます。

ただし、ずっとこれでは難しいです。営農面では誰しも食べ物を食べますのでコモディティするしかない商品を扱っているわけですので、マーケティングの考え方も重要になってきます。

要は栽培する作物に付加価値をつけて売るか、栽培するコストを徹底的に下げて売るかの2択です。当然、慣行栽培なら地域ブランドとかの農作物ならそれでもいいと思います。例えば京都ブランドとか典型的ですよね。

歴史背景もありますし、もちろん品質も良いというのはありますが同じ農産物でも取引単価は若干高めですよね。では、京都で農業やればよいのかってそういうことでもないですよね。イチゴを例に挙げれば他にいくらでも高単価で取引されている地域ブランドもありますし、玉ねぎなら淡路だよね、みたいなこともあります。

例外はなんにでもありますが、基本的には慣行栽培や減農薬栽培でつくられています。地域営農ってやつになってくるので農協や地域の農家との絡みは重要になってきます。

コストはどうかっていうと金銭的コストはかかるものの人的コストは低めですよね。

一方で有機栽培はどうかというと、もちろんこれだけで商品に対する付加価値はあります。コスト面では金銭的コストは自前で揃えたら、ほとんどゼロでも調達できます。

ただし、気をつけないとなんちゃて有機になってしまいがちです。例えば鶏糞を例に取りますと、近所に養鶏所があったとして、そこで鶏糞を分けてもらうこととか牧場があれば牛糞をって感じで調達できると思うんですけど、動物に与えている餌は何ですかってとこにも気を払って欲しいんですね。

やはり抗生物質漬けとかでは有機本来の意味において薄れてしまうような気がします。一方で循環という側面ではやはり放置していいものでもないです。

畜産も商売ですから農業と同じように効率の良いやり方をやられているところや有機に取り組まれているところもありますし、そういうところとは相性が良いんですけどね。既存の畜産でも業界の闇の中でしっかり有機肥料として流通してたりします。

ここんとこ、本気なら自分で鶏とか平飼いして、野菜を収穫した後に残った残渣を餌として与えて卵や肉もいただきながら鶏糞を畑にという本当の意味での循環の中で有機栽培に取り組む事ができます。

これはこの「かまちゃんねる」開設した当初にお伝えしていた「農家の食卓」というシリーズで本当の食事というものついて考察をお伝えしてきました。

こちらでお話ししたのは獣害対策の一環でハンターになった話から、開業した農家レストランで猪のシャリアピンステーキを提供したところ人気メニューとなったものの命を丸ごと戴いているとはほど遠い状態だと気づいたわけです。要はやっていることといったら食材のつまみ食いをしているだけで、ジビエ料理で獣害に貢献なんて思ってましたけど、全然違うなと。

そもそも山に生息する獣と里に生息する獣は生息域も違ったりして、全然対策になっていないことに気づいたりね。

よく山に豊富な食べ物が少なくなって里に下りてくるなんて話もまことしやかに言われていますけど現実はそんなことなくて、森の中に入ればわかることですけど、とても豊で暖かい場所です。

最近は一人campとか流行ってますけど、とてもわかる気がします。私はキャンプはしないですが狩猟期になると山にこもったりしていました。一方で山での生活というのは人にも獣にも等しく厳しい面もあります。そんな生存競争に敗れた獣が住みやすい森を追われて里山に下りてくるんだろうなと思います。

里の獣は民家も近いですから銃で撃ったりできなくて罠で捕まえるんですけど、罠につかまった獣も逃げようと必死ですから筋肉に血が回っていて臭くておいしくないわけですよ。これがウリ坊だったら数週間、どんぐりとかの餌を与えて慣れさせて止め差しして頂くわけですけど、それにしたって全部を食べるわけじゃないんです。

やはり大部分を捨ててしまうことになるので命の無駄遣いだなって思ってきたんです。肉の部位だって多岐に渡るわけで、ロースだけでいいのかと疑問をもってしまいました。それでいうと鳥なんかだと一羽だと2~3人前で丸ごといただけますよね。半身揚げとか人気ですよね。

鳥の内臓のあったところにニンニクを詰め込んで揚げるというワイルドな料理ですけど、めっちゃ美味いんですよね。これでこそ食を丸ごと、つまり命を頂いている感謝の気持ちとか有り難さを感じられるのだと思います。

だからこそ、こうした循環の輪に入るために有機農業というのは魅力的な選択肢になり得るわけですけど有機栽培に取り組むにあたってマーケティングな意味を持って向き合うのもありだと思います。

もちろん多くは「農」という機能面の重要性から取り組まれていると思います。自然環境に対する負荷は農業が与えるインパクトはかなり大きいものがありますしね。ここで取り上げるのは趣旨が違いますので、こちらのブレナビのアーカイブに自然産業を日本から世界にというテーマでその分野におけるスペシャリストが話をされているので、ご興味のある方は是非そちらもご視聴いただけましたら幸甚に存じます。

さて、肥料の話に戻したいと思います。

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