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『稲荷様の子』徒然諸々

 この記事は全編、ゲームの内容を含む記事になっております。
 未プレイの方はまずは本編をお楽しみください。
 最短二時間でクリアできる和風探索ゲームです。


 前回投稿した『Comme des Macarons』に続き、今回は『稲荷様の子』について振り返っていきます。
 ありがたいことに、ティラノフェスに参加中の二作共にノベコレ単一で500Play&DLを超えました。ふりーむと合わせると、更に沢山の方々に遊んでいただいたことになります。これも丁度良い機会なので、本作についても記事を書くことにしました。
 多くの方に拙作に触れていただき、心より感謝申し上げます。


制作経緯

 一番先に原案が出来たのはクウコでした。
 こちらの『難読名メーカー』で出てきた、「日月 朏(たちもり みかづき)」という名前が元になっています。
 「月の子なら太陽の子と双子にしよう」という思いつきで、ウイの元である晄(あきらか)というキャラクターが生まれました。

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 朏は月が欠けていくように、自らの体を神に捧げていく。晄は、喜んで村の言いなりになる朏のことが気に入らない。そう、二人は元々不仲設定だったのです。この段階では、朏が体の全て捧げることに成功する朏ルートの後に、火事を起こして村を滅ぼす晄ルートが遊べるようになる構想でした。
 しかし、謎解き要素がイマイチ思いつかず、シナリオもあまり筆が乗らなかったため、「生贄に捧げられた双子が死後の世界を探索する」というものにシフトチェンジしました。

 一緒に冒険するシステムになったことで、二人も仲良し設定に変更になりました。昼は晄が、夜は朏が主導になって活躍し、キャラクターを切り替えながら進めていくというものです。各エリアに晄と朏以外の双子がおり、元々は二人と同じように捧げられた子で、実はその双子の中の一組は……、という、現在のストーリーにかなり近いものも出来上がりました。
 そして、いざ他の双子たちをデザインしようとした時に、あることに気づきました。皆双子だと、キャラ数がめちゃくちゃ多くなることに……。
 グラフィックの手間と、双子である必要性を天秤にかけた結果、贄となった巫女の役割はウイに引き継がれることになります。


各キャラについて

ウイ

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 天空を司る神への生贄のため、太陽と月が合わさった飾りを付けています。神様に喜んで貰えるように、煌びやかな装飾が施されたのです。シチが少し触れていましたが、生贄に選ばれた子供たちは、代々伝わる金の装飾を身に付けて捧げられました。コブ、シチ、マツも、ウイと同じ格好をして、受け入れるまでの期間を過ごしたことになります。
 服の肩が出ている理由ですが……原案の晄の役割に、太陽は村に恵みをもたらす→神の子を産むというのがあった名残でもあります。そのため、晄は袴の両脇から太股が見えている、かなり大胆なデザインでした(先ほどの絵だと見えてませんが)。ウイになってからその役割は無くなったため、豪華に見せるための金の飾りのみが残っています。 

 陽エンドの後は、スチルで着ていた橙の着物を着て暮らすことになります。陰エンドのおくるみと同じ柄です。

 天真爛漫を絵に描いたような子。何も知らないのでなんでも知りたい、主人公然とした子になりました。生まれは大正の初めくらいです。
 無垢故に、正しいかどうかで物を決める所もあります。ウイが陰エンドを選べたのは、村に一切情がなかったからでもあるでしょう。


クウコ

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 朏の時からどことなく狐っぽい目に変わりました。狐顔の時点で正体バレるかなぁと思ったのですが、これまであまり指摘されてないですね(一人だけ気づいた方はいらっしゃった)。
 クウコの台詞に「……」が多いのも、口を大きく開かないのも、正体が明らかになるのを恐れ、慎重になっているためです。泣き顔の時に、口の端によく見ると牙があったりします。
 こう見えて、運動神経は五人の中で抜群に良いです。明らかに人外レベルなので、本気を出すことは滅多にありません。

