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実践的BitMEXで円建てノーポジの作り方

みなさま、結構な話題にしていただいてありがとうございます。MEX大移動してますか? @UKI さん、ツイートでご紹介いただきましてこちらもありがとうございます。

BitMEXのノーポジはノーポジでない

さて、一部TLでも話題になっていたのだけども、BitMEXはデリバティブの取引所なわけだが、担保はBTCである。bFからお引越ししてきた方々にとってこれは重大な問題であり、そんな方々向けツイートをしておきながらこの問題について解説を書かないのも不誠実なのでちょっとだけ書こうと思う。

要はこちらの記事にもある通りなのだけど、つまり、BitMEXは担保をBTCでしか取らない。すなわち、BitMEXでノーポジ(建玉が存在しない)という事は担保価値分だけリスクに晒されているという事になる。1BTC=$8000の時に担保として1BTC預け入れて、1BTC=$4000に下落してしまったら、FIATの視点では価値は減ってしまっている事になり、これはBTCの価格変動リスクと他ならずノーポジとは言えない。(ただ、脳内が先進的すぎて既にビットコインを基軸通貨にできてしまっている人にはまったく関係のない話なんだが)

ということで、当記事はBitMEXビギナーさんからちょっと一歩先へ行きたい人向け。

ちなみに、トプ画は拾い物の「ホバリング」をキメるドローンさん。
#あとは分かるな

デルタ

1BTCをMEXに預けた状態でFIAT建てでノーポジを作るにはどうするか?

こたえは、ショートポジションを作る事。

と、そのまえに、デリバティブを触るにあたって「デルタ」の概念を理解しておくと今後諸々非常に捗るので、解説しておく。

デルタ、高校数学で出てくるアレである。ググったらこんな記事がひっかかった。

要は傾き。微小xの変化に対してyがどれくらい変化するか。微分の概念の話だ。

ビットコ取引の文脈で言うと、BTC価格の変化に対して自分のポジション全体の損益がどれくらい変化するか、という話である。( x = BTC価格、y = ポジション全体の評価額 と考えた時のx-y座標平面を思い浮かべて欲しい )

では、例えば、0.5BTC を担保に預けているがデリバティブの取引はまだ無い、という状態で BTC価格が $8000 → $8001 に上昇したら自分のポジション全体の評価額 (担保価値+デリバティブポジション損益) はどう変化するだろうか?

担保のBTC価値は $4000 → $4000.5 に上昇するので、$0.5の増加である。すなわち、BTC価格が$1上がるとポジション全体として$0.5 の価値の増加があるので、これを デルタ 0.5 と言う。算数的には 0.5 / 1 の結果だ。0.5BTCを持っていたから デルタ0.5。なんだか、至極当たり前の話だ。

デルタの概念はつまるところ「自分のポジションは何BTC分をロング(あるいはショート)している事に等しいのか?」を考える事に等しい。

BTC価格とDelta +1, Delta +2 の損益の関係

デルタがプラスの場合は、原資産価格が上昇するとポジションの評価額も上昇する。デルタがマイナスの場合はその逆だ。原資産価格が1上昇したときのポジションの評価額の変化の大きさがデルタの大きさと言える。( 「レバレッジ」の概念とは似て非なるものなので注意されたい。レバレッジとはあくまでも有効な担保額に対してどれくらいの大きさのポジションをとっているか、という概念である。)

デルタ・ニュートラル

価値ベースでノーポジ ( BTC価格が変化してもFIAT建ての価値が変わらない ) の状態はどう表現されるかというと、x が $1 増加したときに yの変化量が +/- 0 という事に他ならないので、これを デルタゼロ、デリバティブ屋さん風に言うとデルタ・ニュートラル、と言う。あるいは、Square Position という人もいる。( 当然、x が $1 減少したときにも y の変化量は +/- 0 である )

さて、上記で見たように、MEXに担保を預けた瞬間 (というか、MEXに担保を預けるべくどこかの取引所でBTCを購入した瞬間) には担保のBTC単位分だけデルタが出ている事になるので、逆に言うと、このデルタが0になるようにデリバティブのポジションを作れば、それがデルタ・ニュートラル のポジションと言える。BitMEXでFIAT基軸の人が取引するための基本姿勢だ。

では、どのようにしたらデルタニュートラルのポジションが作れるのか?

