首都圏私立大学がどのくらい難化したのかザックリと検証してみた

2019年3月8日 早稲田大学の合格実績と分析記事を更新


 (2018年4月30日作成)
 今春の大学入試は,大規模大学を対象とした定員抑制策(定員の1.10倍を超えて入学者がいればペナルティ)の影響を大きく受け,とくに首都圏では多くの大学が入学者を絞る傾向が見られた。そのため,「2018年問題」と呼ばれた18歳人口急減の影響はどこ吹く風とばかりに,大手予備校を中心として「私立文系の浪人クラス」が活況だという皮肉な事態が生じている。

 この現象は高校の大学合格実績にも影響を与えていて,その背景はともかくとして「合格実績が急落した」という印象を与えてしまう高校は,来春に向けての生徒募集で苦戦することが予想される。
 また,中学3年生・小学6年生の子どもを持つ保護者にとっては「高校が持つ指導力と未来への可能性」を正しく判断できないまま受験校を選んでしまうかもしれないという危険性が生まれている。

 ここでは,主に首都圏の高校生に人気の高い3つの大学を例に挙げて,今大学入試に何がおこっているのか,合格実績の数値から何を読み取ればいいのかについてザックリと検証していることにする。

早稲田大学

2019年3月8日 大学発表の速報値を追加 記事を更新

 受験生動向が一番反映されていて,例として挙げやすいのが早稲田大学。
2015年以降新卒就職状況の好転を反映して「文高理低」とばかりに文系人気が高まっている事情がわかりやすく数値に現れている。
 最も分かりやすいのは文化構想学部。合格者が1543→1474→1179→1002と減少し,「これが定員抑制策なのか」と理解できる例として最適。
 2015年と2018年の比較では「志願者は25%増えて合格者は33%減(3分の2になった)」という受験生とその保護者にとっては恐ろしい事態になっている。
 2019年春は志願者数が減少したものの合格者数も減少しているので,易化するどころか名目倍率はかえって上昇している。

この傾向は他文系学部でも顕著で,2015年と2018年の比較では,
 社会科学部で33%減,政治経済学部,法学部でそれぞれ22%減
となっている。
 2019年春は,政治経済学部で若干改善が見られたものの2017年春に比べても厳しく,社会科学部ではほぼ横ばい,法学部は難化している状況。
5年前と比べても,その難化ぶりが一目瞭然といえる。

 しかしながら理系学部ではここまでの厳しさではない。創造理工学部では2015年と2018年での比較で合格者数の減少は100名(10%未満)であるが,
志願者も150名減少しているので倍率でみれば4.2倍→4.4倍と微増だった。2019年春は倍率が4.9倍と若干上昇しているものの,文系学部との違いは明確であろう。

【注】これらのことをふまえて高校の合格実績を見れば,特に首都圏の女子校では違いが明確になるだろう。数学を早々に捨て私立文系を選ぶ者が多い高校では,入学時のレベルが高ければ高いほど「早稲田大学に落ちまくる生徒」が続出することになる。逆に,女子校といえども理系の生徒を多く抱えた高校や早稲田を併願扱いにできる難関国公立大志望者(現役時は受けたがらないが,きちんと情報を理解させて受験まで誘導することが必要だが)を抱える高校は減少の幅を小さくできたはず。これを地方にあてはめれば,男女問わず地域の有力進学校でも同じことがおこっていると推測できる。

明治大学

 明治大学の文系学部に目を向けると,とにかく目立つのは「志願者増加」の状況。その人気度を示すかのようにわずか3年の間に志願者を20%増加させた学部を紹介している。
 その一方で合格者数については,文系学部とひとくくりにすることはできない。2017年春を底として2018年春には増加に転じた学部が多い一方,法学部については続落を続け,早稲田法学部を上回る30%以上の大幅な減少率となった。すでに上位生であっても「早慶はともかく明治は受かるだろう」と高を括ることはできない状態となっている。
 理系学部については,早稲田と同様に難化の度合いは文系学部に比べれば緩く推移している。

【注】特に女子の間で人気があり,その人気が高止まりしている明治大学に対する合格実績の変動は,特に高校入試を行う高校では色濃く「翌年の高校入試の人気度」に反映される。早稲田大学よりも1年早く,昨年の合格者数で急減の傾向が見えており,今春の受験生も学校側もそれなりの対策や保険をかけていた臨むことができたはずで,今春合格実績を大きく減らした高校についてはその「受験指導力」に疑問符をつけてよい。

東洋大学

 2017年春入試で初めて一般入試の志願者数が10万人を超えた東洋大学にも昨今の受験事情が反映されている。2018年春入試では,志願者数をさらに1万人上乗せして全私立大学中6位(近畿大,法政,明治,早稲田,日本につぐ)まで順位を上げている。いわゆる偏差値ランキングはともかく,受験生への認知度・人気という点ではすでに一流大学の仲間入りを果たしている。

 その理由は明確で「徹底して受験生の利便性を追い求めた」ことにある。出願をすべてネットに切り替えたタイミング(2014年)が最も早かった大学の1つであり,地方会場での入試や受験料割引にも積極的。また,他大学が夜間部を廃止する中イブニングコースという名称で学費を割安にして学生が学べる環境を確保するなど,学生のニーズに応えようとする姿勢が伝わってくる。

 それだけに,2015年春からの推移を見るだけでもその人気の高まりが伝わってくる。その反面合格者数は他大学と同様に絞っているので,一気に難易度も急上昇。けっして入りやすいお手軽な大学ではなくなっている。
 

まとめ

 「首都圏私立大学大幅難化」の正体は,けっして最上位生が目指す早慶上智や,それに続く層が目指すMARCHの状況だけで把握できるものではない。東洋大学のような「親の世代から見るとちょっと手を伸ばせば届きそうな感覚の大学」の人気度アップと,それに伴う志願者増が大きく影響していることを保護者は知っておかないと,各高校の合格実績だけを拾って進学先えらびの基準としていては,判断を誤る可能性が高い。
 中学生の保護者は,高3~大学受験時にかかる受験関連費用を概算しておくといい。予備校代に受験料,合格時の手付けに入学する大学へ支払うものまで含めると,下手をすると200万円は余裕で超える事態が予想される。
 私の知る限りでは,「早稲田だけでのべ10回以上の受験機会を用意して,合格したのは日程的に最後の最後,社会科学部1回だけ」という生徒もいる。この子が学力的に低いなら仕方がないが,この子は高校受験で地域トップレベルの進学校に合格し,ちゃんと勉強を続けた生徒。もちろん学校の指導力や本人の情報収集力も加味されるべきではあるが,こうした事例は首都圏を中心にいくらでも発生していると思われる。
 
 対策はシンプルで「安易に数学を捨てるな!」の1点に尽きる。数学をサッサと捨てて私立文系にシフトすれば,大学入試においても就職活動においてもレッドオーシャンしか待っていない。「代わりはいくらでもいる世界」で勝負するしか選択肢がなくなる。できる限り国公立を目指して日々の勉強を続けることで,自分の選択肢を増やしておくことしか対策はない。
 また,裏ワザとしては「高校入試(中学入試も)で附属校へ行く」も視野に入れるとよい。早慶でもMARCHでも高校入試が一番入りやすいからだ。「早慶に入れれば上等!」という子こそ,大学入試を避ける道をお勧めする。 

 

 

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