名前の元は伝説上の「空狐」より。
Wikipedia 空狐
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A9%BA%E7%8B%90#:~:text=%E7%A9%BA%E7%8B%90%EF%BC%88%E3%81%8F%E3%81%86%E3%81%93%EF%BC%89%E3%81%A8,%E3%81%A8%E8%80%83%E3%81%88%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82

 正確には「空狐」ではありませんが……。


コブ

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 原案は桜イメージの一卵性の双子です。
 おしとやかでミステリアスな雰囲気の予定でしたが、コブはだいぶ生意気になりました笑。

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 桜野原にいるのでテーマカラーはピンクでも良かったのですが、前作のメインキャラも白×ピンクだったため、紫にすることに。しかし紫は禁色なので、着物は薄い紫になりました。結果、「温泉旅館の浴衣っぽくないか?」とたまに思うことがあります。
 前からだとわかりづらいのですが、髪は端のほうを一つに束ねています。

 生まれは鎌倉時代くらい。庶民が苗字を持つようになったのはもっと後(と調べた時に書いてあった気がする)なので、本名も名前だけです。
 特徴的な一人称ですが、当時は自分のことを「わ」や「わー」と言うことがあったそうです。
 瘤は良性の腫瘍のため、命に別条はありませんでしたが、周りからは長くは生きられないと思われていたようです。コブの性格は差別を受けずに生きられた「もしも」のものであり、贄にならずに生きていたら、全く異なる性格になっていたかもしれません。

 ウイ同様、元赤子のため、村を滅ぼすことに未練はありません。ただ、ウイと異なるのは、贄の子の中では最も長く稲荷様の世界にいたことです。コブとしての生涯にもう満足はしていますが、他の子、特にシチが、来てから幸せそうにしていることも知っています。
 システムとシナリオの都合上省略したのですが、終わらせるかどうか聞いた後に、こんな台詞がありました。
「君がどんな選択をしたとしても、わーは応援するよ。」
 今更なので追加する気はあまりないのですが、中立的な考えのコブの心情を表す台詞として気に入っています。


シチ

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 原案は男女の双子でした。性格はシチとほぼ同じです。
 女の子のほうの見た目を使っても良かったのですが、コブもマツも生まれた時代っぽい髪型にしていたので、おさげではなくショートカットにしました。つまり、デザインが決まったのは一番最後になります。特徴付けるためにそばかすキャラにしたものの、わりと描き忘れるんですよね。

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 着物の柄は「七宝」といいます。名前がシチなのでこれにしました。

 生まれたのは江戸の初めです。

 シチは、一番情に厚い奴でもあります。「終わらせること」には反対派でしたが、合わせることにしたのは仲間のためです。
 村人に対しては、恨みというよりは、疑問、悲しみ、ショックのほうが強かったようです。稲荷様の世界に来てからは、その後のことを恐れ、暮らすことを選びました。もし、終わらせる方法を知ったとしても、村の家族や友人への情で、選ぶことは出来なかったでしょう。記憶を取り戻し、マツとウイの死に向き合ったことで、あの選択が取り返しのつかないものだったことに気づいたのです。


マツ

 マツの原案は、これといったものは存在しません。

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 唯一この子が緑キャラでしたが、笠を取ると狐耳があるという設定なので、どちらかというとクウコ寄りです。現在はない「石像エリア(人型の像が並んでいる)」にいるはずでした。
 晄と朏の不仲設定はマツが引き継いだことになります。

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 マツもシチと同じく、マツなので市松模様です。(緑の市松模様ってそれ某Tじろーさ……(ry )
 生まれは明治初期ですが、初めとなるとちょうど日本髪から西洋風の髪型への移行期なので、結構ハイカラということになります(まあ、細かいことは気にしない)。

 マツが力持ちなのは、普段から家のことを手伝っていたのが大きいですが、それにしても腕っぷし強すぎ……おや、誰か来たようだ。
 オマケの好きだったものにあった「ご飯のおこげ」は、洗い物をする前に母親から、弟や妹には内緒で貰っていたものです。自分だけが特別になれるその時間が好きだったのも、きっとあったのでしょう。