最も簡単なのがXBTUSD Perpetual (無期限契約) を使う事だ。

定義が表にまとまっているが難解なので実例を見た方が早いだろう。

この例では、6万枚のポジションを 1XBTUSD = $600の時に仕込み、$700に値上がりしたケースを示している。
( 厳密にはBTC価格とXBTUSD価格の間には多少の乖離があるが、ここでは乖離が無いものとして扱う )

BTC価格変化量 = $100
ポジション収益 = B14.286

と言っており、1BTC = $700 との事なので収益 14.286BTC のドル換算は $10,000 である。すなわち、$100 の x の増加に対して y は $10,000 の増加なので、10000 / 100、デルタは100 だ。よくよく例文を見ると、"He is long 100XBT" とちゃんと書いてる。

もし同じ枚数をショートしていたとすると、ロングの真逆の金額だけ損を出す事になるので、$10,000 のやられとなる。すなわち、デルタは -100 となる。( -10000 / 100 = -100 )

担保に100BTCを入れている ( = 担保のデルタは 100 ) 際に上記のショートのポジションを取ると、単純にデルタを合算する事になり、(担保のデルタ100) + (デリバのデルタ -100) = 0、つまりデルタニュートラルとなる。

近頃の数字を当てはめて、もう一例、計算を示しておく

前提:
1BTCの価格 = $8000
担保量 : 5.00 BTC

担保のデルタを計算しよう。

担保のドル建て評価額 : 5.00 BTC x 8000 = 40,000
BTC価格が1ドル上昇した際の評価額 : 5.00BTC x 8001 = 40,005
よって、xが1の変化に対してyが5の変化なので、デルタは 5 / 1 = 5.00 

つぎに、XBTUSD Perpetual のデルタの計算
100枚あたりのデルタを求め、では何枚ショートしたらよいのか?という風にショート枚数を考える。

-100 x ( 1 / 8000 - 1 / 8001 )  = -0.0000015623 (BTC)
-0.0000015623 BTC * 8001 = $ -0.0125

つまり、100枚当たりのデルタは -0.0125 だ。担保のデルタは 5 なので、

-5 / -0.0125 = 400

すなわち、XBTUSD 100枚の時のデルタの400倍のポジションをとればデルタがマッチする事になるので、100枚 x 400 = 40,000 枚のショートポジションを取ると デルタ -5 が達成される。結局のところ、5BTCの担保を持っている時に、デルタ・ニュートラルにすべくショートすべき枚数は 

BTC枚数 x その時のXBTUSD価格
e.g.  5 x 8000 = 40,000 

で求まる。

では、この状態で大幅にBTC価格が上昇したとしよう。追加ショートやショートの買戻しは必要だろうか?

答えは「不要」なのだが、以下にそれを確認する。

先の例に従って1BTC = $8,000 の時に、40,000 枚のXBTUSDをショートする。ここから 1BTC = $10,000 に上昇したとすると、損益計算は以下の通りだ。

担保BTC : 5 x ( $10,000 - $8,000 ) = $10,000   → $10,000 の評価益
XBTUSD : 40,000 x ( 1 / 8000 - 1 / 10000 ) = -1.00 BTC → 1BTCの評価損失
1BTCの損失は、1BTC = $10,000 の状況においては $10,000 の損失と同額

よって、担保の評価益とXBTUSDの評価損を合計すると、+/- ゼロとなっている。ここで、ポジション全体のBTCのデルタを計算しなおすと、

担保のデルタ: 5
含み損のデルタ: -1
XBTUSDのデルタ:  -40,000 x ( 1 / 10000 - 1 / 10001 ) = -4

で、デルタ・ニュートラルが維持できている事になる。含み損のデルタを算入するの?という疑問が浮かびそうだが、一旦ショートポジションを手じまい、改めてショートしなおす事を考えれば良い。ショート手じまい(買戻し)によってXBTUSDからの1BTCの損失が実現する為、担保は4BTCに減少する。さらに、改めてヘッジしなおす際には先ほどの「BTC枚数 x その時のXBTUSD価格」をショートする、という原則に従って計算する。すなわち 4 x $10,000 = 40,000枚 のショート をすればよい、という事になる。40,000枚 買い戻して改めて40,000ショートするということは、ポジション増減の観点からは何もしない事と同義だ。(BitMEXの場合、取引手数料によって損益が発生するがそれは別の議論として)

