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山田宏一・和田誠 『たかが映画じゃないか』文藝春秋 1978.12 文春文庫 1985.5  山田宏一・和田誠『ヒッチコックに進路を取れ』草思社 2009.8


山田宏一(1938.9.13- )
和田誠(1936.4.10-2019.10.7)
『たかが映画じゃないか (文春文庫)』
文藝春秋 1985年5月刊
2005年9月7日読了
https://www.amazon.co.jp/dp/4167385015

単行本は1978年12月刊(未見)。

映画ファン(マニア?)二人による、とても楽しくて面白い対談。

山田宏一・和田誠 『ヒッチコックに進路を取れ』 草思社 2009.8
https://www.amazon.co.jp/dp/4794222440

のいわば前篇です。

『ヒッチコックに進路を取れ』を楽しく読んだ方は、ぜひ本書を図書館か古書店で入手してください。面白いですよ〜。

「たかが映画じゃないか
『山羊座のもとに』[1949] を撮影中の
アルフレッド・ヒッチコック[Alfred Hitchcock 1899.8.13-1980.4.29]が
イングリッド・バーグマン[Ingrid Bergman 1915.8.29-1982.8.29]に言った有名な言葉。」p.11

「山田宏一 俺『素晴らしき哉、人生!』ってのは、最高に好きだな。あれでジェームズ・スチュワートが決定的に好きになったんだ。美男というわけでもないし、かといって、もちろん醜男じゃないし、すごく親しみのもてる俳優だったな、スターって感じがしなくて、いい感じの男でさ。ジェームズ・スチュワートくらい、感情移入ができた外国のスターもいなかった。

ぼくらがアメリカ映画を観始めたのはもちろん戦後になるわけだけど、あの頃は戦前のアメリカ映画もずいぶん公開されて、ジェームズ・スチュワートなんかも戦前の『スミス都へ行く』[1939]と戦後の『素晴らしき哉、人生!』が同時くらいに観られて感激した。

和田誠 ジェームズ・スチュワートはさ、非常にヒューマニスティックな役柄が多くて、そのへんが、ちょうどこっちが感受性が豊かな年ごろでさ、それも関係があると思うんだ、アメリカ映画が好きになったのにはね。フランク・キャプラがものすごく認められてた時代だろ、いまはキャプラみたいな感覚ってあまりないよな。」 p.223

『素晴らしき哉、人生!』 1946
監督 フランク・キャプラ
出演  ジェームズ・スチュワート ライオネル・バリモア
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=12106
https://www.amazon.co.jp/dp/B004NR1A96


和田誠 『ぼくが映画ファンだった頃』七つ森書館 2015.2
http://www.amazon.co.jp/dp/4822815234
https://www.facebook.com/tetsujiro.yamamoto/posts/pfbid0ndS5dQ4zNH39jgKQ9fNFz9oKrEXauRzYpZnGtYJhRJHWSXLXSmiWJ1huAdz9djB2l
にはジェームズ・スチュワートとの対談(1985年)が収録されています。
高校生の頃、似顔絵入りのファンレターを出して、返事をもらったのだそうです。


山田宏一(1938.9.13- )
和田誠(1936.4.10-2019.10.7)
『ヒッチコックに進路を取れ』
草思社 2009年8月刊
2009年9月12日読了
https://www.amazon.co.jp/dp/4794217226

https://www.amazon.co.jp/dp/4794222440

「『鳥』『サイコ』『ダイヤルMを廻せ!』『北北西に進路を取れ』など、ヒッチコック映画はサスペンス、ホラー、ミステリー映画の古典として繰り返し見られている。その秘密と魅力を二人の映画好きが語りつくす。一本一本を詳細に案内。」

「スリル、サスペンス、ホラーの古典、ヒッチコック映画の秘密を二人が語り尽くす映画/ミステリー・ファン必読の案内書! 全篇に和田誠さんの楽しいイラストレーションが満載。」

本書の装丁・イラストはもちろん和田誠です。

表紙が『北北西に進路を取れ』のケイリー・グラント、
裏表紙が『めまい』のジェームズ・スチュアートとキム・ノヴァク。

ヒッチコック・ファンには、読み終わってしまうのが惜しいほど楽しい本です。

私は著者二人の文章を、明治大学文学部一年生の頃(1973年)、
『キネマ旬報』連載、
山田宏一「シネ・ブラボー」
和田誠「お楽しみはこれからだ」
で読み始めました。
当時のお二人の年齢は30代半ば過ぎだったのでしょう。
もう五十年も経ってしまったんだなぁ。

