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連載:お寺の女性の今、そしてこれから [14] 冨田香澄さん

こんにちは。未来の住職塾の松﨑香織です。

この連載では、お寺で生活する女性のウェルビーイングを大切にするために、さまざまなお立場にある、お寺に暮らす女性のお声をお届けしています。第14回目のゲストは、日蓮宗・妙樂寺(愛知県小牧市)の寺族 冨田香澄さん。

取材・文 ● 松﨑香織 

写真:冨田香澄さんご提供。ご自坊にて

ゲストプロフィール:冨田香澄(Kazumi Tomita)
父の仕事の関係で幼少期に何度も「転校転居」をし、社会人になってからも「転職」の繰り返し。「呉服屋の販売⇒人事職」⇒「人材派遣業」⇒「イベントMC」⇒「試食販売」⇒「福祉施設(高齢者・障がい者・発達障害児)の支援員」⇒「お寺のおくり(現在)」と業界職種はバラバラ。この分野なら任せて、と自信をもって言えるものはないですが、そのぶん初対面の人や慣れない環境に飛び込む「ド根性」だけは自慢です(笑)

■ 思いがけず、お寺に入る

――香澄さんは結婚を機にお寺に入られて7年目ですね。ご住職とはユニークな出会いだったそうで。

香澄さん 私が新卒採用の仕事をしていたときに、面接でやって来たのが夫でした。職種が違ったので、職場での交流はほとんどなくて、仲間との食事会で数年に一度会うくらいの関わりだったのですが、ある日、「母方のお寺で住職をしていた叔父が突然亡くなり、僧侶になって後を継ぐことになったんだけど……、どうしよう」と、動揺した様子の電話がありまして。その時は「大変だろうけど頑張って!」と伝えただけだったのですが、いつしか「一人ではやれないから助けてほしい」という話になり、「1年半後に戻るから考えておいて!」と一言残して彼は修行の山籠もりへ……。こうして私にも突然の転機が訪れました。お寺にゆかりのなかった自分に務まるのかという不安はありながらも、幼少期から培われた「新しい環境へ飛び込む根拠のない自信」がここで発揮され、気づいたら結婚していました(笑)。

――それはまた、とってもパワフルなエピソードですね!

香澄さん なぜ「即YES」と言えたのか不思議なのですが、今思えば、それまでの人生が転校・転職・転居と「転転人生」だったから、これからは「お寺という不動の場所で人生を深く掘り下げるのも良いかもしれない」と思ったのかもしれません。

 お寺に入ってからは、「この土地や自坊の慣習を尊重しながら、時代も見据えてお寺のことをやっていく」という難題に、どこから着手して、どの方向へ進むべきかを住職と考える苦悩の日々でした。二人とも何も分からず在家から飛び込みましたし、唯一の寺族である大おくりもこの時90歳。手取り足取り御指南いただける状況ではなかったので、二人で話し合いと試行錯誤を1年半くらい重ねて、ようやく「長期的寺院計画の立案」と「檀信徒参画」というテーマを定め、本格的に動き出しました。

 「そもそもお寺ってどういうところ?」「おくりって、どういう存在?」ということを毎日のように考えていましたね。周りにも「お寺でどんなことができたらいいと思う?」と、よくご意見をお聞きしていました。最近は、ヒヤリングだけでなく、実際にお寺へ来てふれていただきながら「皆さんの人生にお寺をどう活かせるか」について一緒に考えていける機会を作るように努めています。こうした場づくりが、住職の布教活動へのパイプ役にもなったら、との思いもあります。

高齢者施設の朝市に出店

■ 日常に感じる仏教をシェアする

―香澄さんご自身の仏教の学びはどのようにされていますか?

香澄さん 最初の頃は、「間違ったことを伝えちゃいけない」との思いからいろんな本を読み漁っていました。でも、そのうちに仏様やお墓が身近にある日常生活の中で感じることや、自分の人生に当てはめて響いてくる法華経のmy解釈もお伝えしていいのではないか、むしろ私にはそれしかできない、と思うようになりました。最近は、「おっさまにも聞いてみてね」と補足しつつ、思い切って自分の言葉で話しています。 法華経の「なぞり写経」も、いくつか作ってみました。どなたも気軽にしていただけるようご本堂に置いています。初めての方も取り組みやすいように、願文例は平易な自分の言葉で書きました。色鉛筆を使ったり、蓮の花を描き添えたりもして。写経の時間が皆さんにとっての癒しになったらいいなと思っています。

■ 学び合いの生まれるお寺

―地域の方とはどのような交流をされているのですか。

香澄さん 半年前から地域のボランティアに携わっていて、お寺で役員ミーティングを開いています。メンバーのお子さんたちも一緒に来ていますよ。子供たちは最初こそいろんな部屋を開けたりして走り回っていましたが、だんだんとお寺は好き放題やっちゃいけないところらしい、ということを学んでいるようで、子供同士の「お寺ルール」ができたり、その場の空気を感じながら成長している様子が見て取れます。親御さんたちからは、「お寺効果」が家でも2〜3日は続くから怒る時間が減ったよ、とのお声も(笑)。皆さん、お寺を使うお礼にと、果実の収穫やお掃除を手伝ってくださっています。近頃はその様子をご覧になったお檀家さんが、お孫さんを連れて手伝いに来てくださったりするんですよ。

――素敵なご縁の和が広がりますね。これからやってみたいのはどのような取り組みですか?

香澄さん 世代を超えた交流ができて、お互いの共通点を探したり協働できる仲間と出会えるような場を作りたいですね。お寺通いが習慣になるような定期的な交流の場にしていけたらいいな、と思っています。一回きりでなく積み上げていけるものを目指したいので、日々の山務をしながら無理なく続けられるように、お寺で活動することに共感していただける方々との共催を視野に入れて、お仲間集めと仕組み作りをしているところです。何をするにも「お寺でこういうことをしていいのかな」「本当に皆さんのためになっているかな」という葛藤が今も常にあります。私の立場では一軒ずつ伺って回ることも、お施主さん以外の方とお話しする機会も少ないので、皆さんに寄っていただける機会をなるべくたくさん作って、お困りごとやお寺に求められることなど、お役に立てることを知っていけたら、と思っています。

――周りの方との丁寧なコミュニケーションを重ねてこられたのですね。
今日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

この連載記事は、大正大学地域構想研究所BSR(Buddhist Social Responsibility)推進センターが毎月発行する『地域寺院63号』に掲載されました。
地域寺院は、これからの地域社会に必要とされる寺院の在り方を探る情報を発信する月刊誌です。
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インタビュアー プロフィール

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松﨑香織:一般社団法人未来の住職塾 理事。米国Fish Family財団 JWLI (Japanese Women’s Leadership Initiative)フェロー。役員秘書として銀行の経営企画に10年間携わったのち、ロンドンの非営利組織にてマーケティングに従事。2014年より未来の住職塾ならびに塾生コミュニティ(現在約650名)の運営に携わる。全日本仏教会広報委員会委員、WFB(世界仏教徒連盟)日本センター運営委員会委員。

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