という事で、これまでの議論をいちおうスプレッドシートにまとめた。

重要なお知らせ

つっこみが入りましたんで追記します。

越前さんのおっしゃる通り、XBTUSDには「金利」ってものがついて回る。これについては別記事でも言及しているが、相場の局面によってはショート側に金利負担が来る場合がある。FXのスワップポイントと似たようなものだが、FXのスワップポイントはそれぞれの通貨の金利動向によってある程度安定的に支払い方向が定まる (例えば、USDJPYのFXなら、スワップポイントはUSDロング側につく、など) のに対し、MEXのXBTUSDにおいては相場のモメンタムやBTCレンディング市場の状況、BTC価格水準等の複合的な要因(実際のところ筆者も「コレ」という答えには行きついていません キリッ ) によってコロコロと方向性が変わる。金利負担が直接的にデルタ量に影響を与えるものではないが、ショート側に負担が発生する場合、そのコスト負担が重くなってくる場合もあるので代替手段によるデルタ消去を検討する必要がある。(例えばbFならポジション維持手数料はロング・ショートに関わらず 4bps / dayなので、MEXでの金利負担が大きい場合、避難的にbFでネガティブ・デルタのポジションを取っておく事も有用だろう。また、タレ込みによるとTAOTAOはしばらくキャンペーン中で建玉手数料ゼロだそうである。)

円建てでデルタニュートラル

これまでの話は全てドル建てだった。では、$1 = Y110 (円記号、めんどいのでYにします ) の時にはどのような計算をしたらいいだろうか?

円建てBTC価格とドル建てBTC価格がつりあってるとして、

1BTC = $8000 = Y880,000

先の例に従って デルタニュートラルにすべく 40,000 枚ショートしているとすると、

担保 : 5BTC 
XBTUSD : 40,000枚

となり、総ポジションの評価額は $40,000に固定される。$1 = Y110 ならば Y4,400,000だ。では、ここからBTCUSD価格は変動せず $1 = Y105に円高が進んだ場合を考えよう。

1BTC = $8000 = Y840,000 

となる筈なので、担保5BTC の評価額は Y4,200,000 となる。440万円 → 420万円なので20万円の損失だ。他方、XBTUSDの方はBTCの(ドル建て)価格が変動していないので損益ゼロである。よって、単純に円高になるとその分だけ損失が発生する。先のデルタの概念から言うと、米ドル円為替レートに対してデルタが発生している事になる。

ポジション全体ではドル建て$40,000 の評価額なので、ドル円為替レートが1円変動すると 4万円の損益が発生する。円建てでデルタニュートラルを維持するためには、FX証拠金等を使ってドルショートポジションを作ればよく、具体的には、$40,000 を売り建てておけば良い。そうすれば、先の例であれば5円の円高に進めば 5 x 40,0000 = 20万円の収益がFXから発生する事になり、BTCの円建て評価額における損失をカバーしてくれる事になる。(逆に、5円の円安になるとFXからは20万円の損失が発生するが、BTCの評価額が20万円上昇する)

なお、ドルショートポジションは現在の金利環境ではスワップポイントの支払いとなる為、少しずつ資産が目減りしていく事には注意しなくてはならない。また、必ずしも国内外の為替レート調整後のビットコイン価格が同一価格に収斂するとも限らないので、この差の発生の仕方によってFXヘッジを入れたり外したりする戦略を考えるのも面白いだろう。

まとめ

という事で、担保量のデルタとデリバティブポジションのデルタを合わせる、さらにはFXのデルタも合わせて考える事で損益の発生しないポジションを作る事ができる事を示した。

このデルタという考え方は仮想通貨のみならず株取引でもFX取引でも、複数資産を組み合わせて取引ポートフォリオを構築するには必須の概念であるため是非しっかりと理解される事をオススメする。さらには、今後、BTCやETHのオプション市場も成熟してくると思われるため、より重要度が増してくるだろう。

なお、MEXには3カ月先物および6カ月先物も上場されている。これらを使ったり、もしくは他取引所の信用売りを使ったりしながらデルタを消していく事もできる。この際には、原資産であるBTC価格と、それらのデリバティブ等の価格変動の間の微妙なズレに気を付ける必要がある。(例えば、現物対比で先物が高過ぎたり、安過ぎたり。)  これを応用すると、例えば「担保でプラス2のデルタ」、「先物でもプラス2のデルタ」、対して、「Perpetualのショートを使ってマイナス4のデルタ」、で「全体でデルタニュートラル」としながら、先物が高すぎたり、安すぎたり、という歪みから収益を上げたりするような戦略を組む事が可能になる。

この「デルタ量」を念頭に、担保管理を含めて自身のポジションを最適化していく事で「上がった」「下がった」という一次元のポジション取りから、時間的な概念を含めた奥行のある戦略を組めるようになってくる。FXでは数週間から数カ月の先物等はお手軽に取引できないなか、BTCにはオプション・先物・無期限スワップ等のデリバティブや貸借取引からの金利収入狙い、信用取引など、様々な商品が個人レベルで取引可能で、それぞれが発展途上のため、戦略の研究を行う余地が多分に残さていて非常に面白い。

Enjoy Hedging!

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