以下、登場人物名・抄録
John Ford (1894.2.1-1973.8.31)
Alfred Hitchcock (1899.8.13-1980.4.29)
Humphrey Bogart (1899.12.25-1957.1.14)
Gary Cooper (1901.5.7-1961.5.13)
Cary Grant (1904.1.18-1986.11.29)
Robert Montgomery (1904.5.21-1981.9.27)
Henry Fonda (1905.5.16-1982.8.12)
Madeleine Carroll (1906.2.26-1987.10.2)
Roberto Rossellini (1906.5.8-1977.6.4)
Billy Wilder (1906.6.22-2002.3.27)
John Wayne (1907.5.26-1979.6.11)
James Stewart (1908.5.20-1997.7.2)
Ingrid Bergman (1915.8.29-1982.8.29)
Gregory Peck (1916.4.5-2003.6.12)
Maureen O'Hara (1920.8.17-2015.10.24)
Audrey Hepburn (1929.5.4-1993.1.20)
Grace Kelly (1929.11.12-1982.9.14)
Francois Truffaut (1932.2.6-1984.10.21)
Kim Novak (1933.2.13- )

「和田誠 モーリン・オハラはヒッチコック作品にはそれ [『巌窟の野獣』1939] 以後出てなくて、ジョン・フォード作品の重要な女優さんになるわけだね。

山田宏一 ジョン・フォード監督の映画にモーリン・オハラが出るのは1941年の『わが谷は緑なりき』からだね。

女優のことで、ジョン・フォードとヒッチコックといえば、フランソワ・トリュフォーが笑いながら話してくれたので、どこまで本当の話かわからないんだけど、フォードもヒッチコックも女優の好みが同じで、ヒッチコックの映画のヒロインだったモーリン・オハラをジョン・フォードが奪い去って行ったので、こんどはヒッチコックがジョン・フォードの『モガンボ』1953 のヒロイン、グレース・ケリーを奪い返したというのね。

イギリス時代のヒッチコックの『三十九夜』1935 『間諜最後の日』1936 のヒロイン、マデリン・キャロルもすでにジョン・フォードが先に『世界は動く』1934 で使っているけど、ヴェラ・マイルズもジョン・フォードの『捜索者』1956 のヒロインだったのをヒッチコックが奪って『間違えられた男』1956 に使ったとというのね。

「ジョン・フォードから奪ってやった」とヒッチコックは自慢していたらしい。フォードもヒッチコックも女優の好みは最高だよね、マデリン・キャロル、モーリン・オハラ、グレース・ケリー、ヴェラ・マイルズというんだから!

和田 男優ではロバード・モンゴメリー、ジェームズ・スチュアート、ヘンリー・フォンダが共通してる。さすがにジョン・ウェインはヒッチコック映画には出てないけど(笑)。」
p.48「イギリス時代の最後のヒッチコック映画」

「山田宏一 ヒッチコックはケーリー・グラントに「グレース・ケリーとキスさせてやるから」と言って映画に誘ったらしいよ(笑)。
ケーリー・グラントも「グレース・ケリーとならぜひキスしたい」(笑)と出演を承諾したって言っている。ケーリー・グラントは、この映画の前に、一度ほとんど、というか、実質的に引退していたらしいのね。

和田誠 そうだ。あまり映画に出てなかった。

山田 たしか1953年に引退宣言して、「ケーリー・グラントであることを忘れたい」とか言ってね。ところが、相手がグレース・ケリーだというので、ぜひ共演したいということになったらしい。グレース・ケリーと一緒なら、ぜひやりたい、と。

で、ケーリー・グラントは一度引退したけれど、また出てくる。
『泥棒成金』1955 という映画が、そもそも、一度引退した泥棒がまた出てくるという話でしょう。だから、虚実こもごも、話がダブっていて、なんかドキドキするくらいだね。
……
グレース・ケリーは、演技派とか何とか言う前に、とにかくスクリーンで最高に輝く美女だったからね。

和田 グレース・ケリーの存在は貴重だったと思うな。ハリウッドの伝統的な美女ということでいうとね。ヒッチコックはそれが好きだったわけだ。

山田 ヒッチコックにとっては、グレース・ケリーが最高のヒロインで、ヒッチコック的「クール・ブロンド」の白眉になるんだけど、『泥棒成金』が彼女の最後のヒッチコック映画になった。

南フランスのコートダジュールでこの映画の撮影中にモナコのレーニエ大公とのロマンスが生まれるわけでしょう。このあと、引退して、モナコ王妃になる。

和田 ビリー・ワイルダーが『昼下がりの情事』1957 と『麗しのサブリナ』1954 でケーリー・グラントを使いたかったらしいね。
だめなので、ゲーリー・クーパーとハンフリー・ボガートになったわけだ。

山田 どっちもケーリー・グラントの方がよかったろうな。

和田 そう思う。『麗しのサブリナ』の時、グラントは引退したからってワイルダーの依頼をことわったわけでしょ。そのあと『泥棒成金』に出たんで、ワイルダーはくやしかっただろうね(笑)

山田 そりゃそうだろうな。ケーリー・グラントは『泥棒成金』から、エレガントな初老の魅力的な二枚目としての新しいキャリアが始まる。
オードリー・ヘップバーンと共演した『シャレード』1963 なんかにつらなる。」
p.304 『泥棒成金』1955
http://www.amazon.co.jp/dp/B0081AIGGQ/


