悪法は市民(議員)が作る_1

最近話題のこの事件ですが
1.なぜ詐欺事件として捜査されなかったのか
2.なぜストーカー事件として取り扱ったのか
について私見を書いていきます。

詐欺罪とは


詐欺罪の構成要件(どのような行為があったら詐欺になるのか)はネットで活躍されている岡野弁護士のウェブサイトに書いてありましたのでリンクを貼っておきます。
  詐欺罪の構成要件
弁護士のサイトではよくあることですが「どうやったら詐欺にならないか」を書いてしまうと詐欺をしたのに逮捕されたくない人への有効な言い訳を与えた(=証拠隠滅の手伝いをした)という批判を詐欺被害者から受けてしまうリスクがあり、一般市民が言う「詐欺」と刑事事件としての「詐欺」の差異を明確に書かないことが多いです。
そしてこのサイトにも「なぜ詐欺で立件されにくいのか」までは言及されていないのでここで少しだけ書いていきます(書きすぎると犯罪者支援になりかねないので少しだけ)。


詐欺で立件されないパターン


岡野弁護士のサイトでは詐欺の構成要件について
 欺罔・錯誤・財物の処分・財物の移転
の4要素全てが存在することが重要と述べています。
法学的にはそのとおりです。
しかし「詐欺で立件(捜査)されない」パターンを解説するのに最もキモとなるのがそれぞれの要素の、特に「欺罔・錯誤の時期」になります。

例えば「借金をするときは返す気は有ったが後に返す気がなくなった」という場合は詐欺が成立しません。
なぜならお金を渡す時点では欺罔も錯誤もないからです。
お金を渡した後に裏切りの意志が生じた場合は詐欺にならないのです。

捜査機関は詐欺だったかどうかを調べる機関ではなくて、詐欺をした人間を処罰するための機関との意識がある為、財物移転の時点で欺罔と錯誤があったことが確実な事件しか扱いたがらないのです。
捜査機関としては「一所懸命捜査した結果検挙できませんでした」では詐欺に遭っていない市民からは月給泥棒としか思われませんので(立件した結果である検挙件数は公表されるが、被害者のために一所懸命頑張りましたがダメだった件数は公表されない)、欺罔や錯誤の証拠が確実でない事件は「詐欺にはならない」と突っぱねることにインセンティブが生じるわけです。

最近の事件でいうと、頂き女子りりちゃん事件では「マニュアル」が欺罔や錯誤が財物(現金)移転時に存在した確実な証拠となりますので、マニュアルの存在がバレた時点で「詐欺の構成要件を満たす」ことは確定となり、捜査機関が捜査しないことは許されざる不作為となりました。
そのため、同じようなことをしている方はたくさんいるでしょうが、渡辺真衣被告だけが捕まるキッカケとなったと推測されます。

NR&NSX事件の場合

報道や容疑者のSNSを見る限り、容疑者は被害者から結婚の条件として金銭支援を要求されたと読み取れる内容となっています。
ここで一般人なら「金貰って振ったのなら結婚詐欺」と考えてしまいそうですが、これまで説明した「欺罔と錯誤の時期」で考えた場合、被害者(殺人の)には次の言い訳をする余地があります。
支援を受けた時点では結婚する意志はあった。
しかしその後嫌いになったから結婚しないことにした。

こういわれてしまうと被害者には結婚の義務はありません(法律が「結婚は両性の合意」を条件としているため)。
しかも結婚する意志があったかどうかは内心の問題であるため、詐欺を立証するには内心を立証しなければなりませんが、刑事事件では自白剤をつかうようなことは許されていませんので内心の証明ができません。
「結婚を前提にした金銭授受を同時期に複数人と行っている」「すでに結婚して円満な家庭生活を送っている」等の客観的な証拠がないと結婚詐欺として有罪とすることは困難です。
このような事情から、被害者(殺人の)を詐欺で捜査しなかったことが予想されます。


次の記事でも触れますが、刑法の詐欺罪は市民と司法が近くなかった時代に法律の専門家によって作られ、構成要件が決められたものです。
そのため「借金を返さない(返せない)」ことと「金をだまし取る」ことの区別をつけようと努力し、「疑わしきは被告人の利益に」の運用にも気を配られた構成要件となったものと思われます。
しかし次の記事で触れる「ストーカー規制法」は議員立法です。
ストーカー殺人が発生し、「可哀想な事件を防ごう」という感情先行で作られた感が否めません。
恋愛感情を利用した金銭授受の場合に恋愛破綻時に返金を求めることは
 恋愛感情またはそれが満たされないことの怨恨の感情なのか
それとも
 条件違反発生による正当な権利回復行為なのか
といった検討が全くされないまま法が作られて運用されてきました。
そういう行為は「ちっちゃい男」だから返金を求めるほうがおかしいという理屈で、恋愛感情を利用した金銭授受を道徳判断の場から排除して議論が進んできたようにさえ見えます。
かつて詐欺罪では借金を返さないことと金をだまし取ることの差異は検討されたのに、近年できたストーカー規制法では恋愛感情を前提とした金銭授受の問題は検討されなかった。
議員立法に加わった連中も市民も「殺された女が可哀想」という感情だけで未完成な法の制定を許してしまった。
NSX&NR事件の種は、ストーカー規制法制定時に既に蒔かれていたのかもしれません。

つづく