 長い月日を過ごすことで変化はありましたが、村に対する元々の感情は恨みのため、五人の中では終わらせることに賛成派です。

 本人は死んだと思っていたマツの家族ですが、実は、弟はあの時に死んでいません。その後どうなったかは未定です。
 でも、クリア後特典として考えていたもので、「突如として全ての草木が枯れて滅んだ村の取材に訪れた男の話」があったので、村から逃れたことで生き延びた唯一の証人として登場させるのもありかなと。


稲荷様

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 原案は狐耳美女でしたが、萌え要素が強すぎるのでまんま狐になりました。九尾だった尻尾も一本になっています。

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 先端が赤の白狐キャラは既に沢山いるので、差別化に苦労しました。空狐なので胸毛が空色なのがポイントです

 ちなみに、稲荷様が人に化けた姿がこちら。

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 ストレートヘアの大人になったクウコ状態。
 設定上は傾国級の美女ということになっています。
 クウコはそれくらいの美少女かというと、そうでもないです。大人になったら化けるタイプ。狐だけに。

 稲荷様の一人称は吾(あ)ですが、われ、とも読むことが出来ます。そう、クウコと一緒なのです。どちらとも読めるように、あえてフリガナは振りませんでした。

 稲荷様に夫はいません。そもそも、稲荷様もクウコも無性別なので、男の姿になることも出来ます。女のほうがなんとなく性に合うという理由のようです。
 クウコは実の子ということになっていますが、正確には稲荷様の劣化版複製コピーです。跡継ぎとして遜色ないほど完璧なコピーに育て上げるはずだったのですが、それは叶いませんでした。

 稲荷様が刀で殺せたのは、クウコが化けたものだったからです。普通の刀では、神に太刀打ちはできません。
 クウコも神になった後であれば貫かれて死ぬことはなかったでしょうが、未熟さ故にあのような最期となりました。


マップ、アイテムなどについて

屋台

 動物もですが、屋台の人々も、稲荷様が作り出したNPCです。
 「彼らが影のように見えるのは、あなた方が生きているからで、稲荷様の子らには普通の人間のように見えているのです」という設定をオマケに付けたかったのですが、結局付けなかったのでここに書いておきます。
 イメージは団子屋→姉御、的屋→チャラおじ、虫屋→綺麗めお兄さん、魚屋→おっちゃん、貸本屋→30代男、両替屋→クールな若者、道具屋→40代男、です。

 しゃん子さんのCMコレクションに参加した際にも触れていただいた話ですが、貸本屋のアイディアは上海ラプソディさん(しゃん子さんのプロデュース元)制作の『冴えない荒野を目指すらくえんのぼく。』が元になっています。そちらの企画で『冴えぼく。』に拙作の『プレイズAIミヨコちゃん』のCMを載せていただいたのがとても印象深かったので、本作で参考にしました。貸本屋にある作品は自分の過去作と、テストプレイヤーさんの作品です。


 物語上に登場している屋台や商品はほんの一部で、寿司屋、天ぷら屋、金魚すくい等々、他にも沢山あります。寿司屋の屋台で当時不人気の大トロを食べたウイが、「えー!おいしいのに!」と言う話も、謎解きには一切関係ないので使えませんでした。

 屋台の他にも、物語には未登場の、稲荷様の世界のあれこれは色々あると思っています。「こんなものがあったんじゃないかな」というものを、皆さんで好きに想像していただいて構いません。
 ちなみに現時点で作者は雪林の奥に温泉があることにしています。


 時刻を示すものとして、日時計?とか色々考えて、最終的に辿り着いたのが鶏でした。
 夜に話しかけると、寝てる所を起きて相手してくれるのもコダワリです。コブは昼も夜も団子あげないと起きてくれないのに……。ちなみに、コブは1/4の確率で団子がなくても起きてることもあります。
 陰エンドへのルートに入り、クウコを連れてマツの所へ行く間の鶏に話しかけると、いつもと違う反応をします。


 湖にあった舟は、櫂ではなく櫓で漕ぐ舟です。櫓で漕ぐ原理としてはタライ舟をイメージしてください。調べた時に櫂は結構力がいるという情報が出てきたので、櫂よりは簡単らしい櫓にしました。まあ細かいことは(以下略)