「和田誠 『汚名』が、ぼくにとっては、ヒッチコックとの最初の出会いなんだよ。もうこれで、いっぺんにヒチコックが好きになった。でも、よく考えてみると、当時高校一年生だったから、あんな異常な状況における恋愛なんてよくわかるはずがないんだよね。それがこの映画の魅力の半分くらい占めてるでしょ。半分わからなくても好きになる映画だったんだね(笑)。

シャンペンと酒蔵のサスペンスは、スパイ行為が見つかるかどうかというサスペンスでもあるんだけど、人妻との行動を夫に見られるかどうか、というシーンでもあるわけだ。今、また、あらためて観ると、全然違う映画の面白さがある。

山田宏一 ヒッチコック映画の豊かさなんだろうね。いろいろな要素がたっぷりと入っている。

和田 話そのものは、『北北西に進路を取れ』1959 みたいに、いろんなエピソードが出てくるというんじゃなくて、ストレートでシンプルなんだよね。にもかかわらず、映画的なふくらみはすごくある。

山田 『北北西に進路を取れ』とは正反対というか、対照的なヒッチコック映画と言えるかもしれないな。少なくとも、ケーリー・グラントの役は対照的だよね。

和田 『汚名』のケーリー・グラントの役は暗い、『北北西に進路を取れ』では正反対に明るい役だもんね。

山田 その意味では、『汚名』と『北北西に進路を取れ』はヒッチコックの二面を代表する作品だね。」
p.193 『汚名』1946
https://www.amazon.co.jp/dp/B00006HBLP/


「山田宏一 何でもないサスペンスというのも変だけど、何かあるかと思うと何もないというヒッチコックならではのサスペンス・シーンがあるでしょう。
バーグマンがグレゴリー・ペックからの手紙を拾おうとすると、彼女の部屋に医師たちがやってきて、なかなか拾えなくてね。その手紙が医師の誰かに見つかったら万事休すというようなシチュエーションで……。

和田誠 小道具の使い方のうまさね。さりげなくしょっちゅうやってるから、『白い恐怖』の手紙は、観直してみて、ああ、やってたやってた、という感じ(笑)」
p.184 『白い恐怖』1945
https://www.amazon.co.jp/dp/B004NXMEQ8


「和田誠 ヒッチコックとしては固定された舞台のの中で、バーグマンを見つめていたい、という思いが強かったんじゃないか。

山田宏一 この映画の完成直前に、撮影は終えていたけど、イングリッド・バーグマンはロベルト・ロッセリーニと知り合って、イタリアに駆け落ちするわけでしょう。あのイタリアの田舎者のために彼女の洗練された美しさが台無しにされたと言って、ヒッチコックは死ぬまでののしり続けていたらしい(笑)。トリュフォーから聞いた話なんだけど。

和田 ヒッチコックの気持ちもわかるけどね(笑)。バーグマンとしては演技派女優をめざしていたわけだから、いい作家と組んでいい演技を残したいという気持ちが強かったんだろうね。われわれから見ればヒッチコックはいい作家なんだけど、バーグマンは「たかが映画じゃないか」という監督はいやだったんじゃないの(笑)。

山田 まさに、その通りだったわけでしょう。『山羊座のもとに』の撮影中にバーグマンがあまりうるさくここはどんな意味だとか、なぜこのシーンをとかいうもんだから、いちいち説明するのも面倒で、
「イングリッド、たかが映画じゃないか!」(笑)。 」
p.232 『山羊座のもとに』1949
https://www.amazon.co.jp/dp/B004NZJ4P0


著者二人の対談集には40年以上前に出版された、
和田誠・山田宏一『たかが映画じゃないか』
文芸春秋 1978.12
文春文庫 1985.5
https://www.amazon.co.jp/dp/4167385015
があります。


和田誠・山田宏一のお二人に小林信彦(1932.12.2- )を加えた三人での鼎談を読んでみたいと思うのは私だけでしょうか?

「『ヒッチコックに進路を取れ』(草思社)は本体四百五十ページ余の大型本である。山田宏一、和田誠両氏の対談で、イギリス時代のヒッチコックから、アメリカ時代、それもラストの『ファミリー・プロット』までをくわしく論じている。

和田氏の対談はときどき目にしている(三谷幸喜、村上春樹などとの)が、山田宏一氏の本や対談はめったに読めないので、ぼくにとっては大いにありがたい。
……
かなりマニアックで、ヒッチコックのDVDや、『映画術』(晶文社)を眺めながら読むと、さらに楽しいだろう。ぼくは二日ぐらいかかったが、大いに満足した。」
小林信彦 『森繁さんの長い影』文藝春秋 2010.5
p.169「残暑お見舞い・三冊の本 2009.9.3」
https://www.amazon.co.jp/dp/4163725504

https://www.amazon.co.jp/dp/4794958188

読書メーター 山田宏一の本棚(登録冊数21冊 刊行年月順)
https://bookmeter.com/users/32140/bookcases/11091248

読書メーター 和田誠の本棚(登録冊数116冊 刊行年順)
https://bookmeter.com/users/32140/bookcases/11091203

読書メーター 映画の本棚(登録冊数177冊 著者名五十音順)
https://bookmeter.com/users/32140/bookcases/11091199


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