石像

 これ、モデルがあります。

 見て描いたわけではないのでデザインは違いますが、干支の石像を描く時に思い出したのがこれでした。まん丸いフォルムがとても可愛いので、銀座へ行った際は是非ご覧になってみてください。


風呂敷

 一番最初に拾うものの、結局役に立つことはなかったこのアイテム。
 作者的な役割としては、
・アイテムを拾ったり調べたりするためのチュートリアル
・「こんなに沢山のもの手で持ってるんかい!」とツッコまれないための予防策
として作りました。
 数名の方に「この風呂敷はウイのおくるみになるためのものだったんだ!」と考察をいただいたのですが……、すみません、全然考えてませんでした!!でもこの考察、逆輸入したいくらい大好きです笑
 ちなみに、風呂敷を無視して何度も階段を登ろうとすると、ウイの反応が変わります。

団子

 アイテム画面で調べると、1/10の確率イベントがあります。……ジュルリ。


終幕【斜陽】

 没になったエンドです。
 全員の記憶を取り戻した上で稲荷様の所へ行き、「受け入れる」を選択すると行くことが出来る流れでした。
 贄の子の記憶は再びリセットされ、ウイもまた全てを忘れ、穏やかな日々を過ごしていました。そこに、新たに生贄になった少女が現れます。少女がウイに、ここは何処か尋ねると、ウイの目から涙が溢れました。
「あれ?おかしいな。アタシ、どうして泣いてるんだろう。どうして……。どうして……。」
 膝から崩れ落ちるウイに、少女は心配そうに声をかけます。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
 ウイは泣きながら、謝ることしか出来ませんでした。

 没になった理由は、ウイと6人目分の新たな立ち絵を作るのが大変なのと、これ以上救いの無さを増やさなくてもいいかなと思ったため。

 6人目の子はパッツンおかっぱ頭で、イメージカラーは紅です。受け入れ後、ウイのイメージカラーは橙になるので。


彼女らの選択は正しかったのか

 明かされる要素が多い点から、【陰】がトゥルー寄りの解釈にはなりやすいですが、どちらのエンドを真実としても良いと思っています。
 【陽】を選んだとしても、遠くない未来に村も発展が進み、風習は途絶えたことでしょう。彼女たちに、そのことを知る由はありませんでしたが。途絶えるまでに、数少ない犠牲者が増えただけです。【陰】を選んだほうが、亡くなった人の数は圧倒的に多いのです。
 本作のテーマに、「アンチ自己犠牲」というものがありました。自分が犠牲になることで、世界は平和になりました、という話ではなく、自分を優先した結果、世界は滅んでしまいました、という話が描きたかったのです。ヒーロー像としては最低ですが、果たして、自分を優先することは悪なのでしょうか。ヒーローが自分の命を落とさなければ世界を守れない時、ヒーローは嫌だと言ってはいけないのでしょうか。
 贄になり、村を守った(ということになっていた)子どもたちは、【陰】では自分たちの意志を優先し、村を滅ぼしました。終幕【陰】を見て「心が温まった」と言ってくださった方が何人かいましたが、そのように、この選択も悪とは言い切れないのです。
 ここで、視点を変えてみましょう。『稲荷様の子』の時代は、科学的根拠より風習や宗教が力を持っていた頃です。食べ物が枯渇することは死に直結する問題でした。全員が「こうすべきだ」と信じている中で、異議を唱えることは、大変難しいことです。子供の中には、「どうして友達が犠牲にならなければならないのか」と言った子もいたかもしれません。そう言われた親は、子を叱るか、窘めたことでしょう。自分の子を守ることを優先した親を責められるかというと、それもまた疑問なのです。
 【陰】と【陽】、どちらが正しかったのか。はたまた、他に選択があったのか。その問いに答えはありません。悩み、考えてもらうことこそが、この作品の意義であります。


 かなり長い記事になってしまいましたが、最後までお読みいただき、『稲荷様の子』を遊んでいただきありがとうございました。
 では、また次回。

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